【完結】妖精さん大回転!   作:はのじ

7 / 10
【重要】
 このお話には艦隊これくしょんで実装されていない、または実際には就航されなかった艦船もいてたりします。ただイメージ出来ない艦娘を出しても味も素っ気もないのでフレーバーですが。これは、僕の設定上の都合ではあります。ですのでタグに【ご都合主義】を追加しました。

追加のタグとして【残酷な描写】【鬱】も追加しています。合わせてご注意下さい。


最終話 Thank you for all the fairies(三)

「一航戦、出撃します」

 

 離れから残心。放たれた矢は分裂を繰り返し一六機編成の編隊を組み上空で旋回する。弓構えから残心に至る一連の作法を繰り返すこと六度。偵察・連絡用の二機を残し、合計九六機の艦載機が一糸乱れぬ編隊を組み東の空に飛んでいく。いつもはおしゃべりな妖精さんもこの時ばかりは一言も喋らずキリリとした表情で艦載機にぶら下がっていた。

 

「……」

「……」

「ヤッパリムリー」

「シャベッタカラアナタノマケー」

「キミモシャベッタヤン」

「オマエモナー」

 

 一航戦で名高い加賀は鳳翔と真逆で射法八節に忠実である。止めるべきは止め、動けば流れる水の如く見る者を感嘆させる優雅な所作。戦場で得た経験値は誰にも負けない自負があった。例え相手が世界で初の航空母艦だとしても一航戦の誇りに賭けて負けるはずがなかった。だが艦載機の離発着の技術はどれだけ努力しても鳳翔には及ばない。力をつければつけるほど遠くなる鳳翔の背中。一航戦の誇りは砕けた。だが深海棲艦との戦いは待ってくれない。日々戦う中で気がつけば分裂する矢は四から八へ。八から一六へ。そうだ。最初から張り合う必要などなかった。弓の道は他者と比べるものではない。己との戦いだ。砕け散ったはずの誇りは色を変え加賀の中で力強く育っていた。一航戦加賀の六編隊同時並列運用。艦娘の中でも加賀にしか出来ない超超絶技巧である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

      最終話 全ての君たちにありがとうの言葉を(Thank you for all the fairies)(三)

 

 

 

 

 

 

 

 

 昨日の戦闘では大破・中破は出ず小破未満に収まった。おっさんの艦隊は天龍以外は無傷。提督の艦隊は極力被弾を避ける作戦だったが、反撃はどうしても受けてしまう。皐月と卯月が攻撃を引きつけていなければ小破以上が出ていたかもしれない。

 

 被弾した艦娘は高速修復材を全員に使用した。ドックは二つしかない。のんびりとドックが空くのを待つ時間はなかった。高速修復材は貴重だが使い所は今しかなかった。残しても意味はない。

 

 日が明けて深海棲艦の攻勢が増した。だが、初日、前日と続いた深海棲艦同様、本隊はまだ動いていなかった。提督もおっさんも深海棲艦の動きに疑念を覚えたが、確信に至らなかった為、艦娘達に説明をしなかった。

 

 この日、囮の天龍に釣られる深海棲艦は現れず、おっさん艦隊は一時無効化した。深海棲艦の数個艦隊が整然と島に迫ってくる。おっさん艦隊の砲撃の射程と射線を避ける位置だった。撃ち漏らした深海棲艦から情報が漏れている事が伺えた。

 

 こうなると提督の艦隊も持ち味が生かされない。地の利と機動力を活かしての一撃離脱は無闇に行えない。しかも深海棲艦側に空母ヲ級の姿が確認出来た。数で負けている現状、正規空母の登場は脅威だ。制空権を取られれば、砲撃は正確性を増し、倍以上の手数となって襲ってくる。そこへ艦攻、艦爆が加われば艦隊の致命となり得る。特に比叡が落ちれば戦力は半減どころではない。

 

 提督とおっさんは迷わず正規空母の信濃と加賀を投入した。深海棲艦の本隊まで温存する予定であったが、大きな被害を受け、継戦能力を失ってしまっては何の意味もなかった。幸か不幸か深海棲艦の本隊は未だ動かず、間引きの最大のチャンスとも取れたからだ。

 

 信濃は艦戦を、加賀は艦攻・艦爆を中心に編成され制空権の確保は信濃に任せられた。加賀の艦載機は制空権を確保するまで出撃待機が命じられる。一種の掛けだった。

 

 開戦の狼煙は深海棲艦からだった。深海棲艦は沖合から島を艦砲射撃。見てから避けるを体現する艦娘には距離があることもあってまず当たらない攻撃だが、島には工廠があり何より入渠ドックと資源精製装置があった。命綱と言ってもいい。慌てて皐月と卯月に二つあるドックと資源精製装置を無理矢理回収させた。

 一度移動したドックは二度と再設置出来なくなる。仲間と離れる事を嫌がる妖精さん達が二日程かけて徐々に姿を見せなくなるからだ。精製装置も同じだ。しかも供給効率が格段に落ちる。これらは妖精さん達が完全に消えるとただの箱である。こうなるともう明石に頼むしか方法が無い。しかも一から作り直した方が早いレベルで。

 

 一時無力化していたおっさんが密かに移動すると同時に信濃が制空権を奪いにかかった。信濃の渾名は『ボーキ喰い』。一度の出撃で大量のボーキサイトを消費する事がある。この日がまさにその日だった。艦戦に大きな大きな被害をだしつつも経験と練度と技巧を以って制空権を強引に奪取した。

 

 すかさず加賀の出番である。加賀から発艦した十六機編成の六つの飛行部隊は深海棲艦の編成の急所へ、各編隊が二度つづ、都合十二回の爆弾の投下を行い西の空へ消えた。加賀に帰還し補給の後、再出撃するためだ。

 

 爆弾は戦艦、空母のみを狙い打ち、戦艦は大破以上、空母は中破以上を確実に狙った連続投下である。漏れた艦船もいるがこれは単純に深海棲艦が航空隊の数を上回っていたからである。

 

 そこに移動を済ませたおっさん艦隊の一斉射。同じく皐月、卯月、遅れて天龍が前線に飛び出し死の舞踏(ステップ)を踏む。そして信濃がボーキ喰いの名の通り、艦娘と直撃コースに入った砲弾の間に自らの艦戦を割り込ませる。艦戦が炎を上げ爆散した。

 

「ア-バヨ」

 

 艦娘の身代わりとなった艦戦から声が上がる。

 

 皐月は親指を立て感謝の言葉の代わりとする。その横を鳥海の放った砲弾が通り過ぎた。皐月の金髪が前方に流れた直後、爆風と深海棲艦の悲鳴がその髪を後方に押し流した。戦闘中皐月に笑顔はない。笑顔は戦いが終わり司令官に報告する時まで我慢する。その分皐月の笑顔はとっておきのものになる。無線からかわいい司令官の声が聞こえる。皐月は敵を引き付けるため、そしてかき回すため、更に前線に歩を進めた。

 

 

 

 

 天龍は戦場を駆け抜ける。決して立ち止まらない。超至近距離からのゼロ距離艦砲。軽巡洋艦以下の深海棲艦は沈むが重巡洋艦以上には効果は薄い。気合いだけではどうにもならない現実。それがどうした。元々役割が違う。オレの役目は盾だ。攻撃する盾だ。ただの盾は相手を殺さない。だが盾のオレは。

 

 軽巡洋艦ホ級が船体に穴を明けて轟沈。

 

「やっぱ戦場はこうでなくちゃな。逃げるのは性に合わねぇ。怖くて声も出ねぇかァ?オラオラ!」

 

 鳳翔の艦爆隊が翼を上下に振っていた。天龍への合図だ。声を張り上げながら軽空母ヌ級に接近する天龍。機銃の火線が流星群のように天龍を襲う。軽空母ヌ級の横っ腹に張り付き蹴りの反動を利用して即座に離脱。視界の隅に艦爆隊が見えた。軽空母ヌ級の悲鳴が上がる頃には次の獲物を決めていた。

 

 

 

 

 本人曰く、皐月や天龍ほどに回避は出来ない。卯月は自分の役割を二隻のサポートだと位置付ける。おっさんとの演習では皐月は小破未満、天龍は時間切れ間際に中破判定を受けたが、それまでは皐月と同様に小破未満だった。比べて自分はどうだ?三人のなかで唯一隻小破判定を受けた。故に自分は。

 

 声を張り上げながら駆ける天龍の頭上で深海棲艦の艦爆が降下体制に入っていた。機銃で投下前の爆弾を狙い撃った。信管を直撃した爆弾は爆発しもう一つの爆弾の誘爆を誘う。爆発の煙が同じく降下体制に入っていた艦爆数機を飲み込んだ。卯月はそこへ機銃の弾丸をばら撒いた。艦爆の数だけ爆音が上がり汚い花火が空を彩った。天龍は頭上の花火を無視し駆け抜けている。信頼されているのか馬鹿なのか。きっと両方だ。

 

「ぷっぷくぷぅ~!」

 

 皐月がまた無茶をしていた。戦艦に接近しチクチクと砲塔を攻撃している。いつもこうだ。だからうーちゃんは司令官に報告する戦果がいつも低いのだ。でも司令官は仲間を助けた回数を聞いてくれるのだ。それは深海棲艦を撃沈するより価値があるものだと。

 

 深海棲艦の副砲二門が皐月を狙う。撃ぅてぇ~、撃ぅ~てぇ~い!副砲は沈黙。今のは一回?二回?

 

「しれいかぁ~ん!がんばるぴょん!」

 

 戦いはまだまだ終わらない。

 

 

 

 

 

 

 提督とおっさんは深海棲艦との開戦初期から常に戦場を共にして来た。お互い今よりずっと若く、特におっさんの髪の色は黒々としており、見た目は年齢相当。一緒によく泣いた。そしてチビった。今では見る影もない。連戦共闘は当たり前。戦っては逃げ、逃げては戦い、両者共に旗下の艦娘を失った。必然お互いの旗下の艦娘もよく知ることになる。

 

 お互いの艦隊の長所、短所を知り尽くしているからこその連携攻撃。提督の演習の成績はおっさんと違い平凡だ。せいぜい上の下といったところだろう。だが同条件で、提督数が二対二の演習があったとするならばおっさんの無双艦隊の力もあるがこの二人に勝てる艦隊を探すのは難しい。相性が良すぎたのだ。

 

 提督は高台で戦場を俯瞰していた。そして先程から感じている違和感を払拭できないでいた。

 

 戦場での推移は当初の想定以上に進んでいる。負けるつもりはない。ないが確実に勝てる保証などなかった。制空権確保からの爆撃。そして高火力の砲撃で深海棲艦の脅威となる戦艦、空母の半数以上の無力化に成功している。機動力を活かした水雷戦隊が残存した脅威に圧力をかけ、摩耶達重火力が軽巡洋艦・駆逐艦を効率よく攻撃。加賀の艦載機は爆弾の投下を終えるとすかさず補充し、繰り返し艦載機を発艦。おっさん艦隊は移動を繰り返し脅威度の高い深海棲艦を優先的に狙い撃っている。

 

 上手く行き過ぎていた。過去、これ程の数を相手したことはないが、これより少ない深海棲艦の艦隊の方が手強かった様に思える。おっさんと話をする必要があった。

 

「はち。おっさんの所まで運んでくれ」

 

 この距離の移動では艦娘に影響はない。

 

 はちは提督を背負い、戦艦の砲撃の火が見える高台まで移動する。繰り返すが絵面は最悪である。

 

「おっさん大丈夫か」

 

「誰に言っている」

 

 おっさんは地面に腰を降ろし、磯波に支えられ上体を起こしていた。顔色も悪い。両足が無いせいか元々体力は低い。

 

「ずっとお休みも取らずに無理されてて……動くのもきついみたいです」

 

 いつ来るか分からない深海棲艦に備え、二人はこの数日まともに寝ていない。仮眠は交互に取っているが熟睡など出来ない。二人しか提督はいない。どちらかの戦力が低下した時点で負けは確定する。その上おっさんは遠征隊の指揮も取っている。疲労度は提督より高い。

 

「する元気はあっただろ」

 

「あの…それは私が動いて……」

 

「磯波。いらんことは話すな」

 

「あっ」っと気がついた磯波がおっさんの背中に隠れた。

 

「…あ、あの…恥ずかしいです……」

 

 提督、マジげんなり。

 

「そんなことよりあいつら様子が変だ」

 

一番最初の戦闘でなんとなく感じた違和感。おっさんは相手の間抜けに期待するなと言ったがこれではまるで。

 

「やっぱりあいつら統率が取れてない」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 戦闘は終盤を迎えていた。入渠で抜けた艦娘の穴を埋める様に加賀の艦載機が爆撃を繰り返す。回復した艦娘が復帰するのと交代で爆撃機は残った爆弾を投下し加賀の元に帰還する。信濃の艦戦だけでは制空権の確保が難しくなっていた為、鳳翔が編成を艦戦に切り替えその穴を埋めた。

 

 開戦間もなく重艦船の半数に大破・中破が続出し無力化された深海棲艦は数の優位性を生かせず、やがて戦線の維持が難しくなってきたのか徐々に交代し始めた。牽制の砲撃を繰り返し一定の距離を稼ぐと動けない深海棲艦を曳航しつつ水平線の彼方に消えていった。

 

 提督側は殲滅戦に移行しない。戦略上意味がないからだ。傷を追った深海棲艦は巣に篭り傷を癒やす。回復にはしばらくかかる。当分動けないはずだ。回復する頃には決着がついているはずである。追うだけ燃料と弾薬の無駄である。

 

 この戦闘で信濃は艦載機の七割を消失した。空母としての機能は失っていないが空母としての運用は難しくなっている。とは言え数倍に匹敵する空母郡相手に制空権を保ち続けた手腕は驚嘆に値する。以後、信濃は残った艦載機の内、最低限偵察・連絡用に必要な分を除き、全てを鳳翔と加賀に預け、自らは艦隊の盾となるようだ。また妖精さんと相談して工廠の廃棄された艦載機を修理するようなのでいくらは回復する見込みはあった。

 

「修復剤はケチるなよ」

 

 移動した二つあるドックのうち、一つは司令所、つまり提督のいるところに置かれた。もう一つのドックと資源精製装置は共に護衛艦へ運び、球磨が比較的安全な後方の沖合に退避させていた。

 

 戦闘中艦娘が休める時間は補給と無視できない被弾をし、入渠する時だけった。入渠中は無防備となるため設置場所は提督の近くしかなかった。このドックは今日にも使えなくなる。仲間の妖精さんが居ないため、櫛の歯が欠けたように妖精さんが居なくなっていく。護衛艦の方はまだましだろうが、それでも二日、持って三日程度だろう。

 

 艦娘とはなんだろうか?

 

 入渠ドックを見ながら提督は考える。提督の誰もが考え、答えの無い問。手にしたスキットルから一口二口。喉から胸にかけて焼けるように熱くなる。提督も長い付き合いとなるが、未だに不明な点が多い。

 

「これは…気持ちのよいモノですね」

 

 大戦中の艦船の魂が受肉し現代に蘇ったと言われる存在。魂と言われるものが存在するとしても、鋼鉄の塊に魂など存在しない。してはいけない。もし存在するとするならば人間などいる必要が無くなる。魂が輪廻し後世に脈々と継承していくとするならば、脆弱で貧弱な人間など必要なくなる。丈夫で頑丈な鋼鉄の塊が長い時間をかけて継承すればいい。きっと魂ではなく概念的な何かだろう。でなければ受肉と同時に記憶まで継承するはずがない。付喪神的な何か。

 

「お前……何見てんだよ」

 

 付喪神は神でなく精霊に近い存在とされる。付喪神的な何かとするならば神でもいいのではないか。では艦娘はさしずめ女神といったところか。妖精さんと言葉を交わし人智の及ばぬ摩訶不思議な兵器を携え、滅びゆく愚かな人間を憐れに思い無償の愛を以って人類を救済し続けてくれる存在。

 

「ガン見かよ。いい根性してんな」

 

 全ての艦娘は人を愛している。個人に向ける愛ではない。人類全体に向けての愛だ。さもなくば戦いの果てに己の存在全てを失い、記憶まで失って、蘇っても怨嗟の言葉を並べる事無く、報われる保証など何もないのにただひたすらに、ただ我武者羅に戦い続けることなどできるだろうか。自分をその身に置き換えて考えてみると、きっと心が折れる。いや。魂があるとすればきっと砕け散る。耐えられそうにない。精神面は人間と大差ない。泣き、笑い、怒り、悲しむ。だが有り様は高潔で清廉だ。人間の様に人の不幸を笑い、自己の身勝手な都合で怒ることなどない。艦娘達をこの世界に繋ぎ止める何かがあるのか。それは一体……痛い!!!

 

「いつまで見てんだよ!」

 

 目から星が出た。目の前に摩耶がいて拳を提督の頭に振り下ろしていた。勿論手加減は十二分にされている。さもなくば提督の首から上はとっくに無くなっている。

 

「え?」

 

 痛む頭を押さえ状況を確認する。摩耶の体に隠れているが、その向こうには入渠中の鳥海がいた。戦闘で負った被弾で身につけている丈の短いセーラー服とプリーツスカートがところどころ焼け落ち、普段から露出気味の肌が更にむき出しになっていた。スタイルは非常に良い。大きな形の良い胸を両腕で隠しているが、逆に上から押さえつける形となり、隠しても隠しきれない部分が両腕の隙間から溢れるようにはみ出しているのが見える。恥ずかしいのか頬を染め上目遣いに睨んでいるがチャームポイントの眼鏡がずれ、人によっては性的興奮を覚えるかもしれない。その上から無邪気な妖精さんがどばどばと高速修復材を惜しげもなく振り掛け鳥海の肢体を濡らす。高速修復材の色は白乳色をしている。粘度はなくさらさらとしている。つまり白濁している。頭頂から流れ出した白濁した高速修復材は頬を通り、口元に流れる。いくらかの高速修復材が鳥海の口内に流れ、驚いた鳥海が吐き出すとそれが顎先からぽたりぽたりと落ちていく。きれいな形を

した鎖骨にたどり着くと、やがて溜まった白濁は表面張力の限界を迎え豊かな胸の間にするりと落ちた。しかし液体は染み入ることなく両腕で隠すようにしているため、普段より強調された豊かな谷間の間にたまり続ける。次から次へと滑り落ちてくる液体にやがて我慢できなくなったのか決壊し、両腕を伝い脇腹へと続く。人の目には見えない僅かな隙間に染み入り、谷間の下部から同様に伝わった液体は可愛らしいお臍へと。そして。

 

「だからいつまで見てんだよ!」

 

 再び目から星が飛び出た。艦娘は慈悲深い。提督が深海棲艦ならば今頃結晶となり海の底に沈んでいるに違いない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――翌日

 

 前日の攻勢が嘘の様に深海棲艦の姿が消えた。多摩の報告でも本隊に動きはなかった。

 

 ここまで八〇隻近い深海棲艦を撃沈または大破・中破せしめている。二人の提督が数日で上げた戦果としては異常である。間引きとしても申し分なかった。あとは、この上でどこまで削れるか、どこまで時間を稼げるかである。

 

 警戒態勢を敷きつつ、提督は多摩と遠征中の駆逐艦を除いた全艦娘を集めブリーフィングを開いた。といっても食事をしながらで堅苦しいものではない。提督の手には昨日夜なべして作ったフリップがある。参加者全員の前で自説を唱える提督。

 

「敵は若い集団だ」

 

「つまりどういう事ですか?」

 

 はいっ!と右手を上げ、比叡が提督に質問した。

 

「フラグシップ型やエリート型がいない。誰か見たか?」

 

 全員が首を振った。

 

 深海棲艦は経験を経ると存在を変化する事がある。昔、提督の目の前でフラグシップ型に変化した戦艦ル級がいた。戦艦ル級の前には撃ち抜かれ轟沈した艦娘がいた。

 

「蜜蜂の分蜂みないなものが深海棲艦にもあるのかも知れん。群れを纏める個体の有無が何故あるのかはわからんが、この先の海域の巣には纏め役の個体が普通にいるのかもな」

 

 蜜蜂は、巣の個体数が一定数増えると新たな女王が群れを引き連れ分蜂、つまり巣分かれを行いあらたなコロニーを形成する。それを繰り返し生息範囲を広げていくのである。

 

 フラグシップ型、エリート型のいない若い集団。集団を纏めきれず全体としてチグハグな行動。おそらく個としては大きな力を持っていても経験不足から全体を纏めあげる事が出来ていないのではないか。

 

「見てくれ。奴らの行動を時系列で並べて見た。奴らの行動はこれで説明ができるはずだ」

 

 提督は手にしたフリップを全員に見せる。

 

 

 

  ① けっ!偉そうにしやがって。やってられっか!俺達だけでいくぞ!

     ぐあぁぁ!!

 

  ② 兄貴!リュージの奴がいやせんぜ。

     ちっ。何人か連れて探してこい!

    げーー!艦娘だーー!あ、兄貴に知らせないと!

 

   ③ なにぃ!あの時逃げた奴らだな!ヤス!若衆貸してやる。

     けじめつけてこいや!

    ぐはぁ!いいもんもってんじゃねぇか!覚えてやがれ!

 

   ④ なかなかやるようだな。だがそいつは我が四天王の中で最(ry 

          ←いまここ

 

 

 

「よくわかりません!」

 

「ならばよし!」

 

 提督は数日まともに寝てないので少し頭がおかしくなっている。

 

 ①は初日に囮で誘引した四艦隊。完全殲滅した。②で比叡がブレーキとなり撃ち漏らしが発生。情報がここれで漏れた。③は昨日の加賀を投入した戦いだ。そして④が今日。

 

「今まで戦ってきた深海棲艦がヤクザだとした場合、あいつらはチンピラの大集団だ。まとまりがある訳がない。力の差があるのも当然だ」

 

 力をつけた艦娘とまとまりのない深海棲艦。圧倒的な数の差もあり決して楽な戦いだったとは言えないが、異常な戦果の説明にもなる。

 

 

「となると次の行動は」

 

 提督はフリップを入れ替えた。

 

 

 

 

 

 New⑤ 儂の出番が来たようだな。全員カチコミの準備じゃー!

 

 

 

 

 

「ボスのお出ましだ」

 

 つまり本隊の大攻勢が始まる。

 

「ボスは力を見せつけなくちゃならない。失敗すれば群れは崩壊する」

 

 本来ならば巣で時間をかけ集団を形成して行くはずだったのだろう。しかしおっさんが突いたせいで状況が一変。

 

「突かれて巣から溢れたのも驚いて反射的に飛び出しただけなのかもしれん」

 

「それって()()()んじゃないですか?」

 

「どうかな。どの道やる事は変わらん」

 

 深海棲艦は旗艦を失った際、複数の行動をとる事が確認されている。概ね散り散りに逃散し、各個殲滅されるのだが、時には暴走した艦娘のように受けるダメージを一切無視して接近しての総攻撃を行う事がある。興味を持った何人かの提督が旗艦撃破の後に即座の撤退を行い斥候を放って様子を確認したことがある。散り散りになった深海棲艦は海を彷徨い、同じ放浪する深海棲艦と集団を組み始める。艦隊を組めるまでに纏まると旗艦を決め人のいる陸地を目指し始める。

 

 旗艦を務めるのは戦艦や正規空母、重巡洋艦が殆どである。だが稀に補給艦が旗艦となる場合もあり意味が不明であった。

 

 観察を続ける内、旗艦を失った艦隊がどういった条件で逃散し、暴走するかの傾向が見えてきた。確定ではないが概ね間違いないだろうという提督たちの結論である。

 

 つまり強く統制が取れ、纏まっている艦隊程逃散する。逆に纏まっていない艦隊ほど暴走し易い。

 

 様々な説があり、統率が取れていた分旗艦を失うと混乱を起こし逃散するのではないか。そして暴走する側は所謂寄せ集めであり、微妙な力関係の中で旗艦を失い、力を見せつけて旗艦に成り代わろうとしているのではないか、というのが有力な説だが深海棲艦は謎が多すぎて、概ね間違い無いのではないか?といった仮説の域を出ない。

 

 これまでの巣の攻略では集団を束ねる個体の確認は片手の指の数に足りない。しかもその個体は巣の奥に陣取り、たどり着く頃にはほぼ巣の殲滅は完了し、予備艦隊を含めほぼ無傷の艦娘中心に編成し直した連合艦隊の数の差でごり押しして来た。

 

 過去の事例は参考程度にしかならず、艦隊と巣の違いがある為一概に同列に並べる事は出来ないが、あばよくば集団を纏める個体の撃破を狙っていた提督にとって上手くいけば悪い話ではなかった。

 

 散り散りに逃散するのもよし。暴走するのもよし。暴走すれば勿論全滅は免れない。だがこれだけの集団だ。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 即座の援軍が望めない今、時間稼ぎとしては最高である。

 

「というのがおっさんと俺の見解だ。悪いが俺達と一緒に死んでくれ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 この日深海棲艦の攻勢はなかった。斥候らしき駆逐艦が遠巻きに観測をしているだけで、しばらくした後本隊に合流していくのが確認された。

 

 夕食を皆と済ませ、天龍は妖精さんを頭に乗せ散歩を楽しんでいた。明日以降の戦いについて思うところは色々あった。食事を一緒にした艦娘たちは動揺した気配もなく普段と変わらぬ様子に見えた。皆長い付き合いだ。天龍とさほど変わらぬ心持ちだったのだろう。今は決戦に備えてそれぞれが思い思いに時間を過ごしていた。

 

「ツカレター」

 

「頑張ったな。お陰で助かったぜ」

 

 遠征隊は一時休養を取っていた。連続の遠征で動力の艤装に一部不具合が出ている駆逐艦がいたためだ。満足な修理は出来ないが、もしも深海棲艦が逃散した場合の事を考え念のためメンテを含めての一時休養だった。

 

「コノアトマダデル」

 

「ご愁傷様」

 

 妖精さんも疲れるのか天龍の頭でぐったりしている。いやリラックスしていると言うべきか。

 

 結局この妖精さんの正体は何だったのか。妖精さんは既に気にしていないようだが、天龍としては妖精さんの存在を確固たるものにしたかったので、時間のない今残念に思う気持ちはある。そして今日の別れが今生の別れになるかもしれない。

 

 星空を見ながら散歩を続ける。本土にいた頃とは比べ物にならない数の星が空に張り付いている。艦時代に良く見た星空だ。深海棲艦の来襲で産業が打撃を受け、大気は綺麗になった。それでも三六〇度の全天に広がる星空は本土では見れない光景だ。妖精さんも星空をぼへ~と眺めていた。

 

 懐中電灯の光が見えた。艦娘には不要だ。おっさんには磯波がついている。つまりあれは提督だ。

 

「よう。星空の散歩か?粋じゃねぇか」

 

 天龍は笑いながら声をかけた。提督にそんな趣味はない。あんな話の後だ。きっと誰かに呼び出されたのだろう。

 

「天龍か」

 

「おう天龍様だぜ」

 

「ヨウセイサマダゼ」

 

 どんな話をしていたのか想像する。こいつの事だ。抱擁の一つもしなかったに違いない。

 

「これ貰ってな」

 

 聞きもしない事を自分から言い出す始末。相変わらず朴念仁を演じているが知らぬは本人ばかりなりってな。

 

「ん?なんだ?お守りか」

 

 提督が手にしたお守り。手作り感はあるが、丁寧に縫製され作り手の想いが感じられた。

 

 あぁ成る程なと天龍は思った。昔、戦地に赴く男性に験担ぎで送られたものだ。艦時代に自慢するもの、悔しがる者、羨む者、色々見てきた。

 

「効果が無くなるから決して中は見るなって」

 

 そりゃそうだろ。オレだったら顔から火が出るわ。

 

「ま、そういうこった。艦娘には色んな力があんだよ。言うことはちゃんと聞いとけ」

 

 そんな力などない。自分で言っておいて天龍は寂寥感に襲われた。そんな力があればもっと救えた。

 

「オレだから良かったけど、あんま言いふらすなよ。そういうのは黙ってた方がいいんだよ」

 

「んが!?わ、分かった」

 

 天龍は寂寥感を吹き飛ばすように提督の襟を引き寄せ顔を近づける。この馬鹿は馬鹿だが、素直でもある。釘を刺しておけば大丈夫だろう。ゆっくりと手を離した

 

「ちゃんと休んどけよ。お前人間なんだから無理すると倒れるぞ」

 

 艦娘にもちゃんと疲労はある。人間の疲労とは根本的に違うものだが。睡眠は必要だが、その気になれば二四時間ぶっ通しで一週間は戦闘可能だ。被弾を回復する必要があるので実際には無理だが。可能性があるのは知る範囲で皐月くらいだ。 

 

「今、おっさんが仮眠を取ってる。その後交代で寝るけどな。倒れたくねぇし」

 

 お互い言葉の矛盾に気がついている。

 

「もちょっとしたらオレも戻るわ。じゃあな」

 

「ジャーナ」

 

 天龍は手をひらひらさせて別れる。もう少し散歩を続けたい気分だ。あ、そうそう。これくらいは言っておくか。天龍は振り返り提督に微笑んだ。

 

「なぁ。今まで楽しかったな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 明けて翌日、深海棲艦の本隊が動きだした。

 

 

 




( ゚Д゚)y─┛~~
こんな予定に無いこと書いてるからいつまでも終わらないんだと今日気がついた。
削って削って巻きに入ります。

後、当初回収する気がなかった伏線を拾っているのも問題。
投げ捨てなきゃ(使命感

目処?ついてないよ。

後一回か二回でほんとに終わり。もう知らね(開き直り
今回チェックしてないので妖怪ゴジ・ダツージいるかも。見かけたらそっと放置してやってください。

次回?知らん。

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