時系列がめちゃくちゃで読みづらくてすみません。
「それじゃあ、ヨワシに特訓を任せたよ」
ヒトミがそう告げると、リラは満面の笑みで応える。
「任せてください」
今、ヒトミ達がいるのはイッシュ地方、ヨワシの訓練を任せて、ヒトミは足を動かす。
「魚群の特性を活かしつつ、ポケモンに適応能力がある持ち物、か」
様々な街を巡り歩き、いくつか候補を探していく内に、一つの結論に辿り着いた。
「ジュエル……か」
イッシュ地方には様々なタイプのジュエルが存在する。各々のタイプに合わせたジュエルが有り、それらは消耗品という形にはなるが、そのタイプに応じた技の威力を一・三倍にするという強力なアイテムである。
「使うとすれば、水のジュエルだな……」
いくつかの種類を集めつつ、額に皺を寄せてヒトミが呟く。ヨワシのタイプを想定すると同じタイプが一番扱いやすいだろう。だが、ヒトミには確信を得たという表情はしていない。
ピロン♪
「……メール?」
ヒトミの携帯から、着信音が鳴った。
ヒトミが借りているアパートに、珍しい客が訪れた。
「風の噂で、アローラ地方出身のトレーナーがいると聞いてね。少し話がしたかったのさ」
そう言うと、燕尾服に黄色いマフラーを纏った男性は、ハイリが淹れた紅茶を啜る。
「……お目にかかれて光栄ですよ、イッシュ地方四天王 ギーマさん」
緊張を隠すことなく、正面に座るヒトミが応える。
「そう固くならないで欲しい。ポケモンリーグも事情があって、今は機能していない。その都合もあって、アローラ地方に行く用事が出来てね」
公私共に、とギーマが付け加える。
「まぁ、確かについ最近までアローラにいましたけど、一トレーナーの俺に聞いても、普通の話しか出来ませんよ?」
サンムーンのストーリーでは、僅かにだがギーマが絡んでいる。何の為に訪れたかは不明だが彼がアローラ地方に出向くことは間違いない。
「その普通の話が聞きたいのさ。情報は多角的にとらえた方が良い。何より、手札は多いに越したことはない、そうだろう?」
口元をにやりとゆがめるギーマ。その姿は一流のギャンブラーの風格だ。
アローラ地方についてギーマとヒトミは話した。サンムーンのストーリーに関わることはできる限り避けたようだったが、街の様子や、守り神、他にも現れるポケモンなど、詳細を伝えた。ギーマ自身もある程度話す内容を決めていたようだが、ヒトミの持っている情報に興味を示していた。
「おっと、もうこんな時間か、ついつい話しすぎてしまったな」
窓の外は夕日に赤く染められ、時刻は夕方になっていることを示している。
「そうですね、話すと結構長くなるものですね。収穫はありましたか?」
ヒトミの問いにギーマが応える。
「ああ、十分過ぎるほどだったよ。バトルツリーとやらにも足を向けてみたいかな。兎も角、予想以上だった」
そう返すと、ギーマは礼をさせて欲しいと言う。それに対してヒトミは一度は断りをいれるが、何かないかと再三ギーマに尋ねられると、思い出したかのように口を開く。
「絶対に勝たなければならない勝負に、勝つ秘訣はありますか?」
詳細は話せないが、今ヒトミが聞きたいのはヨワシの特性をどうするかについてで、答えが出せないことだった。
「ふむ、不明瞭な質問だが、なにかしら事情があるようだ」
口元に手を当て、数秒ギーマは悩み、口を開く。
「それでは質問だ、崖の向こうに君の大切な必要としているものがあるとしよう。向こう岸までの距離は目算で四メートル弱、君ならどうする?」
その質問にヒトミは悩む。四メートル弱であれば、標準的な走り幅跳びの記録で、成人男性であれば不可能な距離ではないだろう。体力に自信がある人間であれば即答で跳ぶと答えるかもしれない。だが、ヒトミはすぐには返事を返さなかった。無意に跳ぶと答える事が正解だとは思えなかったのだろう。沈黙の後に、ヒトミが口を開く。
「確実に崖を渡れる方法を探します。その場にある全てのものを利用して確実な方法を……これだと答えになりませんかね?」
それに対し、ギーマは返事をする。
「今君が思考した時間は七十四・四秒。私が出した質問に対して様々な条件を思考したのだろうね」
そして、ギーマは続ける。
「先に答えを出しておこうか。その思考した時間が零に近いほど、正解に近づくと私は思っている。例えば、ひこうタイプを得意としたトレーナーならそれぐらい問題ないと答えるだろうし、エスパータイプのトレーナーであればテレポートで距離も位置も関係なく辿り着くことが出来る、と答えるだろうね」
質問の意図として、そういった人には別の形の質問にしただろうけれど、とギーマは付け足す。
「……時間がかかれば、正解から離れる、と?」
ヒトミは疑問を浮かべる。言葉の通りであれば、一分を超える自分の思考時間は長いとおもったのだろう。
「いや、君が感じたとおりこの質問には不確定要素がありすぎる。それを考慮するとその時間については長くても問題はないだろう。ただ、それも考慮に入れてなお即答出来るものがあれば、それは間違いなく正解だと思うのさ」
つまりは、思考する時間が多ければ多いほど、不確定要素が多くなり難しい問題だということでもある、とギーマは言う。
「先ほどの答えから君は、物事に対して慎重に行動するタイプの人間だ。なおかつ、自分の能力に関して自信をあまり持っていないということと、今抱えている問題が深刻な状況にあることが分かる」
他にも分析が聞きたいかな、とギーマは問う。
「いや、大丈夫です。凄いですね、今の一瞬でそこまで相手を読むことが出来るなんて……」
断りをいれつつ、流石は四天王だと舌を巻くヒトミ。
「必要であれば思考することも必要だ。だが、物事を保留にする癖は悪癖でもある。必要性があるのであれば、手を伸ばすべきだと思うのさ」
その言葉に、自分の心情を見透かされていた事に驚くヒトミ。
「妥協点を……探すべきだと?」
本音を漏らすヒトミ。
「その結果で十分だと考えるなら、妥協点で構わない。君の目標地点を知らないからね。でも、それが届かないと感じているのであれば、例え不可能に見えたとしても、別の手段を選ぶべきだ」
ギーマの言葉に、迷い、思考し、戸惑うヒトミ。
「ああ、それとあと二つほど、勝負事に必要な事があった」
「それは……?」
再びにやりと口元を歪め、ギーマが言葉にする。
「自分の出した答えに、笑って信じることさ」
宵闇の中、ヒトミの手元にいくつかジュエルがある。ヨワシのタイプを考えれば水のジュエルだろう。だがしかし、相手にするポケモンを想定すると、それでは足りない。
「……笑って、信じる」
ギーマの言葉を繰り返す。そうして、ヒトミはいくつかあるジュエルの中から、黒く輝くジュエルに手を伸ばす。
読了ありがとうございました。
今回はヨワシの特性を決めるときにギーマと会っていた、というお話でした。