ひなたぼっこの研究者 作:たんぽぽ
「———フォーリー・エリザベス!」
組分けの儀式。
ホグワーツ特急で仲良くなったあの二人は、隣り合って座りながら私の組分けを見守っている。
どうか、二人の待つ寮へ行けますように。
私は心からそう願いながら、組分け帽子を被った。
『ほう。おもしろい』
頭の中に響く、知性に溢れる声。これが組分け帽子の声なのだろう。
『なるほど。学ぶことは好きだが、レイブンクローに行くことは望んでいない』
その通り。
『また、血統から見ては資格が充分にあるものの、スリザリンへ入ることは望んでいないのだな。確かに、君のような性格ではやっていけないだろう』
だから、私が望む寮を。
『グリフィンドールへの資格は『勇気』。君は、確かに勇気に憧れを持ってはいるが、君の本質はそうではない』
私の望む寮の名は———
『良いだろう。君は真の友に巡り会える。君の行く寮の名は———ハッフルパフ!!!』
テーブルから歓声があがった。
私は帽子を頭から取ると椅子の上に置き、黄色のネクタイが溢れるテーブルへと駆け寄った。
「リズ! 同じ寮で良かったわ」
「リズ、おめでとうございます」
私が望む寮はハッフルパフだとあらかじめ話してあったスーザンとジャスティンに加え、既に組分けされている一年生や上級生も口々に祝ってくれる。
グリフィンドールやスリザリン、レイブンクローにはない、暖かな安心感。これを私は求めていたのだった。
*
「僕はザカリアス・スミス」
「僕はジャスティン・フィンチ=フレッチリーです」
「私はスーザン・ボーンズ。この子はリズ・フォーリーよ」
ザカリアスという少年を加え、私達はホグワーツで初めての食事をとっていた。
「皆さんはもう、授業の予習をしたのですか?」
というジャスティンの問い掛けに対し、
「私はまだよ」
「僕もまだだ」
「私は少しだけ……」
と、なぜか私だけ違う答えを返していた。あれ? みんな予習してないの?
「僕はパラパラと教科書を見た程度ですが……魔法界では予習とはどのようにやるものなのでしょうか?」
「マグルとさほど変わりはないと思います。魔法使いと言ってもマグルと同じ人間ですから、基本的な生活の仕方は変わりません」
「なるほど。では授業もあまり変わりはないと?」
「進行の仕方はほぼほぼ変わりないと思いますが、魔法を学ぶため、実技は多いはずです。実際、呪文学———一年生は『妖精の魔法』の授業ですが、教科書には様々な呪文と、それの使い方が書かれています」
「そうでしたか。僕も頑張って予習しないと」
「一年生の初め頃はそこまで頑張らなくても良いと思います。みんな成り立ての魔法使いですから、まずは初歩から入りますから」
「なるほど。ありがとうございます」
スーザンとザカリアスは、私達のやり取りを呆然と聞いていた。
「私も予習とか考えた方が良いのかしら……?」
「学習の姿勢を考え直した方が良いのかもしれないな……」
そこまで考えさせる内容では無かったと思うのだが。
新入生歓迎の宴は無事終わり、私達一年生は寮へ案内された。
*
私達が案内されたのは、厨房近くの樽の山。監督生である男子生徒は、私達全員に聞こえるように説明する。
「この樽の山の、二つ目の列の真ん中の樽の底を二回叩くと寮への扉が開くよ。僕達はこれをハッフルパフ・リズムと呼んでいる」
そう言って、見本にハッフルパフ・リズムを見せてくれた。
パッと樽の底が開き、向こうから光が漏れる。
「間違えるとセキュリティに引っかかって熱いビネガーが噴き出してくるけど……とにかく中に入ろう」
不穏な言葉はあえて聞き流し、私達は寮の中へ足を踏み入れた。
まず現れた寮の談話室は、黄色と黒を基調とした暖かみのある部屋だった。談話室の奥には二つの通路があり、それが男子寮と女子寮にそれぞれ続くのだろう。
ジャスティンとザカリアスに別れを告げ、私はスーザンと共に穴熊の巣を彷彿させる茶色い通路に入っていった。茶色い木で出来た壁や床は落ち着いていて、壁には樽の底を大きくしたような、大きな真ん丸の扉がたくさんあった。それがそれぞれの部屋なのだろう。まるでホビ◯トの住む穴のようだ、と私は生前大好きだった『ホ◯ットの冒険』を思い出しつつ、割り当てられた部屋の扉を開けた。
部屋の中は、茶色を基調とし、クリーム色のような優しい黄色がアクセントとなっている、まさに穴熊の巣のような部屋だった。グリフィンドール寮が真っ赤であるように、激しい黄色じゃなくて良かった、と内心安心しつつ、同室になったスーザンを見る。
私の視線を受け止めたスーザンは、明るい調子で言った。
「まずは荷物を開けましょうか」
明日は授業も始まって忙しいでしょうし、と言い、片方のベッドに荷物を広げた。
| | ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄| | 机 |
| | ベッド | |______|
|ま|________|
| |サイド |
| |テーブル|
|ど| ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄|
| | ベッド | | ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄|
| |________| | 机 |
上のように左右対象に配置されているために、どちらの方が良い、というような事がないため、私は安心してもう片方をとった。ちなみに、上の図に書いてある以外にも、本棚や数人で囲めそうな小さな丸いテーブルやクッション、クローゼットなどもある。ちなみに扉は図の右の方にある。
私服や制服をクローゼットにかけ、教科書や本などは本棚に並べる。もちろん、明日使う教科書は移動時に役に立つカバンに、羽ペンやインク瓶、羊皮紙と共に入れておく。他の文房具類は、机の引き出しにしまっておいた。手早くパジャマへと着替え、私達はそれぞれのベッドに入る。
「おやすみ、リズ」
「おやすみなさい、スーザン」
私達は挨拶を交わすと、それぞれ夢の世界へと飛び立っていった。