蛇足です。
埠頭で煙草を燻らせた提督が釣り竿を下げていた。誰にも荒らされていないので島全体が釣りの穴場となっていた。
提督はこの一ヶ月、晴れの日は、日がな一日釣り糸を垂れていた。提督業は開店休業状態。海軍から晴れて謹慎を申し付けられ、釣った魚で食事に一品を追加するという有意義な一日を過ごしていた。
足音が聞こえた。天龍だろう。遠征終了の報告をするためだ。報告をされても謹慎中。何か出来るわけでもなし。提督は煙草の火を消した。
「遠征終わったぜ」
「お疲れさん」
提督は一言ねぎらうと釣りを続けた。近くに座り込んだ天龍は何をするでもなくそれを眺める。
遠くで魚が跳ねた。雲が静かに形を変えていく。
お互い何を思ってか静かに時が流れる。
「悪いが俺達と一緒に死んでくれ(( ー`дー´)キリッ」
「止めて下さい死んでしまいます」
提督は降参した。提督の被害は甚大だ。
「ばーか。死ぬ気もねぇのに人の真似なんかするからだ」
「悪かったな。お前の真名開放と一緒でどうかしてたんだ」
「止めて下さい死んでしまいます」
天龍は降参した。天龍の被害は甚大だ。
また二人は無言になった。提督が一二匹目の魚を釣り上げた。
「龍田に会った」
「へぇ。元気にしてた?」
龍田。天龍型二番艦の軽巡洋艦である。龍田は昔提督の旗下にあった。今は別の提督の下で戦っていた。比叡と金剛の関係を見て、天龍も思うところがあったのかもしれない。
「初めましてだってよ」
天龍自身、姉妹であるにも関わらず八年の間会うのを避けていた。八年前の龍田の耳には花をあしらったイヤリングがあった。
「そうか……」
提督と天龍の胸に、幾つもの思い出が去来する。
「そうか」
「……」
提督はもう一度呟くと静かに釣りを続けた。天龍も静かに空を見上げた。
潮騒の音が聞こえる。
遠くで海鳥が鳴いている。
雲間から日の光が降り注ぐ。
提督が魚をばらした。
風がざっとふいた。
「鳳翔からお守りもらってたろ?」
天龍が会話を続ける。
「ん?あぁ。ご利益あったみたいだな。お陰様で五体満足」
激突前に鳳翔から呼び出され渡されたお守りだった。護衛艦は嫌というほど攻撃を受けたが妖精さん達が優秀で提督自身は打ち身や擦り傷はあったが怪我らしい怪我は一切していない。
「玉に当たったことがない鳳翔のお守りだから効果は抜群だったな」
「あぁ?鳳翔は何度も被弾してるぞ」
「そうだな」
天龍は珍しくニヤニヤと嫌らしい笑いを浮かべた。訳わからんとばかりに提督はそれ以上の追求は止めた。
提督の竿に一三匹目の魚がかかった。
「やっと鳳翔に穴あけたんだな」
増設補強である。ここ最近は穴をあける提督はいない。深海棲艦との開戦初期から轟沈する艦娘に穴をあけた者が非常に多かった。海に生きるものはジンクスを大事にする。いつしか提督の間で増設補強をする者は少なくなっていた。穴を開けた艦娘は前線を離れ、提督の側で公私に渡りサポートする事が多い。磯波の様に。
「まぁな。預けてた奴らも戻ってきたし、資源も妖精さんのお陰で心配なくなったし。戦力的には問題なくなったしな」
提督もジンクスを気にする口だ。
「つまらねぇジンクスだよ」
天龍には何故穴をあけた艦娘が轟沈したのかよく分かる。練度の低かった昔は体を張るしかなかった。特に穴の開いた艦娘は輪をかけて提督への思い入れが強かった。
穴を開けた艦娘はひと目で分かる。花をあしらったイアリングをしている。鳳翔の耳にあり、磯波の耳にもある。増設補強。穴をあけるとはつまりそういうことだ。
「何年かかってんだよ。ヘタレが」
「まぁ俺らもお前ら意味不明過ぎてビビってたんだろうなぁ」
艦娘と提督の付き合いは九年。長いようで意外と短い。
「龍田とはすぐだったろ?」
「酒で潰れて覚えてないですし……」
開戦初期は殆どの提督が恐怖を酒で誤魔化していた。提督も未成年でありながらその時に酒と煙草を覚えた。龍田が当時何を思っていたか今ではもう分からない。ただ提督を庇って沈んだ。分かるのはそれだけだ。
提督が一四匹目の魚を釣り上げた。釣果としてはもう十分だ。
「天龍。人間好きか?」
提督は竿を仕舞いながら自分でも愚問だと思う質問を投げた。
「当たり前だろ。お前も含めて馬鹿が多いけどな」
天龍は僅かの躊躇もなく肯定する。
無償の愛。艦娘達の根底にある基本理念だ。報酬を受け取らず、命すら投げ出す。深海棲艦から人間を守るため艦娘は戦い続けてきたのだ。提督も人間だ。艦娘の優先順位の最上位が提督であるというだけである。
「おっさんが新しい組織立ち上げるからこないかって連絡が来た」
提督は宿舎に向け歩き出し、ついて来てるであろう天龍に言う。
「へぇ」
「政府特別鎮守防衛府が機能しないどころが、足引っ張り回るからいい加減鬱陶しいそうだ」
「だろうな。話を聞く限り軍と大差ないだろ」
白雪から聞いた話は艦娘達を本気でドン引きさせた。
提督たちは無法者と呼ばれるが、それは政府と軍の視点からである。深海棲艦を倒し、人類を護る目的のためなら現行の法律など提督たちには何の意味もない。新組織立ち上げで横槍が入ったとしてもおっさんなら力技で乗り切るだろう。
「海軍抜けるのか?」
「陸と空の提督もこの件で、愛想つかしたらしくて退官するらしい。政府と陸空軍は大混乱。海郡は大喜び。戦果独り占め出来るとかおもってんだろうなぁ」
提督の口ぶりから、身の振り方は既に決めている様子である。天龍達艦娘は組織に興味はない。提督についていくだけだ。
「組織の名前決まってんのか?」
「ん?なんか地域の名前を頭に冠するだけの単純なものらしい」
「なんて言うんだ」
「たしか……」
――鎮守府 だってさ
おわり
あとがき
隠しというか裏設定が大量にありまして、僕はそれに沿って書いていたつもりなのですが、読み手の方は訳がわからず置いてけぼりにされていたと思います。
秘書の方とか厨房の人とかもそうです。
秘書の人は要するに提督を引き入れる為に海軍が用意したハニートラップ要員。でも途中からやる気なくなって、ただの監視役になったけど、たまに提督を誘惑したりする(成功すれば人生勝ち組み)ぱいおつかいでーな人ですし、厨房の人は某沈黙のコックさん並のスペックを持つ二重スパイ。他にも艦娘はなんで女性の人形をしているとかなんで提督を自分で探すとか、オリジナルと建造艦の違いは?とか、提督って一体なんなの?とか、妖精さんの存在ってどういうものなの?とか。色々独自に定義してました。その辺は晒しても意味ないので全部うっちゃってしまいました。なので伏線ちっくになった部分多々あると思います。ある程度は回収はしたと思います。
最大の裏設定は、実は妖精さんは転生オリ主だってことですかね。転生に失敗した元人間だったりします。失敗したので、記憶を完全に失ってただの妖精さんになってます。元人間の残滓は残っておらず魂の性質のみ継承。転生失敗なのでチート特典の記憶はないけど、特典自体は所持していたって感じです。神様っぽい表現あったでしょ?(ゲス顔
ただトラックに引かれた学生さんではなく、特定の条件に引っかかる人間でした。まぁこれもあんまり意味ない設定ですが。
蛇足が蛇足をくっつけてのたくってるような内容ですが、これにて本当に終幕。
おつきあいありがとうございました。