レミリアが腕を振るうと同時に周囲の空気が圧縮され、唸り、霊夢の元へと殺到する。
霊夢はそれを肘を打ち付ける様にして受け流すと、懐から素早く"陰陽玉"を二つ取り出して後ろへ放り投げる。
彼女の拳程の大きさであるソレは、ふわりと宙を泳ぎ、それぞれが両肩の付近で停止する。
玉を見ながらレミリアは軽く瞬きをさせる。
「その球、見たことがあるな」
「……あっそ」
顎に手を当てて言ったレミリアの言葉に霊夢が無愛想に返すと、陰陽玉は徐々に回転をし始めた。
レミリアは愉しげに笑う。
「これから君がどんな攻撃を仕掛けてくるのかも、全部分かるよ」
「はん、精々避け続けてみなさい」
「任せたまえ。これでも弾幕ごっこは得意なんだ」
高速に回転する陰陽玉から、大量の輝く霊符が出現し飛び出した。
レミリアは空気に翼を打ち付けながら身体をうねらせて次々と霊符を躱していく。
翼の羽ばたきから発生する風力は強く、かなり距離のある場所に立っていた霊夢の身動きを鈍くさせる程の物である。
霊夢は目を細めてレミリアを捕捉し続けるが、短い瞬きをした間に彼女の姿が掻き消えた事でその表情は驚愕に変わった。
「ふふ、ガラ空きだ、ぞっ!!」
「っぐ!?」
目で追う暇もなく正面に現れたレミリアが、霊夢の顔面目掛けて拳を振るう。
風を超圧縮させる程の怪力を有しているそれが直撃すれば、どうなるかは自明の理だ。
霊夢はそれを、首をずらすことで紙一重で避けた。
そしてレミリアの足の爪先を厚底のヒールで強く踏みつけ。
「接近戦が……脳筋妖怪だけの専売特許だと思うなよッ!!」
「おぉ……ぐぅ……ッ!!」
空気が震えさせる程の怒号。
繰り出された霊夢の頭突きが、レミリアの顔面へと炸裂する。
めきり、と骨の鳴る音が不気味に響き、レミリアは上体を仰け反らせた。
しかしレミリアは、倒れる前にもう片方の足で踏みとどまると、頭をもたげて目の前の巫女を睨む。
レミリアの視界に映ったのは、迫る白赤の球体。
「ッラァ!」
「がっ」
空中を浮いていた陰陽玉を握り締め、そのまま打ち込まれた霊夢の左拳が、レミリアの右頬を捉えた。
そしてそのまま拳を振り抜き、再び仰け反ったレミリアの頭、そのコメカミに続け様の肘打ちを滅り込ませた。
「……ッ!!」
「う、おおおおぉぉぉぉッ!!!!」
「ぁ゛っ……ぐ…… !!」
仰け反りながらも不敵に笑うレミリアの眉間に、霊夢渾身の右拳が打ち落とされる。
紅色のカーペットに勢い良く叩き付けられた幼女の身体は、バウンドする暇も無く追撃を喰らう。
鳩尾への、全体重の掛かった右膝の一撃。
霊夢のニードロップにレミリアの肺の中の空気は一瞬にして無くなる。
「かはっ……!!」
「……ウ、ルァッ!!!!」
そして霊夢の拳と、落ちてくる二つの陰陽玉。
併せて三つの鉄槌が、流星群の様にレミリアに降り注ぐ。
拳は鼻っ面に。
二つの陰陽玉はそれぞれ右と左、両腕の付け根に。
鼻骨がミシッと音を立て、肩からはゴキリと鈍い音が鳴り響いた。
紅色の双眸が見開かれ、凶暴なまでに鋭く生え揃った牙歯をギチギチと食い縛らせ痛みに耐える。
しかし夜の帝王は悲鳴は上げない。
その代わりに狂気を感じさせる笑顔を顔に貼り付け、口を開いた。
「く、はは……参ったな。思っていたより、やるじゃないか……」
「この程度で私とやり合おうと思ったの? 見くびられた物ね」
肩を軽く上下させながら言う霊夢に、レミリアは堪えるようにして嗤った。
「……博麗とは、斯くも強大か」
「アンタが、弱いだけよ」
「ははっ、違いない」
愉快で堪らないといった様子で嗤う。
「なぁ、巫女。もう少しだけ、付き合ってくれ」
「こっちは早く寝たいんだけど」
「ふふ、我儘な巫女だなぁ」
即答する霊夢の言葉にニィと笑って、レミリアは全身の力を一気に抜いた。
そのダラりと項垂れた身体から、色が、無くなっていく。
「……何?」
軽く目を見開かせ驚愕した様子の霊夢を傍目に、レミリアの身体は服を残して灰色一色になり、はらはらと散っていく。
静寂が空間を支配する。
◆
場所は変わって、紅魔館の門前。
うーん、とチルノが顎を撫でた。
チルノは妖精ではあるが、その中でも力はほぼ最上位に位置する。
従って、知能もそこらの妖精とは一線を画したものであり、人間のそれと殆ど変わりは無い。
「あの鎖は、どうにかしないとダメそうね……」
先程「一回休み」にされた、紫色の魔法使いの魔法。
追尾性のある鎖は、一度締めつけられると抜け出すのは殆ど不可能に近いだろう。
チルノは考える。
あの大いなる魔女から魔理沙を救うには、どうすれば良いか。
「チルノちゃん? どうしたの?」
「ん、いや、ちょっとね」
ひょこりとチルノの顔を覗き込む緑色の髪をした妖精、チルノに大ちゃんと呼ばれていた彼女は、不思議そうに首を傾げる。
普段見ていた氷の妖精と、今目の前で物思いに耽っている彼女では、雰囲気が大分違ったからだ。
「ね、ね、あの甘い匂いってこのお家の何処で付いたの?」
「……何処だったかなぁ」
煮詰まっていた頭を少し冷やそうと、大ちゃんから振られた話題に思考を移すチルノ。
甘い匂いは確か、あの図書室で嗅いだ筈だ。
「この屋敷の中に本が沢山あるところがあって、多分そこで匂ったかな」
「じゃあそこに行こう! 案内してチルノちゃん!」
「え〜、ちょっと待って……って大ちゃん!?」
まだ対処策を思いついていないにも関わらず、大ちゃんは一足先に門を文字通り飛び越えて行ってしまった。
慌てたチルノがその後を追い、門の前は静寂に包まれた。
◆
姿を消してしまったレミリアに戸惑いながら、霊夢は周囲を見渡す。
居ない。
何処にも姿が見えない。
「……せこい技を使うわね」
軽く舌打ちをしながら、どうにか気配を探る。
気配は、感じるのだ。
それも1箇所だけでは無く数箇所に。
しかしどういう事か、それらの気配から発せられる妖力は酷く小さな物であった。
凡そ先程まで戦っていた大妖怪のソレとは全く異なる物。
けれども気配の質は、どれも同じ。
つまり。
「……これは、分裂?」
「ご明察」
「ッ!」
霊夢の耳元で、レミリアが笑いを呑み込む様にして囁く。
身体を前方へ跳ねさせ、振り向く。
先程まで自分が居た場所にはレミリアが居た。
しかし、姿は今までのままでも妖力は小さいままだ。
酷く弱々しい気配、妖力。
レミリアは言葉を紡ぐ。
「紅い悪魔。夜の帝王。かつて万物が私をそう呼んだ」
「へー。今は見る影も無いようだけど?」
「ふふ、手厳しいな。君は」
鈍く、不気味な眼光が、霊夢の双眸を貫く。
一瞬、ほんの一瞬だけ、霊夢の体が震えた。
「その由縁を、今から見せようじゃあないか」
玉座の後ろにあった、天井に届かんばりに巨大な大窓がガシャンと崩壊した。
大窓を背にしていた霊夢は、音だけでそれを確認すると、手に持ったお祓い棒を僅かに握り締める。
「昼が人間達の世界、陽の世界だとしたら。夜とは、即ち陰の世界。妖怪が跋扈する魑魅魍魎の世界」
折り畳んでいた背の翼を、大きく開かせる。
蝙蝠のものに良く似たそれは、レミリアの小さな身体を何倍にも大きく見せた。
同時に、ポツリ、ポツリと、室内の所々にあった朧気な気配達が具現化していく。
「私達ヴァンパイアという種族は、陽を浴びると身体が溶けて無くなってしまう。雨の日であると、例え夜であっても出歩けない。十字架を見せられると激しい頭痛に襲われ、大蒜の匂いを嗅ぐだけで意識がもうろうとする。それだから、大きな弱点を持った妖怪として他の妖怪や人間共には嘲られてきた」
蝙蝠が、部屋の中に点々と出現する。
天井やあらゆる家具に逆さになって吊り下がっていく蝙蝠達は、みるみる内に部屋の中を埋め尽くし。
やがて霊夢の視界の全てが真っ黒に染まってしまった。
その中で唯一見えるのは、怪しい輝きを放つ二つの紅の眼。
「だが、私達と一度でも対峙した人間は、二度と私達を侮る様な口を聞かなくなる。何故だと思う?」
「……さあね」
暗闇の向こうから聞こえたレミリアの問いに、霊夢の額に冷や汗がたらりと垂れた。
レミリアが、背中に背負った翼を大きく羽ばたかせる。
それに呼応して、部屋を埋め尽くしていた蝙蝠達が一斉に覚醒する。
何千、何万とも感じられる無数の紅い瞳が、霊夢を見る。
まるで、全身を無数の針で串刺しにされているような感覚だった。
そして、夜の帝王は言葉は紡がれる。
「口を開く事が出来なくなるからさ。永遠にね」
轟音にも近い風圧の嵐が鼓膜を強く叩く。
顔を顰めさせ、堪らず一歩後退した霊夢に、レミリアは一際力強く翼を羽ばたかせ、身体を宙へと運んだ。
「まぁ、実際の所、君をどうこうしようとは思っていない。安心してくれ」
そういうと、レミリアは一瞬で霊夢の目の前へと移動し、その身体を正面から乱暴に抱き締めた。
「なっ!?」
「ふふっ、改めて、楽しい夜にしようじゃないか」
全ての蝙蝠が羽ばたく。
それは嵐に見舞われた川の濁流の様にうねりを上げ、レミリアと霊夢を呑み込んだ。
蝙蝠の奔流はそのまま崩れた窓枠の向こう側へと飛び出し、そして二人を宙へ放り出す。
依然として霊夢はレミリアの腕の中に抱かれていた。
拘束を解こうと藻掻く霊夢の視界に、紅い月が顔を覗かせる。
その時霊夢は、その呆れるほど巨大でまるで血のように真っ赤な瞳に、自分が睨みつけられている様な錯覚を憶えた。
「ふぅ……やっぱり月の紅い夜は心地好い。君もそう思うだろう?」
「……趣味、悪いわね……ッ!」
レミリアの胸に抱かれた霊夢は苦悶な表情を浮かべながらも紅い瞳を睨みつける。
「この美しさが分からないなんて、勿体無い」
「生憎私は、ナチュラリストなの……よッ!!」
「おおっと」
渾身の力を込めた霊夢の頭突きを、レミリアは身体を仰け反らせることで躱した。
その隙を突いて霊夢はレミリアの拘束から無理矢理逃げる。
「自然が好きなら月も好きだろう?」
「そのままの月ならね。妖怪の手が加わった月なんて、見るに堪えないわ」
「ふーむ……そういうものか」
吐き捨てるように言った霊夢に、レミリアは不満そうな表情を浮かべながら顎を触った。
「まぁ、人の感性はそれぞれだものな。仕方ないか」
「アンタが、狂ってるだけよ」
眉を寄せながら言った霊夢の言葉にレミリアがふふと淑女的に笑う。
「狂ってる……か。確かに、そうかもしれないな」
一瞬、何かに想いを馳せる様に優しげな表情をしたレミリアだったが、その顔は直ぐに挑発的な笑みに変わる。
「しかし君もまた人間としては狂ってると思うがね。狂ったもの同士仲良くしようじゃあないか」
「嫌に決まってんでしょう……がッ!!」
「おっと」
霊夢の両肩付近に浮遊している陰陽玉が先程の様に回転し始めると、その中から飛び出した赤白い光のつぶてがレミリアへと殺到する。
それを羽を羽ばたかせる事で危なげなく回避したレミリアは、ニヤリと笑って右の掌を霊夢の方へ突き出し、楽しげな声色をあげた。
「ははは、よし! 第2ラウンド開始といこうか!!」
「……っとに、面倒な奴ね」
禍々しい赤黒いオーラがレミリアの突き出した掌へと収束し、徐々に形を成していく。
そして出来上がったのは、長い槍の様なもの。
その赤黒い槍を片手で回し、そしてまた掴む。
「……あまり出来は良くないが、まぁ良いか」
「何余裕ぶってんの、よ!!」
己の手の中にある槍を見ながら不満げな顔をするレミリアに、霊夢が2つの陰陽玉と共に距離を詰め、両手の指の間に挟んでいた計6本の針を投擲する。
それをレミリアは一薙ぎする事で打ち払い、接近してきた霊夢の顔面を左手で鷲掴みにした。
「ぐ、ぁ……っ!」
「余裕ぶってなどいないさ。これでも実戦は本当に久しぶりでね。大分、心臓が唸っている」
顔を掴む手を剥がそうと暴れる霊夢だが、レミリアの左手はビクともしない。
いつの間にか、レミリアの左手はその幼子の姿から逸した凶暴なものへと変異していた。
正しく紅の悪魔の様な、紅く、枯れ木のような腕。
「さて、博麗の巫女。君は人間としてはとてつもなく強いな。君を越える人間は居ないと言っても過言じゃあないだろう」
紅の眼を三日月の様に弓形に歪ませる。
「しかし、大妖怪とサシで渡り合えるかと言ったら、少し難しい所だな」
「は、な……せぇ!!」
レミリアの異形の手を引き剥がそうと爪を立て、針で刺しまくるが、全く意味を成してない。
寧ろ一層笑みを深めるレミリアに、霊夢は本格的な焦りを感じ始めていた。
「そう言えば、君には博麗の巫女の座を競った好敵手がいるらしいな。名前は確か八十禍津水蛭子、だったね」
「っ! アンタ達、どうして水蛭子を巻き込んだのよ……!」
先程再開した幼なじみの名を口にしたレミリアに、霊夢が問う。
レミリアは一切考える事無く、簡潔に返した。
「運命が見えたからだ。君と彼女が幻想郷を変える運命がな」
「私と水蛭子が幻想郷を……?」
「最も、私が巻き込まなくても彼女は君と共にこの異変を止めに来たさ」
「だから、わざわざあの子を巻き込んだ理由を教えなさいよ」
指の隙間から睨む霊夢に、今度は少し考える。
それから異形の手の拘束を緩め、霊夢を軽く投げ飛ばした。
「……あまり言いたくないので今度で良いか?」
「はぁ?」
「こう見えても立派な乙女でね。言うのが恥ずかしい事の一つや二つあるよ」
「どの口が言ってんのよこの化け物」
はにかむレミリアに霊夢は痛む顔面を抑えながらも呆れた顔をした。
「この話は一度終わろう。君は私を倒しに来たのだろう?」
「……正直ちょっとやる気が削がれたけど、アンタとだべっててもこの悪趣味な雲は消えないだろうしね」
「ふふ、ホントに君とは趣味が合わないな」
「だからアンタがズレてるんだって」
レミリアが槍を構え直し、霊夢は符の束を懐から取り出した。
接近戦では少し分が悪いと考えた霊夢が、符を投擲して自身の周囲に結界を張り巡らせる。
円状のそれは中の霊夢が移動すると同時に動き、外を衛星の様に周回している陰陽玉も同じように追尾する。
そして陰陽玉から発射された弾幕が遠距離のレミリアを攻撃し始めた。
「む、結構姑息な手を」
宙を踊り舞う様に弾丸の嵐を躱していくレミリアが、意外そうに呟いた。
「アンタと真正面からやり合ってたら命が何個あっても足りなそうだからね」
「嬉しい事を言ってくれるが、君の専売特許は近接戦闘ではなかったのか?」
霊夢が「え?」と声を洩らした。
「遠距離戦はもっと得意だって言うの忘れてたっけ?」
「……それは、聞いてないぞ」
神妙な顔をするレミリアに、霊夢がニヤリと笑う。
博麗の巫女は、まだ本領を発揮していない。
◆
「うわぁぁぁ!?」
「何よ、まるで化け物を見るかの様な反応して」
「化け物だろうが!!」
目を覚ました魔理沙の視界に飛び込んできたのは、紫色の悪魔パチュリーが優雅にティーカップを傾けている姿だった。
突然の大声にパチュリーは不服そうな顔で返すが、魔理沙に即答され少し笑ってしまう。
寝起き早々腰を抜かすというレアな体験をした魔理沙が周囲を見渡す。
どうやら場所は変わらず図書館らしい。
「おはよう魔理沙。何か飲む? 紅茶とココアがあるわよ。水蛭子ちゃん的にオススメなのはココアかな」
「いやいやいや……さっきまで殺しあってた奴と良く茶が飲めるな……!」
「まぁまぁ細かい事は気にしない気にしない」
「全く細かくねぇよ!!」
超のんきな事を言っている水蛭子に噛み付く魔理沙を、今度はパチュリーが「落ち着きなさい」と諭す。
「昨日の敵は今日の友というじゃない」
「許容出来る範囲を超えてんだよお前は! 何だそのドヤ顔腹立つな!!」
「カルシウム不足みたいね……えーと、確か向こうに魔法素材用に取っておいた妖怪の骨が……」
「取りに行かんでいい取りに行かんでいい! 骨は食べないんだよ人間は!!」
座っていた椅子から立ち上がろうとしたパチュリーを止めてから、魔理沙は盛大にため息を吐く。
今日負った精神的ダメージが限界突破しそうで頭がズキズキと痛み出した。
そんな魔理沙の苦悩を知ってか知らずか、いい笑顔の水蛭子がココアの入ったマグカップを差し出す。
カップからは湯気が立ち上っており、入れたてだということが見て取れた。
魔理沙は一瞬躊躇したが、甘い物を摂取しないとストレスでハゲ出しそうだなとマグカップを受け取り、一口飲んだ。
「……めっちゃ美味い」
「落ち着く味だよね〜」
「お前はちょっとリラックスし過ぎな気がするけどな」
魔理沙のジト目での指摘に水蛭子は「そうかな?」と不思議そうな顔で疑問符を浮かべた。
「和んでるところ悪いんだけど」
開いていた本をパタンと閉じたパチュリーが、間に入るように二人に話し掛ける。
「霊夢とレミリアが闘い始めたみたい。手助けに行かなくて良いのかしら?」
「あ、そうですね……! 魔理沙も起きたし……私、行ってきます!」
パチュリーの言葉に頷き、近くの本棚に立てかけてあった長棍を手に持ち浮遊した水蛭子が、「魔理沙はゆっくり休んでて!」と言って早々と飛んでいってしまった。
闇に消えていく水蛭子を眺めながら、パチュリーが問いかける。
「貴女はどうするの?」
「……私が行っても、どうせ足でまといになるだろうな」
「あら、そう」
俯いた魔理沙につまらなさそうに言うと、パチュリーは閉じていた本を開いて再び読み始める。
「所詮はただの人間ね」
「ああ、そうだよ。だけどな」
素直な肯定が返ってきた事を意外に思い、パチュリーが立ち尽くす魔理沙の方を見る。
魔法を使う程度の力を持った少女は、俯かせていた顔を上げ挑発的に笑い、そして吐き捨てる様に言った。
「お前と同じ部屋に居るくらいなら、アイツらの手助けに行った方が数倍マシだぜ!」
「……」
固まったパチュリーに対して『アッカンベー』をした魔理沙が、自身の箒を握り締めて走り出す。
浮遊を始めた箒に跳躍して跨り、先程の水蛭子よりもずっと速い速度ですっ飛んで行くと、魔理沙の姿は一瞬で見えなくなってしまった。
「……なるほど、ただの人間も少しは面白いじゃない」
パチュリーは図書館を支配する闇を見ながら、自身が気付かないうちに浮かべていた深い笑みに気付いて、更に微笑む。
魔理沙の飛行速度は、パチュリーがかつて見た先代の博麗の巫女をも越えていた。
二年ぶりの更新です。
当時読んでいてくれた方々はもうここには居ないかもしれませんが、続きを細々と書いていこうと思います。
私自身、水蛭子と霊夢の物語を見届けたいから。
新たに読んでくれた方や、もし仮に再びこの物語のページを開いてくれた方が居たのなら。
本当に本当にありがとうございます。
どうか私と一緒に、少女達の物語を見守ってくださると嬉しいです。
よろしくお願いします。
追記, 名前変えました。