ひなたぼっこの研究者   作:たんぽぽ

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『秘密の部屋』編。
ちょい長めです。


第2章 秘密の部屋
第26話 ドビー


 さて。

 

「ただいま〜」

「……」

 

 いつものこと。

 

「夜ご飯何時にしようかな〜」

「……」

 

 いつものこと。

 

「おやすみなさい」

「……」

 

 うん、いつものこと。

 

 私には両親がいない。それどころか、保護者すら存在しない。……まあ、転生して「この人が第二のお母さんだよ」とか言われても素直に甘えられないだろうし。

 お父さんは、魔法薬の実験で私が生まれる数ヶ月前に死亡。お母さんは、私を生んですぐにということになっている。実際には、私がこの世に存在し始めた瞬間に消えたんだけど。

 周りに話し相手がいないため、声が出なくなることを危惧した当時一歳の私は、クマのぬいぐるみに向かっておしゃべりをすることで声の出し方を忘れないようにしていたのでした。ぱちぱち〜。

 ……はぁ。

 

 そういえば、ハリーはドビーのせいでダーズリーで居場所がなくな……今更か。ダーズリー家で監禁状態になる。ごはんはヘドウィグとスープの残りを半分ことかだっけ? やだわー。元日本人としてそんなのやだわー。

 よし、何か差し入れしに行こう。ついでにドビーに会えるといいな♪

 

 *

 

 ピンポーン。

 

「はい、どちら様……あれ?」

 

 ハリーの伯母、ペチュニア・ダーズリーが玄関先に出た瞬間、ホグワーツで準備しておいた『錯乱薬』を頭に振りかけて差し上げた。これがダーズリー家への手土産がわり。

 で、さっさと家に上がり込んだ。入って直ぐの階段を上りながら『透明薬』を飲み、姿を消す。

 

「……こっちかな」

 

 どちらがハリーの部屋なのか迷ったが、映画では部屋の側面に窓があったため、奥の部屋だと当たりをつけて入る。ヘドウィグがいたので正解だろう。

 

「うわっ! ドアが勝手n」

「黙れ小僧!」

 

 ハリーが大声をあげた瞬間に一階から怒鳴り声が聞こえた。早っ。

 透明薬の解毒剤を飲み、姿を現してハリーに挨拶する。

 

「よっ」

「よっじゃないよ何でいるの!?」

 

 ハリーが小声で叫ぶ。いいじゃないかいたって。

 

「もしかして今日ってドリル会社の商談があったりします?」

「そうだけど……何で知ってるの?」

 

 原作知識で。

 

「まあまあ、とりあえず落ち着いて下さい。本当は手紙を送ろうかと思ったんですが、届かなそうだったからやめたんです」

「それはいつもの勘?」

「はい」

「……そういえば、よく上げてもらえたね」

「え? 勝手に上がりましたが」

「……リズ、魔法界にはないかもしれないけd」

「不法侵入は魔法界でも違法です」

「……」

 

 ハリーがもう諦めたという表情を浮かべた。開心術を使ってみたら、実際に諦めていた。……そうだ、ただおしゃべりするために来たわけじゃなかったんだった。

 

「そういえば、誰かから手紙は届きましたか?」

「……届いてないよ」

「そうですか。じゃあ、ドビーって知ってます?」

「知らないけど」

「ドビーというのはm」

 

 バチン!

 大きな音とともにドビーが姿を現し、キーキー声でしゃべろうとする。

 

「ドビーめは———」

「はいはい黙ってこれを食べよう」

 

 私はポケットからカップケーキを取り出すとドビーの口に押し込んだ。ドビーはフガフガ言っていたが、すぐに諦めてもぐもぐし始めた。

 

「……リズ」

 

 ハリーが何が言いたいかわかったので、即座に紅茶と共にカップケーキを出す。愛情たっぷりだから、たぶん美味しいと思う。

 マルフォイ家のことをハリーにしゃべろうとしたらドビーが現れるだろうと考えていたのだが、予想通りにドビーが現れた。とりあえず、私の目的はハリーが安全にホグワーツへ行くことなので、今のところはドビーを見張ってればいいだろう。

 ごっくんと最後のひとかけらまで飲み込んだドビーは、私の顔を伺った。

 

「ドビー、ハリーに迷惑をかけちゃうから、静かにね?」

「……ドビーめは、ハリー・ポッター様をお救いしたいのです」

「僕を? どうして?」

「ハリー・ポッター様は魔法界を救っぐぎゃごふっ」

 

 ドビーが叫び出そうとしたので、再び口の中にカップケーキを突っ込む。ドビーが変な声を上げたが、気にしない方向で。

 

「(もぐもぐ……ごっくん)ハリー・ポッター様は魔法界を救った英雄なのです!(小声)」

「え、でも僕を救うって……どういうこと?」

「今年秘密の部屋が開かれるとか何とかじゃないですか?」

「なぜ知っておられるのですか、えーと……」

「リズ」

「リズ様?」

 

 私が短く名乗ると、ドビーは律儀に名前を呼び直した。

 

「それを聞くのは六年早いよ、ドビー」

「意外と短い」

 

 ハリーのツッコミを意図的にスルーして、私はドビーの目を見る。

 

「ドビーはハリーをホグワーツに戻らせたくないんだよね? でも、大丈夫。ホグワーツにはダンブルドア先生がいる。もしどっかのMさんがダンブルドアをホグワーツから追い出したとしても、私達がダンブルドア先生のことを信じている限り、本当の意味でダンブルドア先生がホグワーツからいなくなることはない。それに、」

 

 私は「ホグワーツに戻らせたくない」と聞いて騒ぎ出そうとしたために秒速でカップケーキを詰め込んだハリーを見る。

 見ての感想は、うん、ガリガリ。

 

「ここにいたらヴォルさんに殺される可能性は減るだろうけど、たぶんそれより先に餓死するだろうね。それでもいいの?」

「……」

「わかった。秘密の部屋に関しては私が解決するよ。別にM氏の目的はハリーを殺すことじゃないし、部屋を開くための手段は私が早いうちに回収してダンブルドアに渡しに行くよ。それでいい?」

「ですが」

「(カップケーキを構えつつ)それでいい?」

「……いいです」

 

 こらそこ、脅したとか言わない。

 

「じゃ、ドビー、早いうちに帰った方がいいよ。あと、この部屋で魔法を使ってハリーを退学に追い込もうとしても、ハリーがこの家から追い出されて路地で死ぬ可能性があるから辞めた方がいいよ。じゃね」

 

 『姿くらまし』を閉じ込めた氷を割り、私は家に戻った。


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