比企谷君と虜の魔女   作:LY

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今回は少し長くなりました。




第十六話

高1

 

 

「中間テストの返却をしまーす」

 

 

大丈夫。あれだけ勉強したんだから何も問題ないわ。

 

 

「遠藤君」

 

「はい」

 

 

手ごたえはなかなかのものだったし80点前後はあるはず。

 

 

「小田切さん」

 

「はい」

 

 

先生に名前を呼ばれたので教卓まで答案用紙を取りに行く。

 

先生との距離は約2m。早く点数みたい!

 

 

「今回はよくできていましたね」

 

 

答案用紙を返されるとき先生がこそっと私に言った。

 

 

「……85点」

 

 

…ここではしゃいではダメよ。我慢我慢。

 

平静を装い席に戻り、ゆっくりと席に座る。

 

 

「さすがは私ね」

 

 

私はこっそりと机の下でガッツポーズをした。

 

 

 

 

 

 

 

さっきの授業で先週のテストが返され、安堵する。

 

 

「数学で68点か、俺にしては上出来だな」

 

 

心の中で小田切に感謝する。これなら追試にはならないだろう。

 

 

「一応、報告しとくか」

 

 

小田切に感謝の気持ちを伝えようとカバンの中からスマホを取り出したが、どうやら先に向こうからメールが送られていたらしい。

 

 

 

[FROM  小田切 寧々]

放課後ちょっと顔かしなさい

 

 

 

「お前はチンピラかよ…」

 

 

たぶん小田切もテスト結果の報告だろう。

 

現国教えたからいい点数取ってくれてたらいいのだが。

 

 

「了解…っと

 

あぁ、宮村先輩と山崎先輩に部活遅れるって言っとかないとな」

 

 

宮村先輩は今日西園寺先輩と仲良くなるために色々するって言ってた気がする。

たぶん小さなパーティーでも開くのだろう。

 

 

 

......まぁあの人なら一人でも上手くやるか。

 

 

そう思って宮村先輩にメールを送り、次の授業の準備をした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

もし俺がこの時、普通に部活に行っていれば

 

何か変えることが出来たのだろうか...。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・

・・

 

高2

 

 

今年の5月の事だ。

 

俺は“朱雀高校の七不思議について”と言うタイトルのノートを見るために朱雀高校が所有しているクラブハウスに行くことにした。

 

 

「我ながらめんどくさいな」

 

 

クラブハウスは朱雀高校から離れた場所にあり、今は一年生が泊りの講習で使っているはずだ。

 

補習合宿の時のように学校からバスが出れば嬉しいのだが、今回は電車で行かなくてはならない。

 

片道約2時間ってところだな。

 

 

「ノートに七人目の魔女の能力に関して詳しく書いてたらいいんだけどな」

 

 

正直言えば、一度軽くだが目を通したことがあるので俺の欲しい情報は書いてないと思う。

しかし万が一書いていたらかなりの収穫になる。

 

 

今はちょうど一年の講習で使っているので、クラブハウスは必ず入ることができる。

他の日に行ってクラブハウスに誰もいなくて鍵がしまってました、なんてことになったら最悪だからな。

 

 

「しゃあねぇ、偶には外出するか」

 

 

 

 

 

そんなわけで、俺はクラブハウスに行ったのだが……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……どうしてこうなった」

 

ただ今の時刻、18時13分

やっとの思いでクラブハウスに到着した。

 

 

昼にだらだらし過ぎて出発は遅れたが、到着時間は17時前の予定だったのに

 

 

「まさか電車の中で寝てしまうとは」

 

 

寝過ごして一時間のロスとは俺らしくない。

 

 

だがそれをぐだぐだ言っても仕方ない。精神的にも身体的にも疲れてきたし、さっさとノート探して帰るのが吉。

 

そう思って俺は今日の講習が終わって自由時間を過ごしている一年生の中に紛れ込んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

「……どうしてこうなった」

 

 

ただ今の時刻、18時46分

やっとの思いで超研部の倉庫のカギと懐中電灯を手に入れた。

 

クラブハウスの職員室ですぐにカギを借りる予定だったのに少し誤算があった。

 

 

「おっさん話長いんだよ…」

 

 

カギを借りるために“現生徒会長である山崎先輩に頼まれた”

と、てきとうな理由をでっちあげて職員のおっさんに説明したら

 

 

「へぇ、山崎君の後輩なの?あの子はホントによくできた生徒だよね。

彼が二年生の時に数学の担当したけど・・・・・・・」

 

 

ペラペラペラペラ山崎トークが止まらず、無駄な時間を過ごしてしまった。

 

こちとら早く用事済ませて帰りたいんだよ!っとマジで言いたくなったが、おっさんがあまりにも楽しそうに話すからやめておいた。

 

懐中電灯は超研部の倉庫の電気が点かないらしいので貸してくれた。

 

 

 

そしてやっと倉庫前に到着した。

時刻は18時51分

 

一年生は風呂に入っているのか夕食を食べているのか知らないが、この時間帯には超研部の倉庫の周りに人の気配はない。

 

 

「ふっ、ずっとお前に会いたかったぜ」

 

 

あまりの疲れで倉庫のドアに話しかけてしまう。

 

これからノート探して家に帰るとか想像すると絶望でしかない。

家につくの21時くらいだぞ。

 

 

「はぁ……。

 

…ん?中から声が?」

 

 

あまりのダルさにため息をついた瞬間、倉庫から誰かの声が聞こえた気がした。

 

...ホラーな予感。

 

 

「きっと来る人でもいるんじゃねえの?」

 

 

まぁそれは冗談としてこの時間帯に生徒が倉庫の中にいるはずがない。

 

ちょっと恐怖を感じつつも、カギを開けて倉庫を開けてみると

 

 

 

 

「…グスッ」

 

 

 

窓から月明かりが射す倉庫の中で、一人の少女が泣いていた。

 

 

「…おい、大丈夫か?」

 

「あっ…」

 

 

うずくまっていた少女は俺の声に気づき、涙を見られたくはないのか服の袖で必死に拭い、小さく頷いた。

 

 

「…先生呼んでくるか?」

 

「…」

 

 

返事はくれないが、顔を横に振ったので呼ばなくていいらしい。

 

 

「…そうか」

 

 

19時頃までカギのかかった倉庫に一人ぼっちとは

正直言って誰かが意図的にそうしたとしか思えない。誰かがこの子をここに閉じ込めたんだろう。

 

 

「質の悪い奴がいたもんだな」

 

 

高校生になっても、どの学校に行ってもこういうことをする奴らはいるもんなんだな。

 

 

「……ィㇾ」

 

「はい?」

 

 

やっとまともに喋ったのだが声が小さすぎて聞き取れなかった。

決して難聴系主人公を気取っているわけではない。

 

「トイレ……行ってくる」

 

 

そう言うと立ち上がって倉庫から出て行った。

 

 

「…とりあえず、ノート探すか」

 

 

思わぬ展開になったがあくまで俺の目的はノートを見ることだ。

これで俺の努力が報われる結果になればいいのだが。

 

 

「ちっ、暗くて探しにくいな」

 

 

倉庫の中は窓からの月明かりと懐中電灯の光しかあてにならない。

 

まぁ倉庫と言っても普通の小さい部屋に机や棚が置いてあり、その上に荷物が置かれているだけなので比較的見つけやすいはずだ。

 

 

「ノート、ノートっと

うーむ、机にも棚にもねえぞ」

 

 

まずい、これでは長い時間をかけてクラブハウスに来た意味がなくなる。

 

 

それから探し続けてもノートは見つからず、そろそろ諦めだしたその時、

 

 

「ねえ」

 

「うお!」

 

 

ドアの方から急に声をかけられる。

振り返ってみるとさっきトイレに行った少女がそこにいた。

 

...まさか帰ってくるとは思ってなかった。

 

 

 

「…探してるノートってこれの事?」

 

 

ひょいっと挙げた右手には確かに俺の探しているノートを持っている。“朱雀高校の七不思議について”の下巻だ。

暗くてあまり見えていなかったが、どうやらトイレに行く時に持って行ったらしい。

 

 

「そう、それだ。ちょっと借りてもいいか?」

 

「別にいいけど…」

 

とりあえずここではノートが見にくいので倉庫から出てカギをかけ、電灯のある所に向かう。

ノートだけ貸してくれたらよかったのだが少女は後ろからついてきた。

 

 

倉庫から少し離れたところに座れるところがあったので、二人ともそこに座り話を始めた。

 

 

「じゃあそのノート借りてもいいか?」

 

「うん、でもその前に一言お礼を」

 

 

ありがとう、と言い少女は軽く頭を下げた。

 

 

「いや、たまたま用があっただけだし、別にお礼を言われる筋合いは…」

 

 

そう言ってもなお、頭を下げ続ける彼女は、よく見ると涙を流していた。

 

 

「グスッ…。ごめん、でもやっぱり、…悔しくって

ノアは何も、…何もやってないのに」

 

「…そうか、やっぱり誰かにやられたんだな」

 

 

人間は誰かを見下していると安心する。だから誰かをいじめ、そいつは自分より下だと思い込み優越感に浸る。

気持ち悪い、気持ち悪い奴らだ。

 

なんでこの子がそんな奴らのせいで泣かなければならないのだ。

 

 

「…絶対に見返してやる」

 

 

泣きながら少女はそれを口にした。

 

 

「…見返してやるか、確かにそれは良さそうだな」

 

 

彼女が見返してやるといった時、昔の事を思い出した。

 

 

俺が小学生の時、いじめてくる奴に一度だけ仕返ししたことがある。

まぁ下駄箱に砂やら水やらを入れるいかにも小学生な方法だ。

 

結果、相手の事をイラつかせて、その仕返しを食らってボコボコにされた。

 

ボコボコにされた後、その場を去って行く奴らを見ていると涙が出てきた事をよく覚えている。

 

 

ボコボコにされて体が痛かったとか、やられたことが悔しいとかそういう事じゃなくて

 

ただただ、あいつらと同じ様な事をした自分が情けなかった。

 

 

 

「…見返す方法は考えているのか?」

 

「えっ?まだだけど…」

 

「まだか、それなら…。

 

 

…友達作れば?」

 

 

「友達?……何言ってんの?」

 

「言葉通りだ。友達作るんだよ。

一流ボッチの俺は友達いねえけど、お前は顔も可愛らしいし、友達百人作れるだろ。

 

……お前を閉じ込めた奴らに直接仕返ししても、お前の立場は何も変わらないし何一つ得るものはない」

 

 

少女は俺が話をしているうちに泣き止んでいた。

 

 

「……友達作れば、本当にあいつらを見返すことが出来るの?」

 

 

「そうだな、見返せるかどうかは分からないが…。

 

そいつらがうらやましく思えるほど仲のいい友達作って、誰よりも楽しく過ごせたら

俺はそれで十分だと思う」

 

 

“俺がそうだったように”と最後に付け足した。

 

少女は足元を眺め、何かを考えているようだった。

 

 

「どうして、……どうしてそんなに優しい事言ってくれるの?」

 

 

必死で絞り出した声は涙ぐんでいた。

 

また少女は目に涙を溜めている。

 

 

「別に優しい事を言ったつもりはないが、しいて言うならそうだな。

……妹に声が似ているからだな」

 

 

そう言うと少女の瞳から涙は流れているが、同時に笑ってもいた。

 

 

「フフフ、そんな理由で優しくしてくれるなんて」

 

「だから優しくしてないって」

 

 

小町の声に似ているのはマジだけどな。

 

 

「こんなに面白い人も同じ学校にいるんだね。

私は滝川ノア、名前教えて」

 

「比企谷八幡だ」

 

「比企谷か、聞いたことないな。何組なの?」

 

「あぁ、俺は二年生だからクラス言ってもあまり意味ないと思うぞ」

 

「えぇ!年上なの!?」

 

 

そう言えば言ってなかった。

まぁ普通に考えればここに二年の俺がいるのはおかしいから一年だと思ってしまうのも無理はないか。

 

 

「ちょっと用事があって来ただけだ。そのノート見たらすぐ帰る。

と言うかそろそろ帰りたい」

 

「ああ、忘れてた。ごめん…じゃなくてごめんなさい」

 

 

そう言うとスッと俺にノートを渡してきた。

 

 

「ん、ありがとな。

もう時間も遅いし写真撮って後から見るわ」

 

 

そうして俺はある程度撮るところを抜粋してスマホで撮影した。

 

 

「んじゃ、やることやったしそろそろ帰るわ」

 

 

疲れているのかやたらと重く感じる腰を上げ、カバンを手にした。

 

 

「そうですか。今日はありがとうございました。

比企谷先輩!」

 

「いや、偉そうに年上ぶっただけだ」

 

 

それじゃあなと言って職員室に向かい、カギを返してクラブハウスを出た。

 

 

 

これでクラブハウスでの長い長い話は終わりだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あっ、あの先輩にメアド聞いとけばよかったなぁ」

 




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