比企谷君と虜の魔女   作:LY

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第十八話

高1

 

 

人との別れは経験したことがあると思う。

中学を卒業した時もそうだ。あれは確かに別れの時だった。

 

でも俺は、自分にとって近しい人との別れをしたことが今までになかった。

それは自分にとって家族以外で近しいと思える人が今までいなかったからだ。

 

だから本当に大切な人との別れはこれが初めてかもしれない。

 

 

 

 

ほとんど何の前触れもなく、別れの時はやって来た。

 

俺は何もできずに、ただ立ち尽くしていただけだった。

 

 

お前とまだ一緒にいたい。

 

本当は思い出してほしい。

 

 

……。

 

 

でもこれは、

 

 

誰にも言えないただの独白だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

放課後 超研部の部室にて

 

 

静かな部室の中で、ついつい小言を言ってしまう。

 

 

「比企谷の奴め、今日は西園寺と仲良くなろう作戦を行うと言っていたのに遅れるだと?

私一人では盛り上がりが欠けてしまうではないか。

山崎も用事があって遅れるらしいし…」

 

 

授業が終わり、先に部室に来て比企谷と色々準備をする予定だったがこれでは時間が足りないかもしれない。

 

 

「日にちをずらすべきか?いやそもそも山崎にも説明して協力してもらった方がいいかもな」

 

 

誰もいないので当然返事はなく、少し寂しい気持ちになる。

 

 

「フフ、これくらいで寂しく感じるなんて、

最近賑やかになったせいだな。」

 

 

私と山崎が一年生の時は三年の先輩はいたが二年の先輩はいなかった。

 

だから二年生になってからは山崎と二人だけ。

 

もちろん楽しかったが他にも仲間が欲しかった。

 

 

「今では後輩もでき、仮入部の西園寺もいる。

私は幸せ者だな」

 

 

問題があるとしたら廃部になりそうなことだが、これも心配ないだろう。

 

山崎も会長になろうと頑張っているし、比企谷もああ見えて本当はしっかりしている。

 

部長としては情けないが本当に困ったときは彼らに頼ったら何とかなる気がする。

 

 

だからこれからもずっと……

 

 

「レオナ君!!」

 

「ひゃ!」

 

 

部室のドアが乱暴に開けられ、山崎が私の名を呼ぶ。

 

 

「山崎か、びっくりしたぞ」

 

 

山崎は走って来たのか息が荒く、声は大きい。

 

 

「今すぐに家に帰るんだレオナ君!」

 

「どうしたというんだ、いきなりそんな事を言って」

 

「すまない、でも急いでくれ。西園寺君が来る前に」

 

 

そう言って私の腕を引き、走って部室を出る。

 

 

「待て山崎、なぜ西園寺がきたらダメなのだ?」

 

「…七人目の魔女だ」

 

「え?」

 

「西園寺リカは七人目の魔女だったんだよ!!」

 

「な、何を言っている…?」

 

 

腕を引っ張られ、全速力で走っているせいか頭がうまく回らない。

 

 

「僕はさっき西園寺君本人にそう言われた。

そしてその時何かをされた、たぶん能力をかけたんだろう」

 

 

下駄箱の前まで来て、ようやく山崎は止まる。

 

 

「このままじゃ君も比企谷君も記憶を消されてしまう。だから逃げるんだ」

 

 

山崎は掴んでいた私の腕をはなし、家に帰るように私の背中を軽く押す。

 

 

「ちょっと待ってくれ、何かされたと言っても現にお前は私たちの事を覚えているし、記憶を消されるようなことは何もしてないじゃないか」

 

「…いや、僕たちは魔女を探し過ぎたんだ。

だから生徒会は僕たちに目を付け、七人目の魔女に記憶を操作させるつもりなんだ。

 

きっと魔女に関すること、つまり今まで超常現象研究部でやってきた事は全て忘れさせられるかもしれない…」

 

「そんな…」

 

 

分からない。私はどうしたらいいんだ。

 

 

「僕は比企谷君を探してこの事を伝えないといけない。

メールで遅れるって言ってたから学校内のどこかにいるはずだ。

西園寺君と鉢合わす前に必ず見つけだす」

 

「でも、私は…」

 

「大丈夫だよ」

 

 

山崎はいつもの様にニコッと笑顔をみせた。

 

 

「必ず、また三人で集まるから」

 

「…うん」

 

 

 

こうして、私は逃げるようにして家に帰った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それから私は、一度も学校に行っていない。


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