【完結】妖精さん大回転!   作:はのじ

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終わりは決まってるんですけど最後に行くまでの過程が大変。
素人なので四苦八苦してます。

最終話が三話か四話構成って事で……
終わる終わる詐欺でほんとすんまそん。



【重要】
 このお話には艦隊これくしょんで実装されていない、または実際には就航されなかった艦船もいてたりします。ただイメージ出来ない艦娘を出しても味も素っ気もないのでフレーバーですが。これは、僕の設定上の都合ではあります。ですのでタグに【ご都合主義】を追加しました。

追加のタグとして【残酷な描写】【鬱】も追加しています。合わせてご注意下さい。


最終話 Thank you for all the fairies(二)

 鳳翔は薄紅色の和服を(たすき)で縛り直した。日常で使用する襷とは分けて使っている。知っているのは天龍だけだ。誤解されがちだが天龍は女性の機微に敏い。艦娘を女性と定義していいのかだが。

 

 きっかけは料理だった。ただひたすらに戦い続けた日々。比較的後方に位置し守られることが多かった鳳翔ですら泥に塗れ、何度も地を這いながら航空機を飛ばし続けた。やがて沿岸、近海へと戦場が移動し艦娘として本領を発揮できる段になった時、心と時間に余裕が出来た事に気がついた。戦場で戦う時を除けば、艦攻艦爆すら偵察機代わりに次々と離発着させ僅かに空いた時間を利用して妖精さんと艦載機の修理を行っていたのにだ。多くの仲間と連携し、偵察や修理も分担化・効率化され鳳翔がするべき作業は少なくなっていた。食事は揃って食べる機会が増えた。『食べれる時に食べられるだけ食べる』が決まった時間に。軍用糧食(レーション)を食べながら誰かが言った。「美味しくないですね」。食事で味の話題が出るようになっていたのだと嬉しくなった。ふと見ると誰も使用した形跡がない真新しい厨房。いつか誰かが気づく。でもまだ誰も気がついていない。ならば。一番最初に私が使っても問題ありませんよね。

 

「よろしければ、私に料理を作らせてもらえませんか?」

 

 鳳翔の料理を食べるために食材を手土産に持ってくる提督、艦娘が増えた。無理はしない。一番は提督だ。それに戦うことに支障がでれば本末転倒だ。だが出来てしまう。料理は楽しかった。

 

 ある日。少年らしさが抜け青年へと変わった提督が布の束を鳳翔に渡した。鳳翔の襷も艤装だ。戦場での艦娘をよく知る提督も日常の艦娘はまだ理解しきってなかった。鳳翔は「大事に使わせてもらいますね」と礼を言った。事実(つくろ)いを繰り返し今でも大切に使っている。艤装の襷は提督から貰った襷とよく似た色合いに改修済みである。

 

 提督が口にする料理に戦場の匂いを持ち込まない。

 

 襷を縛り直す行為はただそれだけの単純な想いから来たものであると同時に戦場と日常を切り替える一種の儀式めいたものでもあった。

 

「風向き、よし。航空部隊、発艦!」

 

 日本で初めて、そして世界でも最初に竣工した航空母艦鳳翔。航空機の離発着の技術に於いて鳳翔の右に出るものはいない。妖精さんの練度も高く、鳳翔の誘導による離発着を楽しんでいた。

 

 射法八節。弓術から弓道に昇華した弓に於ける真髄の一つである。足踏み、胴造り、弓構え、打起し、引分け、会、離れ、残心。乱暴に説明すると弓道に於ける矢を放つ八つの手順を名付けたものである。下半身と上半身の土台(足踏み  胴造り)を作り、射に至る準備が(弓構え)出来ると弓を持ち上(打起し)げ、弦を引く(引分け)。当たると確信する()まで構え、自然と手が離れた瞬間に(離れ)矢が放たれる。油断することなく気(残心)持ちは残せ。

 

 鳳翔は和弓を用いて艦爆機を発艦させる。そこに射法八節の名残はない。その気になれば洋弓でも転がった枝に紐をくくりつけただけの簡易な弓でも妖精さんが憑き艤装化すれば何も問題なかった。手に馴染んでいる。それだけの理由で和弓を使用していた。だがその所作は美しい。何百、何千、何万と繰り返してきた動作だ。弓道では早気(はやげ)と呼ばれ嘲笑の的になる(かい)の無い早打ちも鳳翔にとっては自慢の技術である。一射する毎に五秒も一〇秒も待ってなどいられない。

 

 放たれる矢に連動し、瞳と同色の濃灰色(ダルグレー)のポニーテイルが左右に揺れる。放たれる間隔が余りにも短いため、楽しげに駆け回る馬の尻尾の様にも見えた。やがてポニーテイルの揺れが止まる。

 

「みなさん。よろしくお願い致します」

 

 上空で旋回を繰り返し編隊を組み終わった艦爆隊は鳳翔に返事をしながら提督の支援要請があった方角へ飛んでいく。妖精さん達が艦爆機にぶら下がり楽しそうにしている。妖精さん達の機動に問題ないことを確認した鳳翔は偵察機を飛ばして各所と連絡を取るべく次の動作に入った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「来た。皐月下がれ」

 

 戦艦ル級に肉薄し行動を阻害していた皐月が提督が出した無線からの合図で後方に下がる。

 

 怒りに震える戦艦ル級が直線で逃げていく小さな蟲に砲塔を向けた瞬間、背中にチクチクと痛みが走る。振り返ると赤っぽい色をした小さな蟲が距離を置いて攻撃していた。二匹の蟲から繰り返される嫌がらせに戦艦ル級は砲撃の時期(タイミング)を逸らされ続け精神的抑圧(ストレス)を溜め込んでいた。小さな痛みも蓄積している。イライラが募り少しでも解消しようと一際大きな雄叫びを上げた。それが戦艦ル級の断末魔の悲鳴となった。

 

 鳳翔が射出した艦爆隊が戦艦ル級の上空からギリギリ上昇可能な位置まで急降下し爆弾を投下したのだ。

 

「ヒャハーショウドクダー」

「キタネェハナビダゼー」

「ナムナム」

「ハズシチャッタ。テヘペロ」

 

 着弾と同時に幾つもの爆炎と轟音が上がる。炎に包まれ戦艦ル級は轟沈。艦爆隊は艦戦隊が制空権を確保した空域を、軽くなった機体を揺らしながら次の出撃に備えるべく鳳翔の元に帰還していった。

 

「殲滅完了。次だ。移動するぞ。比叡。泣くな。さっさと移動しろ」

 

 提督とおっさんは艦隊を分けた。二箇所で別個に戦闘をこなしていた。現在提督の旗下にあるのは比叡、鳥海、摩耶、鳳翔、卯月、皐月の六隻、おっさん旗下は、富士、土佐、近江、伊吹、天龍の五隻。駆逐艦は磯波を除いて妖精さんを連れて遠征中。多摩と球磨は深海棲艦の本隊を観測しつつ、加賀、信濃、鳳翔の三隻から発艦した偵察機と情報を共有・精査・分析している。信濃と加賀は燃料とボーキサイト節約の為もあるが、深海棲艦の本隊に備えて温存。本格攻勢が始まれば遠慮なくぶつける予定だった。

 

 天龍はおっさん指揮の下、一隻で囮役をこなしている。一日でコツを掴んだのもあるが、三隻での囮役が生温かったらしい。

 

 ここに艦娘の妙な特性がある。提督が一定の距離にいなければ本来の力を出せないことは何度か述べた。提督とおっさんの現在の彼我の距離は一定の距離を超えている。本来ならば艦娘は全力を発揮できないはずである。この場合は、比叡、鳥海、摩耶、天龍がこれに該当する。だが諸兄はお忘れかもしれないが、提督は基地に赴任する際旗下の艦娘を、数隻知り合いに預けている。つまり提督と艦娘のお互いの合意が前提となるが、一時的に艦娘の指揮権を譲渡する事は出来るのだ。その際艦娘側に違和感が発生するようだが、戦闘には支障はない。便利な特性であるが、問題もある。あくまで一時的であるのに加え、本来の提督に危険があると、艦娘に知られれば指揮権は簡単に喪失する。そして艦娘の暴走の可能性は否定出来ない。戦闘中に離脱、暴走されれば最悪全員の命に係る。通常、一時的とは言え指揮権を譲渡する提督はいないが、提督同士と艦娘がお互いに信頼する関係であれば例外は存在していた。この編成はその数少ない例外であった。

 

 提督は囮として回避前衛を。おっさんは殲滅力を提供。お互いをカバーする布陣であった。しかし問題はいつでもどこでも想定外に発生するものである。

 

「ひえー!当たってぇ!当たってぇ!お願い!当たってぇ!何で!?当たってぇ!お姉さま!」

 

 比叡。まさかの大ブレーキ。比叡が消費する弾薬のコストは資源換算で卯月の八倍強。天龍の五倍。摩耶の一.五倍強である。湯水のようにとは言わないが考えなしに撃ちまくられては堪ったものではない。

 

「やばい!比叡ご乱心!摩耶!比叡を殴ってでも止めろ!皐月は前に出て戦艦の足止め!卯月!フォロー頼む!鳥海は残敵掃討!鳳翔!航空支援要請!標的は戦艦ル級!」

 

 偵察機からの連絡を受け、先回りし先制攻撃を仕掛けていたのが幸いした。鳳翔から発艦した艦戦隊は軽空母ヌ級の頭を押さえ敵航空部隊を無力化。艦娘全員で一斉射撃をしたところまではよかった。戦艦ル級は比叡が、重巡洋艦リ級二隻を他の艦娘五隻で確実に沈め、返す刀で無力化した軽空母ヌ級は皐月と卯月、残存の軽巡洋艦ト級と駆逐艦二級は摩耶と鳥海が仕留める算段だった。

 

 結果、戦艦ル級は無傷で残存。他は当初の予定通り。予定通り行かない事は想定済み。新たに指示を出そうとしたところ、想定外の比叡ご乱心。比叡は、ひえー!お姉さま!と叫びながら当たらぬ砲撃に混乱し、混乱が乱射を生み、更に混乱の深みに嵌っていた。

 

そして冒頭に戻るのである。

 

 

 

 

 

 

 

 

      最終話 全ての君たちにありがとうの言葉を(Thank you for all the fairies)(二)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 戦闘は三隻の空母から発艦させた艦載機を利用し情報網を形成。多摩・球磨が情報を一元管理、各戦地に情報を下ろし地の利を最大限活かす事に成功していた。おっさんは誘い込み、固定砲台からの一撃殲滅。そして提督は先回りからの先制攻撃、そして可能なら追撃、一撃離脱を繰り返す作戦に出た。

 

 時には山野を駆け、時には入江を疾走。正面からの戦闘を極力避けた。被弾の確率を最小限にし継戦能力を維持。手数が足りない時は航空支援を要請し敵戦力を一掃する場面もあった。提督は艦娘の移動に自力では追いつけないため、伊8に背負われての移動である。絵面は最悪である。

 

 一撃離脱であるため撃ち漏らしも当然いる。残存した深海棲艦は撤退の後、本隊に合流。新たに再編成されていると観測隊から連絡が入っていた。

 

 当初は殲滅作戦を予定していたが作戦の変更を余儀なくされた。

 

「お姉さまぁ」

 

 作戦変更の原因が摩耶の目の前で膝を抱えて項垂れていた。

 

 比叡は提督とおっさん旗下の艦娘の中では間違いなく最大の火力を誇る。調子に乗ればピンポイントで旗艦の狙い撃ちも行う。装甲も厚く機動力も高い。一線級を堂々と張れる戦艦である。

 

「つまり金剛(お姉さま)に会えない寂しさを富士達戦艦(お姉さま)で紛らわしていたけど、皆と離れて突然艦隊の中核にされた事で精神的不安(ストレス)を抱えてしまったと?」

 

「はい。そのようです」

 

 鳥海が比叡と話をした。提督は報告を受けた。

 

「お姉さまぁ……」

 

 情けないとは思わない。生まれてから少しずつ自らを形成していく人間とは違い、艦娘はこの世に存在した瞬間から完成している。力なく項垂れ金剛()に救いを求める姿も比叡のあるべき姿である。

 

 かと言ってこのままでもいけない。おっさん艦隊の戦艦の一隻と変更しようにも、機動性の問題で無理だった。富士、土佐、近江は高速戦艦と呼ばれる比叡のような(速度)がない。今の移動を繰り返す作戦は成立しない。もし変更が可能だったとしても精密さを比叡に求めるのは難しい。おっさん艦隊に比叡の居場所はない。

 

「……お姉さまぁ……」

 

 変更はしない。戦艦の存在感は圧倒的だ。居るだけで相手にプレッシャーを与える。直ぐに復活するのは無理かもしれない。それでも比叡を信じて待つしか無い。艦娘はいつでも信じた分以上に応えてくれた。提督は決断した。

 

「比叡。編成の変更はしない。金剛()に会えない寂しさは俺には分からない。会わせてやれないのは申し訳なく思う。でも今は全員の力を合わせなくちゃならない。俺達にはお前の力が必要なんだ。比叡」

 

「……」

 

「比叡?」

 

「んぅ… はっ!何ですか!?寝てません!寝てませんてばぁーっ!」

 

「う、うん。次から撃つのは最初の一斉射だけでいいから……」

 

「はいっ!比叡!頑張ります!」

 

「鳥海さん……あと宜しくお願いします……」

 

「はい……」

 

 そう。信じただけ、いや信じた以上に艦娘は応えてくれるのだ。

 

「全員、休憩終わりだ。移動するぞ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 この日の夜、資源と援軍要請求めて本土に向かっていた白雪が戻ってきた。

 

 援軍は来ない。

 

 

 

 

 

 

 

 話は少し遡る。

 

 おっさん提督が後方基地の提督に援軍要請をした翌日、白雪は本土の政府特別鎮守防衛府に資源を、在籍する提督達に援軍の要請をするべく休憩を挟むこと無しにひたすら海上を駆けていた。一秒遅れるごとに提督が、仲間が死に近づく。脅迫観念めいた心理でただひたすらに駆け抜けた。

 

 本土に近づけば近づくほど通信の感度は良くなる。白雪は無線を繋げるが、常なら誰かしら連絡役として常駐しているはずのなのに繋がらない。何度も何度も繰り返すが返事は一切ない。それでも白雪は呼びかけ続けた。

 

 艤装が悲鳴を上げ、慌てて飛び出した妖精さんが海水で冷やすが焼け石に水。燃費を一切考慮に入れていなかったため、陸地にたどり着く直前に燃料が切れ、残りの数百メートルを泳ぐ羽目になった。艦娘がである。形振り構っていられなかった。

 

 政府特別鎮守防衛府に辿り着いた白雪は提督達に助けを求めるべく各提督の執務室に何も考えず飛び込んだ。ノックなどする余裕など無い。失礼な行為だが彼らなら笑って許してくれる。

 

 居ない。

 

 別の部屋へ。居ない。別の部屋へ。居ない。居ない。居ない。

 

 理由は分からないが提督も艦娘も誰もいなかった。

 

 きっと誰かいるはず。間が悪かっただけだ。そうだ。先に資源を確保しないと。

 

 白雪は資源を管理する資材管理部に駆け込み助けを求めた。誰でも良かった。助けて欲しいと。

 

「お願いします!助けて下さい!提督が!みんなが!」

 

 この場に艦娘がいたなら驚いただろう。普段から落ち着き物静かな白雪が大声を出すなど滅多にないからだ。

 

 職員は突然の乱入に驚くが、相手が艦娘だと分かると関わりを避けるように視線を避けた。

 

「お願いします!皆が戦っているんです!資源が必要なんです!」

 

 誰もが無視する中、一人の女性が笑顔で名乗り出た。資材管理部の部長だった。

 

「静かにして下さい。話なら私が伺いましょう」

 

「ありがとうございます!」

 

「ではあちらへどうぞ」

 

 逸る気持ちを抑え応接室に案内された。

 

「では、最初から詳しくお話し願えますか?」

 

 そんな時間ないのに!叫びたい気持ちを抑え、白雪は事情を説明する。深海棲艦が大量に現れた事。今直ぐ資源が必要な事、大至急援軍が必要な事。知っている事を全てを話した。部長は相槌のみで静かに聞き手に徹していた。白雪が話し終えると部長は口を開いた。

 

「わかりました」

 

「それじゃあ!」

 

「資源申請は所定の窓口で形式に従って申請して下さい」

 

「え?」

 

「申請書は当然、提督の自筆である必要があります」

 

 何を言っているか理解出来なかった。

 

「書類に不備がなければ審査の上、一週間程で準備出来るかと思います。勿論審査が通らなければ諦めて頂くか、記載内容を見直して頂き再度申請して貰うことになります」

 

 この人は何を言っているのか?私がおかしいのか?

 

「今直ぐに必要なんです!」

 

「申請もなしに出せる訳がありません」

 

「書類書きますから!お願いします!」

 

「話を聞いていなかったのですか?提督の自筆でなければ受け付けません」

 

「他の提督にお願いしますから!」

 

「そんな理屈通るわけがないでしょう。規則を守って下さい」

 

 そんな。今までの時間はなんだったのか。

 

「……他の方法はないのでしょうか」

 

 白雪は溢れそうになる涙を必死に抑えて部長に尋ねる。

 

「残念ですが規則でそう決まりましたので。それと言いにくい話ですが貴方の提督、資源納付のノルマずっと未達ですよ。我々としても非常に困っていますので先日……」

 

 白雪は部屋を飛び出した。こんな所にいられない。どれだけの時間を無駄にしてしまったのだろうか。最初から自分たちが遠征で集めた資源を持ち出すべきだった。

 

「あ。ちょっと待ちなさい!話を最後まで……」

 

 向かった先は提督に貸し与えられている埠頭の倉庫だ。そこにみんなで頑張って集めた資源と精製済みの燃料・弾薬を置いている。

 

 置いているはずだった。

 

 倉庫は空だった。

 

 ぽつんと残った資源精製装置に手持ち無沙汰な妖精さんが座り、足をぶらぶらさせていた。白雪に気付いた妖精さんは笑顔で駆け寄り何か話しかけてくる。いつもなら幸せな気持ちでお話をするのに妖精さんの声が何も聞こえない。両の瞳から知らずに涙が溢れていた。

 

「ちょっと!待ちなさいって言ったでしょう!話の途中で出ていかないで下さい。これだから艦娘の評判が落ちるのよ。私達の努力を無にする気ですか?少しは気にかけなさい」

 

 部長が追いかけてきた。

 

「先程の続きですが、ノルマが未達なのであなた達が、溜め込んでいた資源を法令に則って接収すべく代執行しました」

 

 資源を押さえられていた。

 

「あなたちずっとノルマ無視していたでしょう。こちらとしても計画した予算通り納めてもらわないと困るんです。提督なんて呼ばれ浮かれる気持ちもわかりますが、あんなに溜め込んでいるのですから責任をちゃんと果たさないと」

 

「分かって下さいますね。これも国の為なのです。この国は資源に乏しいので必要なことなのです」

 

「この国はこれから復興へ向けての大事な時なのです」

 

「あなた達はこの国を支える支柱の一人であることを光栄に思い、自覚をもってこれからも活動しなければなりません」

 

「代執行しましたが、先月と先々月のノルマ分が未回収ですので来月必ず納めるよう提督に伝言お願いしますね」

 

「後日、未納の件について将軍が話を伺いに来られるそうです。お忙しい方なので日程が決まるまで出撃は控えるよう伝達がありました」

 

 

 

 

 

 

 

 白雪は自分が何処を通って来たか覚えていない。気がつけばおっさん提督の執務室の前に来ていた。これからどうすればいいか分からなかった。頭の中はぐちゃぐちゃで何も考えが纏まらない。

 

 提督、指示を下さい。私はどうすればいいのでしょうか。

 

 少し前まで皆で笑ってイたのに。深海棲艦と戦った後、ほっトして皆デ声を掛け合ッテ今日ノ食事は何ダロうナンテ言ウなカマガイテ。

 

 ワタシハコンナトコロデナニヲシテイルンダロウ。ミンナガタタカッテイルノ二。ソウダ。ワタシモイカナイト。ハヤクミンナノトコロニイカナイト。テイトクトイッショニシンデアゲ……

 

「あら白雪、どうしたの?巣の調査終わったの?」

 

 え?

 

「南西の巣に、おじさまと向かったって聞いたけど、え?どうしたの?顔の色が真っ青よ!?こっちに来なさい。いいから座りなさい。これ飲んで落ち着きなさい」

 

 初風さん。助けてください。

 

「何言ってんのよ。そんなの当たり前じゃない。何があったか教えなさい」

 

 みんなが見たこともない大群と戦っているんです。燃料も弾薬も足りないんです。提督は死ぬつもりです。お願いします。

 

「そう。分かったわ。ほんとあいつらどうしようもないわね。私のところもやられたの」

 

 どういうことですか?

 

「妙なタイミングで巣の大規模同時攻略の指示が来てね。空と陸の提督も訝しんでたんだけど、いい加減うるさいから攻略の計画を前倒ししたのよ。いま殆どの提督がそれに付きっきりなんだけど、もしかしたらおじさまの居ない隙をねらっていたのかもね」

 

 そんな!どうしましょう!?

 

「大丈夫。なんとかするわ。私の提督が何か怪しいからって私をここに残しておいたの。他にも残っている艦娘()達がいるから連絡とってみるわ」

 

 ありがとうございます!初風さん!

 

「礼は不要よ。今回の事、私の提督に連絡済みなの。みんな呆れていたわ。ノルマ未達って、そんなはずないでしょう。全部持っていったんだからお釣りどころか10年分以上先払いしてるわよ」

 

 もう何が何だかわからなくなってきました。

 

「あなたはここで休んでいて。連絡とってくるから。それと女の子がそんな顔してちゃいけないわ。ちゃんと直しておきなさい」

 

 そんなに酷いですか?

 

「元がいいから泣いてる顔も可愛いわ」

 

 そんな。

 

「それと取られた資源だけど、昔みたいに襲撃するかって笑ってた提督もいたわ。どのみち取り返すみたいよ。ほんと馬鹿よね。じゃ行ってくるわ。待っててね」

 

 

 

 

 艦娘と連絡が取れた白雪はその足で後方基地に戻った。戻るための燃料、弾薬は初風が工面してくれた。

 

 即応は不可能。

 

 その情報を持って白雪は海の上を後方基地に向かってひた走る。だが白雪の顔に涙の跡はない。瞳には希望を見つけた者特有の光がある。人間達が思っている以上に、提督達の横の繋がりは強い。白雪は、そして艦娘たちはそれを誰より知っているのだから。

 

 

 




二話以内で終わります(断言


次は目処がついたら。

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