博麗になれなかった少女   作:超鯣烏賊(すーぱーするめいか)

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第九話 紅き革命のドラキュリア

 

 

 スキマの空間から出た先は、建物の廊下の様だった。

 赤いカーペットが延々と続き、その終わりは霞んで見えない。

 不気味な雰囲気を醸し出すその光景に、水蛭子は不安を感じながら問いかける。

 

「あの、ここは……?」

「可愛いお嬢さん方のお家よ」

 

 そう言って微笑んだ紫を見て、少し気分を落ち着かせた。

 

 しかし藍が警戒した様子で周囲を見渡しているのを見て、再び気を引き締める。

 普段物腰柔らかな藍が真剣な表情をしているのは、酷く新鮮に感じた。

 

「一応武器は出しておいて頂戴」

「あ、はい」

「ごめんなさいね。もしもってことがあるから」

「大丈夫です」

 

 眉を下げる紫に笑顔で言い、背中に差していた長い棍を両手で持つ。

 それを確認すると紫は赤いカーペットの上をゆっくりと歩き始めた。

 

 

 暫く歩くと、先頭を歩いていた紫と藍が立ち止まる。

 両者とも何時になく真剣な表情をしていて、ただならない雰囲気が感じ取れた。

 

「何か来たわね」

 

 囁く様に呟いた紫に、水蛭子は首を傾げた。

 来た、って。何が?

 

 刹那、刺すような悪寒が背中を奔った。

 

 

「いらっしゃいませ。お出迎えが遅れて申し訳ありませんでした……少々クッキーを焼いていたもので」

 

 

 冷たい平坦な口調で述べられた言葉は、案外のん気そうだった。

 背後から聞こえたその声に全員が振り返る。

 

 紺の布地に白のフリルが施されたメイド服を見に纏う少女が、そこに居た。

 窓から射し込む太陽の光を柔らかく反射させる銀色の髪に、南国の海を彷彿とさせる透き通った碧眼。輝く白い肌はきめ細やかで、何処か浮世離れした雰囲気を醸す少女だった。

 

 少女は薄く桃味がかった唇を再度動かす。

 

「お嬢様がお待ちです。どうぞこちらへ」

 

 相も変らない無表情に、淡々とした口調で述べてから、少女は水蛭子達が今来た筈の道を戻る様に歩き始めた。

 その行動に藍は怪訝な表情で声を掛けた。

 

「待て。私達はそちらから来たが、扉は一つも無かったぞ」

 

 少女はクルリと振り返り、また同じ口調で答える。

 

「この館で部屋を見つけるには、ちょっとしたコツが必要なんです」

 

 部屋を見つけるのに、コツ?

 水蛭子は内心で首を傾げ、藍も眉を八の字にして困惑した表情になる。

 そんな彼女たちに少女は薄く微笑んだ。

 

「着いて来ていただければ、わかりますよ」

 

 そう言って踵を返した少女は再び歩き始めた。

 

 それから少女に着いて行った一行の前には今、大きな扉が佇んでいる。

 それを軽く見上げた水蛭子が、唖然とした様子で零す。

 

「来た時は、無かったのに……」

「空間を弄っているのかもね」

 

 水蛭子の言葉に答えた藍は内心で感心する。

 それと共に、空間を弄るなどという芸当をやってのける者が、主人の他に居たのかという驚きも感じていた。

 

 道案内を終えた少女が扉をノックする。

 

「お嬢様、お客人を案内しました」

『入ってもらって』

 

 扉の向こうから聞こえてきたくぐもった声に、水蛭子は首を傾げる。

 その声がとても幼い女の子のモノだったから。

 

 やけに軽々と扉を開けた少女が、一行に中へ入るよう促す。

 

「どうぞ、お入りください」

「ありがとう」

 

 紫がそう言って最初に部屋の中に入って行く。

 後の者達もそれに続いて部屋に入っていった。

 

 部屋の中は赤を基調としたレイアウトであったが、落ち着いた色合いが主だった為、視覚への刺激は意外にも少ない。

 赤いクロスの敷かれた長テーブルが、奥行のある部屋に合わせ伸びていた。

 

 そしてその一番奥に座っていた誰かが、口を開いた。

 

「ようこそ、紅魔館へ」

「突然の訪問ごめんなさい。迷惑だったでしょう?」

 

 テーブルの一番上座に座っていたのは一見するとただの幼い女の子であった。

 しかし、その容姿は人里にいる子どものソレとは一風違う。

 

 薄い桃色の洋服に、青みがかった銀髪。瞼の隙間からこちらを覗く赤い瞳は不気味に輝き、口端からは長く伸びた鋭利な犬歯がチラリと見えていた。

 そして、背中から生えている黒いコウモリの様な翼がゆったりと揺れている。

 

 水蛭子は一瞬で理解する。

 この幼い少女は、とんでもなく強い力を持った妖怪であると。

 

「……いや、貴女達が来るのは知っていたよ」

「あら、道理で落ち着いていると思ったわ」

 

 少し間を開けて言った少女の言葉に、紫がわざとらしい笑顔で返した。

 真顔で紫の目を数秒見つめた少女だったが、まばたきを一つさせると穏やかな物に戻らせる。

 

「早速だけど、用件を聞こうか」

「お待ちになさって、今日は貴女と初対面の子が居るのよ。まずは自己紹介しましょう?」

 

 紫はそう言って隣に居た藍の頭を撫でる。

 

「この子は知ってると思うけど、私の従者の藍よ」

「……ご無沙汰しております」

「ああ久しぶり。元気そうで何よりだ」

 

 細めた目をして軽く会釈する藍。

 それを見て水蛭子は、眼前の容姿の幼い少女が曰く付きの妖怪であるということを再確認した。

 

 次に紫は、水蛭子の隣に居た橙を抱き上げる。

 

「この子は初めてね。藍の従者の橙よ」

 

 軽いお姫様抱っこをされて戸惑いながらも会釈をした橙に、少女はニコリと微笑む。

 

「怯えなくていい。客人を取って食ったりはしないから」

 

 容姿に反して妙に貫禄のある少女の態度を不思議に思っていた水蛭子の頭に、ポンと紫の手が置かれた。

 

「で、この子は水蛭子。人間よ」

「八十禍津水蛭子と言います。人間です」

「八十禍津、水蛭子、か。変わった響きだけど、良い名前だね」

「ありがとうございます。……あの、不躾で申し訳ないんですけど、質問させてもらっても良いですか?」

「構わないよ」

 

 仮にも自警団に所属している水蛭子は、目の前の妖怪がどういった妖怪であるかを把握する為、直球で質問を投げかける。

 

「貴女は、何という妖怪なんですか?」

「種族はヴァンパイアだ」

 

 間髪入れず少女が答える。

 

 耳馴染みのない妖怪であるが、響きから察するに外国の妖怪だろうとあたりを付けた水蛭子は、納得したように頷いた。

 

「さて、私も自己紹介させてもらおう」

 

 そう言って少女は立ち上がると、軽く畳んでいた翼をぐいと広げる。

 そして怪しい笑顔を浮かべながら水蛭子を見つめながら、穏やかに、それでいて良く響く声で口を開けた。

 

「私はこの紅魔館の主、レミリア・スカーレット。君や里の人間には危害を加えるつもりは毛頭無い、至極善良な妖怪だよ」

「スカーレットさん、ですね」

「レミリアで良い」

「それじゃあレミリアさん。よろしくおねがいします」

「ああ、よろしく」

 

 もう幾つか質問したい事があったが、あまり詮索し過ぎると鬱陶しいかなと考えた水蛭子は、深めの会釈をしながら言葉を喉の奥に押し込めた。

 

 そして自己紹介の終わりを告げる様に、無言のまま立っていたメイド服の少女が口を開く。

 

「こちらへ、どうぞ」

 

 少女は手前の席の椅子を四つ引き、そちらに座るように促した。

 それに従い水蛭子達が椅子に座る。

 同時に、館の主人レミリアも座り直した。

 

 水蛭子は椅子に座った瞬間、うわこの椅子めっちゃ柔らかい……!と内心で驚いたが、それをなんとか顔に出すことなく話の流れを待った。

 

「では、改めて要件を聞きたい」

「そうね、では単刀直入に言いますけど……」

 

 何処からか取り出した扇子で口元を隠した紫が、笑みを深めた。

 

「異変を起こして欲しいのよ、この幻想郷に」

 

 ……え?なに?

 

 紫の言葉を理解出来ず、水蛭子の呼吸が止まった。

 

「なるほど、分かった」

 

 紫の頼みを悩む素振り無くレミリアが快諾する。

 

 ドクドクと激しく鼓動する心臓に、水蛭子は思わずギュッと自身の左胸を握り締めた。

 どういう、事だ?

 

 状況の把握がしきれない水蛭子は、戸惑いの表情を隠すことなく紫へ問いかける。

 

「あの、紫さん……?」

「なぁに?」

 

 丁度対面に座った紫の口元は扇子で隠され、細められた双眸は酷く無機質なもので、感情を読み取ることは出来ない。

 

「異変、って……?」

「異変は異変よ。博麗の巫女候補だった貴女が知らない筈無いと思うけど」

「それはそうですけど、でも」

 

 思わず口ごもってしまう。

 なんと言えばいいのかわからないかったからだ。

 

 水蛭子にとって異変など、里の老人から聞かされる昔話の一つでしかなかった。

 だから、紫の「異変を起こす」という言葉が、あまりにも衝撃的で、何処か現実味の無いものだった。

 

 だがそれでも、水蛭子は渇く喉を震わせながら、問いかける。

 

「なんで……紫さんが?」

「うーん、なんで私が、かぁ」

 

 人差し指を顎にあてながら、紫は無機質な表情を崩さずに言葉を繋げた。

 

「まず、これまで異変を起こしてきたのって、大体私なのよね」

 

 何の気なしに放たれたその言葉が、水蛭子を更なる困惑の渦へと叩き落とした。

 

 マトモな反応が出来ず、水蛭子はただポカンと口を開く。

 

「……え?」

「霊夢が博麗として未熟な内は異変解決は重荷だったから、最近はご無沙汰だったのよ。でも、霊夢も大人になって来たし、力も歴代の博麗と遜色の無い所まで育った。ここらで一つ、巫女としての仕事を与えてあげようかと思ってね」

 

 酷く饒舌に話す紫に水蛭子の戸惑いはピークに到達する。

 グルグルと回る頭の中が、心無しか甲高い音を立てている様に感じていた。

 

「意味が……分からないんですけど」

「えーと、異変を起こす意味ってことかしら? 理由の大部分は妖怪の存続の為ね。幻想郷は人と妖怪が唯一共存できる楽園。その楽園を維持し続けるには、人が妖怪という存在を認知し続けなければならないの。妖怪は人に忘れると消えてちゃうからね。それに必要なのが、妖怪の存在を大きくアピールできる異変ってわけ。……ま、偶に妖怪じゃない子が首謀者になることもあるけど、超常現象が起きれば大抵の人間は妖怪のせいだって勝手に解釈してくれるから問題は無いわ。……とにかく勘違いしないで欲しいのだけれど、別に人間に意地悪したくて異変を起こしてるんじゃないのよ?」

 

 話を挟む間も与えて貰えぬまま、紫の言葉をただただ聞いているだけだった。

 知らない情報が多過ぎて、頭の中で処理し切れない。

 それでもなんとか話を理解したかった水蛭子は口を開く。

 

「妖怪が、消える? よく分からないですけど、人が忘れない様にするだけなら、わざわざ異変を起こす必要なんて……」

「あら、人間って妖怪に対してそんなに親切かしら?」

「え」

「人間って自分にとって不利益な事は忘れるじゃない。現に外の世界では、妖怪の存在を人が否定してしまってる。だからあっちには妖怪が少ないのよ」

 

 紫の言う外の世界とは、幻想郷の外全てを指す。

 外の世界では古に残る妖怪の伝承はあくまで言い伝えとして認知されており、本当に妖怪が居ると思っている人間は極めて少ない。

 その二の舞にならない為にも、妖怪の存在を人間に主張しなければならないというのが、紫の話だった。

 

 水蛭子は今までの紫の言葉を頭の中でゆっくりと咀嚼していく。

 

 そもそも妖怪を忘れるなんてことが、本当に可能なのか?

 

 幻想郷の人間にとって、妖怪は大きな脅威だ。

 妖怪は人を襲い、殺し、食べる。

 だからこそ人は妖怪への警戒を怠らない。

 

 妖怪を忘れてしまうということは、人が妖怪を脅威と思わなくなったということ。

 しかし人と妖怪が隣合わせに暮らしているこの幻想郷で、それを叶えるのは至極難しい。

 

「私たち妖怪は、今ここに存在している。そう人間に知らしめるのが異変なの。でなければ私たちは、幻想郷からですら、消え失せてしまう事になる」

「そんなこと……ありえませんよ。人が、妖怪を忘れるなんて……」

「外の人間は、妖怪の存在を忘れて日々のうのうと暮らしているのよ?」

「……」

 

 紫の説得するかの様な口調に、水蛭子はただ黙って俯く。

 

 本当は、外の世界がどうとか、関係無いのだ。

 

 水蛭子はただ、紫がこれまで起きた異変の首謀者だと言うことが信じられなかった。

 

 天ぷらを食べた時に浮かべた朗らかな笑顔が水蛭子の脳裏に甦る。

 

 たった一日。

 それでも、賑やかな喜怒哀楽を持つ女の子が。

 同じ釜のご飯を食べた友が、とてつもない悪であると断じるのが、水蛭子はどうしようもなく怖かった。 

 

「……ねえ水蛭子。貴女は勘違いしているみたいね」

「はい?」

「貴女は異変を、どんなものだと認識しているの?」

「そんなこと聞いて、何に」

「聞かせて頂戴」

「……」

 

 強い懇願の言葉に、水蛭子は逡巡する。

 自身が認識している、異変とは。

 

 

 小さな頃、里の老人に聞いた話。

 

 その昔、外来の妖怪が起こした異変があった。

 

 何の前触れも無く、突如空を覆った赤い雲。

 同時に現れた何百という凶悪な妖怪達が、人里を襲った。

 当時の博麗の巫女の奮闘により妖怪達は打倒されたが、それでも何十人もの人間が亡くなった。

 重傷を負った人はその数を遥かに上回り、家屋にも多くの被害が出た。

 甚大な被害を受けた人里は、当時の博麗の巫女の指揮の元、徐々に復興していった。

 

 これがキッカケになり博麗の巫女は、人里において英雄的存在になっていったと云う。

 

 そして人間達は妖怪への警戒を高め、大規模な自警団を組織し、何時以下なる時も妖怪に対抗出来る様に備えるようになった。

 

 

 水蛭子にとっての異変。

 それは、ただただ純粋なる災厄。

 

「……異変は、恐ろしいものです。沢山の人が亡くなったと聞きました」

「そうね」

「また、異変を起こすんですか?」

 

 恐る恐る尋ねる。

 

「ええ、起こすわ」

 

 水蛭子の問いに、紫はアッサリと頷いてしまった。

 

 握った拳から滴った赤い雫が、赤い絨毯の上にポタリと落ちる。

 背中から引き抜かれた棍の先端が、扇で口元を隠す紫へと向いた。

 愉しげに歪むアメジストの瞳に、水蛭子は胸の中に生まれていた怒りに任せ吐き捨てる。

 

「所詮は、妖怪か……!」

 

 この場で行動しなければ、また大勢の人が死ぬかもしれない。

 自警団員として、何より人間として、それを見過ごすことは到底出来なかった。

 

 ……良い妖怪(ひと)だと、思っていたのに。

 

「(刺し違えてでも、殺す!!)」

 

 紫へ突撃しようと、テーブルを飛び越える為つけた助走の一歩は。

 

 

「おい、一人で盛り上がるな」

「あうっ!?」

 

 

 一歩は、いつの間にか横に移動していたレミリアに軽々と掬われた。

 バランスを崩し後ろに倒れそうになる水蛭子の身体は、何者かに抱えられる様にして受け止められた。

 

 不機嫌そうに口をへの字にしたレミリアを、水蛭子は困惑した表情で見た。

 それから、背中に感じる柔らかな感触に身に覚えがある事に気付く。

 

「……あ、え?」

「先程ぶりですね。八十禍津水蛭子さん」

 

 苦笑を浮かべながら抱きとめた水蛭子を見下ろしていたのは、先程霧の湖の近くで助けられた謎の妖怪、紅美鈴だった。

 

 混乱する頭を落ち着かせながら、水蛭子は美鈴に問いかける。

 

「なんで、ここに美鈴さんが?」

「私、この屋敷の使用人なんですよ」

「ええええええ!?」

 

 一体どういう偶然なのか、それとも仕組まれていたことなのか。

 とにかく水蛭子の頭は、ショックの連続でそろそろ限界が来ていた。

 

 頭を抑える水蛭子に、元の席に座り直したレミリアが声をかける。

 

「その辺で一度区切ってくれ。後でいくらでも話したら良い」

 

 テーブルに肘を着きながら、仏頂面のレミリアが紫を睨んだ。

 

「お前は性根が腐っとるな、八雲紫」

「そんなに褒められると照れるわね」

「おっと、耳も腐ってたか……」

 

 扇を畳み、ニコニコとした笑顔を見せておどける紫に、レミリアは神妙な顔をして頷いた。

 

 その光景を見て、「あー……」と喉から声を漏らしながら水蛭子は気付く。

 

 紫の茶番に付き合わされていたのだと。

 

「悪かったね八十禍津水蛭子。今回の件は前々から決まっていた事で、この部屋に入ってからの全てが全部コイツの茶番だ。付き合ってやった私が馬鹿だった」

「えへ」

 

 レミリアに指さされた紫がにへらと笑う。

 ペロッと出した舌とウィンクが、ムカつくようで可愛いと思ってしまった事に水蛭子は敗北感を覚えた。

 

「誤解の無い様言わせてもらうと、此度起こす異変は人への害は一切無い。まぁ、アピールとして空に紅い雲を張らせてもらうつもりだが、それが無いと異変が成立しないからな。我慢して欲しい」

「名付けて『紅霧異変』ね!」

「お前ちょっと黙っておけ」

「ぐへ!」

 

 ヤクザ蹴りでのした紫の背中に、レミリアがどっかりと座る。

 ぐえっとカエルの断末魔の様なものが聞こえたが、気にせずレミリアは話を続けた。

 

「今回の異変はその紅い雲を消すのが人側の目的。色々省いて言ってしまえば、首謀者である私が博麗の巫女に倒されれば諸々解決というわけだ」

「それだけ、なんですか?」

「うむ。間違っても君が恐れている事態にはならないよ。このレミリア・スカーレットの名に誓おう」

「…………よ、良かったぁ……!!」

 

 棍を持つ手をダラりと下げ、心の底からの安堵に大きく息を吐き出す。

 

 やはり紫は悪い妖怪ではなかったのだ。

 水蛭子にとって、それが何より嬉しかった。

 

「今日はそのミーティングをしようと思っていたんだ。話に聞いていた博麗の片割れという君にも興味があったから、ついでに参加してもらおうかと思って八雲紫に頼んでおいたんだが……」

 

 レミリアはまるで道端の犬のフンを見るかのような視線を、椅子替わりにしている紫に向けた。

 

 明らかな失望の眼差しにちょっぴり焦りを感じた紫が腕をじたばたを動かしながら抗議する。

 

「な、なによその目は!! ちょっとしたサプライズじゃないの!」

「人格を疑うよ」

「お、おほほ、褒め言葉ね……」

「紫様はあんまり他人と交流しないので、こういう時の限度が分からないのだと思います」

「藍まで……!?」

 

 半笑いで会話に参加してきた藍に、紫が愕然とした視線を向ける。

 

 それを見て水蛭子はいい気味だと内心ほくそ笑む。

 

「紫さん紫さん」

「な、なぁに水蛭子?」

 

 小走りで紫の元まで駆け寄った水蛭子は、まるで聖母の様に穏やかな笑みを浮かべ、言った。

 

 

「私紫さんのこと、嫌いになっちゃいました」

「いやぁああああッッ!!!!」

 

 

 まるでこの世の終わりが来たかのような叫びが、部屋内に響き渡った。

 半ば冗談で放たれた水蛭子の言葉は、存外紫には効果的だったらしい。

 

 




水蛭子は基本的に人にも妖怪にも公平な態度を取ります。
本心でも人と妖怪は対等であるべきだという考えを持っている為、仲の良い妖怪の知り合いも何人か居ます。

他の人間はやはり妖怪を恐れたり、蔑んだりする人も居ます。(善良な妖怪だと分かれば気にしなくなる人が大多数ではありますが)
彼ら、彼女らは、水蛭子の事を信用の出来る人間だと判断していますが、妖怪と積極的に仲良くする様はあまり理解されていません。

ちなみに霊夢は自分に害が無ければ特に気にしません。(そもそも他人への興味が少ない)
魔理沙は友好的な者や、自分にとって有益な者とは仲良くしたいと思っています。

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