博麗になれなかった少女   作:超鯣烏賊(すーぱーするめいか)

7 / 36
第七話 紅く煌めく華人小娘

 

 今日のお昼は魔理沙が持ってきた山菜とキノコを使い、鍋をすることになった。

 彼女が住んでいる魔法の森産の山菜とキノコは、カラフルでマジカルな見た目のものばかりだったので水蛭子は爆裂な不安を訴えた。

 しかし魔理沙の「全部食ったことあるけど身体に害は無かったよ」という言葉を信じ、昼食に採用した。

 

 一人暮らしをしているだけのことはあり、下準備が既に済まされていたそれらを鍋に放り込み、囲炉裏に掛ける。

 煮えた鍋の具材を恐る恐る口にした水蛭子は、意外にも絶品だったそれらに花が咲いたような笑顔を浮かべた。

 なお素材が素材なので、鍋の見た目は結構グロテスクである。

 

 うら若き三人の少女はヤバい見た目の鍋を平らげた後、折角だから人里にでも行こうかということになった。

 

 いつもの大通り、例によって甘味の誘惑に負けた水蛭子が「甘味屋!甘味屋に行こうよ!」と目を輝かせて言うと、呆れ顔をした霊夢が「今食べたばかりじゃない」と盛大なため息を吐いて返した。

 しかし水蛭子の意見に賛同した魔理沙に背を押され、霊夢は半ば二人に連行されるように甘味屋に入り、そして結局仲良く団子を頬張ったのであった。

 

 甘味屋を出て、談笑しながら人里を散歩していると、空はもう橙色に染まり始めていた。

 空を優雅に羽ばたく烏の群れの鳴き声、帰宅を始める人々、里は、哀愁の漂う雰囲気に包まれていく。

 

「……あーあ、楽しいと時が経つのが早いなぁ」

 

 山間に沈みゆく夕焼けを眺めながら、水蛭子は口を小さく尖らせながら、寂しげに言った。

 それに反応したのは、不思議そうな顔をした魔理沙だ。

 

「そう? 私は割とのんびりした一日だったと思うけどな」

「アンタは神経図太そうだからそう感じるんでしょ。繊細な私達と一緒にしないでよね」

「……酷くないか?」

「あはは」

 

 冗談交じりの嘲笑を浮かべた霊夢に、魔理沙は目をジトリとさせて抗議の声を上げた。

 二人のやり取りを見て、水蛭子が可笑しそうに微笑んだ。

 

 

 会話が止み、少しの静寂が続く。

 転圧、舗装された土道を踏む音が、三つ重なってザッザッと小さく鳴る。

 その音を聞きながら、水蛭子はそろそろお別れの時間だなと、心に寂しさをはらませた。

 

 

「……そういや、あの話、知ってるか?」

 

 

 静寂に気まずさを覚えた魔理沙が、頭の隅に置いていた話を引っ張り出した。

 二人の視線が自分に向いていることを確認すると、彼女はゆっくりと話し始める。

 

「妖怪の山の麓に湖があるだろ? 昨日、そこに行った子どもがいたらしいんだ」

「ああ、その話。朝の集会で聞いたわね」

 

 それは今朝、水蛭子が自警団の集会の場で聞いた話だった。

 

「あんな、いつ妖怪に遭遇するとも分からない所に、子どもだけで?」

 

 訝しげな表情をして霊夢が問いかけると、魔理沙は小さく頷いてから、それに、と付け加える。

 

「その子は一人だったらしいぜ」

「完全に自殺行為じゃない」

 

 怒りの籠もった口調で霊夢が言う。

 物事への関心が普段から希薄な彼女でも、子どもがたった一人で危険な場所へ行ったと聞いたら心配はするのだろう。

 

 探しに行かないと……と眉間に皺を寄せる霊夢に、水蛭子がまったを掛けた。

 

「大丈夫よ霊夢。その子、無傷で帰って来たって」

「あ、そう。ならいいわ」

 

 無事ならどうでもいいと言わんばかりに、霊夢は話への興味を一気に無くした。

 その様子に、魔理沙が「いや待て待て」と口を挟む。

 

「ここからが、面白いんだよ」

 

 真剣な顔をする魔理沙に、霊夢が憮然とした顔で再び彼女の目を見た。

 クイーンオブ淡泊の興味を再度惹けたことにより、何故か自信満々な顔をした魔理沙がにんまりと口角を上げて話を再開した。

 

「今朝その子どもに話を聞きに行ったんだよ。なんで一人で湖に行ったんだってな」

「大方好奇心でしょ? なんかあそこデッカイ魚が釣れるらしいし」

「十八尺(※7m弱)もある怪魚だっけ。ホントに居たら凄いよね」

 

 小さい頃、大人たちから聞いた噂に見当(けんとう)をつけた二人に、魔理沙は「おっ」と目を開いた。

 

「正解だ。……最も、怪魚関係無しに、湖での釣りに興味があっただけなんだと」

「危機意識無さ過ぎでしょ」

「で、ここからが本題だ」

 

 憤慨する霊夢に掌を向け、魔理沙は神妙な面持ちで言った。

 

「その子、妖怪に襲われてたらしい」

「なんですって?」

「え!?」

 

 驚きの表情を浮かべた二人に魔理沙は込み上げる笑いを堪えながらも、神妙な顔を繕ったまま話を続ける。

 

「ただ水蛭子が言った通りで、子どもに目立った外傷は無かった。驚いて転んだ時に出来たって擦り傷はあったんだけどな」

「ただの人間、それも子どもが妖怪を倒せるわけ無い。……助けてくれた人が居たって事ね」

 

 顎に手をあてて思考する霊夢の言葉に魔理沙が頷く。

 

「そうだ。妖怪に危害を加えられる寸前で、誰かに助けられたんだと」

「誰かって、誰?」

 

 霊夢の視線が自身の目に重なるのを感じて、真剣な顔をした魔理沙は数拍置いて、そして口を開いた。

 

 

「それはこの、名探偵魔理沙様にもさっぱりだぜ」

「何よそれ。肝心なとこが分からないんじゃない」

「あはは……」

 

 

 やけに勿体ぶった様子で何の価値も無いことを宣った魔理沙に、霊夢と水蛭子はそれぞれ気の抜けた表情をした。

 じゃあと霊夢が聞く。

 

「その助けてくれた人の特徴とか聞かなかったの?」

「おう、聞いたぜ」

「聞いてんのかい」

 

 魔理沙は人差し指を顎にあてながら宙に視線を泳がせ脳から情報を引っ張り出していく。

 

「えーと、確か緑色の変な服を着てるらしい」

「緑色の?」

「変な服?」

 

 霊夢と水蛭子が顔を合わせた。

 

「ん、心当たりがあるのか?」

「いや、水蛭子が今朝会った妖怪も緑の服を着てたって聞いたから」

「そう。確かにあの子だったら助けそうだわ」

「ふむ。聞いた特徴はまだあるから照らし合わせてみるか」

 

 すっかり真面目な表情になってきた魔理沙が言う。

 

「一気に言うぜ? ソイツの特徴は赤色の長髪に、服と同色の帽子を被ってて、そんで背が高かったらしい」

「……赤い髪なら違うわね、水蛭子が言ってた奴は銀髪だって言ってたし」

「それに帽子も普段は被ってないわね。背も私達と同じくらいだったから……完全に別人みたい」

 

 予想が外れた事を残念がる水蛭子だったが、霊夢は「まあそんな都合よくはいかないか」と思考を切り替え、もう一つ気になっていたことを口にした。

 

「で、結局そいつは人間なの? 妖怪なの?」

「それは知らん。でも妖怪を撃退できるって事は妖怪なんじゃないのか?」

 

 あっけらかんと断言めかした魔理沙に水蛭子が苦笑する。

 それもその筈で、目の前に人間の妖怪退治専門家が二人居るのだから。

 

 しかし魔理沙の言葉も間違いでは無く、現代の幻想郷において、妖怪に真っ向から立ち向かってそれを打倒出来る人間など殆ど存在しない。

 魔理沙は魔法を使うことが出来る稀有な人間であるが、妖怪をタイマンで倒せる実力は無く、どちらかと言えばそちら側(・・・・)なのだ。

 

 博麗の巫女と元博麗候補であった自分達だけなのだろう。妖怪は倒せるという認識を持っているのは。

 

 そんな考えと並行して、子どもを助けたという人物に心当たりがあったかなと水蛭子は暫く唸っていたが、やはり思い当たる節は無かった為、思考を中止した。

 

「まあ、運が良かったよな子どもも」

 

 魔法使い特有の三角帽子をクシャリと巻き込みながら、頭の後ろで手を組んだ魔理沙が欠伸混じりに言う。

 それに憮然とした表情で、あからさまに不機嫌な声色の霊夢が返した。

 

「危機管理能力が無さ過ぎる。里人が年に何人消えてるのか伝わってないのかしら」

「自警団でも注意喚起を呼び掛けてるんだけど……もっと沢山した方が良いみたいね」

 

 はあ、と呆れ顔の霊夢と水蛭子が同時にため息を吐いた。

 

 そうして話し込んでいると、空は橙色が紫色へと染まり夜の帳が落ち始める。

 そんな空を眺めながら大きく背伸びをした魔理沙が、よいしょと箒に跨った。

 

「ま、なんか分かったらまた教えるぜ。今日はもう帰って寝るわ」

「ん、じゃあね」

「おう、水蛭子もまたな!」

「うん! またね魔理沙」

 

 手を振る水蛭子にニカッと明るい笑顔を浮かべ、魔理沙を乗せた箒が宙へ浮かぶ。

 ふと水蛭子は、空を飛ぶのは魔理沙自身の力なのか、それとも箒の力なのかが気になったが、暗い空を飛んでいくその背中を眺めているうちにどうでもよくなった。

 

 魔理沙の姿が完全に見えなくなると、霊夢と水蛭子も別れの挨拶をしてそれぞれの帰路に着いた。

 

 

 

 

 

 

「ん~~」

 

 日が明けた翌日。

 水蛭子は件の霧の湖に来ていた。

 

 魔理沙が話していた「変な緑色の服を来た赤髪の人物」の手がかりを探す為である。

 湖周辺はいつもと変わらない相変わらずの濃霧だったが、たまにここを訪れる水蛭子は慣れた様子で、ランタン片手に散策をしていた。

 

「ふ~……特段手がかりは無し、か」

 

 件の人物が湖周辺に住んでいる可能性を考えた水蛭子であったが、湖の周辺の建築物と言えば昔から怪しい雰囲気を醸してそこに佇んでいる廃洋館だけである。

 一応その洋館の中も探したが、住民の幽霊達の気配がするだけで他に何も無かった。

 そうなると霧の湖の近くにある妖怪の山が赤髪緑服の住処なのか、それとももっと離れた所にあるのか。

 

「……あ! 私が妖怪に襲われたら現れたりするかな?」

 

 ふと水蛭子の頭にこんな超極端な案が思い浮かんだ。

 

 手がかりがほぼ無いため、思いついたことは取り敢えず実行してみるつもりらしい水蛭子は、鼻歌を口ずさみながら一度里への道を戻っていった。

 

 

 少女往復中……。

 

 

 再び霧の湖に舞い戻った水蛭子は肩から袈裟にかけたウェストポーチに針と符等の退妖道具、そして自身の身長より長いイスノキ製の棍を背負い完全武装の装いへと変わっている。

 加えて、家の神棚を拝んで来た彼女の身体は朧気な神力に包み込まれていた。

 

「よーし完璧!!」

 

 瞑目し、水蛭子は心の中で自身を鼓舞する。

 イスノキの棒を身体全体をうねらせる様にして大きく回し、その先端を地面に突き刺した。

 そうして、喉を鳴らす。

 

「さぁここに生身の人間が居るぞ! かかってこい有象無象の妖怪共!!」

 

 案外大きな声が出た様で、水蛭子自身が驚きで目を見開いてしまっている。

 ちょっとマズったかなと水蛭子は舌をチロと出した。

 暫くの静寂。不穏な気配が辺りに漂い始める。

 低級の妖怪が放つ瘴気だ。

 

「………」

 

 耳を澄まし、周囲をゆっくりと見回す。

 人を襲うために速攻で突撃してくるような雑魚妖怪なら、打倒するのは簡単だ。

 しかし今回の目的は赤髪緑服と出会うこと。

 こちらからは手を出さず、最低限の抵抗だけをして、傍から見てキチンと襲われている様に演じなければいけない。

 

「いやあぁぁぁぁっっ!!」

 

 赤髪緑服に聞こえるように、あざとく、大きな声で叫ぶ。

 それと同時に妖怪の気配が段々と濃密になっていき、その姿を表した。

 

 見た目はただの狐。

 数は十匹。

 妖力は真ん中の狐以外は微弱。

 妖怪になりたての化け狐のようだ。

 

 はっきり言ってしまえば霊力を持っている人間であれば倒せる雑魚だが、馬鹿には出来ない。

 こういう存在が長く生きると人の形を成すからだ。

 そういった強力な妖を安易に産み出さない為にも、博麗の巫女は存在する。

 彼女たちが代々こういった下級の妖怪を間引き、幻想郷の均衡を保ってきたのだ。

 

「た、たすけて……っ!!」

 

 足を後方にジリと開き、相手の攻撃をいつでも避けられるように構える。

 背面からの攻撃にも備え、棒を水平にして背中に密着させる。

 

 狐達が薄く開けた目でジッと此方を見る。

 奴らはいつの間にか半円状に水蛭子を取り囲んでいた。

 

「……」

 

 汗が一筋、額から流れる。

 霊夢なら、こういう場面でもマイペースな態度を取るのだろうなと水蛭子は己の心の弱さを内心で嘆いた。

 

 という所で、視界の端に居た左右一対の狐が、ゆったりとした足取りで近付いてくる。

 全員でかかって来ないのか?と疑問符を浮かべた水蛭子であったが、気を抜く事は無く、足に力を入れ直す。

 

「来ないでっ!!」

 

 それから、他の狐達も順に歩を進め出した。

 しかし水蛭子の正面。隊列の真ん中にいた狐だけは、ジッとこちらを見たまま動かない。

 どうやらあの狐がリーダー格らしい。

 

「こぉん」

「……?」

 

 突然、その狐が短く鳴いた。

 それと同時に水蛭子の視界がグニャリと揺らぎ始める。

 

 眩暈に似た感覚に、昔読んだ本の内容を思い出す。

 妖怪の中には、人や物の身体を乗っ取り、自分のものにしてしまうモノが居るということ。

 この現象にあっていると言う事は、『憑依』されている最中であるということを。

 

 一歩、二歩と覚束無い足取りで後退し、三歩目を踏み出した時、ぬかるんだ地面に足を滑らせ、水蛭子の身体が傾いた。

 倒れる自身の身体に、水蛭子は受け身を取らず、霧の向こうからぼんやりと見える太陽をボーッと見詰めていた。

 

 水蛭子の背が、地面に落ちかけたその時。

 力強く、柔らかな何かが彼女を抱き留め、そして叫んだ。

 

 

「何、やってるんですかッ!?」

「……ぅ、あ」

 

 

 朧気な意識を振り払い、周囲を見渡すと、狐たちは姿を消していた。

 現れたもう一人の相手に、分が悪いと踏んだのだろう。

 憑依されかけた事に顔を青くしながら、水蛭子がまだモヤが掛かった様な頭で思考する。

 

 妖怪は人を殺して食うが、人間に憑依した妖怪は強い力を得ることが出来る。

 水蛭子は攻撃の意思を示さなかった為、簡単に憑依出来そうだと、つまりあの妖怪に舐められたのだ。

 

 そう言う妖怪も居るという事を忘れていた己の迂闊さに、水蛭子はギリッと奥歯を噛んだ。

 

「……ちょっと聞いてます? まさかもう乗っ取られちゃいました?」

「ん……大丈夫。まだ少し、頭がぼやけてて……」

 

 今も尚水蛭子を支えていた女性は、心配そうな顔をして水蛭子の顔を覗き込んでいた。

 視線が合った水蛭子が、少し顔を赤くしながら礼を言って立ち上がる。

 

「……すみません……迷惑をおかけして」

 

 向き直ると、そこには背の高い女性が立っている。

 女性は安堵の息を吐くと、次の瞬間には不機嫌そうな顔をして腰に手を当てた。

 

「貴女ねぇ、自己防衛の力があるのに何で抵抗しなかったんです? 新手の自殺ですか? それとも妖怪を信仰対象にでもしているカルト教団の方?」

「いえ、私は人と会いたくて…………あっ!?」

「人? また誰か迷子に?」

 

 怪訝な表情を浮かべる彼女を見て、呆然とする。

 何故なら彼女の髪は紅くて長くて、緑色の変わった服を着てて、頭には緑色の帽子を被っていたから。

 

(こ、この人だ!!!!)

 

 目当ての人物との邂逅を果たし、水蛭子は内心飛び上がる様な思いだった。

 正味言うと、別にそこまでして会いたいわけではなかったのだが、少しリスクがあったので達成感も自然と多くなっていた。

 

「えっとあの! 昨日人間の子どもを助けてくれましたよね!?」

「え? えぇ、まぁ助けましたけど。……まさか会いたい人って私の事ですか?」

「そうです! そうなんです!!」

 

 そう言って「やった!」と小躍りする水蛭子を見て、女性は困惑の表情を見せる。

 しかし水蛭子はそれに気付かない。

 

「ありがとうございました! うちの里の子どもを救ってくれて!!」

「あー、昨日は、たまたまその場に居合わせただけなんで」

「でも、私のことも助けてくれたじゃないですか!!」

「昨日襲われてたから今日も誰か襲われてるかなと思ったから見回ってただけです。まさか本当に襲われるとは思いませんでしたけど」

「……あ、あはは」

 

 呆れ顔で言う女性に、水蛭子は照れくさそうに笑った。

 

「それで、私に何の用が?」

「そうそう! あなたに直接お礼が言いたかったんです! もう済ませちゃいましたけど!」

「……え? それだけ?」

「そうですけど、なにか?」

 

 水蛭子が首を傾げると、女性は顔を右手で覆い呆れのため息を吐く。

 

「えっと、幻想郷の人間って皆そんなに呑気なんです? 命の危険があったんですよ?」

「子どもが救われたらお礼を言うのは当たり前ですからね〜。今回の事は反省します……」

「……はぁ」

 

 のほほんと答えた後落ち込む表情豊かな水蛭子を見て、女性は黙ってその旋毛を眺めた後、クルリと背を向けて歩き始めた。

 移動を始めた女性に慌てた水蛭子がその後を追い、少し後ろを着いていきながら話しかけた。

 

「あの、私八十禍津水蛭子って言います!」

「そうですか」

「出来ればその、あなたの名前も教えてほしいな〜、なんて、えへへ」

 

 ほりゃりと笑って水蛭子が言うと、少女は横顔を向けて視線を水蛭子に合わせた。

 

「どうせもう会いませんし、教えません」

「え? でもこの辺りに住んでいるんでしょう? 顔を合わせる機会はあると思うんですけど」

「ないです。もう出歩かないでしょうから」

 

 少し疲れたように言う女性に水蛭子は首を傾げる。

 

「なんでですか?」

「元々昨日も、特別な用があってこの辺にいたんです。普段は出歩きませんよ」

「えぇ? 見かけによらず出不精なんですね」

「……失礼っていう言葉、知ってます?」

 

 額に軽く青筋を浮かべる女性だったが、水蛭子は大して気にしていない様子で喋り続ける。

 

「でも、二度と会わないんだったら逆に教えてくださいよ。命の恩人なんですし、名前くらい知っておかないと悲しいです」

「はぁ、そういうものですか」

「そういうものです」

 

 何故かドヤ顔で頷く水蛭子を見て、女性はこめかみの辺りを掻きながら考え始める。

 それも少しの間だけで、直ぐに「うん」と頷き、水蛭子の方へ視線を戻した。

 

「紅美鈴です」

「ほん…めいりん? 変わった響きの名前ですね!」

「そうですか?」

「はい!」

「……そうですか」

 

 釈然としない様子の美鈴だったが、笑顔の水蛭子を見てそういうモノか、と思考を落ち着かせた。

 

 




 水蛭子はバランス型の戦闘スタイル。
 護符や針といった武器の扱いは長けている。
 陰陽玉やお祓い棒は博麗の巫女が使う唯一品なので使わない。
 身体能力は並みの人間よりかなり高く、霊夢には劣る。
 飛行速度も霊夢と同程度であるので、速くは無い。
 スタミナがかなり高い所と、フレンドリーな性格である為、霊夢より人里の人間に慕われているのが長所。

 対妖怪要員として自警団に所属している。
 妖怪退治、護衛が主な仕事で、パトロール等は他の自警団員が行っている。
 普段暇そうにしているが、忙しい時は忙しい様だ。

 因みに母親は機織りの仕事をして欲しかったらしいが、博麗候補に選ばれた時は素直に祝福してあげた。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。