高1
手芸部にて
「ちゃんと誘えましたか、寧々ちゃん?」
「まぁ、一応ね」
超研部で比企谷を勉強に誘ってからすぐに手芸部に戻ってきた。
手芸部はテスト前なので休みということになっているが、姫川さんと私だけはここに来ている。
来ているというか姫川さんに呼び出されて、比企谷を勉強に誘えだなんて事を言われた。
「大成功ですね!あとは一緒に勉強して好感度アップです」
「…この作戦大丈夫なのかしら?」
言われるがまま行動してしまったが、今になって不安を感じてくる。
少し大胆過ぎたかしら?
いやいや、前は夏祭りに誘ったのだからこれくらいは…。
でも、先輩たちもいる中で誘ってしまったし…。
「大丈夫です!ちゃんと恋愛攻略本で読みましたから」
「……本当に大丈夫なのかしら?」
「信じてくださいよ~」
姫川さんと部室で恋バナ?して以来、こんな感じで彼女なりに応援してくれている。
おかげさまで実際に勉強の約束をできたのだから素直に感謝するべきだろうか。
「応援してくれるのは嬉しいけど、姫川さんはどうなの?山田を勉強に誘ったりしたの?」
「私と山田さんが集まってもあまり意味がないと思ったので誘っていません…」
そう言えば、この子も山田も成績悪かったわね…。
「それじゃあ他の作戦があったら手伝うから、その時は言ってね」
「はい!」
にこにこスマイルが今日もまぶしい姫川さん。
この子を泣かせたら山田をぶっ飛ばしに行かないとだめね。
「ところで、自分のテスト勉強はしなくていいの?」
「あっ、忘れてました!」
本当に可愛らしいわね。
・・・
・・
・
高2
朱雀高校にて
キーンコーンカーンコーン
「……また寝ちまったな」
最近はよく眠ってしまう、と言うより色々考え込んでしまって気が付いたら寝ていることが多い。
...一年前の事をよく思い出すようになった。
一年前と言っても超研部の事と、小田切や五十嵐の事が主にだ。
「…あいつは大丈夫そうだな」
同じ教室にいる小田切に目を向ける。
一昨日、俺は泣いている小田切を家に送って行った。
なぜ小田切が泣いてしまったのか分からなかったし理由を聞く気もないが、小田切自身もよくわかっていない様子だった。
それから日曜日を挟んだ今日、小田切はいつも通りクラスメイトと話している。
もともと俺と小田切が教室で接することはないし、少し気まずいから目を合わさないようにしているので今日は一度も会話をしていない。
…帰りますか。
特に教室に居座る理由もないし、帰ってマックスコーヒーでも飲みながら小説の世界に没頭しよう。
そう思って荷物をカバンに詰め込み廊下に出てたが、
「やぁーやぁー比企谷君、久しぶりだね」
まさかの玉木と遭遇した。
こいつ久しぶりに見たわ。
「なんか用か?」
「久しぶりに会ったのに反応が薄いね。
まぁそれはいいとして、今日はデートの約束をしに来たんだよ」
「は?デート?」
精霊の好感度でも上げてキスするのか?
「もう少しで開催される文化祭を一緒に見回らないかい?」
「あぁ、文化祭か。そういや今日もクラスの出し物について話し合ってたな」
「僕の親友である比企谷君なら一緒に見回る人なんていないと思ってね、ぜひ僕と一緒に行こう!」
「俺はいつからお前の親友になったんだよ…。
まぁ小町が来たらそっちに行くけどそれ以外なら特に予定はないな」
「へぇ、比企谷君の自慢の妹も来るかもしれないんだね」
「まぁな、宇宙一可愛いからって朱雀高のノリでキスしたらお前の頭吹き飛ばすからな」
「こわっ!」
朱雀高校の魔女に関わった奴らはキスに対しての気持ちが軽くなるからな。
もし小町が朱雀高校に通うことになったらその辺がとても不安だ。
「大丈夫だよ、僕が比企谷君の妹を傷つけるわけないじゃないか」
「そうか、んじゃこの話は文化祭前にな」
それじゃあな、と言って今度こそ家に帰「比企谷さん」…今度は誰だ?
「お久しぶりです比企谷さん」
「飛鳥先輩…」
あまり会いたくない人に遭遇してしまった。
「この間のディスティニィーランドの事は申し訳ありませんでした。
私が体調管理を怠ったため、急遽代わりに寧々さんを呼んだのですが」
「いえいえ、別にいいですよ」
「…せっかくのチャンスでしたのに」
「はぁ、何のチャンスだったんですか?」
「…いえ、何でもありません。
謝罪も済んだことですし、会長がお呼びになっているのでこれから生徒会室まで一緒に来てくれませんか?」
ほらな、こうなるから嫌なんだよ。
「またですか?」
「はい、またです」
やだなぁ、いきたくないなぁ、かえりたいなぁ。
「そんなにお時間取らせませんのでよろしくお願いします」
「はぁ~」
当然のことながら、俺は断ることが出来なかった。
*
生徒会室にて
「失礼します。会長、連れてきましたわ」
「ありがとう、飛鳥君。ちょっと席を外してもらっていいかな?」
連れてこられた生徒会室には生徒会長以外の他の役員はいないようで、完璧に二人きりで話すつもりのようだ。
これが可愛らしい女子生徒ならドキドキする場面かもしれないが、残念ながら相手はメガネで狸な男なので何一つときめかない。
「突然呼び出してすまないね、比企谷君」
「申し訳ないと思うのなら今すぐ帰らしてください」
「さて、分かっていると思うけど呼び出した理由はまた魔女の事でね」
すげぇ、完璧に無視してくる。
「いや、前にも言いましたけど生徒会で何とかしてください。
俺は働きたくありません」
「それも今回はなかなかの曲者でね、相手は一年生なんだよ」
あれれ、耳の鼓膜が破れているのかな?
「生徒会でも手に負えないのなら俺に頼んで無駄ですよ、それに年下相手なんてなおさら無理です」
「そんな事ないよ。比企谷君は妹がいるらしいし、その辺の扱いは心得ているでしょ」
あっはっはっと笑いながら言うがこっちは全然笑えないよ。
「妹と年下は関係ありませんよ。
そういうことで話もまとまったし帰りますね」
お疲れ様でーすっとさわやか野球少年のように声をあげて帰宅したかったのだが、今回ばかりはどうにも逃げられないらしい。
「いいのかい?これは君のために言ってあげてるんだよ」
会長の顔はいつものふざけた顔ではなく、真剣さを感じさせる表情だ。
「…そのようには感じませんね」
「まだ肝心なことを言っていないからね」
会長はそっとテーブルの上に置いてあったティーカップに手を伸ばし、一息つく。
「魔女の名前は滝川ノア。今のところ彼女に関わった三人の生徒が問題を起こしている」
滝川ノアか、どっかで聞いたことあるような無いような感じだな。
「そして一番の問題は・・・・・・」
「......ふん、なるほどな」
*
「じゃあ、失礼しました」
「うん、それじゃあ気をつけて帰ってね」
思っていたより長い話を終えて、生徒会室に出る。
今度こそ帰ろうと、今日は2度も思った気がするが、まだもう少しだけ帰れないようだ。
生徒会室のすぐ手前でさっき部屋から出てもらった飛鳥先輩と小田切が立っていた。
「話が終わったようですし、私は入っておきますね」
そう言って飛鳥先輩は生徒会室に入っていき、小田切と俺だけになった。
「よう」
「ええ」
まだディスティニィーの帰りの事を気にしているのか、あまり表情は良くない。
「その…、こないだはごめんなさい。いきなり、泣いてしまって」
「別に、もう済んだことだし気にしてないぞ」
「そう、でもやっぱりちゃんと謝っておきたかったから…」
そう言ってもう一度謝り、小田切は軽く頭を下げた。
「本当に気にしてないから謝るな。それに、そんなにペコペコ謝るのも小田切らしくねえよ」
「…そうよね」
どうやら納得してくれたようだし良かった良かった。
「…それじゃあ、ありがとね、あの時家まで送ってくれて。あと今励ましてくれてるのもありがと」
「ああ、やっぱりそっちの方が小田切らしくていいな」
本当に、こっちの方がいい。
「ええ、それじゃあ生徒会の仕事あるからそろそろ行くわね」
「ん、頑張れよ」
それじゃあと言って本当に今度こそ家に帰った。
運が良かったのか飛鳥先輩がてきとうな理由を言ったのかは分からないが、なぜ俺が生徒会室から出てきたのか小田切に聞かれなかった。
小田切は俺が魔女の存在を知っていることに気づいていない。
別に隠さないといけないわけではないが、知られると何となくめんどくさそうだし念のため隠している。
まぁ今回の魔女の方がよっぽどめんどくさそうだけどな。
今回の問題魔女の名前は滝川ノア
彼女の目的は朱雀高校から他の魔女を消すこと。
つまり、魔女を何らかの方法で退学させようとしている。
本来こんな事には関わりたくないのだが、
標的が魔女となると、黙っているわけにはいかない。