ドラゴンクエスト 天空物語・続 カデシュの帰還   作:山屋

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一応、最終エピソードになる物語です。
道中のゲマ戦やミルドラース戦はまた書きます。


第X話:旅の終わりの話

 大魔王ミルドラースは倒れた。

 野心が暴走した人間。自らを神にするために失われた技術・進化の秘法を自らに適用し、人間を凌駕した存在に進化しようとするも、野心と邪悪さから神・マスタードラゴンの手によって魔界に封印され魔物と化してしまったミルドラースと呼ばれることになる人間。魔界の奥底で力を蓄え、王の中の王、神をも凌駕したと自らを称する大魔王・ミルドラース。その存在は天空の勇者たちによって討伐された。

 天空の勇者テンとその父親・アベル。テンの妹・ソラ。テンの母・ビアンカ。アベルの従者サンチョ。アベルが仲間にしたゲレゲレを始めとする魔物たち。そして、何より最大の功労者とも言える協力者、カデシュ・レアルド・ストロス3世。カデシュと勇者テンとその妹、ソラに呼ばれ慕われる魔物の侵攻で滅ぼされたストロス王国の王子。

 魔法使い・カデシュ。その力も大きな助けとなり、天空の勇者は大魔王を討伐した。

 天空の勇者主体ではなく、その父親・アベルが主体であるという天空神マスタードラゴンの読み違いはあるものの、天空の勇者によって大魔王が倒された事実には何も変わりはない。

 天空の武具に身を纏う天空の勇者・テンと、王者のマント、光の盾、太陽の冠、ドラゴンの杖という天空の武具をも上回る伝説の装備品に身を纏ったグランバニア王・勇者の父親、アベル。この二人を二大戦力として天空の勇者、いや天空の勇者の父親一行は大魔王ミルドラースを討伐した。

「よくやった天空の勇者、テンとその父親アベルよ」

 天空城謁見の前、巨大な玉座に堂々と腰掛けるマスタ=ドラゴン。傲岸な口調で言い放った。

「お主たちのおかげで世界の闇は払われた。これより世界は平和になっていくことだろう。重ね重ね言うが、本当によくやった」

 意図すらせずに出ているであろう威圧的な声を聞き、テンとソラはプサンさんの時は親しみやすい人なのに、と子供っぽく思った。アベルは何も言わずこうべを垂れてマスタードラゴンの称賛を受け取った。カデシュもそれに倣う。ビアンカとサンチョは一歩引いたところで膝を折っている。

「それでは表に出るが良い。平和になった世界を共に見て回ろう」

 不意を突かれてアベルはキョトンとした顔になってしまう。人の好いアベルはこの傲岸な神に対してもそこまで悪印象を抱いていいなかった。カデシュとサンチョはそのマスタードラゴンの上の立場から全てを見下す態度を嫌っているし、ビアンカも苦手に思っているものの。

「分かりました。マスタードラゴン様。みんな、行こう」

 アベルは一礼した後、立ち上がって仲間たちを、家族たちを振り返る。テンが真っ先に頷き、次いでソラとビアンカ。サンチョが最後に頷いて、カデシュだけは頷きを返さなかった。

「カデシュ・レアルド・ストロス」

 そこにマスタードラゴンが名を唱える。

「お主も本当によくやった。お主は本来ならここにいるべきではないのだがな」

「それくらいは承知している、マスタードラゴン様。……私の役目ももう終わりなのだな」

「その通りだ」

 カデシュは仲間たちが理解出来ないことを言い放った。当然だ、と言わんばかりにマスタードラゴンも肯定する。

 テンが目をぱくくりとさせた。いきなりなんだろう、とソラとビアンカも不思議そうにカデシュを見る。

「みんな。聞いてくれ」

 アベルとサンチョもカデシュに視線を注いだ時、カデシュが重々しく口を開いた。真剣な瞳は大魔王を倒して浮かれる勇者パーティーには似合わない。何かとんでもないことを言おうとしているのだと、テンは本能的に察した。伝説の勇者の本能だ。アベルがその次に理解していた。ソラは理解したくなかった。「カデシュ……」と声を漏らしてしまったのはそのソラだ。この流れには覚えがある。あの時だ。

 テンとソラが父親と再会する直前。ストロスの杖を手に入れた時。――――すなわち、カデシュが、いなくなってしまった時だ。

 あの時もカデシュの最後の言葉をテンとソラはこんな気分で聞いていた。テンは気丈に、救いのない現実を受け入れる勇者の度量で、ソラはそれを認められない単なる女の子の脆弱さで、カデシュの告白を聞いていたのだ。

「私は――――生者ではない」

 いきなりの言葉に全員が言葉を失った。テンも、アベルもだ。マスタードラゴンお付きの天空人の兵士たちも何も言えなくなってしまった。マスタードラゴンだけが動揺することなく先を促している。

「ど、どういうこと!? カデシュ!」

「何を言っているの、カデシュ!」

 テンとソラが動揺に揺れて詰め寄るも、カデシュは静かに笑う。少しだけ強い風が吹けば飛んでいってしまいそうな薄幸さはテンとソラが父親を探していた時となんら変わることはない。

「幽霊なのだ。私は。私はヤグナーとの戦いの後、死んだ。お前たちを助けたいという強い思いが私を亡霊としてお前たちの前に現した。マスタードラゴン様は知っていたようだがな」

 淡々と述べられる衝撃の言葉は大魔王を倒した嬉しさをなくすのに十分なものだった。テンもソラも何も言えずに聞くしかない。

「私はここまでのようだ。私の役目は終わった」

 そう言い、マグマの杖をアベルに差し出す。アベルは不意を突かれて、これは、と返すのが精いっぱいだった。

「貴方が私を見込んで託してくれた杖だ。ありがとう、グランバニア王。私のようなどこの馬の骨とも知れぬ者を信用してくれて」

 マグマの杖を差し出し続けるカデシュの手からアベルは受け取ることが出来なかった。これを受け取ったら目の前の息子と娘が兄のように慕う魔法使いが消えてしまう。その直感と確信があったからだ。

「勇者の父親よ」

 しかし、マスタードラゴンに促されて、アベルはマグマの杖を受け取った。直後、カデシュの身体がうっすらと半透明に透けてしまった。

 幽霊、あるいは亡霊だったのだろう。

 カデシュ! とテンとソラは声を荒げるが、カデシュは薄く笑った。優しい笑みだった。

「心配するな。まだ消えはしない。ドリスに伝えたいこともあるしな」

 その言葉に嘘はないようだったが、遠からず消える。それは確かだった。

 天空の勇者家族の様子を見守っていたマスタードラゴンが声を発する。

「では行こう。世界中を巡ろう。カデシュ・レアルと・ストロスはグランバニアまで送り届ける。故郷のストロスではなく、グランバニアに骨を埋めたいそうだ」

 アベルが真っ先に頷き、サンチョが続く。ビアンカも遅れて頷き、現実を受け入れることが出来ないテンとソラが唖然としていた。

 

 これがカデシュ・レアルド・ストロスの物語。

 テンとソラ。自分を慕ってくれるふたりのやさしい子を助けるために幽霊となってまでグランバニア王家のために、世界平和のために奮闘したとある小さな王国の王子様の物語。

 幽霊の身でこの世にいたカデシュはグランバニアの宴でドリスとダンスを踊りながら、消えることになった。

 あの世での再会を祈って。

 そうして、カデシュは満ち足りた顔のまま天国に辿り着くのだった。

 ドリスは絶対に浮気をすることなく貞操を貫き、カデシュとの再会を少し退屈に、少しさびしく、少し楽しみに待つのだった。

 

 

 了


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