ひなたぼっこの研究者   作:たんぽぽ

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第32話 ハロウィーンの悲劇

「『アクシオ、日記よ来い』! ……来るわけないか」

 

 必要の部屋で、私は日記を回収する手段を探していた。

 机には山ほどの分霊箱に関する本が積み重なっているが、作り方や壊し方は書いてあるにも関わらず、呼び寄せ方は書かれていない。当たり前か。分霊箱を誰が呼び寄せるというのだ。私は呼び寄せるが。

 

「人のいないタイミングを見計らってグリフィンドール寮を『悪霊の火』で全て焼き払うわけにもいかないし……。ジニーに頼む? 怪しまれるだけか……」

 

 悪霊の火ではなく、『悪霊の光』的な呪文を作ってジニーの部屋でピカってさせる? 生き物じゃないから無理か。『悪霊の水』で浸すのもいいかもしれない。でも、それにジニーやルームメイトが触ってしまったらと思うと難しい。

 

「ハリーが日記を手に入れるタイミングで何とかするしかないか……」

 

 私の思考に反応したのか、机の上に卓上カレンダーが現れる。

 

「ハロウィーンまであと一週間……。ミセス・ノリスに光の操作の呪文を掛けに行こう」

 

 *

 

 結果。失敗した。

 呪文を掛けたミセス・ノリスの前に蛇を出現させてみたら、一瞬蛇に反応した後にキョロキョロしだしたのだ。たぶん、呪文が蛇を認識してから効果を発動するのに時差があるのだろう。しかし、今の所これ以外に手段はないので、気休めだが呪文を二重に掛けてからミセス・ノリスを解放した。バジリスクの目を見る前に呪文が作動してくれることを願うしかない。

 当日、マートルのトイレから水が漏れているかを確認しておかなければ。マンドレイクを用意して置けなかったのが悔しくてたまらない。

 

 *

 

「大変だ!」

 

 ハロウィーン当日。必死な気持ちで十字架を切り、信じてもいない神様にパンプキンパイを丸々一個捧げてから夕食をとっていたのだが、ザカリアスが叫びながら飛び込んで来た。

 いつも厄介ごとを持って来る彼の言葉にスーザンとジャスティンは目を向けただけだが、私は素早く反応した。

 

「何かあったんですか?」

「ミセス・ノリスが殺された」

 

 嘘だ! 今朝確認したときは、マートルのトイレから水が漏れてたのに!

 大広間を飛び出し、ガヤガヤと声のする方角を目指して走る。人をかき分け、私はぽっかりと空いた空間に出た。

 

「ミセス・ノリス……」

 

 呆然とハリー達が何かを見つめている中、私はミセス・ノリスの体に杖を向けた。見せしめのようにぶら下げられている彼女をゆっくりと下ろし、そっと体に触れる。

 

「あったかい……」

 

 彼女の体は、固まってはいるものの暖かかった。ミセス・ノリスは死んではいなかった。生きていた。

 思わず涙が流れるのを感じる。私はミセス・ノリスの体を抱き締め、壁を見た。

 

『秘密に部屋は開かれたり

 継承者の敵よ、気をつけよ』

 

 秘密の部屋は、開かれてしまった。


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