ひなたぼっこの研究者   作:たんぽぽ

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第2話 組分け

「———フォーリー・エリザベス!」

 

 組分けの儀式。

 ホグワーツ特急で仲良くなったあの二人は、隣り合って座りながら私の組分けを見守っている。

 どうか、二人の待つ寮へ行けますように。

 私は心からそう願いながら、組分け帽子を被った。

 

『ほう。おもしろい』

 

 頭の中に響く、知性に溢れる声。これが組分け帽子の声なのだろう。

 

『なるほど。学ぶことは好きだが、レイブンクローに行くことは望んでいない』

 

 その通り。

 

『また、血統から見ては資格が充分にあるものの、スリザリンへ入ることは望んでいないのだな。確かに、君のような性格ではやっていけないだろう』

 

 だから、私が望む寮を。

 

『グリフィンドールへの資格は『勇気』。君は、確かに勇気に憧れを持ってはいるが、君の本質はそうではない』

 

 私の望む寮の名は———

 

『良いだろう。君は真の友に巡り会える。君の行く寮の名は———ハッフルパフ!!!』

 

 テーブルから歓声があがった。

 私は帽子を頭から取ると椅子の上に置き、黄色のネクタイが溢れるテーブルへと駆け寄った。

 

「リズ! 同じ寮で良かったわ」

「リズ、おめでとうございます」

 

 私が望む寮はハッフルパフだとあらかじめ話してあったスーザンとジャスティンに加え、既に組分けされている一年生や上級生も口々に祝ってくれる。

 グリフィンドールやスリザリン、レイブンクローにはない、暖かな安心感。これを私は求めていたのだった。

 

 *

 

「僕はザカリアス・スミス」

「僕はジャスティン・フィンチ=フレッチリーです」

「私はスーザン・ボーンズ。この子はリズ・フォーリーよ」

 

 ザカリアスという少年を加え、私達はホグワーツで初めての食事をとっていた。

 

「皆さんはもう、授業の予習をしたのですか?」

 

 というジャスティンの問い掛けに対し、

 

「私はまだよ」

「僕もまだだ」

「私は少しだけ……」

 

 と、なぜか私だけ違う答えを返していた。あれ? みんな予習してないの?

 

「僕はパラパラと教科書を見た程度ですが……魔法界では予習とはどのようにやるものなのでしょうか?」

「マグルとさほど変わりはないと思います。魔法使いと言ってもマグルと同じ人間ですから、基本的な生活の仕方は変わりません」

「なるほど。では授業もあまり変わりはないと?」

「進行の仕方はほぼほぼ変わりないと思いますが、魔法を学ぶため、実技は多いはずです。実際、呪文学———一年生は『妖精の魔法』の授業ですが、教科書には様々な呪文と、それの使い方が書かれています」

「そうでしたか。僕も頑張って予習しないと」

「一年生の初め頃はそこまで頑張らなくても良いと思います。みんな成り立ての魔法使いですから、まずは初歩から入りますから」

「なるほど。ありがとうございます」

 

 スーザンとザカリアスは、私達のやり取りを呆然と聞いていた。

 

「私も予習とか考えた方が良いのかしら……?」

「学習の姿勢を考え直した方が良いのかもしれないな……」

 

 そこまで考えさせる内容では無かったと思うのだが。

 新入生歓迎の宴は無事終わり、私達一年生は寮へ案内された。

 

 *

 

 私達が案内されたのは、厨房近くの樽の山。監督生である男子生徒は、私達全員に聞こえるように説明する。

 

「この樽の山の、二つ目の列の真ん中の樽の底を二回叩くと寮への扉が開くよ。僕達はこれをハッフルパフ・リズムと呼んでいる」

 

 そう言って、見本にハッフルパフ・リズムを見せてくれた。

 パッと樽の底が開き、向こうから光が漏れる。

 

「間違えるとセキュリティに引っかかって熱いビネガーが噴き出してくるけど……とにかく中に入ろう」

 

 不穏な言葉はあえて聞き流し、私達は寮の中へ足を踏み入れた。

 まず現れた寮の談話室は、黄色と黒を基調とした暖かみのある部屋だった。談話室の奥には二つの通路があり、それが男子寮と女子寮にそれぞれ続くのだろう。

 ジャスティンとザカリアスに別れを告げ、私はスーザンと共に穴熊の巣を彷彿させる茶色い通路に入っていった。茶色い木で出来た壁や床は落ち着いていて、壁には樽の底を大きくしたような、大きな真ん丸の扉がたくさんあった。それがそれぞれの部屋なのだろう。まるでホビ◯トの住む穴のようだ、と私は生前大好きだった『ホ◯ットの冒険』を思い出しつつ、割り当てられた部屋の扉を開けた。

 部屋の中は、茶色を基調とし、クリーム色のような優しい黄色がアクセントとなっている、まさに穴熊の巣のような部屋だった。グリフィンドール寮が真っ赤であるように、激しい黄色じゃなくて良かった、と内心安心しつつ、同室になったスーザンを見る。

 私の視線を受け止めたスーザンは、明るい調子で言った。

 

「まずは荷物を開けましょうか」

 

 明日は授業も始まって忙しいでしょうし、と言い、片方のベッドに荷物を広げた。

 

 

 

 

| | ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄|  |  机   |

| |  ベッド   |  |______|

|ま|________|

| |サイド |

| |テーブル|

|ど| ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄|

| |  ベッド   |  | ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄|

| |________|  |  机   |

 

 

 

 

 上のように左右対象に配置されているために、どちらの方が良い、というような事がないため、私は安心してもう片方をとった。ちなみに、上の図に書いてある以外にも、本棚や数人で囲めそうな小さな丸いテーブルやクッション、クローゼットなどもある。ちなみに扉は図の右の方にある。

 私服や制服をクローゼットにかけ、教科書や本などは本棚に並べる。もちろん、明日使う教科書は移動時に役に立つカバンに、羽ペンやインク瓶、羊皮紙と共に入れておく。他の文房具類は、机の引き出しにしまっておいた。手早くパジャマへと着替え、私達はそれぞれのベッドに入る。

 

「おやすみ、リズ」

「おやすみなさい、スーザン」

 

 私達は挨拶を交わすと、それぞれ夢の世界へと飛び立っていった。


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