比企谷君と虜の魔女   作:LY

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第三十四話

高2

 

停学三日目

 

 

 

 

 

 

たぶん今日ですべてが終わる。

 

 

 

そんな気がした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

コンコン

 

 

 

「…どうぞ」

 

 

「失礼します」

 

 

何度も聞いた声に、何度も開けたドア。

 

 

 

俺はまた、生徒会室に来た。

 

 

「これはこれは、比企谷君じゃないか。

停学中なのに堂々と僕の前に来るなんてね」

 

「ええ、少し話をしに来ました」

 

 

 

これが俺の最後の仕事。

 

 

 

 

 

「今日、儀式を開きます」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

超研部 部室にて

 

 

私たちは、超研部の部室にある大きな段ボールの中に隠れている。

 

 

 

「うららちゃん、ちょっとトイレ行ってくるね」

 

「うん……」

 

 

 

伊藤雅が出て行った。

 

 

仕掛けるなら今!

 

行くわよ、玉木……。

 

 

 

 

段ボール箱から勢いよく飛び出し声をあげる。

 

 

「覚悟しなさい飛鳥美琴!」

 

「大人しく僕たちに捕まってもらおうか!」

 

「あら?」

 

 

 

さぁ、超S級モンスター飛鳥美琴の捕獲作戦の開始よ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

同時刻 飛鳥家前

 

 

 

「…っとまぁそんな感じで昨日姉貴がお前について行けって言われたけどさぁ。

何かあいつおかしいんだぜ。今日突然学校に行きだしてな」

 

「…そうか、まぁとりあえず行くぜ。

白石が待ってる」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

生徒会室にて

 

 

「…儀式を開く、か。

それが本当だとしたら僕に言うべきじゃないと思うけどね。」

 

「いえ、どうせ気づいているでしょう?」

 

「さあね…。

それよりもせっかく来たんだから少し僕の話に付き合ってくれないか?」

 

 

そう言って山崎先輩は自分の事を語りだす。

 

 

 

生徒会長になった彼と初めて会話したのも、この場所だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

二年の初め頃、俺は生徒会に呼び出された。

 

 

「失礼します」

 

「やぁ、呼び出して悪いね」

 

 

初めて入った生徒会室に少し緊張しつつ、辺りに目をやると生徒会室には俺のほかに三人いた。

 

 

山崎先輩、飛鳥先輩、それに玉木。

 

 

今思えば、玉木と初めて会ったのもこの時だ。

 

 

 

「さて、玉木君に比企谷君。

君達を呼び出したのには理由があってね。

 

……君たちは“魔女”を知っているかい?」

 

 

それから山崎先輩は少し魔女の事を俺たちに話した。

 

 

「それでここにいる飛鳥君は、その“魔女”なんだよ」

 

 

おぉ、と玉木は驚嘆していたが、俺は知っているのでほとんど何の驚きもなかった。

 

 

「そこで君たちのどちらかに頼みがある。

飛鳥君の能力を奪ってほしいんだ」

 

「……」

 

 

記憶を消された山崎先輩が俺の能力について知っているので、もしかしたら覚えているんじゃないかと、一瞬だけ淡い期待を持ったが、山崎先輩の様子を見ているとやはりそのような感じではなかった。

 

今思えば、前会長に俺の事を知られていただけでそれ以外の事はほとんど何も知らなかったのだろう。

 

 

「俺は遠慮しておきます」

 

 

それだけ言うと、俺は生徒会室を出た。

山崎先輩が部屋を出る前にもう少し話を聞かないか?と言ったが何も返事をしなかったと思う。

 

 

 

これが俺と生徒会が初めて関わった日。

 

 

 

 

まぁそれ以降、魔女のことで呼び出されたり、同じ能力を持っていると知った玉木が付きまとったりしてきたが、悪くない生活だったかもしれない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「生徒会長になりメンバーと仕事をしたり、君を呼び出して魔女の事を相談したりして、この一年は大変だったけど楽しかったよ」

 

「…そうですか」

 

「でもね、前にも言ったけど、どうしても思い出せないんだ。

 

なぜ僕が生徒会長になったのか」

 

 

俺はその答えを知っている。

だが俺がそれを伝えたところで本当にそれを信じることはできない。

 

 

「…僕にとって大切だったもの、でもどうしても思い出せずにいる中、君達は儀式を開こうとした」

 

「…やっぱり、俺達を止めますか?」

 

「……」

 

 

先輩は黙って、天井を見上げる。

 

まるで見えもしない天を仰ぐように。

 

 

「……何故だろう。

 

僕が本当はやりたい事を、…僕が本当はやらなくちゃいけない事を、

君が代わりにやってくれている様な気がする」

 

 

山崎先輩が呟いたすぐ後に、ブルッとポケットに入れていたスマホが振動した。

 

多分玉木からだろう。魔女を七人集めた合図だ。

 

 

「……そろそろ行かないと、魔女が七人集まったみたいだしね」

 

「っ!!」

 

「フフ、驚いているね。

まぁ僕も生徒会長だ、彼らをほっておくわけにはいかない」

 

「山崎先輩…」

 

「じゃあ君はそろそろ帰るんだ。停学中だしね。

先生に見つかったら大変だよ」

 

 

先輩は立ち上がり、コツコツと足音を鳴らして部屋の外に向かって歩いて行く。

 

 

「…ねぇ比企谷君」

 

 

去り際に先輩はボソッと呟く。

 

 

 

 

「ありがとう」

 

 

 

 

良く聞こえなかったが、

 

 

先輩はたぶん、そう言った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

朱雀高校 ?室にて

 

 

 

 

いつの間にか、雨が降っていた。

 

いつもは使われていない協会を模したような部屋に、私たちは集まった。

 

 

「さぁ飛鳥先輩、大人しく協力してもらいますよ」

 

 

私と玉木、それに他の魔女も加えた5人がかりでやっと捕まえた飛鳥先輩は、白石さんと体を元に戻し、今玉木が能力を返し終えたところだ。

 

ちなみに縄でしっかり縛っている。

 

 

「さぁ時間がないわ。リカが儀式のやり方知っているから!」

 

 

それから西園寺リカの指示に従い、部屋の前にある祭壇をどかすと、七角形に書かれた魔法陣のようなものがあった。

 

 

「何だよこれ!?」

 

「呪われたりしないのかい!?」

 

 

バカな男二人はこんな感じでお気楽だ。

 

早くしないと山崎に気づかれてしまうのに。

 

 

「輪になってもらうための目印みたいなものだよ」

 

 

つまりこの七角形の上に、七人の魔女が立てばいいらしい。

 

 

「それじゃあ始めるよ!」

 

「何だかワクワクするわ」

 

「ノアもこういうの好きです」

 

 

西園寺先輩の開始の合図に魔女達は盛り上がる。

 

 

「さぁ、飛鳥先輩もですよ」

 

 

さすがに縛ったままやらせるわけにはいかないので、彼女の縄をほどいた。

 

 

「……フフフ」

 

 

その瞬間、彼女が私の前から消えた。

 

 

「そう簡単に儀式を開かせるわけにはいかないわ」

 

 

声がする方を見てみると、彼女は部屋に置いてある長椅子の上に立っている。

 

 

「あの女、まだ悪あがきするつもりか!」

 

「取り押さえるのよ!」

 

 

そう言って全員で捕まえようとするが、するりとかわしてドアの方に逃げていく。

 

 

「その程度では捕まえられませんわよ」

 

 

飛鳥先輩は難なく私達全員をすり抜け、ドアの取っ手に手をかける。

 

 

 

そして最悪の事態が起こった。

 

 

 

ガチャッと音が鳴り、ドアが開く。

 

 

 

「やれやれひどいな、僕だけ仲間外れなんて」

 

「会長!」

 

 

飛鳥先輩がドアを開く前に、山崎がやって来た。

 

 

「会長、ここを早く出ましょう」

 

 

せっかく捕まえた飛鳥先輩には逃げられ、山崎も来てしまった。

 

これじゃあ儀式が……。

 

 

 

「いや、…いいんだ飛鳥君。

 

僕は儀式を見学しに来たんだよ」

 

 

「「「え?」」」

 

 

「だから儀式を続けてくれ」

 

 

今まで敵対していた山崎の信じられない言葉に、みんなが驚く。

 

 

「なぜ止めないんですか?」

 

「…一つ、分かったことがあるんだ」

 

 

山崎は部屋の前まで歩いて行き、一番前にある長椅子に腰かけた。

 

 

「僕がなぜ生徒会長を目指したのか、それはやっぱり分からないし、それを考えると胸が苦しくなる。

…でも比企谷君と話して、……昨日会った女の子を見て、思ったんだ。

 

 

記憶は消せても気持ちは消せない」

 

 

 

力のこもった、迷いのない声だった。

 

 

最後の言葉は、私に深く響いた。

 

 

 

「そうだろう?西園寺君」

 

「……うん」

 

 

西園寺先輩は山崎から目をそらし、申し訳なさそうに頷いた。

 

 

「僕も大切な事を思い出したい。

だから決めたんだ。…後は君たちに託すよ」

 

「会長がそうおっしゃるのでしたら、…仕方ありませんわね」

 

 

山崎が儀式を開くことに肯定したことで、飛鳥先輩も儀式を開こうとする。

 

決して皆が同じ気持ちではないかもしれないが、必要なものはすべてそろった。

 

 

 

 

「それじゃあ儀式を始めるわよ!」

 

 

 

私の掛け声が合図になり、七角形の印の上に七人の魔女が全員立つ。

 

 

「それじゃあ山田君は真ん中に来て」

 

「えっ!?俺も!?」

 

 

文句を言いながらも真ん中に入る山田。

 

 

「それじゃあみんな目を閉じて横の人と手をつないで」

 

 

 

西園寺先輩の指示に従い、目を閉じて手をつなぐ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ああ、これですべてが終わる。

 

 

 

そんな気がした。

 






次話、お見逃しなく!!

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