博麗になれなかった少女   作:超鯣烏賊(すーぱーするめいか)

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第六話 恋色の魔法使いは楽しげに笑う

 

 八十禍津水蛭子は元博麗の巫女候補である。

 その為彼女は人里の人々から一目置かれる存在であり、水蛭子自身もそれを一応自覚していた。

 

 しかし元博麗候補であったとしても、彼女が暮らしているのは万年人手不足の人里である。

 そして人里の民の信条は、働かざる者は食うべからず。

 完全に無職である人間は、赤子を除いて一人も存在していない。

 

 水蛭子は職業は、職業自警団員だった。

 魑魅魍魎が跋扈する幻想郷で人間を守ってくれる存在は、幻想郷のルールそのものと博霊の巫女、そして郷内に点在する各人里で組織されている自警団だ。

 彼女はその中でも特別な位に座している。

 

 

 その役割は、博麗の巫女が不在時に限り、妖怪と真っ向から殺し合うこと。

 

 

 とはいえ、博麗以外が力のある妖怪と対峙するのは基本的には禁止されているし、霊夢が里の危険を無視することはまず無いので、水蛭子が本来の役割を全うするケースは非常に少なかった。

 

 その為、水蛭子の普段の仕事と言えば、博麗の手を借りる必要も無いほどの雑魚妖怪を追っ払うことや、警ら(里内のパトロール)等に出動するのみである。

 とどのつまり、今日も今日とて朝の集会を終えた彼女は、ほぼフリーな状態であった。

 

 一応副業もしているのだが、最近はそちらの依頼は少ない為、水蛭子は変わらず暇を持て余しているというわけである。

 

 

「暇だー……」

 

 

 忙しいのも困るけど、暇過ぎるのも考えモノだな。

 そんな、里の平和を維持する自警団らしからぬことを考えながら、彼女は自主的なパトロールも兼ねて大通りをグダグダと歩いていた。

 

 不意に、視界に見知った後ろ姿が映り込む。

 

 一見してただの人間とは言い難い、ちょっと変わった雰囲気の女の子だ。

 

「あ、若白髪ちゃんだ」

 

 開口一番、物凄く失礼な事を口走った水蛭子の視界に居るのは、自分と同じくらいの年頃であろう一人の少女。

 

 おかっぱ気味に切りそろえたボブカットの銀髪に、黒いリボン。

 白いシャツの上には深緑のベストを着ており、同色のスカートは少し短めで動きやすそうだ。

 全体的に冷たさを印象付けられるカラーリング。そして銀髪と切れ目である事から、近寄りがたい雰囲気を醸し出している彼女であるが、話してみると割と気さくだという事を、水蛭子は知っていた。

 

 水蛭子は既にこの少女と面識があった。

 たまに人里を訪れ、毎回大量のお菓子と食材を買い込んで帰っていく変なヤツだから、里の人達にも顔を覚えられていた。

 

 ちなみに水蛭子は彼女の事を若白髪ちゃん(あくまで愛称)と呼んでいるが、本人の前では流石に言わない。

 

 さて、例に漏れず、今日の彼女も大荷物の様で。

 両手にそれぞれ脇で挟むように持った手提げ袋がはち切れんばかりに膨らんでいる。

 時折足をよろめかせるその姿はちょっと危なっかしい。

 

 水蛭子が少女の元へ小走りで近付き、声を掛ける。

 

「こんにちは」

「はい? ……あぁ、あなたですか」

 

 煩わしげな顔で少女が振り向く。

 明らかにキャパオーバーな荷物を持っているからか、少し不機嫌そうだ。

 しかし話しかけてきた人物が水蛭子だと確認すると、その非難めいた視線は直ぐに普通の物に戻った。

 

「朝からご苦労さま。今日もなんというか、すっごいわね」

「はは、今回はまだ楽な方なんですけどね」

 

 苦笑いを浮かべながらも歩き続ける少女に、水蛭子は「毎回大量に買い物をしている理由はなんなの?」「そんなに大量の荷物をもって何処まで帰るの?」といった問いかけをしようと口を動かしかけた。

 しかし寸での所で言い留まる。

 

 水蛭子が彼女と会話を重ねてきて、分かったことが一つある。

 彼女は基本的に、自分のことを喋りたがらないのだ。

 

 聞きたいことは山積み。

 しかしあれこれしつこく聞いて鬱陶しがられるのも双方の為にならない。

 そんな考えの元、水蛭子は突っ込んだ質問は自重していたのだ。

 

 ちなみに言うと水蛭子が少女を若白髪ちゃんと呼ぶのも、彼女が自らの名前を名乗らないからだった。

 

 そうして出しかけた質問をグッと堪えて、水蛭子は純粋な親切心から申し出る。

 

「半分持つわ」

「えっ、いや悪いですよ」

 

 銀髪の少女は慌てた様子で言った。

 少女が遠慮しがちの性格だというのは水蛭子も理解していたので、もう一度言葉で押してみる。

 

「今日は仕事も無くて丁度暇してたの、やる事が出来てむしろ嬉しいくらいよ」

「いや、でも……」

 

 妖夢は、よこしなさいと言わんばかりに差し出された手を見る。

 次に自身の両手に持ったパツパツの袋を見て、少し考えてから口を開いた。

 

「んー……ならちょっと、甘えましょうかね」

 

 遠慮がちに、左手に下げていた袋を差し出す。

 それを笑顔で受け取った水蛭子は袋を右手に下げた。

 

 袋の中を見てみると、そこには大きく膨らんだ風呂敷が。パツパツのそれはもはや球体の域だ。

 中身は何だろう?気になった水蛭子は、これくらいなら構わないだろうと思い聞いてみることにした。

 

「なに買ったの?」

「煎餅です」

「へー、そっか煎餅…………え?」

 

 せんべい?この、パンッパンのやつが?

 思いがけない返答。それは水蛭子の思考を一時停止してしまう程には衝撃的なものであった。

 震える声で水蛭子が言う。

 

「……これ全部?」

「ですねぇ」

 

 虚空を見ながらハハハと空笑いする少女を見て、水蛭子はポカンと口を開けて惚けた顔をした。

 それから少しの間の後、可笑しそうに笑いだす。

 

「ふふ、あはは……!」

「な、なんですか突然笑いだして? ・・・…あっ、言っておきますけど私が全部食べるわけじゃないですよ!?」

「隠さなくて良いわよ、私だって甘いモノ大好きだし。好きなものってついつい食べ過ぎちゃうわよねー」

「違ッ! 違います~~!!」

 

 この時水蛭子は、少女がよっぽどの煎餅好きなのだろうと勘違いした。

 事実は少女の主人である桃色髪の女性がブラックホールよろしく飲み込んでしまうのだが、水蛭子がそれを知る由が無い。

 銀髪の少女は頬を赤らめ、先ほど自由になった左手をブンブン振って抗議するが、そんな彼女を見て水蛭子はますます笑顔になり、笑い声も大きくなっていく。

 

「あはははっ!!」

「ホントに違うんですよぉ……! これは、幽々子さまが……!」

 

 少女の口から自身の主人の名前が飛び出した。

 聞き慣れない名前に、水蛭子は首を傾げる。

 

「幽々子さまって誰?」

「……アッイヤ……ハハッ……なんでも、ないです」

「何よう、やっぱり自分が食べるんじゃない」

「…………ハイ」

 

 絡繰りのような口調で話し始めた少女を不思議に思ったが、いつもの隠し事なのだろうと、特に言及はしなかった。

 その後水蛭子が一分ほど笑い続けていたら、「もういいです……」と少女が不貞腐れだしたので、滅茶苦茶謝罪した。

 

 

 閑話休題

 

 

「ありがとうございました。ここまでで大丈夫です」

「え? もういいの?」

 

 里のはずれにあるアバラ家に差し掛かった所で、少女は水蛭子の方へ振り返ってそう言った。

 まだまだ歩くのだろうと思っていた水蛭子は拍子抜けした様子で首を傾げる。

 最低でも隣の里くらいまで歩くと考えていたのだ。

 

「別に遠慮しなくてもいいんだよ?」

「いや、遠慮とかじゃなくて……その、ここでもう十分というか」

「どういうこと?」

 

 水蛭子がもう一度首を傾げたその時、アバラ屋の戸がガラガラと音を立てて開いた。

 視線を向けると、中から出てきたのは見覚えのあり過ぎる女性だった。

 目を丸くして水蛭子は声を上げる。

 

「あれっ? 紫さん?」

「あら、水蛭子じゃない」

 

 現れたのは昨日仲良くなったばかりの妖怪、八雲紫。

 突然現れた彼女に驚く水蛭子だったが、紫も予想外だったのか同じような表情をしている。

 

 そして二人が知人であることに驚いているのが銀髪の少女である。

 

 なにせ、片や何の特徴も無い人里の娘で、片や幻想郷を代表する大妖怪。

 目の前の二人に接点があるなどとはまさか予想できるまい。

 少女は戸惑いながら声を出す。

 

「え、二人はお知り合い、なんですか?」

「それはもう。知り合いも知り合い、超知り合いよ」

「超、知り合い……!?」

 

 この幻想郷の総括者である八雲紫と、超がつくほどの知り合い!?

 

 と、紫の軽い冗談を、言葉通りに受けた少女が驚愕で目を見開く。

 純粋であるのは素晴らしいことだが、同時に怖いものでもあり、こんなあからさまな冗談すらも真面目に受け止めてしまうからタチが悪い。

 

「超知り合いって……もう。昨日知り合ったようなものじゃないですか」

「やん、悲しいこと言わないでよー」

「え、あ……んっ?」

 

 呆れた表情をする水蛭子とあざとい声を出す紫を見た少女が、「あ、おちょくられてるわコレ」と勘付くのは存外早かった。

 

 破茶滅茶に騙されやすいが、嘘だと気付くのも早い。

 少女は純粋であるが、主人がああいう性格なので、からかわれる事には慣れているのだ。

 ならいちいち冗談を真に受けるのを止めたらいいのでは?と思うかもしれないが、残念ながら彼女はそういったベクトルで生きてはいなかった。

 

 スンと冷静な顔になった少女を見ながら、水蛭子が「もしかして」と切り出す。

 

「紫さんと一緒に居るって事は、若白髪ちゃんって実は凄い妖怪だったりします?」

「ん? 若白髪?」

 

 何気なく発せられた言葉に眉を寄せた少女だったが、それを意を解した様子も無い紫が言葉を返す。

 

「実力はそれなりだけど、違うわね。この子は友人の所で働いてる使用人みたいなもので、私は買い出しの足になってあげてるだけよ」

「え、紫さんを、足に?」

「……え!?」

 

 水蛭子の湿気た視線を感じて「い、いけないことでした!?」と困惑しはじめる少女。

 

「(あー可愛いな)」

 

 本気で焦った様子の少女を見て、水蛭子はうふふと惚けた笑みを浮かべながら、紫の方へ視線を戻す。

 

「それじゃあ、今から紫さんのアレ(・・)で帰るんですね」

「そうね」

「そうですかー。ならあんまり引き止めちゃうのもなんですし、私も戻りますね」

「愛しの霊夢が待ってますものね」

 

 ニヤニヤとした笑みを浮かべながら言った紫に、水蛭子はムッとした表情になる。そして少しだけ赤らんだ頬を手で隠すようにしてからため息を吐いた。

 

「もう、茶化さないでくださいよ」

「ふふ、ごめんなさい。それじゃあ行くわね」

「はい、また」

 

 水蛭子が軽く手を上げてさよならの挨拶をすると同時、紫の横の空間がヌッと裂けるように開く。

 そして無駄に優雅な足取りでそのスキマに消えていった大妖怪に続き、銀髪の少女もその中に入って行った。

 

「今日はありがとうございました。ではまた」

「うん、バイバイ」

 

 向こうで少女が頭を下げると、スキマがヌッと閉じる。

 それを見て水蛭子は「便利な能力だなぁ」と思いつつ、訪れた静寂に寂しさを感じて、少し早足で里への道を戻り始めた

 

 

 

 

 里の大通りをそのまま通過した水蛭子は、博麗神社の境内に立っていた。

 

 彼女の片手に下げられているのはパンッパンの袋。その袋を見て、水蛭子は深い深いため息を吐く。

 それから玄関の戸をノックして、もう一度袋に視線を向ける。そしてまたため息を一つ。

 

 トタトタという足音が近付いてきて、戸が開かれる。

 

「はーい。あ、水蛭子いらっしゃい」

「……こんにちは、霊夢」

 

 昨夜と比べ、あからさまにテンションの低い水蛭子を見て、霊夢は不思議そうに声を出した。

 

「どうしたの?」

「なんでもない……いや、ある……かな?」

「どっちよ。本当にどうしたの?」

 

 明らかに様子の可笑しい友人を見て、霊夢はいよいよ心配の表情を浮かべる。

 

 そんな彼女の様子に、水蛭子はポツリ、ポツリと話し始めた。

 

「最初は、少し喜んじゃったの」

「……何に?」

「でもその後直ぐ、物凄い罪悪感にさいなまれたわ。……だけど私には、この煎餅をあの子に届けるすべが無いの……っ!」

「え、なに。その手に持ったまるっこい手提げの中身、煎餅なの?」

「あの子が次いつ里に来るのかも分からないし、かといって保存しておくにも期限があるわ」

「……」

 

 自分の言葉に反応せずに一人で話し続ける水蛭子に、霊夢は少しだけ不機嫌そうな表情になる。

 それでもとりあえず様子を見ようと、黙って次の言葉を待った。

 水蛭子は瞼を閉じつつ、まるで説法をするかのように霊夢にゆっくりと語り掛ける。

 

「と、いうわけでね、霊夢」

「うん」

 

 目を見開いた水蛭子が、同時にニヤリと笑う。

 唐突に悪い面構えになった彼女に霊夢がまばたきをすると、水蛭子は声高らかに言った。

 

「今日は煎餅パーティーをしましょう!!」

「話しを聞く限り盗品よね?」

「盗品じゃないわよ! どっちかというと忘れ物だからセーフ!!」

「多分誰が聞いてもアウトなんじゃないかしら」

 

 さらりと受け流すようにそう言って、霊夢はさっさと社内に入っていった。

 そんな霊夢の背中を暫く眺めた後、水蛭子はしょんぼりとした表情で靴を脱ぎ、いそいそと霊夢の去っていった廊下を進んだ。

 

 

 二人並んで縁側に座り、ずずずっと茶を飲む。

 火傷しそうなほど熱いけれど、これくらいのお茶もやっぱり美味しいなと水蛭子は満足げである。

 続けて、おそらく醤油味であろう茶色の煎餅を一口。

 ぼりぼりと数回の咀嚼の後。

 

「うっまい」

 

 恍惚な表情を浮かべながら、水蛭子はそう感想を吐露した。

 

 かなり好みの味だったので今度からちょくちょく買おう。と店を探す算段を組みながら再びお茶を飲む。

 

 ニコニコ顔の水蛭子を呆れた表情の霊夢が見た。

 

「あーあ、もう知らないんだから」

「だーいじょーぶだって! また今度あの子に会ったら買ってあげるから!」

「その、あの子って誰?」

 

 さっきも言ってた「あの子」というワードに、霊夢は訝しげな表情をする。

 

「ええっと、銀髪の……全体的に緑っぽい女の子なんだけど、知らない?」

「何その全体的にアバウトなヒント」

 

 そう言いながらも、うーんと考え始める。

 

「銀髪は何人か心当たりがあるけど、緑ねぇ……」

「あと、腰に刀差してて、周りに白い……モニョモニョしたのが浮いてるんだけど」

「いやそれ絶対に人里に入れたら駄目でしょ」

「大丈夫大丈夫……あれ? 良く考えたら、あんまり大丈夫じゃない?」

「もう、しっかりしてよ……」

 

 能天気な幼馴染にため息を吐く。彼女は自警団に所属しているのに、この警戒心の無さは職務怠慢と言っても過言ではないだろう。

 この子には向いてないんじゃないか?と霊夢が考え始めた時、水蛭子はにへらと笑った。

 

「まぁでも、やっぱし大丈夫だって。あの子、優しいし」

「ふーん。……で、名前は?」

「それが、知らないんだよね~!」

「……はぁ」

 

 やっぱり、絶対に向いてない。

 あははと笑う水蛭子を見て、霊夢は人里の自衛の練度に少々不安を感じるのだった。

 

 

 閑話休題

 

 

「……美味しいわね」

「でしょ?」

 

 十数分後、なんだかんだ言って、霊夢も一緒になって煎餅を食べていた。

 少しの間無言で煎餅を食べ続けていた二人だが、霊夢は三枚目くらいで既に飽きを感じていた。

 そして水蛭子も同じ感想を抱いていたようで、苦笑いを浮かべている。

 

「……あの子この量をもう一袋食べるって言ってたけど、見かけによらず大きい胃袋してるのねぇ」

「化け物じゃない……。今度会ったら、ちゃんと素性を……ん?」

 

 名前も姿も知らない妖怪に戦々恐々としていた霊夢が、ふと空を見た。

 彼方から何かが飛来してくるのが見える。

 

 ──箒に跨った少女だ。

 その少女のことを、霊夢は良く知っていた。

 青い空に良く映える白黒の洋服が、徐々に鮮明に見えてくる。

 

 それを見た霊夢が、思わず仏頂面になった。

 

「ああ、面倒くさいのが来たわね……」

「どうしたの?」

 

 突然こめかみを押さえだした霊夢を見て、小首を傾げる水蛭子。

 よく悩ましげにしている幼馴染だなぁ……と心配そうにしていると。

 

 ブワッと、唐突に強風が巻き起こった。

 庭に落ちていた木の葉が宙を舞い、二人の目の前に白黒の、ゴスロリドレスとメイド服を掛け合わせたような洋服を見に纏った少女が箒片手に華麗に着地した。

 

 突飛な出来事に、水蛭子は思わず煎餅を膝の上に落としてしまう。

 

「……えっ!?」

「おーっす霊夢! 遊びに来たぜ」

「……うん、いらっしゃい」

 

 ヒラヒラと舞い落ちる木の葉の中で快活な笑顔で挨拶をした少女に、霊夢はしんどそうな顔で言葉を返した。

 あんまり歓迎はしてないようだ。

 

 

「……あっ!」

「……お?」

 

 

 よくよく少女を見てみて水蛭子が気が付いた。彼女に見覚えがあったのだ。

 少女の方も同様のようで、水蛭子を見ると笑顔で話しかけて来た。

 

「水蛭子じゃないか! 面と向かって話すのは初めてだな」

「うん、アナタは魔理沙よね? 霧雨商店の」

「……う、」

 

 霧雨商店、という言葉を聞いて苦虫を噛み潰したような顔をした魔理沙は、言葉を詰まらせながらも「ま、まぁな」と曖昧に返した。

 それでも彼女は気を取り直し、優しい笑みを浮かべて縁側に座る霊夢と水蛭子を交互に見る。

 

「そういやお前ら仲直りしたんだっけか、良かったじゃないか。博麗の二人組復活だな」

「えへへ、ありがと」

「なんでアンタがそれを知ってんのよ」

 

 朗らかに笑う水蛭子と対象的に、疑問を感じた霊夢が不思議そうな顔で問いかけた。

 その言葉に魔理沙は「え?」と首を傾げる。

 

「甘味屋の前があんだけ騒ぎになってたんだぞ? アタシが気にならないとでも思ったのか?」

「くっそ、昨日のか……」

 

 空を仰ぐ霊夢と良い笑顔を浮かべる魔理沙を交互に見て、水蛭子が口を開く。

 

「魔理沙は霊夢と仲が良いの?」

「おう! そりゃあもう、大親友だぜ」

「へーそうなんだ……あ、もしかして」

 

 魔理沙と霊夢は結構タイプの違う女の子だ。そんな二人の仲の良さを意外に思った水蛭子は、ふと先日、霊夢と仲直りした時にした会話を思い出す。

 

「霊夢が言ってた『元気の塊みたいな女の子』って魔理沙のこと?」

「あっ! ちょっと水蛭子!」

 

 小さく肩を跳ねさせた霊夢が水蛭子の方を勢い良く見た。

 別段、話されてマズいことでは無いのだが、何か微妙に美化して話をしたような気がして、単純な気恥ずかしさがあったのだ。

 

 霊夢の焦りようを見て、魔理沙がニヤリと笑ってあごを撫でた。

 

「ほ~う、霊夢が私のことを話してたのかぁ。そりゃ気になるぜ」

「気にならなくて良い! アンタは煎餅でも食ってろ!!」

「そんな固いこと言うなってふごぉッ!?」

「良いじゃない。別に話しても」

「アンタが良くても私が嫌なのよ……ッ!」

 

 頬を桃色に染めた霊夢は魔理沙の口に煎餅を勢い良く突っ込んだ後、不満そうにしている水蛭子に小さく怒鳴った。

 普段はクールな彼女でも、羞恥心は人並みにあるのだ。

 

「わかったわかった、言わないから」

 

 本当に嫌そうにしている霊夢に、水蛭子は件を話すことを諦める。

 人の良い彼女は、人に嫌がられることは極力したくないのだ。

 

 しかし、魔理沙は眉を寄せて口を尖らせている。

 

「なんだ、そりゃ残念だな」

「ごめんね魔理沙」

「いや、また霊夢が居ない時に聞くさ」

「しばかれたいのかアンタは」

 

 生暖かい笑みを浮かべる魔理沙の言葉に、霊夢は額に青筋が浮かべて凄む。

 そんな彼女に、魔理沙は「おー怖い怖い」とそのままの笑顔で戯けた。

 

 二人の様子を見て、水蛭子がふふと笑う。

 

「ホントだ、仲良しだね」

「何処が!?」

 

 顔一面に驚愕の色を浮かばせた霊夢が水蛭子を振り返る。

 水蛭子はニコニコしながらあざとく首を傾けた。

 

「あれ、照れてるの?」

「てれっ……照れてないわよ!」

 

 頬を朱く染めた霊夢に、水蛭子はにんまりと笑う。

 

「も~、かわいーわね~霊夢は~」

「う……ぐぅ……っ!!」

 

 うざい、と口を出しそうになった霊夢であったが、相手が水蛭子であるため、なんとか喉の奥に言葉を押し込んだ。

 長年離れ離れになっていた幼馴染なのだ。基本的には優しく接してあげたかった。

 

 そんな霊夢の葛藤を知ってか知らずか、魔理沙が続けて彼女を指差し。

 

「うわ顔真っ赤じゃん! かーわーいーいー!!」

「うっぜえわ!!」

「あいたーーーっ!!」

 

 からかわれるのが白黒の少女となれば話は別である。

 霊夢は一切の遠慮無く、魔理沙の頭を強めの力でぶっ叩いた。

 

 しかし、魔理沙は気を悪くした様子も無く心底楽しそうに笑う。

 その様子をみて水蛭子も笑い、なんだか二人に負けたような気がした霊夢は仏頂面のまま顔を背けた。

 

 




水蛭子、若白髪ちゃんは普通に悪口ですよ

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