ひなたぼっこの研究者 作:たんぽぽ
「一年が過ぎた」
しんと静まり返った大広間に、ダンブルドア先生の声が響く。
「今年の寮杯の結果は、四位、グリフィンドール三一〇点。三位、レイブンクロー四二六点。二位、スリザリン四七二点。一位、ハッフルパフ六三九点」
ハッフルパフから歓声が上がる。私が一週間で入れた点数のお陰もあるが、ハッフルパフが優勝出来る可能性があるとわかった瞬間、ハッフルパフ生は取り柄である真面目さを表に出し、積極的に点数を取りに行っていたのだ。その努力が認められる。これほど嬉しいことはない。
ちなみに、私がトレローニー先生に錯乱の呪文を掛けて稼いだ点数は、後からトレローニー先生に
「しかし、最近のことも勘定に入れなくてはなるまい」
合計で一七〇点グリフィンドールに入るんだったか。でも余裕で勝てる。全員そう思っているのか、特に表情を変えずにダンブルドアの言葉を待つ。
「近年稀に見る最高のチェスをみせてくれたことに対し、ロナルド・ウィーズリーくんに百点を与える」
……え?
「次に、火に囲まれながら冷静な論理を用いて対処したことを讃え、ハーマイオニー・グレンジャー嬢に百点を与える」
…………え?
「そして、その強い精神力と並外れた勇気を讃え、ハリー・ポッターくんに百点を与える」
………………え?
「勇気にも色々ある。敵に立ち向かうことも勇気じゃが、味方に立ち向かうにも大きな勇気がいる。その勇気を讃え、ネビル・ロングボトムくんに……三十点を与えよう」
ここ数分でグリフィンドールが獲得した点数は三三〇点。合計で、ハッフルパフより……一点多い。
…………………………(ブチッ)。
「さて、わしの計算違いでなければ、飾りつけを変え———」
「ダンブルドア先生、ひとつよろしいでしょうか?」
*
・マクゴナガルside
「ダンブルドア先生、ひとつよろしいでしょうか?」
そう言って立ち上がったのは、ミス・フォーリー。ハッフルパフの優秀な生徒です。
優勝を目前で阻止されたのに怒りを表すのかと思いきや、違うようでした。
「このような形で遮ってしまって申し訳ありません。もちろん、グリフィンドールの優勝にケチをつける気はありませんからご安心を。……その上で私の質問に答えていただけますか?」
優勝にケチをつける気はないと聞いて、一瞬立ち上がりかけたグリフィンドール生も座りました。
「ミス・フォーリー。今ではないと駄目なのかね?」
「はい。どうしても今お聞きしたいのです」
「……言ってみなさい」
ミス・フォーリーは、いつもの優しい微笑みに強い芯を感じさせる表情で口を開きました。
「グリフィンドールの加点前の点数は三一〇点。追加された点は三三〇点で間違いありませんね?」
「そうじゃの」
「もちろん、ダンブルドア先生は、ハリー達の行動を正当に評価した上でこの点数をお与えになったのですよね?」
「そうじゃとも」
「グリフィンドール生の今までの努力を遥かに上回る点数を?」
ここまで来て、ミス・フォーリーの言いたいことに気がつきました。
そう、今回ダンブルドアが四人に与えた点数は、もともとグリフィンドールが稼いだ点数以上のもの。それは、他のグリフィンドール生がかわいそうなのでは、というミス・フォーリーの意見なのでした。
「……」
「正当に評価なさった上での点数ならば、私から申し上げることはありません。遮ってしまって申し訳ありませんでした」
ダンブルドアの様子を伺ってみると……ダンブルドアらしからぬ、苦い表情を浮かべていました。
宴が始まりましたが、始終何とも言えない微妙な空気が漂っていました。
*
「うぐっ……ひっく、うぅ……ごめんね、リズ、リズは……ひっく、あんなに頑張ってたのにぃ……」
私の隣で泣いているのはスーザン。私は入学当初から比較的点数を取りに行っていたのを知っているスーザンは、たぶん影ながら頑張っていたのだろう。その努力を潰したのは、ダンブルドアだ。私は死後、初めて怒りを覚えた。
「大丈夫です、スーザン。来年は、そうですね……七〇〇点取りましょうか」
「……うん!」
「……別に、一点差じゃなくても良かったでしょうに」
ジャスティンが呟く。
その通り。
「……まあ、宴を楽しもうじゃないか」
珍しくザカリアスが重くなりかけた空気を引っ張り上げ、楽しく宴を終えることが出来た。