ひなたぼっこの研究者 作:たんぽぽ
「ハグリッドだったんだ。五十年前に『秘密の部屋』を開いたのは、ハグリッドだったんだ!」
ハリーの宣言を聞いて、私は慌てて『耳塞ぎ呪文』を辺りに掛けて回った。この会話を他人に聞かれたらまずいだろう。
そんな私の行動に関係なく、ハリーはロンとハーマイオニーに『日記』で知ったことを早口で伝えていた。
「……ハグリッドに直接聞いてみるしかないのかしら」
「そりゃいい。ハグリッド、最近毛むくじゃらの怪物を誰かにけしかけたかい? って聞いてみようか?」
ロンが皮肉で返した。
「ハリー、その怪物はどのくらいの大きさだったんですか?」
「大きさ? よくわからなかったけど……こんくらい、かな」
ハリーは手で三十センチほどの大きさを表した。
「おかしいですね」
「何が?」
「怪物の大きさです。私はバジリスクなのではないかと踏んでいたのですが……。一千年以上前から生きていたにしては、あまりにも小さすぎます。二代目バジリスクだったりするんでしょうか?」
「もしかしたら、それはスリザリンの怪物じゃないのかもしれないわ!」
ハーマイオニーが嬉しそうに言った。
「まず、ハグリッドはパーセルマウスなんでしょうか。そこを最初に確認すべきでは?」
「そうね。リズも一緒に行きましょう!」
「ちょっと待って。今日はクィディッチの練習があるんだ」
「私はスーザン達と宿題をやる約束があるので……」
「じゃあ、また今度行きましょう!」
マジかよ。『禁じられた森』には行きたくないんだけど。
何とか、森には行かずに済む方法を考えよう。
*
———『リドルの日記』がまた失くなった———
———グリフィンドール生しか盗めないはずだわ———
———どうして盗まれたんだろう?———
*
「リズ、今日は珍しくお寝坊ね」
寮の自室で目がさめると、スーザンが朝の支度をしているところだった。
「あれ? 今日って何かありましたっけ?」
「忘れたの? 今日はグリフィンドールとの試合じゃない」
———ああ、そうだった。中止になる試合だったか。
私は眠い目を擦りながら起き出すと、服を着替え、トランクから小さなハッフルパフの黄色い旗を取り出した。
「今日はそれだけなの?」
いつもは棚ひとつ分入っている応援グッズを引っ張り出して二人で持って行くため、スーザンが不思議そうな顔をしている。
「今日はこれだけの気分なんです」
どうせ試合中止になるだろうし。———そこでハッと思い出した。
今日はハーマイオニーとペネロピー・クリアウォーターが石になるから試合中止になるんだった!
急に目覚めた私に、またもやスーザンが不思議な顔をする。
「どうしたの?」
「図書館に行かなきゃいけないんです! ちょっと先に行ってて下さい!」
私は慌てて寮を飛び出した。
三十分後。
石化した二人を見つけた私は、その場に座り込むしかなかった。
誰も、助けられなかった……。
なぜ、私が原作知識を持って生まれたのだろう。未来を変えるような度胸がない臆病なのに、大して魔法の才能もないのに、ハリーのような勇気もないのに。
どうして、私が……。
一瞬、目の前が歪んだ。視界がぼやけ、景色が遠のく。そして、そのまま完全にブラックアウトした。