【完結】妖精さん大回転!   作:はのじ

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設定みたいなものなので見なくても大丈夫です。


プロローグ

 鳳翔が挙動不審な天龍を見つけたのは、提督から許可を貰った厨房での作業を終え、出撃の準備をする為工廠へ向かう途中の事だった。最前線で戦う艦隊のサポートを目的に周囲三キロ程度の小島に簡易施設を建設した泊地とも呼べない後方基地。当然人員も最低限であり、厨房のスタッフも一人しかいないので艦娘の嗜好を満たすには程遠い。そこで鳳翔は提督に提案し自ら厨房の手伝いを買って出た。趣味と実益を兼ねた活動であったが、鳳翔らしく決して出しゃばらずあくまで手伝いという立場を崩さずにいるため人間、艦娘双方に概ね好評であった。

 

 天龍は胸元に何を隠すように抱え、提督執務室のあるプレハブ二階建の一号建屋の入り口を入ろうか入るまいかといった風情でウロウロとしていた。天龍の表情は困っているようであり、それでいて入口付近を行ったり来たりするコミカルな天龍の挙動に鳳翔は思わずクスリと笑ってしまう。

 

 鳳翔と天龍の付き合いは長い。それこそ提督の指揮の下、艦隊を組めるようになる前からとなる。当然お互いの気心も知れ気を遣う間柄でもない。

 

「天龍さん。どうかされましたか?」

 

 ビクリと肩を震わせ驚いた天龍だったが、相手が鳳翔であることに気が付くとほっとしたのか落ち着いた様子を見せた。

 

「おぉっ!。って鳳翔か。脅かすなよ」

 

「ごめんなさい。何か悩み事があるのかと思って」

 

「な、悩みだぁ?こ、この天龍様に悩みなんかあるわけねぇだろ」

 

 目を泳がせながら強がる天龍に対し、この子は本当に素直で真っ直ぐでかわいい子だなと鳳翔は思った。

 

「そうでしたか。私の勘違いのようですね。何か困ってらっしゃるのかと思って、つい声を掛けてしまいました。それでは私は行きますね」

 

 軽く会釈し去ろうとした鳳翔に慌てて天龍が声を掛けた。

 

 天龍からしてみれば鳳翔は意地を張る相手ではない。抱えている問題に気が向いている所に急に声を掛けられ混乱していただけである。逆に鳳翔であれば安心して話が出来る。

 

「待ってくれ鳳翔!……悩みじゃねぇんだけどよ、ちょっと相談に乗ってくれねぇか?」

 

「相談ですか」

 

「おう。これ見てくれねぇか」

 

 天龍は胸元に抱えた黒い何かを鳳翔に見えるようにそれの位置をずらした。

 

「これは?」

 

「遠征中に拾ったんだけどよ、これどう思う?」

 

 黒く見えたのはそれが着ている服だった。厚手の生地で縫製されたそれは男子中高生が着る学生服、学ランと呼ばれるものに似ていた。

 

「お人形ですか?」

 

 全長は二十センチ程。全体的にふっくらとしており二頭身。顔の造作も精工に出来ている。容姿は幼くそれが学生服とのミスマッチで鳳翔からすると非常に愛らしく見える。瞳は閉じられており寝ているようである。人形かと問うた鳳翔であったが、それはまるで生きているように見えた。

 

「触ってみろよ」

 

 鳳翔の問いに答えることなく促す天龍。ゆっくりと掌をそれの頬に当てるとほんのりと温かい。鳳翔の掌の接触に反応したのかそれはむずがるように体を震わせた。驚いた鳳翔は手を思わず引いてしまう。

 

「天龍さん。この子!」

 

 鳳翔はそれが何であるか、初めて見た時から本能では理解していた。しかし視覚からの情報が理解を妨げていた。それは天龍も一緒だった。触れて確信に至ったがそれでも。

 

「おう。人形じゃねぇぜ。見た目はこうだけど、そうなんじゃねぇかな」

 

 鳳翔と問題を共有する事で気持ちが楽になった天龍は意味なくにやりと笑った。

 

「だってこの妖精さん()、男の子ですよ!?」

 

 鳳翔は自覚なく『妖精さん()』と呼んだ事に気が付いていない。

 

 それは妖精さんの特徴を多く備えていたが、たった一つの差異があった。男形であること。それが天龍と鳳翔の認識を妨げていた。だが一度認識してしまえば間違えようがない。この子は紛うこと無く妖精さんである。男形であることを除けば。

 

 鳳翔と妖精さんとの付き合いは長い。文字通り鳳翔という存在がこの世に生まれてからの付き合いである。いたずら好きで陽気。気分屋でもあり、おだてに弱い。働き者で怠け者。どこか抜けているところはあるが、ここぞという時の仕事に失敗をしたことがない。愛おしく頼りになる全ての艦娘にとっては無くてはならない存在である。

 

 鳳翔の運用する兵装にも妖精さんは存在する。矢を放てばどこからともなく妖精さんが顕現し、矢を航空機へと変貌させる。深海棲艦との悲壮な戦いとは無縁の笑顔を浮かべ楽しげに深海棲艦へ弾薬をばらまく。撃ち落とされても存在が消えること無く、矢を放てば何事もなく同じことを繰り返す。

 

 天龍の持つ艤装も同様である。15.5cm三連装砲を展開し砲撃を意識する。すると三連装砲にまたがる妖精さんの「ウテー」の発言と同時に砲撃を開始する。一見無駄な動作にも思えるが天龍の意識と発砲に時間のずれはなく非常にスムーズである。深海棲艦の砲撃を喰らい艤装が使い物にならなくなり廃棄をしたのちに新しい艤装を展開するとそこには妖精さんが欠けること無く存在する。

 

 どこからともなく現れ消える。いて当たり前。人間には不可解な現象であっても艦娘にとっては当たり前の事であり不思議に思ったことはない。なくてはならないパートナーである。

 

 妖精さんは須らく女型である。過去に遡っても男形は存在しない。報告事例は皆無である。

 

「天龍さん。もしかしてこの子、男の子っぽく見えるだけじゃないでしょうか」

 

「んー。オレもそう考えたんだけどよ。……ついてた」

 

「え?」

 

「ついてたんだ」

 

「……つまり、あれの事ですか」

 

「おう。あれな」

 

 天龍と鳳翔も人間の男性の股間に付属するものについて知らないわけではない。艦としてあった時代、猥談をするものもいたし、生理として排泄もある。ただ艦娘として生まれ変わってからは、直接間接問わず見たことはない。女性の写し身となっているため、羞恥のため直接的な言葉にするのも躊躇われた。

 

「それで提督のところに」

 

 声を掛ける前の天龍の不審な行動を思い出して納得した。

 

「どうしようか迷っててな。提督(あいつ)も一応とはいえ海軍の人間だろ?オレらはなんとなく妖精さんって理解出来っけど、深海棲艦と何か関係あるんじゃねぇかと変な事考える奴が海軍本部にいるかもしれねぇって思うとよ」

 

 天龍は提督を信用も信頼もしている。付き合いの長さは鳳翔とほぼ同じ。開戦初期の混乱期を共に切り抜けた戦友でもある。信頼をされているとの自負もある。提督が死んでこいと命令すれば従うつもりだ。だが人間である為組織の柵から抜けることが難しい。数少ない海軍出身の提督でもあるが、海軍からはいいように思われていない。それでも日々の業務の報告義務があり、提督に妖精さんの事を話せば海軍と政府特別鎮守防衛府に連絡がいく。深海棲艦のいる海域から現れた世に珍しい男形の異形。今も昔も人間は正義の為、大義の為、保身の為とろくなことをしない。この妖精さんも深海棲艦と何か繋がりがあると思われ、最悪の道を辿るかもしれない。提督は信頼できる。だがその後ろの人間は。

 

 天龍の言いたいことは理解できる。深海棲艦との開戦初期。最初の犠牲者は離島に住む人達だった。皆殺し。その情報を以てしても政府は憲法を理由に攻撃を命令できず、迫る深海棲艦を目の前にして陸海空の三軍に大きな被害が出た。攻撃されるまで発砲するな。最初の交戦で軍が保有する人員の三割を失った。命令系統は分断され、国の沿岸部はあっという間に占拠。この期に及んで国会は責任の押し付け合いと罵り合い。

 

 深海棲艦が占拠した土地には晴れることのない霧が発生する。これが電子機器を狂わせる。

 

 現代兵器は役に立たず。撤退に継ぐ撤退。少しでも情報を、と勇敢で優秀な者達から死んでいった。彼らを命令無視、無駄死に、役立たずと呼んだ者たちが空いた席を嬉々として温める。混乱する社会。あらゆる通信インフラは遮断され各国との連絡は断絶。内地の地震観測所が核爆発と思われる揺れを観測。逃げる僅かな時間を稼ぐ為にと勇敢に死ぬ人間。その結果、無意味で混乱をもたらすだけの命令を出す人間だけが増えていく。

 

 鳳翔達艦娘はこの混乱のなか顕現した。たったひとつの存在意義を満たす為に。

 

 混迷の戦争初期を乗り越え、戦う為の新たな組織が出来るまで二年。戦線を均衡させ沿岸部を取り返すのに三年。僅かながらも攻勢に出れるまでに更に三年。それから一年。常に最前線にい続けた鳳翔たちは今この島にいる。

 

 前線を知らず組織の奥深くで命令を出すのは開戦初期に運良く(・・・・)席を温めた者達が多い。九年の間に、理不尽な思いは沢山している。深海棲艦と戦う事は苦ではない。むしろ人間と関わり合うことでせずともよい苦労が多々あった。いや。現在進行形で理不尽を感じている。彼らを信用できるのかと問われれば応えに迷いはない。

 

 だが、それでも。それでも。

 

「大丈夫。私達の提督ですよ」

 

 鳳翔は胸に渦巻く想いを飲み込み微笑んだ。自らの提督への信頼は絶対だった。

 

 

 

 

 

 

 

「おう、邪魔するぜ」

 

「司令官に報告ぴょん」

 

 天龍が鳳翔を伴い提督執務室へ入ると同時に奇怪な声が響いた。資源回収の遠征に出ていた卯月が天龍の代わりに報告に来ていたのだぴょん。

 

 提督は書類を作成しながら卯月の報告を聞いていたが、天龍の姿を確認すると手を止め、呆れたように声を上げた。

 

「お前は相変わらずノックしねぇな。俺が自家発電してたらどうするんだ」

 

「そんときゃ手伝ってやんよ」

 

「ぷっぷくぷぅ~!」

 

「あぁ。すまんな卯月。細かい話は天龍にさせる。今日は補給を済ませてゆっくり休んでくれ。鳳翔。お前も午後の哨戒はなしだ。卯月、皐月にも伝言頼む」

 

「はい。わかりました」

 

「うれしいぴょん!」

 

 卯月は喜び跳び跳ねる。満面の笑みで執務室から出ていった。

 

 

「あれで戦歴九年のベテラン戦士だぜ。昔とちっとも変わらんな。お前ら艦娘のメンタリティって一体どうなってんだ」

 

「おめぇは見かけも口調も昔とはすっかり変わっちまったな」

 

「そりゃ人間だからな」

 

 ふふんと鼻を鳴らす提督。

 

「卯月の奴後で思い出して後悔しなきゃいいんだけどな。オレなら恥ずかしくて黒歴史になっちまう」

 

 天龍の物言いに提督は笑いそうになったが我慢した。

 

「そ、そ、そう、か……ひひ…」

 

 場の空気を一新するために一つ咳払い。

 

「まぁそう言ってやんな。あれで気を使ってくれてんだ。話があんだろ?」

 

 艦娘は容姿言動に関わらず総じて優秀である。例外はない。一見ふざけている言動も考えがあっての事であると提督は理解している。恐らく艦時代に性格を決定づける何かがあったのだろう。そしてそれは艦娘とって大事な思い出でありアイデンティティを決定づけるものだったのだろう。

 

 殺人的なまでに料理下手の艦娘がいたりするが、あれはわざとしているのではないか?

 

 提督は長い付き合いの中で自分なりの解釈を得て艦娘達の言動についてどうこういうつもりはない。だが、お偉い人の中にはそれが気に入らず矯正しようとするものもいる。人間には艦娘への命令権も、艦娘はそれを聞く義務もないのに。法律で艦娘は提督の私的占有物であると決めたのは人間である。艦娘と人間の関係は艦娘の一方的な善意の下に成り立っていることに気が付かつかない者が多すぎる。あるいはわざとか。

 

 提督は机上の書類をひと纏めにし、未処理と書かれた書類入れに乱雑に放り込んだ。本日業務終了の合図だった。

 

「いいのかよ」

 

「いいのいいの。弾薬回さんけど援軍寄越せって(書類)だから。威力偵察の露払いなんて勘弁勘弁」

 

 資源の嘆願は何度もしているが全て梨の礫。活動に必要な資源は遠征でちまちまと稼いではいるが、遠方への出撃を一度すればほとんどが飛んでしまう貧乏所帯である。あちらは嫌がらせだが、こちらは物理的に無理なのである。万が一出兵したとしても盾として使われては堪ったものではない。

 

 顎で折り畳みの長テーブルを指し、二人に着席を促す。自らもパイプ椅子に腰かけた。この後方基地にソファーなんてものはない。

 

「で?用件はそれか?」

 

 天龍の抱える人形らしきものを見ながら確認する。見掛けと違い意外と女性らしいのだがそんな一面を見られるのを極端に嫌うのが天龍である。天龍と人形。普段との態度の違いに一目瞭然であった。

 

 天龍の持ち込んだ異物をひと目見て思考を巡らす提督。必然表情は固くなる。人形ではない。大事に抱える天龍の様子から妖精さんであるとは分かるがその容姿が。提督の表情から緊張する天龍。場の空気が硬いものになる。

 

「あの。その前に」

 

 鳳翔がにっこりと微笑んだ。

 

「お茶にしましょうか」

 

 

 

 

 

 

 

「うまー」

 

「うまー」

 

 この島に着任した際に持参した茶葉はとっくの昔に切らしている。今飲んでいるお茶は鳳翔が島で栽培したハーブである。飽きないように定期的に、またその場に応じた味を提供する心遣いが心憎い。

 

「話をきこうか」

 

 雑談を適当に切り提督が切り出した。提督も天竜の胸を枕に寝返りを打つそれが気になって仕方がなかった。

 

「見てわかると思けどよ、遠征でこれ拾った」

 

 遠征といっても資源獲得を目的とした近海哨戒任務である。資源獲得の可能性のある哨戒を遠征と表現し区別している。本来ならば四人以上で行う事で資源確保が確実となるが、少人数体制のため必要な海域全てに目が届かず遠征ではなく、ただの近海哨戒だけに終わることが多い。

 

 ローテーションは天龍、鳳翔、卯月、皐月、伊8の五人で午前・午後・夜と三交代で回しているが、休養も必要なため実質二四時間体制は取れていない。低確率で獲得する資源でなんとかまわせているが、全力出撃を二回行うだけで次の日から釣りと散歩が日課になってしまう。

 

「元の場所に戻してきなさいって言う所だけどよ。何だこれ?妖精さんか?」

 

 見つけたのは偶然だ。卯月と二人、気まぐれにいつもとは違うルートを進行中にぷかぷかと波間に浮いていたのだ。最初は新しい資源沸きのポイントかと思い幸運だと思った。しかし近づいてみれば人型をしている。人形かと思いがっかりしたものの持ち上げてみれば何やら違和感を感じた。触れてみてなるほど。だがしかし。

 遠征は卯月に任せ、天龍は一人基地に戻ることにした。途中で服を脱がして確認することも忘れない。だが戻る途中で急に不安になった。

 

 男形の妖精さん。

 

 深海棲艦の生態は未だ解明していない。撃破した死体を鹵獲しようとしても深海棲艦は死後、結晶となって消える。この結晶は艦娘の近代化改修に利用され、短期で見れば練度の上昇より効果があることが確認されている。そして生きた生態サンプルの鹵獲は未だ成功したことがない。確保された時点で深海棲艦が自爆し結晶へと変わるのだ。

 

 この結晶が問題であった。艦娘と深海棲艦から発生する結晶。この関係性から深海棲艦と艦娘が同一の存在ではないか?人類をいつか裏切るのではないか?と唱えるものが未だにいる。深海棲艦との繋がりを否定するのであれば証明する為に調査に協力しろ。それが人類と艦娘の未来の為だ。それは艦娘の体にメスを入れる事も含んでいた。深海棲艦が調べられないのなら同族である艦娘を調べればよい。そんな考えが透けて見えた。最前線で戦う提督たちの強烈な抵抗で一時的には声は小さくなった。提督たちにサボタージュをされるだけで人類は一年を保たず敗北する。

 

 艦娘たちは我関せずとばかりに冷静な目で見ていた。証明など出来ずとも深海棲艦とは異なる存在であることは自分たちが知っている。何より提督が信じてくれる。

 

 深海棲艦の研究は続けられているが分かっていることは少ない。研究者からすれば深海棲艦に僅かでも繋がる可能性のある研究材料は喉から手がでる程欲しいだろう。前代未聞の男形妖精さんの存在が知られれば人類の存続の為と称して当然のように引き渡しを要求してくるだろう。彼らの手に渡ればどうなるか想像に難くない。

 

 選択は一択。当然拒否だ。彼らに従う義理はない。ただその過程で提督に迷惑がかかる。ただでさえ島流しのような左遷人事。深海棲艦との戦いで一人でも戦力が必要なときに理性では無く感情で行動する人間の思考が理解できない。そしてその海軍に従う提督の考えがわからない。

 

 民間徴用提督みたいにもっと自由にしてもいいのに。

 

 

 

 

 

 

 

 この国が抱える艦娘を従える提督は二種類ある。一つは軍に所属している人間が提督となった者。陸軍から三人。空軍が二人。海軍は一人、天龍の提督である。もう一つは国会が急遽特別法を立ち上げ民間徴用と称して高待遇で繋ぎ止めている提督二十五人。合計三十一人である。

 

 犠牲を出しながら撤退戦を繰り返す三軍。ある時を境に深海棲艦の侵攻の勢いが減じた。偵察を出し情報を精査したところ各地で生身で戦う、うら若き女性の姿があった。そして彼女達を率いる提督と呼ばれる男女。圧巻であった。軍が傷一つつけるのが精一杯の深海棲艦に対し、機動力を活かし遠近織り交ぜた連携された攻撃。死と隣合わせの戦場で楽しげに戦う者もいた。

 

 後の話になるが、この時各地に侵攻してきた深海棲艦はイ級、ロ級、ハ級と分類された斥候部隊であった。

 

 近代兵器は発生する霧のせいもあり深海棲艦には通じない。現場の声は上層部に届いていなかった。又は届いていても軍がオカルトを信じる訳にはいかない。言い訳にもならない自己弁護であったが、初戦から失態続きの軍は名誉挽回とばかりに反転攻勢に出た。これが不幸を産んだ。

 

 再編したての軍は命令が行き届かず、深海棲艦に各個撃破されていった。軍の護りを強制的に強いられた艦娘はこれが足枷となり動きに精細を欠く。そこへ深海棲艦の本体が強襲を掛けたことにより戦線は崩壊。少なくない艦娘が轟沈。提督にも死傷者が出た。死亡した提督の旗下にあった艦娘が深海棲艦の本体に突貫し砲撃を喰らいながらも中枢部に肉薄。残った艦娘が一時的に混乱した隙を突き提督を抱え戦場を離脱。残された軍は撤退も許されず壊滅した。

 

 軍が投入された戦場では焼き直しのように同じ混乱が発生した。

 

 一時撤退した艦娘達は国と軍の資源・弾薬集積所を有無を言わさず接収。補給を済ませた後に各地でゲリラ戦を繰り返す。押されながらも膠着状態を作り出した。

 

 この間に再び再編を済ませた軍は戦力補強の為に各地の提督に艦娘を供出するよう打診した。もはや形振り構っていられなかった。提督たちは当然の如くこれを拒否した。

 

 この一連の流れが提督と軍との間に決定的な亀裂を生んだ。政府が主導し、軍の横槍を極力許さぬ新たな組織、政府特別鎮守防衛府が誕生し有機的に活動を行えるようになるまでこれから二年の歳月を必要とした。正確な数は不明としながらも当初五十を超えていた提督の数も三十一人まですり減っていた。軍の強引な介入がなければ生き残っていた提督はもっと多かったはずである。

 

 提督は所属に関係なく横の繋がりが非常に強い。支援のない中、数多くのゲリラ戦で何度も共闘し、同じ釜の飯を食った仲もである。電気が使用不可となり星明りを頼りに深海棲艦と戦った。土砂降りの雨を好機とばかりに地面を這うように逃げ回った事もある。提督が死ねば艦娘は絶望し暴走する。離れていて欲しい。だが提督が一定の距離にいなければ全力を出せないジレンマ。提督は死ねなかった。死んではいけなかった。経験の共有と想いの共感。仲がよくなるのは当たり前だった。

 

 政府特別鎮守防衛府の設立の歳、高待遇を餌に民間出身の提督は全員が所属することになった。安定した資源の支援は何より必要であったからだ。

 

 一方、軍所属の提督は待遇が異なった。所属は軍のまま。政府特別鎮守防衛府に一時出向という形を取った。待遇は民間徴用提督に加え、昇給と二階級特進、各種福利厚生、人間の専任秘書(・・・・・・・)。あらゆる手段で提督を繋ぎ止めて置きたい軍は出し惜しみをしなかった。その上で首輪をつけ、その上で軍所属提督の戦果を以って実績とする。

 

 軍の思惑とは別に提督はこれをすんなりと承諾した。いつ世界が崩壊するかもしれない現状、金品や待遇など無意味であった。資源の融通がし易くなる。この一点のみが大事だった。

 

 そして天龍の提督も似た内容であった。一点特筆すれば階級が大佐であった事だろう。しかしここで陸軍の茶々入れが入った。果たして彼は海軍所属なのだろうかと。

 

 深海棲艦侵攻時、天龍の提督は海軍士官学校への入学を控える一民間人だった。合格は決まっていたが、入学手続きすら済ましておらずそのまま艦娘と共に前線で戦う羽目になった。つまり軍人どころか海軍所属ですらない。書類の捏造までして体裁を整えた海軍は怒りに怒った。よりにもよって相手が陸軍である。陸軍としては海軍の発言力・影響力を削ぎたい。海軍としてはなんとしてでも提督を確保して実績としたい。そして始まる壮絶な罵り合い。当初の目的を忘れ罵るために罵りあった。

 

 その間提督たちは各地で深海棲艦と戦っていた。大攻勢に押される事もあるが、資源の充実と共に沿岸部を徐々にではあるが取り返し転戦を繰り返す。経験豊富な陸・空出身の提督が大戦略を練り、各戦域で戦略にそった作戦を展開する。民間出身提督達が各自の裁量で作戦を実施する。天龍の提督もこれに混じって活動していた。

 

 資源集積所での補給の際に未だに罵り合いをしていると聞いた提督は陸軍が送付してきた書類全ての必要事項を記入し、夜陰に紛れて神通に陸軍へと届けさせた。一連の喧騒はこれにて収束した。これにて提督の海軍所属が決定した。

 

 軍出身の提督は、軍人故の特性と責任感から生真面目な者が多い。出身軍の規則に則り行動する事が多いが、民間出身の提督はその辺り自由であった。政府特別鎮守防衛府自体が軍の横槍を防ぐ目的があったため、首相直轄の執務官が成り行き上、責任者を努めていた。組織自体に提督の行動を阻害する意味がなく、最大限提督の要望に応える事が国益に直結していた。民間出身故に軍の有り様を知らないため自由度が高いのは当然であったとも言える。

 

 この自由さ故に組織に不埒な者が入り込むのは容易かった。提督たちは資源提供を確実に行うならば組織に対して望む事はなかった。戦線を押し返してはいたが、提督たちは皆、一杯一杯だったとも言えた。そして深海棲艦への攻勢を掛けれれる用になった頃、組織は軍部に掌握されその有り様を変えていく。陸・海・空の三軍が勢力争いを行う為の組織に。

 

 

 

 

 

 

 

 

「おい天龍」

 

「いて!いてててて!何しやがる!」

 

「お前こそ何してんだ。ぼーっとしやがって」

 

 妖精さんを拾った状況を一通り話終えた後、鳳翔がお茶を淹れ直し、急須から流れ出るお茶を見てる内に昔を思い出していた。嫌な事が多かったが、提督と共に戦う日々は充実していた。

 

「悪かったな。で、何ぶつけたんだよ」

 

「これか?この前、呉の(いなづま)たちが作戦で近くまで来ててな、顔見せに来たついでに持ってきた炒り豆だ」

 

「豆?」

 

「節分だからお前に投げるって張り切ってたんだけどよ。丁度遠征でいなかったろ?」

 

「オレは鬼じゃねーし!」

 

「角あるし鬼だろ」

 

「角じゃねーし!いて!いてててて!こら!鳳翔!豆渡すのやめろ!」

 

「鬼なのです」

 

「全然似てねーし!」

 

(いなづま)よ!いなずまじゃないわ!」

 

「似てねーし!色んな意味で間違ってるし!分かりにくいわ!」

 

 ひとしきり騒いだ後豆は三人でおいしく頂いた。

 

 妖精さんは折りたたみテーブルの隅に毛布を敷き横にしている。これだけ騒いでも起きないのは図太いのか、そういう特性の妖精さんなのか。

 

 艦娘には敵わないが提督も妖精さん特性値(Yo-Sei)の数値が高い。この値が高い程妖精さんと意思疎通がし易く、艤装の威力も高くなる。

 

「まぁ、あっち()に報告するつもりはないよ。揉めるだけだしな。とりあえず様子見だ。あと食堂の兄ちゃん。あれには注意しとけ」

 

 食堂で働くスタッフは軍が提督の動向を監視するために派遣している監視員だ。厨房のスタッフとしてやってきたが、鳳翔が気が付かないはずがない。

 

 提督は妖精さんの頬をツンツンと突く。触れてみて分かることもあるがやはり提督の妖精さん特性値(Yo-Sei)では何も伝わって来ない。天龍と鳳翔でも分からないのだから仕方ないとも言える。それでも何か分かること無いかなぁとばかりに、妖精さんに顔を近づけて細かなところまで確認しようとした。

 

「お」

 

「あ」

 

「え」

 

 その時、偶然か必然か妖精さんの目がパチリと開いた。思わず声を上げる三人。

 

 丁度顔を近づけていた提督と妖精さんの目があった。

 

「チョワー!」

 

 妖精さん渾身の一撃と思われる正拳が提督の鼻梁に突き刺さった。

 

 

 

 

 

 

 




初風、時津風、鹿島、浜風、磯風、谷風、天津風、夕張、大淀。

イベント中に初めてゲットしたメンツ。
どこぞのドリフト提督の艦隊に似てるな・・・島風いたら完璧なのに。



とりあえず初めて投げるので、何か問題あったら教えて下さいませ。


とりあえず次話は伊26か伊13ゲットしたら。

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