高2
朱雀高校にて
月曜日
「ちょっと山田!これはどういう事よ!」
「はぁ、説明するのめんどくせぇな」
土曜まで七人目の魔女を探していたが、今日は山田の所まで来た。
今、私たちのいる2-B教室には私以外に山田、玉木、大塚さん、猿島さんがいる。
「だから、お前らは七人目の魔女に記憶消されてたんだって」
山田の隣で玉木がうんうんと言いながら首を縦に振る。
山田達の説明によると、七人目の魔女は記憶を操作することが出来るらしく、その正体を知った人は魔女に関する記憶を消されてしまう。
しかし山田と玉木は魔女の能力が効かないので、特別処置として周りの人の記憶を消されたらしい。
「じゃあなぜ私たちの記憶は戻ったのでしょうか?」
大塚さんが控えめな声で質問する。
「それは山田君とキスしたからだと思う。最初に記憶が戻ったのはそこにいる猿島マリア、山田君がキスした翌日に記憶が戻った」
「そうね、それで山田はあなたたちにキスして回ったのよ」
「なるほど」
「それで、後分かっている事は二つ。
俺とキスして記憶が戻るのは魔女だけだ。実際宮村と潮は記憶が戻ってない。
二つ目は西園寺リカの能力は一度しか効かない。
土曜にまたあいつが来て能力を使ってきたが、猿島の記憶が消えていないからな」
その後記憶を戻すための儀式について聞いて、以上だと言って長い説明が終わった。
私はにわかに信じられない話だと思うけど、実際に昨日までは山田の事を完全に忘れていた。
今日説明されたことはとても驚くべきことで、すごく衝撃的な事だけれど、
それ以上に、私にはショックなことがあった。
「…と言う事は、私は負けたのね」
会長戦に勝ったのは宮村、私は知らず知らずのうちに負けていたのだ。
「比企谷に、…謝らないとね」
「ん?何で比企谷君に謝るんだい?」
私の独り言を聞いていた玉木が反応する。
「何でって、……あれ?
そう言えば何で比企谷が出てくるのかしら?」
その時、ズキッと頭痛がした。
“それなりに仕事の効率が良ければ、私が会長になったとき秘書にしてあげるわ”
いつだったか、そんな事を比企谷に言った気がする。
「あぁそうそう、比企谷君も手伝ってくれているよ。
彼は別行動をとるらしいけどね」
「…そう」
やっぱりあいつ、魔女と関係あったのね。
どおりで猿島さんや滝川ノアと仲がいいわけだわ。
「それで、私たちは何をするの?」
「さっき比企谷君からメールが来てね、少し頼みごとをされた」
「ふーん、メールね」
…こいつ比企谷の連絡先持っているのね。
「そう、比企谷君からメールが来たんだよ」
「二回も言わなくていいわよ」
「…それは失礼、
それで比企谷君からのメールによると…」
こいつ喧嘩売ってるのかしら?
「西園寺リカの事を調べて欲しいだって。
きっと君が生徒会の役員だから頼んだじゃないか?」
「…勝手な奴。頼むなら面と向かって頼みなさいよね」
「機嫌が悪いね」
「ええ、最近あいつの事考えると疲れるから機嫌悪いのよ」
本当に、あいつのせいで喜んだり悲しんだりよ。
「お前ら話はまとまったか?」
そう言って山田が会話に混ざる。
「俺は白石の方に行って、キスしようと思ったんだけど…」
「ん?」
山田はプリントを一枚こちらに渡してきた。
「山崎の野郎掲示板にこんなもん貼り付けやがった!!」
警告
最近、キスをせがんでくる男子生徒が校内で目撃されます。
そのような生徒に注意してください。
また、学校内でそのような行為を発見次第、厳重処分を下します。
生徒会より
「これじゃあ白石とキスできねえ!
ただでさえ伊藤や椿の目をすり抜けるのは難しいのに」
「西園寺の能力が二度目は効かないと分かって手を打ってきたね」
「まぁところかまわずキスするのもどうかと思うけど…」
「そういうわけで、お前らも白石とキスするために作戦練ってくれ」
こうして、私たちは白石アンド西園寺を担当することになった。
*
3-A教室にて
「お待ちしていましたわ、比企谷さん」
「…どうも」
いつものことながら生徒会から呼び出しがあり、今回は三年生の教室に来た。
放課後なので、飛鳥先輩以外いない。
「それで、今回は何の用ですか?
俺達は一応、敵同士なはずですが」
「そんな、敵だなんて悲しい事を言わないでください。
先に言っておきますと、今回は春馬様に頼まれたのではなく私が独断で行っている事ですよ」
「あまり信じられませんね」
この人は生徒会長の側近、前に多少話をしたからと言って油断はできない。
「むっ、この前仲良くおしゃべりしましたのに、その反応は傷つきますわ」
飛鳥先輩は少し拗ねてしまった。
この人はあまり感情を出さない人だと思っていたが、今までと違う表情を見せてくるから調子がくるってしまう。
「はぁ、それで結局用事は何ですか?」
「私が呼ばなくてもあなたは近々私の所に来るでしょう?
だって私は魔女なのだから」
「…そうですね」
俺達が七人の魔女を集めるのに最も困難な事は、生徒会側である飛鳥美琴と西園寺リカに協力してもらう事だ。
西園寺先輩に関しては山田達に任せようと思っているが、飛鳥先輩は他の人には任せられない。
この人は優秀が故、危険すぎる。
「では単刀直入に言います。俺たちに協力してくれますか?」
「…比企谷さん、物事には順序があると思います」
「はい?」
「私、さっき比企谷さんに傷つけられたままなんですけど…」
飛鳥先輩はぷいっと拗ねた子供のように振る舞う。
いつもとのギャップでとてもかわいく見えるが、とてもめんどくさい。
「…さっきはすみませんでした。以後気を付けます」
「そうですか。それでは私のささやかなお願いを聞いてもらってもいいですか?」
「お願い?」
「…私、恥ずかしながら男性とお付き合いした事がなくて…。
それで、…その、比企谷さんさえよければ私とお付き合いしてくれませんか?」
顔を赤らめチラッとこちらを見てくる。
普通の男なら100人中100人が彼女に惚れてしまうだろう。
「断ります」
だが生憎俺は普通の人ではない。
訓練されたボッチはこの程度のハニートラップには引っかからない。
と言うか全然ささやかなお願いじゃないだろ。
「…チッ、さすが比企谷さんですね。ガードが堅い」
舌打ちしやがった。
「…じゃあ写真のツーショットで妥協しますわ」
「いや、それもちょっと…」
「ではお話はここまでですね。さよなら比企谷さん」
「…クッ、分かりました。やりますよ」
帰ろうとする飛鳥先輩を止めるためにやると言ったが、女の人と一緒に写真撮るとかハードル高すぎるだろ。
「それでは、こちらに来てください」
飛鳥先輩は自分の隣に来るように指示する。
「…これでいいですか?」
「それではカメラに入りませんよ。肩と肩をくっつけて下さい」
飛鳥先輩はスマホを取り出し内カメラにセットする。
「…近い」
「そんな事ないですよ。…それじゃあ撮りますね」
そう言って左手でスマホを持ち、腕を伸ばしてピントを合わせ、右手は俺の右肩に置く。
近すぎる。と言うか何でこの人こんなにいい匂いがするの?
「はい、チーズ」
そう言った瞬間、右肩に置いてあった彼女の右手は俺の頬に触れ、俺の首を90度回転させる。
そうすると顔の前には飛鳥先輩の顔があり、唇に柔らかい感触がした。
パシャっと音が鳴り、写真が撮られた。
「ごちそうさまでした」
「…なっ!」
飛鳥先輩のスマホにはどう見てもよからぬ写真が撮られた。
まさかこれは…。
「いい写真が撮れましたわ。
正月の年賀状に使って皆さんに自慢しましょう」
「何言ってんだやめろ、と言うかやめてください」
「フフ、私の機嫌もなおったところでさっきのお返事をしますね。
答えはノーです。私は生徒会長の秘書として、あなたの手助けはできませんわ」
それではさよならと言って教室のドアの方に向かっていく。
「あぁちなみに、さっきの告白は本気でしたのよ」
それを最後に言って、彼女は俺の前から去っていた。
「……やられたな」
俺はさっきの出来事の衝撃が強すぎて、彼女を追う気にもなれなかった。
しかし、本当は力ずくでも止めるべきだったのだろう。
なぜって?
それは…、
山田が持っているプリントに書いてある。
*
そして次の日の朝
「お兄ちゃん。早く起きないと遅刻するよ」
いつもはとっくに起きている時間なのに、一向に目を覚ます気配がない俺を可愛い妹が起こしに来てくれた。
「ああ、……大丈夫だ小町」
「…ん?学校休みなの?」
しかしそれには意味がなく、怪訝な顔をしている妹にそのわけを教えてあげた。
「いや、…お兄ちゃん停学にされちゃったから」
てへっと小町に言ったが、小町の顔は青ざめていく。
「お、…おにいちゃんが、
……お兄ちゃんが不良になったぁ!!」
……。
あの女狐、絶対に許さん。
みなさまゴールデンウィークはどうお過ごしでしょうか。
私はこの作品をどこまで続けるか、日々考えて過ごしています。
もしかしたら残りわずかで最終話になってしまうかもしれませんが、これからもよろしくお願いします。