絶望を嗤え(完結)   作:初代小人

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今回は先輩の回です。どうぞ


誰もが悪く、醜く、そして哀れな話

先輩の母は、心因性の病にかかっていた。

機嫌がいい時はとてもハイテンションでニコニコしているけれど、ふとしたことで機嫌が悪くなり、まだ幼かった先輩にひどい暴力を振るった。

父は妻の心の病を治そうと必死に努力したが、それが叶わないと知ると先輩を置いて逃げるように家を出ていった。

 

 

彼は暴力を振るわれながら自問自答した。

 

 

今こうして殴られているのは僕が悪いからなのだろうか。

いいや違う。

では誰が悪いのか。

 

 

母が悪いのだ、と。

 

 

もし彼の母を擁護するなら、彼の母は幼少期から家を出るまでの間、母(先輩の祖母)の再婚相手から性的な虐待を受け続けていた。

そして多感な心は歪み、壊れてしまったのである。

 

 

しかしそれを先輩が知ることはついぞなかった。

先輩が保育園でお泊まりの行事をした時、保育園の保母さんが先輩の体に不自然なあざを見つけ、密かに保健所に通報した。

そして虐待があったことが証明され、先輩は養子として一般的な家庭に引き取られた。

 

 

それでも彼は母が憎かった。

もはや親子の情など消え失せ、母へは憎悪以外に何の感情もなかった。

里親は優しくしてくれたし、表面上は優等生のように装っていたので彼は特に問題視されないまま成長していった。

 

 

それでも街へ出たら至るところにいる女性が母に見えてくる。

そして自分を罵倒してくる。

 

 

そんな幻覚に責め苛まれたもう彼は限界であった。

 

彼は身の回りの女性に復讐を始めた。

 

 

 

彼にとって幸運で、多くの女性にとっては不幸なのは、彼の容姿が普通以上には整っていたこと。

おかげで彼は、その凶悪な本性を見せなければ、優しくて包容力のあるイケメンに見えた。

 

 

彼はターゲットを決め、優しくして恋をさせ、そのタイミングで裏切った。

その瞬間の相手の苦しそうな、悲しそうな顔がとても快感だった。

 

 

歪んだ嗜好ではあるが、復讐の大義名分を得たそれは彼の中では正義であった。

彼はたくさんの女性を陥れてきた。

 

 

サラは、今回たまたまターゲットになっただけだった。

彼の思惑通り、サラは彼に恋をした。

バイト先には、歪んだ胸のうちを共有できる仲間が数人いて、彼らといつもサラを嘲笑っていた。

 

 

 

ただし、今回彼が想定していなかったことがある。

 

 

それは、真実を知って、怒り、サラを守ろうと動く男性(ロキ)がいたことである。

普段から、彼にとって厄介なそのような存在がいない女性をターゲットにしていたつもりであったが、今回彼はあまりにもサラが陥れやすかったせいで油断したようである。

 

 

サラは真実を未だに知らない




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