洋上にて海面を見つめる6人……福音が浮いてくる様子は見られない……
「SEが削りきれたかは分かりませんが、少なくとも無事では済まなさそうですわね」
「っていうか、そのまま沈んだりしないわよね?流石に寝覚め悪いんだけど……」
中には操縦者がいる……このまま海中に没するのは後味が悪い……
「救助の事は……考慮している余裕はなかった……俺たちも水中に入っていくわけには……いかないしな……」
ISが宇宙空間での活動を想定して作られたものである以上……当然水中での活動そのものは可能……
しかし、その機動力は当然落ちるし武器も碌に使えなくなる……宇宙空間であれば制限もないのだが……
「っむ、海中になにやら動きがある。福音が上がってきたら第二ラウンドになるな」
目聡く海中の動きを察知するラウラ……その言葉を聞いてみんなの顔に再び緊張が走る……!
「光の弾が浮上してきている……あの中に福音がいるのか……?」
時刻はすでに22時を回っている……月明りがあるとはいえ海面は真っ黒である……
その真っ暗闇の奥底に光が現れゆっくりと浮上してきていた……!
海中からその光が脱し……中空に浮かぶ様子を皆が固唾を飲んで見守る……
福音がいるとしても中の状態は不明……そのため迂闊に攻撃することもできなかった……
「光が晴れていきますわね」
眩く中も見えないほどの光……それがだんだんと弱まっていき……
そこには箒によってもがれたはずの片方の翼……それをエネルギーで形成した福音の姿……
「散開しろ!距離を取れ!」
それを見たラウラがみんなへ叫ぶ……どう見ても福音はまだ戦闘可能な状態……
弾幕を張っていた両翼の翼……その片方がエネルギーで再形成された……
既に脅威であった攻撃手段が進化した形……そして、その羽根からは……
今までとは比較にならない量の光弾が放たれる……!
「なによあれ、なんで羽根が復活してるのよ!?」
「まだ福音は試験稼働機、セカンドシフトするにしては早すぎるよ!」
セカンドシフトは経験の蓄積……長く使われた機体と操縦者の元で起こる現象……
本来福音のような試験稼働機で起こるはずはない……
「(結局ワクチンに頼らざるを得ないのか……?奴のSEは尽きていない……奴の武装が進化したとみるなら……今の俺たちでは奴のSEを削り切れない……どうにかして……ワクチンを打ち込む隙を作る……相手を無力化……これなら初めからワクチンに頼った方法……それを考えるべきだったか……?これは無駄な思考だ……)」
カイジは所属不明機事件の時のように……操縦者を失神させる……その方法を考えたが……福音が暴走している以上……内部の人間によって動いていない可能性が高く、操縦者へダメージを与えても意味がない……そもそもパイルバンカーは積んでおらず……さらには福音の懐に入ること自体が厳しい……それを言えばワクチンを打ち込む隙……そのほうがさらに絶望的なのだが……
そして、考えを巡らすその間に……福音は縦横無尽に暴れ出していた……
「なんて機動力と弾幕ですの!?回避に徹しても凌ぎ切れませんわ!」
「これに取り付けというのはいくらなんでも無茶があるぞ!」
最早福音は前衛の二人組を振り切り……光弾を撒き散らしている……
先ほどまではエネルギー反応を見て……攻守の入れ替え……隙を探っていたが……
新たに形成されたエネルギーウィング……それは常に高い反応値を示しており……
最早いつ福音が弾幕を張ってくるか……それすら分からなくなっていた……
「ちょっと、何よこれ!洒落になってないっての!」
「防御パッケージで持たせても、これじゃジリ貧どころじゃないよ!」
皆のSEが見る見るうちに削れていく……手立てが見つからなければ……全滅……!
「次は俺か……!考え事をしている暇もねぇ……!」
突如としてカイジへと追いすがる福音……カイジは海面上を滑るように逃げる……
「っち、まっすぐ追ってきやがる……!それに避けきれるもんじゃねぇ……!ひとまず破砕砲の加速で……!」
ハイパーセンサーが送ってくる背面の状況……それは正しく絶望的な眩さ……
視界のほぼほぼ、光弾に埋め尽くされている……!
「(加速だけじゃどうにもならねぇ……!ならせめて上に……!それと、水……!)」
カイジ、気付く……この下には水がある……使い道を即座に思いつき、実行……!
破砕砲を海面に向けて打ちこみ、水の壁を築く……その反動を使い上昇……
水壁では光弾を消すことはできないが……威力は減衰し小さくなる……!
その隙を縫ってSEを削られながらもどうにか逃げ出すカイジ……!
「交戦してからまだ5分、教員が到着するまであと10分。最早SEを削ることは考えるな、とにかく時間を稼ぐぞ!」
実は教員たちもカイジたちが交戦を開始……その瞬間からこちらへと移動を開始……
福音が手に負えなかった場合……時間を稼いで後を教員に任せる予定であったが……
下手にカイジの破砕砲で落としたのが災いしたか……まさかのセカンドシフト……!
「正直あと5分ってところが限界じゃないかな、ただ持たせるにしてもこれはきついよ!」
「だがここで振り切られたら旅館まで行かれる。少しでも時間稼ぎをするぞ!」
会話をしながらどうにか弾幕を避け続ける……正直勝ち目がない以上逃げ出したい……
しかし、ここを通せば後ろには生徒が、市民がいる……最早避難も間に合わない……
『織斑先生、避難勧告くらいは出せないのか……?』
この場をこれ以上持たせるのは無理と判断……千冬へと回線をつなぐ……
『旅館と生徒達ぐらいなら緘口令を敷くこともできる……しかし公に一般市民の避難は難しい……』
『なぜだ、市民に被害が出る段になっても……未だに腰を動かせないってのか……?』
『情報を秘匿しすぎた……いまさらになって領海内に暴走した軍用ISがいるなど……そんな報道は出来ないようだ……確実にパニックにもなる……』
最早今更、なのである……本来なら暴走して日本へと直行……その時点で勧告はなされるべき……
そうでなければ避難など間に合いようもなく……迎撃などの段取りも組めるわけがない……
自衛隊の到着も困難……大きな組織を動かすためにはそれ相応の時間がかかる……
そしてパニックによる二次災害……都市部の人間がこぞって避難を開始……
瞬く間に道路も公共交通機関も埋まる……我先にと逃げ出し……失われる理性……
命がけなのだからこれも当然……他者を押しのけ我先にと進むに決まっている……
『なら、教員のISをこっちへ直行ではなく……旅館側へ膨らませつつ向かわせろ……』
『それではお前たちの元へつくのが……!』
『どうにしろ、教員がつくまで持ちこたえられるか分からねぇ……ここを抜けた後、奴がそっちにまっすぐ向かったとしたら……直行してた教員じゃ奴に追いつけなくなる……!俺たちを倒した後に奴が旅館側でない方向に向かったとしたら……どうにもならなくなるがな……』
直行するのが当然早い……しかし、それは戦線を維持できる前提での話……
現状抜かれる公算が高いのなら……それは危険な一手である……!
『そうはいうが、だからといってお前たちをみすみす見殺しにするような……』
『小より大を取れ……!これでも旅館の、生徒達を優先する選択ではあるんだ……お前たちはどうだ……?無理強いはしない……ラウラは……』
『師匠、何も言うな。言わずともその気持ちは伝わってくる。それだけで私には充分だ』
不敵な笑みを浮かべたラウラ……カイジの言わんとすること……それを言わせるほど鈍くはない……
『このような力を持った者の責務だ。異存はない』
本来なら持ちうるはずもなかった専用機……しかし、一度受け取った以上……
その力、それを杖とし……自らの精神を高みへと昇らせた箒である……!
『まぁここで背を向けて逃げ帰っちゃ、後ろ指さされるどころじゃないしねぇ』
にひひと笑いを浮かべながら軽口を叩く鈴……だが、彼女が気にするところはそうではない……
ここで逃げ帰るようなことを……自らのプライドが許さなかった……
『noblesse oblige、高貴たるものとして、その背中で示しますわ』
その背を見てくれる民はここにはいないが……セシリアは貴族の令嬢として……
また、専用機持ちとして果たすべきこと……それを果たすことに決めた……
『僕を受け入れてくれた温かい場所とみんな、守らなくっちゃね』
みんなには嘘をついている形となってはいるが……それでも受け入れてくれた場所を……
それを守るためには……自らの身を張ることを厭わないシャルロットである……!
『と、いうわけだ織斑先生……やれるだけのことはやる……だからあんたもやれることをやれ……』
『具現維持限界になる前には絶対に撤退しろ……もしその後にお前たちにどのようなことが起ころうとも……私の名前、権威、名声、コネ……それらを全て使ってでも守ると誓おう……!だから、必ず……生きて帰ってこい……!』
死んでしまえば最早何もできない……死んでしまった後では何をしようとも……
生きている者がただ自己満足のためになすことに過ぎない……
『『了解です!』』
敵との戦力差は6:1……本来なら相手にもならないはずであるが……
しかし、皆が一様に覚悟を決め……その戦闘に挑むのであった……
会話シーン中は敵の攻撃が当たらない無敵時間です()