【完結】妖精さん大回転!   作:はのじ

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よっしゃ。設計図げっとん。誰を改造しようかな~。

よし!利根!君に決めた。ポチッとな。

!!!!!

こいつ下着履いてねぇ!(白目!




【重要】
 このお話には艦隊これくしょんで実装されていない、または実際には就航されなかった艦船もいてたりします。ただイメージ出来ない艦娘を出しても味も素っ気もないのでフレーバーですが。これは、僕の設定上の都合ではあります。ですのでタグに【ご都合主義】を追加しました。

追加のタグとして【残酷な描写】【鬱】も追加しています。合わせてご注意下さい。

 そして物語の中の艦娘たちはゲームと違って指揮に従い的確に、効率的に敵を狙います。モニターの前で「戦艦!こっち狙ってくれよんしんちゃん(白目」って呟く提督は存在しないのです。毛根に優しい艦娘ですね^^


最終話 Thank you for all the fairies(一)

 護衛艦(イージス艦)を海軍から供出させた事は既に述べた。

 

 開戦当初、沿岸地域で戦う内はよかった。河川から侵攻を始めた深海棲艦に対して艦娘率いる提督たちは、機動力を削がれるものの、時には正面から、時には人工物などを遮蔽物として、人形(ひとがた)から射出されるとは到底思えない火力を活かして戦っていた。

 

 戦場は内陸から沿岸へ。そして艦娘達が本領を発揮する近海へと移動する。ここで問題が発生した。提督たちが海上を移動する手段がないのである。一時しのぎとして打ち捨てられたクルーザーや漁船、タグボートを利用した。時には艦娘に曳航させた手こぎボート上から指揮を取っていたこともある。だがこれにも問題があった。提督の護衛に複数の艦娘を配置する必要があるため、艦隊全体で見れば戦力の低下を招いていた。ここで登場するのが護衛艦(イージス艦)である。

 

 全長162メートル

 全幅23.5メートル

 基本排水量12,000トン

 

 肝であるイージスシステムこそ使用不可であるものの、明石と妖精さんの改造で妖精さんを宿らせる事により、人員不要の運用上超超低コスト船舶となった。使用出来ない現代兵装を完全オミットし機動力と通信機能、そして何より薄かった装甲の大幅強化を中心に、兵装は最低限の対空機銃と対潜魚雷のみ。艦内にある全ての制御盤は全てデジタルからアナログへと変更され、妖精さんが心地よく居憑(いつ)けるようにしている。『艦娘の警戒網をすり抜けてきたらとりあえず時間稼ぎしながら逃げよう。一発大破しなけりゃ問題なし』がコンセプトの司令部の出来上がりである。重量級の深海棲艦を中心に戦う一部の提督は使い捨て扱いする場合もあり、その度に明石が文句をいいながら楽しそうに改修を行っている。ちなみにこの護衛艦、後方基地に移動してから一度も動かしていない。燃料節約の為だ。メンテナンスは妖精さんが憑いて日常的に何かしているらしいので不要だった。地味にチート船であったりする。

 

 ただ、この護衛艦。提督が一人乗船するだけでは動かない。護衛艦を動かす妖精さんへの指示が提督達の妖精さん特性値(Yo-Sei)では完全に伝わらず、思いもよらない機動をしてしまうのである。そこで。

 

「出るぞ。はち。頼む」

 

「戦闘は…あまり好きじゃないけど、仕方ない」

 

 艦娘が一隻、提督と一緒に乗艦し、提督が機動を艦娘に伝え、艦娘が妖精さん達に指示を出す伝言ゲーム形式を取ることになった。支払うコストは前線で戦う艦娘の最低限の戦力の低下のみで、艦娘が最大限のパフォーマンスを発揮出来る環境が整ったのである。提督と乗艦する艦娘は、護衛艦が大破した場合など、いざという時提督を抱えて逃げる最後の命綱ともなる。おっさん提督は磯波がこれにあたる。

 

 乗艦を共にする艦娘は火力に乏しい者、作戦にそぐわない者が選ばれる事が多い。後は提督達の好みである。複数の提督が連合艦隊を組んだ際、一隻の護衛艦に相乗りして前線の艦娘の戦力を確保するといった手段を取ることもある。

 

 提督の場合、編成に組み込むには少し癖のある伊8を選ぶ事が多かった。

 

「天龍、卯月、皐月、警戒頼む。はち。出せ」    

 

「発進準備お願いしますね」

 

「ヘイヘイステンバーイステンバーイ」

「ケイセンサクポイポーイ」

「スラスターアレ?ミギヒダリ?ドッチ?」

「ミギカジテーイ」

「ヒダリゲンユックリネ-」

「アキタ」

「モウハッシンジュンビOKデイインジャネ?」

 

「提督、大丈夫みたいです」

 

「進路。南西へ」

 

 

 

 

 

 

 

      最終話 全ての君たちにありがとうの言葉を(Thank you for all the fairies)(一)

 

 

 

 

 

 

 

 

「見えました」

 

 伊8が後方基地に向かってくる艦娘達を見つけた。星明かりの中では距離もあり提督の肉眼では見えない。暗い海の中でも深海棲艦を狙い撃てる伊8ならではである。

 

「向こうも確認できたみたいです。手を振ってます」

 

「近づいて回収してくれ。話がしたい」

 

「あの辺りで停めてくださいね」

 

「コキツカイヤガッテー」

「ハーイ」

「ア!マヤダー!オーイ!」

 

 しばらく進むと提督の目にも艦娘の姿が確認出来た。提督は甲板に移動して艦娘達を待つことにした。

 

 艦娘達は護衛艦が停泊する前に船体をするするとよじ登ってきた。最初に姿を見せたのは鳥海だった。おっさん艦隊の一隻である。その後も次々と姿を現す。

 

 

 戦艦   富士、土佐、近江、比叡

 正規空母 加賀、信濃

 重巡洋艦 摩耶、鳥海、伊吹

 軽巡洋艦 多摩、球磨

 駆逐艦  磯波、白雪、初雪、深雪、浦波

 

 

 おっさん艦隊の全容である。ただ一人で重編成の艦隊を二つ組むことが出来る提督は他にいない。甲板に上がってきたのは、富士、土佐、近江、信濃、摩耶、鳥海、伊吹の七隻。いずれも大きな損害はないが少し疲れた顔をしていた。

 

「お久しぶりです」

 

 鳥海が代表して挨拶をした。

 

「あぁ久しぶり。悪いが補給は少し待ってくれ」

 

「ケチケチしやがって」

 

「摩耶!」

 

 摩耶と呼ばれた艦娘を鳥海が窘めた。

 

「よっ」

 

 摩耶は片手を上げ、窘められたことなど気にせず摩耶らしい挨拶をした。摩耶に悪気は一切ない。提督も分かっている。

 

「資源がねぇんだよ。大型砲の弾もない。悪いが島に戻っても補給は最低限にしてくれ」

 

「話には聞いてましたが……」

 

「この甲斐性なし」

 

 艦娘に悪気はない。提督も分かってる。分かっていても苛つくのは仕方がない。人間だもの。

 

「うるさい。それとここまで来てもらって悪いが、一度現場を見たいから付き合ってもらうぞ。その間に話を聞かせてくれ」

 

 疲労の色の濃い艦娘には別室で休んでもらい、艦娘数隻を艦橋に連れていき話を聞くことにした。話を聞いた所、こうだった。

 

 どうやら指揮をとる個体がいる可能性が高い事、ただし視認は出来ていない。離散集合を繰り返し六隻編成の艦隊を組み始めている事。正確な総数は不明ながらも二〇〇隻は超えてないだろうとの予測。現場では軽巡洋艦が駆逐艦と組み、交代で観測を続けている事。

 

 話を聞いて提督の血の気が引いた。数が尋常ではない。一〇〇を少し超える程度だと思いこんでいた。一〇〇でも多いが数を減らす程度ならなんとかなると思っていた。単純に倍だが母数が違う。まともにぶつかると勝負にすらならない。

 

「もう少し先に艦娘(みんな)がいるはずです」

 

 鳥海が観測している艦娘の居場所を教えてくれた。

 

「分かった。はち。連絡艇を降ろしてくれ。少し見てくる。エンジンは止めるなよ」

 

「提督、はちも一緒に」

 

「誰が船を見るんだよ。待機だ。。天龍聞こえるか?引き続き周囲の警戒頼む。摩耶、一緒に来てくれ」

 

「おう。いいぜ。怖いなら、あたしの後ろに隠れていてもいいんだぜ」

 

 縄梯子で連絡艇に乗り込む際見上げると、はちの寂しそうな顔が暗闇に浮かんでいた。

 

 乗り込む際に、

 

「おまえどこ触ってんだよ!ぶっ殺されてぇかぁ!?」

 

「お前が俺の上に乗ってるんだろうが。当ててんのか?」

 

「当てるわけねぇだろ!お前ウザいぞ!」

 

 ハートに言葉をグサグサ突き刺されながら連絡艇は出発した。

 

 観測場所に近づくとエンジンを止め、摩耶が連絡艇を曳航する。この時点で会話は止まっていた。摩耶に引かれながら提督は前方を見つめる。闇夜の中何も見えない。見えないが、過去に経験をしたことがない密度でどろどろとした怨念めいた決して相容れない存在の気配を感じた。見えない渦を巻き瘴気の様にゆらゆらと立ち昇っていくようだ。

 

 いち早く連絡艇に気がついた多摩が初雪に教え到着待つ。慣性で進む連絡艇を多摩が体で受け止め停止させた。

 

「状況は?」

 

 挨拶なしに様子を確認する。

 

「日が沈んでから活動が止まったにゃ。日が沈む前に六隻編成で二艦隊が島の方に向かっていったにゃ。見なかったかにゃ?」

 

「浦波が…知らせに向かった」

 

 初雪が情報を補足する。

 

「両方見てない。すれ違ったか。まずいな。霧は?」

 

「今も出てるにゃ」

 

「支配海域広げようとでもしてんのか?球磨と深雪は?」

 

「後方で…休んでる」

 

「分かった。これ補給と食糧だ球磨と深雪にも渡しといてくれ」

 

「にゃあ♪」

 

「ありがと…がんばる…」

 

 軽巡洋艦と駆逐艦の補給ならなんとかなる。摩耶を見た。羨ましそうにしていた。にやりと笑ったら摩耶の顔に井桁が浮かんだ。後でぶっ殺されかねない。

 

 多摩達軽巡洋艦と駆逐艦の砲弾は島に保管しているものと規格が同じなので問題はない。だが、重巡洋艦や戦艦のものなど妖精さんに頼まないといけない。明日には少量ながら用意出来るだろうが、無いものは無いのだ。よし言い訳完了。

 

 提督は闇の先を見つめる。提督自身が偵察に来ること自体に意味は無い。だが二〇〇もの深海棲艦を束ねる個体の存在を否定出来ない程の凶悪な悪意を体感出来た事に意味はあった。

 

「摩耶、戻るぞ。多摩、初雪。何かあったら知らせてくれ」

 

「にゃ」

 

「…ん」

 

 多摩が連絡艇を押し勢いを付けた。摩耶はそのまま連絡艇を曳航する。護衛艦に戻った提督は基地に戻るよう指示をだし、仮眠の為艦橋を退出。基地に戻る頃には暁の水平線が太陽を迎えていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「乙提督、いらしてたのですか」

 

 後方基地に戻った提督は、プレハブ建屋一階の食堂にいたおっさんと磯波、そして人間の女性を見つけた。女性はおっさんに一方的に話しかけているが、おっさんは相手をせず、磯波はおっさんのお世話に忙しい。

 

 海軍が用意した、後方基地の提督秘書だった。そして胸は大きい。繰り返す。胸は大きい。海軍への報告で本土に移動していたが、タイミング悪く今朝の定期便で戻ってきていた。提督は彼女の事をすっかり失念していた。

 

「あら、提督。只今もどりましたわ」

 

 再会に内心苦虫を噛み潰すが、深海棲艦の脅威が迫っている今、非戦闘員を全員避難させる必要がある。

 

「戻って来て早々悪いが料理人と一緒に直ぐ島を出てくれ。深海棲艦の大群が見つかった」

 

「嘘を言って追い出そうなんていけませんわ。本部に報告しますわよ」

 

 秘書の口癖だ。秘書は提督が嫌いだ。艦娘という女性を侍らせ、いい気になっているのが気に入らない。自分の女性としての魅力を無視するのが気に入らない。左遷に自分を巻き込んだ事が気に入らない。何もかもが気に入らない。

 

「おっさん。説明してないのか?」

 

「わしゃ食うのに忙しい。磯ちゃんや儂の飯はまだかいの」

 

「おじいちゃん。今食べてるでしょ?」

 

 ボケ老人と孫がいた。ホームなのに敵しかいないのか。おっさんは当てにならない。おっさんの軍嫌いは提督の比ではない。ため息が出そうだが、なんとしても出ていって貰う必要がある。

 

「残るのは自由だが命の保証は出来きない」

 

 秘書は提督の真剣な様子に追い出すための口実ではないと理解した。騙されて追い出されては自らの評価が下がるが、正当な理由があるならばこんな何もない島などにいる必要はない。

 

「……どうやら本当のようですわね。わかりましたわ。むしろ堂々と戻れるんですもの。喜んで出ていきますわ」

 

 厨房の料理人に声を掛け、さっさと出ていく秘書に声をかける。

 

「ちょっと待て。頼んでおいた戦略物資はどこだ?」

 

「戦略物資?あぁ。いけませんわ提督。お酒も煙草も体に良くありませんわ」

 

「金渡しただろ!?」

 

「あらやだ。あれは出張手当でしてよ。どうしてもとおっしゃるなら本部に連絡して精算してはどうかしら。それでは行きますわね。提督、戦果期待していますわ」

 

 天龍の言葉が正しかった。

 

 秘書と料理人の二人が出ていくとおっさんがうんざりした顔で口を開いた。

 

「……行ったか。海軍は何故あんな女を寄越こす。理解に苦しむわ」

 

「昔は張り切ってたんだよ。色仕掛けとか!色仕掛けとか!」

 

「無駄な事を。艦娘より佳い女などおらんよ」

 

 秘書にもだがさり気なく惚気けるおっさんに苛つく。どうしようも無く煙草を吸いたくなった。おっさんも喫煙の悪癖を持っている。

 

「おっさん。煙草よこせ」

 

「断る。今となっては貴重だ。最期の一本は残しておきたい」

 

 おっさんは断固断った。しかし、例え最後(・・)の一本だろうが諦められない。妥協点はきっと見つかる。対等の関係を崩したくなかったが土下座でもなんでもしてやる。提督は椅子に座るおっさんの前で両膝を突きおっさんににじり寄った。

 

「頼む。最後まで吸わない。一口!先だけ吸って返すから!」

 

「何故お前の吸いかけを大事に持たねばならん。断る」

 

「お願い!先だけしか吸わない!先っちょだけだから!」

 

「ええい。鬱陶しい。離せ」

 

 提督は頭を下げた。おっさんの義足の膝部分に額が当たる。頭は下げるがやはり土下座は嫌だった。だがしかし提督はその分、誠心誠意真心を込めてお願いをした。

 

「先っちょだけ吸わせてください!」

 

 これ程想いを込めてお願いをしたことがかつてあっただろうかいやない多分きっと恐らく。そして提督の熱意は奇跡を呼ぶ。

 

「あの……提督…お食事をお持ちしました……置いておきますので、どうぞごゆっくり……」

 

 提督は鳳翔を追いかけたが、人間の足で艦娘に追いつくはずがない。

 

「馬鹿者が。鳳翔に遊ばれおって」

 

 艦娘は優秀である。人間のように間抜けな勘違いなどするはずがない。

 

 おっさんは煙草を取り出すと口に咥えた。それに磯波が火を点ける。煙草はおっさんの精神を落ち着かせる戦略物資である。磯波が切らせる事などそれこそあり得ないのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なぁ、おっさん。鳳翔に事情説明するとしてセクハラにならないか?」

 

 提督は想像する。

 

 鳳翔違うんだ!俺は煙草の先を吸いたかっただけであって、おっさんのおっさんの先っちょを吸いたかった訳じゃないんだ!

 

 ないわー。

 

 ちょっと待て。鳳翔は毎日俺の部屋を掃除してくれる。頼んだことじゃないが、暗黙の了解になっている。今日おっさんと磯波は俺の部屋で寝てた。鳳翔にその部屋を掃除をさせた。

 

 ないわー。

 

 混乱した提督はぽんこつだ。

 

「ほれ」

 

 おっさんがカートンで煙草を提督に投げた。提督は呆気に取られながらも受け取る。

 

「やっぱり持ってたか!」

 

「次から磯波に言え。それより深海棲艦の件だ。どうした?」

 

 火が点いた煙草を指で挟んだ提督が頭をふらふらさせている。

 

「いや。久しぶり過ぎて頭がくらくらする」

 

「馬鹿者が。浦波が報告に来た」

 

「初雪に聞いた。艦隊二つだそうだ」

 

「四艦隊に増えている。経験則だが距離からして昼過ぎには現れるだろうな。奴らが馬鹿ならその後も小出しで来るだろうがいらん期待はせん方がいい」

 

 提督の予想も同じである。常であれば余程の事がない限り二艦隊が四艦隊に増えようが問題がない。おっさんの艦隊は倍程度であれば数の不利を容易にひっくり返す。だが今はその余程の時である。満足に出来ない補給。後ろに控える深海棲艦の大規模な本隊。海上で正面切っての艦隊戦は提督も選択肢から外している。

 

「で、なんか作戦考えてんのかよ」

 

「お前考えとらんのか?」

 

「……」

 

 提督は旗下の艦娘を分けた後に後方基地に来ている。以前ならまだしも現在の編成で艦隊戦はしたことがない。案は出ない。出るのはテヘペロくらいだ。

 

「近頃の若いもんは……その変な顔は止めろ。昔演習でやりあった事覚えているか?」

 

「あったな。ボロクソのやられっ放しだったけど」

 

「要は燃料、弾薬の消費を抑えながら、時間を稼げればいい」

 

 笑顔を浮かべたおっさんに提督は嫌な予感がした。

 

「お前の得意戦法でいくぞ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 あの色ボケがぁぁぁ!!!!

 

 ドライスーツに身を包んだ提督は、伊8に抱えられて海の中を移動していた。水上艦が水面を滑るように疾走するのと同様に潜水空母も水中を飛ぶように移動する。

 

 艦娘が戦闘で着用する服は艤装の一種である。艤装の多くが、見た目から想像できない性能を持つように伊8が身に付ける水着も多機能であった。ただ肌にぴったりとフィットしている分、装甲は薄い。これは伊号潜水艦全般に言える。

 

 水平方向の機動を主とする水上艦に対して潜水艦は、縦方向の機動が加わる。しかも人間が一般的に使用している船舶と違い艦娘の機動は急制動・急旋回・跳躍等、人形(ひとがた)ならではの変則的なものを可能としている。当然ながら発生する加速度()は人間に耐えられるものではない。

 

「これこれ。体が軽いぜ。久しぶりだなこの感じ」

 

 水は人間が思っている以上に重くて硬い。上空から水面に墜落した人間は煎餅のように潰れるし、膝下程度の川の水流でも簡単に押し流される。

 

 伊8に頭を抱きかかえられ、水の抵抗を極力抑えようとされるが、水の重圧は容赦なく提督を襲う。機動の度にみしみしと全身の骨が軋む音が聞こえる。エアタンクもレギュレーターも使用しない。使えば加速度()で体ごと持っていかれる。60秒のインターバルで水面に浮上し呼吸時間3秒で再潜航。これも提督の命を守るためだ。提督との久しぶりの潜行で伊8は使命感に燃えていた。

 

  ――お前の水雷戦隊は回避が異常に上手い。

 

 おっさんとの演習で提督は逃げに徹した。六隻編成で始まった演習は、小破未満六隻と、殆どが無傷のおっさんに対して、提督は大破三、中破一、小破一、小破未満一で時間切れを迎えた。天龍は逃げに徹する作戦にフラストレーションが爆発し、時間切れ間際に特攻をかまし中破判定となった。

 

 提督の部隊は囮だ。天龍、卯月、皐月が深海棲艦の艦隊をおっさんの指定した殺し場に誘い込み、島の高台で固定砲台と化した富士、土佐、近江の戦艦三隻による一撃必殺の超精密射撃。最大火力を誇るのは比叡であるが、ムラッ気があるため外された。

 

「うびゃあ~。しんかいせいかんぴょん。にげるぴょ~ん」

 

「わ~~~~。にげるよ~。ボクのあとに、ついてきて~」

 

「怖い怖い。あ~やってらんねぇ」

 

 三隻三様。聞くものが身の毛がよだつ程の恐怖の悲鳴を上げながら、引き離さないように、時には立ち止まり、時には切り返し逃げる。艦娘の足元には伊8に運ばれる提督。

 

 あれ?これ意味なくね?

 

 艦娘は提督が一定の距離にいることで全力を発揮する。但しここまで近づく必要はない。この距離が必須ならば開戦初期に提督達は全滅している。おっさんに押し切られた形で頷いてしまったが、ここまでする意味は全くないどころかデメリットしかない。

 

 三発の砲撃音が聞こえた。着弾と思われる轟音の後、水中から見上げると水面一面が紅蓮の炎に包まれていた。伊8が浮上する。その機動に提督の肺が悲鳴を上げて溜め込んでいた空気がごぼごぼと溢れた。

 

 水上に顔を出し慌てて肺に酸素を吸い込んだ提督の目の前に六隻の深海棲艦が炎を上げながら沈んで行くのが見えた。二隻同時狙撃。砲撃の時間にわずかもずれが無いため砲撃音が一つに聞こえる。二隻同時に狙い、撃つ事は誰でも出来るだろうが、それを精密に当てる事は難しい。艦娘の中でも十隻いるかどうかだろう。

 

 沈みゆく深海棲艦の結晶化が始まっていたが回収する余裕はない。天龍達が次の獲物を誘い込むため移動を始めていた。満足に空気を吸う間も無く提督の頭はとぷんと海の中に沈んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 都合四度繰り返した所で、伊8が所持する無線から磯波のノイズ混じりの通信が聞こえた。

 

「……殲滅…了しまし……帰投し……下さ……」

 

 提督は息も絶え絶えに返信する。

 

「……了解…。磯波…おっさんの酒…なんでもいいから…回してくれ……」

 

 その帰り全身に力が入らず、伊8の背にぐったりと背負われ水面を移動する姿に「お前は亀の甲羅か」と天龍達に笑われた。

 

 

 

 

 

 

 

「食事は補給しながらだ。艤装は仕舞ってもいいが即応出来るようにしておけ」

 

 艦娘達も歴戦だ。おっさんに言われるまでも無く自分がすべき事は理解している。。だが艦娘としての本能が指示を求める。提督と艦娘の関係は知らない者が見れば軍隊に似ていると思うかもしれない。だが全く違う。根本にあるのは信頼である。

 

 鳳翔と軽巡洋艦の多摩・球磨コンビで深海棲艦の観測を行う事になっている。日中は鳳翔が偵察機と足の長い艦載機を飛ばして。日が沈んでからは本人曰く、高い闘争本能に起因する高精度な勘と暗闇をも見通す目で。出来ないことを出来ると言わないので安心して任せられた。

 

 精製した燃料・弾薬は島の各地に小分けに分散して配置してある。いざという時の為だ。工廠ではフル稼働で妖精さん達が頑張ってくれている。先日までの開店休業が嘘みたいである。妖精さん達も楽しそうにしている。昨日の大量獲得がなければ今も開店休業待った無しであった。だが資源は夜半迄には尽きる程度の量だ。

 

 艦娘に食事が行き渡るのを確認したところでおっさんの元に食事が運ばれた。磯波が磯磯と、あ、違った急急(いそいそ)と世話をし始めた。そこにげっそりとした様子で提督が現れた。

 

「目が覚めたか?」

 

 おっさんが投げたスキットルを片手でキャッチし軽く一飲み。中身はZAKIYAMAの鼾だ。

 

「目が覚めるどころか意識が飛びかけたわ!」

 

「……まぁいい。自分の頭で考えんから痛い目にあう。勉強になったな」

 

 作戦は単純だった。回避を得意とする水雷戦隊が前線で敵を引きつけ、戦艦が仕留める。燃料を大量消費する戦艦を陸上で固定砲台とする事で燃料を、一撃必殺の精密射撃で弾薬の消費を抑える。それでも弾薬の消費は水雷戦隊の比ではないが天龍達の火力では短時間での決着は難しい。選択肢が少ない中で効率を重視した結果である。戦場は限定されるが、深海棲艦に気が付かれるか、本隊が動く決戦までこの戦法で数を間引くつもりである。

 

「動きを見た感じ、統率は取れてないな。数多すぎて混乱してるのかも知れない。お陰で助かってんだけど」

 

「無いとも言い切れんが敵の間抜けに期待するな」

 

 提督の元にも食事が運ばれた。

 

「おっさん。過去に深海棲艦が巣から溢れた事があるのか?」

 

「いや。聞いたことがない」

 

 お互い経験は豊富だが、提督は一年もの間、前線を離れ、その間他の提督たちは巣の攻略を幾度も行っている。この経験の差は天と地ほどの差がある。

 

「お前も知っている通り、艦隊を組んだ奴らは人のいる陸地を目指す傾向がある。基地の人員を返した今、艦隊を組んだ奴らは儂ら目掛けて向かってくるぞ。お前か儂かどちらが魅力的だろうな」

 

 おっさんはフォークで食材を突きながらくくくと笑う。

 

「おっさんが突かなきゃよかったんだろ」

 

「何。早めに対処できてよかったと思うべきだ。それに儂もここまで大きいとは思っとらんかった。一当てして撤退くらいの軽い気持ちで行ったらこうなった。反省もしとらんし後悔もしとらん」

 

「でもよ……」

 

 おっさんはフォークを食材に、ずどん!と突き刺して提督の言葉を遮る。海軍支給の軍用糧食(レーション)だ。実に不味い。朝食はそうでもなかった。鳳翔は偵察からまだ帰って来ていない。つまりそういうことだ。関係ないことを考えながらおっさんは提督のこの一年がどういうものだったか理解した。

 

「お前、いつまで腑抜けているつもりだ?今日お前がやったことは無意味だ。お前も分かってやってたはずだ。お前が体を張る必要など全くない」

 

「じゃあなんで……」

 

 食事を続ける気がないおっさんに磯波がお茶を用意する。

 

「あの数がそのまま本土向かえば、各地で大きな被害が出る。奴らが陸地に根をはったらどうなるかわかっておろう」

 

 ここで食事をしている殆どが理解していることだ。

 

「またあの戦いを繰り返したいか?儂はごめんだ。奴らを叩き返すのにどれほど犠牲を出したか忘れたとは言わせん」

 

 提督、艦娘共に多くの犠牲が出た。轟沈した艦娘は建造されたが記憶を失った。

 

「他の提督も各地で戦っている。その最中に背後を突かれてでもみろ。そうなったら儂は死んでも死にきれん」

 

 深海棲艦が他海域の深海棲艦と連携をとって戦うなど聞いたことはない。だが今までなかったからといってこれからも無いと何故言えよう。深海棲艦は仲間をかばう行動を取る。仲間或るいは小集団の長を守ろうとしている。力で押さえつけているだけではあり得ない行動だ。

 

「儂らはここを死守せねばならん。分かるか。死守だ。後は他の奴がなんとかしれくれよう。その為の時間稼ぎだ。いい加減覚悟を決めろ。時間を稼いで、その上で最大限間引くぞ」

 

「……悪かった」

 

 見方を変えればおっさんは提督に死をもたらそうとする死神だ。おっさんが来なければ提督は後方基地で今ものんびりと資源の少なさに嘆きながらのんびりとしていただろう。そして準備が間に合わぬまま深海棲艦の大群に飲み込まれ無意味な死を迎えていただろう。だがおっさんは来た。提督を頼って来たのだ。もし逆の立場だったらどうだっただろう。勿論おっさんを巻き込む。悩む余地などない。お互いそういう関係だ。そしておっさんは不満の一言も漏らさず淡々と成すべき事を成し、力及ばぬ時は磯波と共に最期を迎えるに違いない。なんだ単純じゃないか。

 

 提督の表情から状況をやっと理解したかとおっさん内心ヤレヤレだぜ。

 

「お前にとっても久しぶりの前線だ。幸か不幸か今は予行演習(リハーサル)と言ってもいい状況だ。温くなったお前には丁度よい。数が少ない内に勘を取り戻しておけ。お代は儂らの命だがな」

 

「おっさん。正直すまんかったと思ってる」

 

 提督は本気で頭を下げた。でも土下座なんてしてやんない。

 

 ふん、と鼻で笑ったおっさんが立ち上がろうとするのを磯波が支える。

 

「例の妖精さん借りるぞ。弾を中心に集める。固定砲台に燃料はいらん。燃料は全部お前が使え。艦娘も何隻か預ける。自由に使え」

 

 妖精さんの特異性は早々に知られていた。艦娘相手に隠すのは不可能だった。興奮して聞いてきた比叡以外には詳細を説明してある。

 

「一緒に船乗るんじゃなかったのかよ」

 

 艦隊を分ける。つまりおっさんは船に乗らないということだ。

 

「前線は任せた。年寄りに楽させてくれ」

 

 おっさんは提督に背を向け歩き出した。皐月が見ていたならこういっただろう。「照れるおっさんもかわいいね!」と。

 

「磯波。駆逐艦を集めろ。楽しい楽しい無限遠足の時間だ。懐かしかろう?」

 

 磯波はおっさんの顔を見てにっこりと微笑んだ。

 

 




最後まで書いて一気に投稿しようかと思いましたがいつまで経っても終わらないのでとりあえず前後編で分けました。後編は6割位書いてますが、なかなか進まぬでござる。

次を本当に最後にします。終わる終わる詐欺ですみませぬ。

次回 10日以内には。
または5-3突破したら。糞マップ!

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