比企谷君と虜の魔女   作:LY

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第九話

高1

 

 

「それでは、今日は比企谷に魔女の能力を実際に見てもらおうと思う」

 

「確かに、これから魔女探しを手伝ってもらうのだから見ていた方がいいね」

 

 

あれからなんやかんやで結局入部させられた比企谷八幡16歳です。

 

どうやら俺が入部してから第一回目となる部活動は魔女の能力体験らしい。

 

 

…だから魔女ってなんだよ。

 

 

「勧誘の時も魔女がどうとかって言ってましたけど、魔女ってどういうことですか?」

 

「ふむ、まだ説明していなかったな。何から話したらよいものか」

 

 

相変わらずむちゃくちゃな人だ、こう言う所は少し小田切に似ている。

 

 

「魔女の事は聞くよりも見てみる方が早いと思うよ。僕も実際に見てみるまでは信じられなかったしね」

 

 

山崎先輩の口調や態度を見てもからかっているようには見えないし、魔女は本当に存在しているのか?

 

そもそもどんなことができるのか?

 

 

「そうだな、それではさっそく行くか!」

 

 

ほら行くぞっと腕を引っ張って前を歩く宮村先輩はやけにご機嫌に見える。

 

 

「レオナ君は後輩ができて本当に喜んでいるんだよ」

 

 

耳打ちでこそっと山崎先輩が教えてくれた。

 

だからこんなに上機嫌なのか、意外とかわいい面も持っていますね。

 

 

 

 

 

 

 

 

移動している時に最低限の情報は教えてもらうことにした。

 

朱雀高校には7人の魔女が存在していて、それぞれが持っている能力は別のもので一人につき一つの能力を持っている。

 

超研部では今のところ2人までは魔女が誰だか分かっているらしい。

 

詳しくは“朱雀高校の七不思議について”と言う昔の超研部の人達が作ったノートに書いてあるとか。

 

 

そこまで聞くと宮村先輩の足は止まった。

 

どうやら到着したらしい。

 

 

「いいか比企谷、あそこにいる人が魔女だ」

 

 

指を指す方向を見てみると、二年生らしき女子生徒がいた。

 

黒髪ロングの美人。

 

結構朱雀高校って女子のレベル高いよな。

 

 

「僕が聞いてくるよ、彼女とは知り合いだしね」

 

 

そう言って山崎先輩が魔女らしい人に話しかけに行く。

 

 

「比企谷は目以外の顔のパーツいいから協力してくれるさ」

 

「目の事は言わないでください、あと顔は関係ないでしょう?」

 

「いや、そうでもないさ。」

 

 

ふふふっと笑う宮村先輩、俺は何をさせられるのだ。

 

 

 

そんなことを考えていると山崎先輩が魔女さんを連れてきた。

 

近くで見るとマジ美人。

 

 

「協力してくれるってさ、よかったね比企谷君」

 

「初めまして比企谷さん、飛鳥美琴です」

 

「…ども」

 

 

そっけないと思われるかもしれないが、俺に自己紹介を求めるなんて間違っている。

 

それにいきなり紹介されても何言ったらいいかわからないよね。

 

そして近くで見るとマジ美人。

 

 

「ごめんね飛鳥君、こんなことお願いして」

 

「いいえ、別にいいですよ。

それにしても、比企谷さんはいい目をしていますね」

 

 

クスクスと笑っておられるが、それは皮肉ですかね?

 

 

「まあグダグダしていたら埒があかない、一思いにやってくれないか?」

 

「はい」

 

 

宮村先輩から物騒なことが聞こえた気がするけど大丈夫?死なないよね?

 

俺は何をされるのん?

 

 

「では、失礼します」

 

「は?」

 

 

気が付いたらすっと両肩に手を置かれて

 

 

キスされていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・

・・

 

 

高2

 

 

猿島マリアと遭遇してから早一時間、今は猿島家にお邪魔している。

 

この一時間で何があったかと言うと

 

山田が猿島にこき使われただけだ。宮村と俺は何もしていない。

 

洗濯に風呂掃除、部屋の模様替えまですべて山田がやってくれた。

 

山田君はヤンキーみたいだけどいい人だね。

 

 

「もういいだろ猿島!俺たちはお前に話がある」

 

 

疲労のためぜえぜえ言いながら山田が話を切り出す。

 

 

「いいわよ、でもその前に‘彼’と話したいから二人っきりにしてもらってもいい?」

 

 

そう言うと猿島は俺の方を向いた。

 

 

「…分かった。ただし終わったらちゃんと山田の話を聞いてくれよ」

 

 

宮村はそう言って山田を連れて部屋を出て行った。

 

 

 

 

「それで、俺の要件を言ってもいいか?」

 

 

長い時間をかけてやっと猿島と会話ができる。

 

さすがにそろそろ帰りたい。

 

 

「いいけど、どうせ学校に来てくれとかでしょ?」

 

「まぁそうだな」

 

「…ごめんね、ちゃんと理由があっていけないの」

 

 

まぁ生徒会で手に負えない相手がすんなり来てくれるとは思っていなかったけどな。

 

 

「分かった、じゃあお前は俺に話したいことがあるのか?」

 

 

わざわざ山田たちを追い出したのだから何かあるのだろう。

 

 

「…すごく変な話をするけど、あなたが視えたの」

 

「えっと、…視えたっていうのはどういう意味だ?」

 

「ヒッキーは私が未来を視ることができるって言ったら信じる?」

 

「俺をヒッキーっていうのが流行ってるのか?

と言うか俺の名前教えてないはずなんだが…」

 

「そうなんだけど、未来の私は君の事をヒッキーって呼んでいたわ」

 

 

…ふむ、未来が視えるか。そんな能力を持った魔女もいたかもな。

 

 

「それと今話すことと何の関係があるんだ?」

 

 

俺の簡単だと思われる質問に対して彼女は何の脈絡もなく言う。

 

 

「君は私を助けてくれる」

 

 

話が飛び過ぎて何を言っているか理解できないが、その表情は真剣なものだった。

 

 

「それは今お前が抱えている問題を俺が解決するってことか?」

 

「さぁ、それはわからないわ。ただ私があなたに感謝している所が視えたの」

 

 

感謝されるか

 

未来の俺は財布でも拾ってあげたのかな?

 

 

「だから、少しヒッキーと話してみたかったの」

 

 

ニコッと笑う彼女。

 

しかしその笑顔はどこか元気がなく、無理をしているようにも見えた。

 

 

「…別に無理して笑わなくてもいいんだぞ」

 

「……。

 

やっぱり…、無理してるように見えちゃう?」

 

 

ついつい言ってしまったが猿島も自覚があったようだ。

 

 

「本当はもっといっぱい笑いたいけど、やっぱりそんな気持ちにはなれなくて…」

 

 

こうして彼女は俺に語り始めた。

 

 

「…私ね、自分のおそろしい未来を視てしまったの」

 

 

 

 

 

 

猿島の話はこうだ。

 

猿島は一年の頃、朱雀高校に転校してきて予知の能力を宿した。

最初はその力もあり学園生活を楽しんでいたが

ある日、学校の旧校舎が目の前で燃えている未来を視た。

そしてそこにはなぜか山田が一緒にいて、後に猿島と山田は火事の犯人にされていたと。

 

 

 

「だけど一番つらかったのは仲のいい友達が誰一人私の事を信じてくれなかったことよ」

 

「それで、疑われたくないから学校に行くのをやめたのか」

 

「ええ、そんな感じ」

 

 

旧校舎で火事か。そんなのどうやったら起きるんだ?

 

 

「でもやっぱり何をしたって無駄みたい。現に今まで他人だった山田と接点を持っちゃたし、たぶん一度見た未来は簡単には変えられないみたい…」

 

 

彼女は語っているうちにだんだん表情が暗くなり、少しうつむいていた。

 

そんな落ち込む猿島を見ていると俺の頭にはあの人の顔がよぎる。

 

俺があの時からずっと救えずにいる先輩の顔が

 

「ねぇヒッキー、…私はどうしたらいいのかな?」

 

 

…俺はこの問いに対し、何を答えたらいいのか分からない。

 

 

“あの時何もできなかったお前に何が変えれるのか?”

 

 

こんな風に頭の中で誰かがささやく

 

 

「……悪い、俺じゃあ何も変えれない」

 

「うん、…そうだよね。

ごめんね、嫌な事ばっかり聞かせちゃって」

 

 

でも

 

 

「でもな、猿島。

お前の事を助けてくれる奴は必ずいる」

 

「え?」

 

「朱雀高校には猿島みたいな子を助けるのが大好きな山田がいるからな」

 

「私みたいな子ってどういう意味?」

 

「それは山田に聞いたら分かる。だから安心して相談しろ」

 

 

猿島はキョトンとし、少したってから笑い出した。

 

 

「ウフフ、ヒッキーありがと、励ましてくれて」

 

 

どうやら俺の言ったことを冗談だと思っているらしい。

 

 

「言っとくが冗談じゃないからな。これは生徒会長からのお墨付きだぞ」

 

「そう、それじゃあヒッキーは私の言ったこと信じてくれる?

今日私が言ったとても信じられないことを全部?」

 

 

彼女の目はまっすぐ俺を見ているが、何かにおびえている。

きっと猿島マリアは未来を視てから怖いのだ。誰にも信用されないことが。

 

 

だからあの時も今も、何も救うことができない俺ができるのはこれくらいだ。

 

 

「あぁ、全部信じてるぞ」

 

 

そう言うと、彼女は笑顔でこう言った。

 

 

「じゃあ私も、

 

私もヒッキーの事信じてみるね」

 

 

今度は本当の笑顔で。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

夏休み明け 朱雀高校中庭にて

 

 

 

未来が見えたらどんな気持ちになるのだろう?

 

サイドエフェクトとかジ・オールマイティとかで未来が見えるようになったら自分の人生を好きな方へ持っていけるかもしれない。

 

しかし見た未来を変えることができなかったら、そして見た未来が最悪ならばどうすればいいのだろうか?

 

その答えを彼女は見つけることができたのだろうか?

 

 

 

 

中庭の木陰にあるベンチに座り、目を閉じながらこんなことを考えていた。

 

 

 

しかしスタスタっと誰かの足音が近づいてき、俺の後ろで止まったのでそこで思考を止めた。

 

 

「…ねぇヒッキー」

 

「ん?」

 

 

さっきの答えを俺が知るのは

 

 

「やっぱり君を信じて良かった」

 

 

 

もう少し先の未来の話だ。

 

 

 

 

 

 






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