比企谷君と虜の魔女   作:LY

24 / 36
第二十四話

高2

 

 

次代の生徒会長を決めるゲームで小田切寧々、宮村虎之介、玉木真一の三人は各々が魔女を探し続けたが、成果を得られず難航していたようだ。

 

 

しかし、全員が全員難航し続けているわけではなく、少なからず手掛かりを見つけた奴がいるらしい。

 

 

 

 

宮村率いる超常現象研究部だ。

 

 

 

だが正直これは予想していた展開で、あまり驚くことでもない。

 

超研部が掴んだ手がかりとは宮村虎之介の姉、つまり宮村レオナ先輩だ。

 

彼女いわく、昨日弟が家に山田を連れてきて七人目の魔女について聞いてきたから、何も教えずにハサミを投げつけて追っ払ったと言っていた。

 

相変わらず彼女の体は無限のハサミでできているようだ。

 

 

まぁこんな感じで宮村先輩から生徒会長戦についての情報が流れてき、山崎先輩の後見人が誰になるのかを予想しているなか、

 

 

もう一人、俺に情報を流してくる輩がいる。

 

 

 

「そう、比企谷君のベストフレンドこと玉木真一さ」

 

「何言ってんだお前?」

 

 

毎度おなじみの玉木である。

相変わらず話し相手がいないから聞いてもいない俺にペラペラ話してくる。

 

 

「そう言えばお前はどうやって魔女を探しているんだ?

他の奴らと違って仲間いないのに」

 

「フフフ、本来は機密事項なんだけど比企谷君には特別に教えよう。

 

確かに僕は一人で行動しているが、魔女を探しているのは僕じゃない。

超研部の奴らだよ」

 

「……あぁ、分かったわ。

お前せこいな」

 

「せこくないよ、とても効率的で比企谷君なら絶対に行った作戦だよ」

 

 

ドヤ顔を決めているこの男の考えは分かった。

 

玉木は透明人間の能力を持っている。

つまりそれを超研部の奴らに使えばあいつらが話している事を簡単に盗み聞ぎすることができる。

 

よって玉木は自分で魔女を探さなくても超研部が見つけた情報を横取りすればいい。

 

 

…せこいな。

 

 

「そんなんで生徒会長になっていいのか?」

 

「問題ないさ、特にルールの指定はなかったしね。

 

……っと、そろそろ行かないと。

それじゃあ失礼するよ。会長選が終わったらまたゆっくり話をしよう」

 

 

そう言って玉木は超研部の部室の方に歩いて行った。

多分盗み聞きしに行ったのだろう。

 

 

俺は会長戦に口出しするつもりはないし、玉木の事を目の敵にしているわけでもないが、小田切がずっと目標にしていた生徒会長があんな作戦を行っている玉木になったら癪なので、あいつの作戦が失敗することをこっそり願った。

 

別に俺の性格が悪いとかそういう事じゃないからね、勘違いしないでよね!

 

 

…まぁ玉木の事は置いといて、俺は俺で魔女を探さなければならない。

 

あいつらと違って誰が七人目なのか知っているので、その人を見つけるだけでいいのだがなかなか見つからない。

 

と言うか全然見つからない。

 

三年のクラスを全部見て回ったが西園寺と言う生徒はいなかったし、校内をうろついても彼女のような生徒は見つからなかった。

 

もしかしたら俺が彼女の前前前世から探し始めても見つからないかもしれない。

 

 

「はぁ~、あの人本当にうちの生徒かよ。

三年のどのクラスにも名前がない時点でだいぶ無理げーだろ。

…もしかしたらもう学校やめたとかなんじゃねえの?」

 

 

ある意味でそれは最も俺が恐れる事だ。

西園寺先輩がいなくなったとしたら誰かほかの人が七人目の魔女になったということになる。

 

 

そんなネガティブな事を考えて現実のめんどくささに直面していたその時、

 

 

 

後ろから視線を感じた。

 

 

な、何奴!

 

 

ばっ!っと振り返れば柱の後ろに誰かが隠れたのが分かった。

 

 

…マジで誰なんだ?

 

 

どうしたら良いか分からなかったのでとりあえずまた前を向いた。

 

 

 

……。

 

 

じぃーーーー

 

 

 

やはり視線を感じる。

 

…仕方ない、誰から見られているか俺も気になるし確認するか。

 

 

本命、小田切 対抗、超研部の電波女 大穴(願望)、西園寺先輩

 

さぁ一体誰だ!?

 

 

「そこで隠れている奴、俺に何か用か?」

 

「…やはりさっきのでバレてしまいましたか」

 

 

勇気を振り絞った俺の問いかけに、柱で隠れている人は返事をした。

 

…この声は聞いたことがある。

 

 

「こんにちは比企谷さん、調子はどうですか?」

 

「…飛鳥先輩でしたか」

 

 

残念ながら予想は大外れ、犯人は生徒会長の秘書、飛鳥美琴だった。

 

…この人とは遭遇したくなかったな。

 

 

「えっと、何をされていたんですか?」

 

「比企谷さんを見ていただけですよ」

 

「…そうですか」

 

 

それは普通に怖いんですけど。

 

 

「それで比企谷さんは何をなされているんですか?

何やら悩んでいたようですけど、…私で良ければ相談に乗りましょうか?」

 

「いや、全然大丈夫です。大丈夫すぎて怖いくらいです」

 

「…そうですか、もし何かあれば相談してください。

私は比企谷さんの先輩ですから」

 

「ありがとうございます。

…それではそろそろ帰宅しましようかな。妹が待ってるし」

 

 

何かの危機を感じた俺は早々にこの場から逃げ出すことにした。

 

 

「比企谷さん、七人目は変わっていませんよ。

詳しくは私も知りませんが、これだけは事実です」

 

 

帰ろうとしていたが俺の足は止まった。

 

 

「…何故そんな事を俺に教えるんですか?」

 

「そうですね、強いて言うならあなたは私の憧れですから」

 

「は?」

 

「…私は目立ちたくないんですよ。普通でいたいんです。

廊下を歩くだけで視線が集まったりするのがとても嫌」

 

 

そして彼女は平然とした顔で言う。

 

 

「私は透明になりたいです」

 

 

 

 

 

飛鳥美琴を最初に見たときに思ったことは“美人”だった。

それに加えて色々な事を聞いたことがある。

 

運動神経抜群だとか、

 

山崎先輩に負けないくらい頭いいとか、

 

どこかの社長令嬢だとか。

 

 

周りに注目されても仕方がないスペックの持ち主で、

彼女が横を通れば自然と目が追いかけてしまうのかもしれない。

 

…まるで偶像を見るように。

 

 

 

だから彼女は“透明になりたい”なんてことを言うのだろうか?

 

だから彼女は透明の能力を持った魔女になったのだろうか?

 

 

「ですが今の生活には満足しています。

春馬様と言う注目の的のおかげで私は目立ちにくくなりました」

 

「それでなぜ俺が出てくるんですか?」

 

「フフフ、私は春馬様に言われてあなたの事調べたんですよ。

 

調べた結果は大して何も出ませんでした。

玉木さんと同じ魔女殺しの能力を持っていること以外は特にこれと言った良い点はなく、ただ交友関係が少ないだけ。

魔女殺しの能力も使う事を嫌っているように見えますし、これでは少し魔女の事を知っているだけの生徒ですわ。

 

なのに春馬様は必要以上にあなたの事を気に入ってました」

 

「気のせいだと思いますけど」

 

「そんな事ないですよ。

 

それが不思議なので私はあなたを見続けた。

 

そしたら分かったんです。

 

あなたは私と違い決して目立つような事はない。

それでいてあなたは特別な魅力を持っている。

その魅力に気づく人が少ないだけ」

 

 

……。

 

 

…何も言えなかった。

 

 

 

まさか人生でこんな事を言われるとは思ってもいなかった。

もちろん俺はそんな奴じゃないと思うが、彼女には俺がそのように見えているのか。

 

 

「これって私にとっては一番理想的な事じゃないか、と思いました。

 

透明のようでそうでない。本当に近しい人だけには特別でいられる。

 

だから私はあなたに憧れた」

 

 

否定する気になれなかった。もちろん肯定するつもりもない。

 

ただ飛鳥美琴が言ったことを否定したくなかったのかもしれない。

 

 

「……すみません、帰ろうとしていたのに長々と話してしまいましたね。

お気をつけて帰って下さい。

 

……それと本当に最後に一つだけ、今度は比企谷さんについて教えてくださいね」

 

「…まぁその、機会があれば」

 

 

それでは、と言って飛鳥先輩は歩いて行く。

 

 

それを少しの間眺め、俺も下駄箱に向かって歩き出した。

 

 

 

 

 

 

飛鳥美琴

 

彼女は覚えていないが俺が初めてキスをした魔女。

 

今までずっと何を考えているか分からない魔女だったが、

 

今日は少しだけ、彼女の素顔が見えたような気がした。

 

 

 

 

 

 

それから二日経ち、俺は久々に超研部女子と会った。

 

 

「久しぶりねヒキタニ」

 

「こんにちは比企谷君」

 

「…うっす」

 

 

相変わらず俺をヒキタニと呼ぶ電波女(伊藤雅)と入れ替わりの魔女である白石うらら。

こいつらとの関係は、監禁された側と監禁した側と言う変な関係なのでどのように接すれば良いか、いまいち分からない。

 

 

「ほら、あなたにプレゼントよ」

 

 

そう言ってケースに入ったDVDを渡してきた。

 

 

「プレゼントって、何だよこれ?」

 

「前に比企谷君と一緒に見た動画よ。ちゃんと完成したから持ってきたの」

 

「感謝しなさいよ」

 

 

ほう、前に監禁されたときに見たやつか。

 

 

「ありがとな。家のベランダにでも吊るしとくわ」

 

「吊るすな!ちゃんと保管しときなさいよ!」

 

 

いやだっていらないし。

せめてカラス除けにでも使おうと思ったんだが…。

 

家にカラス来ないけど。

 

 

「比企谷君、私もちゃんと保管しといて欲しいわ」

 

「分かった。せっかくのもらい物だし大切に持っとくよ」

 

「何でうららちゃんの時だけ素直なのよ!」

 

 

だってこの人には逆らってはいけない気がするし

 

 

「…まぁそれはいいわ。

それよりも、また今度動画を作りたいから協力しなさいよね」

 

「断る」

 

 

何で俺がそんなことしなければならんのだ。

 

 

「同じ部活の山田とかにやらせたらいいだろ」

 

 

猿島の家で見た時に意外と優しそうだったので、電波女にそう提案したのだが、返ってきた言葉は俺の予想とは全く違っていた。

 

 

「はぁ?山田って誰よ?」

 

 

伊藤雅は何のおふざけもなく、本当に何を言っているか分からないよう俺に言った。

 

 

「いや、俺よりもお前らの方が知っているだろ」

 

「だから知らないって。超研部にそんな奴いないわよ」

 

「は?何言ってるんだよ?」

 

 

何かがおかしい。

 

何かがズレている様な感覚に襲われた。

 

 

「はぁ~、目だけじゃなくて頭も腐ってしまったのね。

ねぇうららちゃん、私たちの部活にそんな奴いないよね?」

 

「…そうね、そんな人知らないわ。

誰かと勘違いしているんじゃないかしら?」

 

 

表情も変えず、声のトーンも変わらず、平然と白石うららは答えた。

 

山田を知らない

 

そんなあり得るはずのない事を…。

 

 

「……そうか、俺の勘違いか」

 

 

俺の頭がおかしいのでなければこの状況は昔の俺と同じ。

 

 

 

こいつらの中から、…いや、朱雀高校の生徒の中から

 

 

 

山田竜と言う存在が消えた。

 




少し忙しくなってきたので投稿スピードが遅くなると思います。

そして余談なのですが、来週は”やはり俺の青春ラブコメは間違っている”の新刊と、山田くんと七人の魔女の最終巻の発売日で、今からとても楽しみにしています。

と思っていたら、俺がいるの方は発売延期になったらしいです。


感想、誤字の報告、作品評価等は大歓迎です。


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。