「本当に申し訳ございません!」
夕食の席、頭を下げるレムに視線が集まる。
「えっと、つまりこのグラタンらしきものの中にタバスカが大量に入ったやつがあると」
「はい、タバスカの瓶が倒れてそれに気づかなくて。気づいたときにはもう瓶のほとんどが中に。もったいないからあとで食べようとそのままオーブンで焼いて置いといたら姉様がすでに運んでいて。私たちの分の中には無かったので皆様に配ったもののうちのどれかがタバスカ入りかと」
テーブルに並べられたグラタンに視線が集まる。
「中を調べて見つかったらレムが責任を持って食べます。それでは失礼します」
「待った!」
とスバルが声を上げる。
「それでは面白くない、ここはロシアングラタンといこうぜ」
「す、スバル君!?」
「俺とエミリアたん、パックとベア子がいないみたいだからそこにラムとレムが入ってロズワールで五人。目の前にあるのは五個だ」
「面白そうじゃぁない。つまり一人一つ選んで選んだグラタンを責任持って食べる。ここは乗ろうじゃぁないか。レムもそう言うことでいいね?」
「……はい、ロズワール様」
「じゃ、一番は言い出しっぺの俺、行きまーす!」
ロズワールの近くにあったものを取る。
「では、二番、レムが行きます」
レムは一番近くにあったものを取る。
「じゃあ、選ぶね」
とエミリアはスバルの目の前にあったものを選ぶ。
「そぉれでは私も選ぼうかぁ」
とエミリアの目の前にあったものを選ぶ。
「最後はラムね」
近くにあったものを取る。
食事が終わり片付け。
「結局外れはどこに行ったのでしょう」
「さぁな、パックもベア子も普通に食ってたし。最初から無かったんじゃね」
「そうね、レムが早とちりしたのでしょう」
「そう、ですね」
レムからの視線にスバルは気づかないふりをする。
ロシアングラタンは結局何事も起きずに終了した。誰も外れを引かずに終わった。
自室に戻ったスバルはまず水をがぶ飲みした。
「まだ舌に感覚が戻らねぇ。配膳したのラムだったか、自分の主様の前に何置いているんだよ」
自分の評価を極端に気にするレムのためにその場を盛り上げ結局何も無かったことにできた。選ぶときが一番の賭けだったが。外れを引いても外れと言わなきゃ外れではないと言うことだ。
「明日になれば治るよな」
そのまま目を閉じる。
夜中、眩しい光に目を覚ます。
「レム、か?」
「はい、起こしてしまってすいません。他に何か調子の悪いところはございませんか?ずっと口の中が痛そうだったので、治療をさせていただきました」
「いや、大丈夫だ。どこも痛くない」
「そう、ですか……。ごめんなさい」
と、深々と頭を下げるレム。
「いやいやいや、何で謝られているんだ。俺何もされてないぞ」
「一番辛いグラタン、スバル君が食べたのですよね。辛いグラタン、無かったことにしようとしたのですよね」
気づかれてたか。誤魔化しきれてないなら意味無いじゃねえかよ。
目の前のレムは頭を上げようとしない。
「レム」
「はい」
「がぶりんちょ」
と耳を食んだ。
「ひゃうっ!」
おっ、可愛らしい悲鳴。
「スバル君!何を?」
「ん?くひなおひ」
「そ、そんな、レムは美味しくないですよ。あとくわえたまま話さないでください」
「おへ、離さない」
「しゃべらないでくださいってことです」
「おぉ、ごめんごめん」
と言いながら離すとこっちを恨めしげに見つめる。
「心の準備できてなかったのに……」
「レム、気にするなって。俺がしたくてしたことなんだから」
「うぅ、それってどっちの話ですか」
「どっちもだ。激辛グラタン食ったのも耳を噛んだのも」
「はい」
「そんなに思い詰めるな、思い詰めすぎても何もならないからな」
「はい」
「だから、まあ、明日また美味しいやつ作ってくれよ」
「はい!」
とまた、いつかのように笑い泣くレムだった。
「美味しい料理とは言ったものの」
まさか、全ての料理がマヨネーズ染めになるとは。
「スバル君、いかがですか?誉めてくれても良いですよ?」
「レム」
「はい」
「俺だけ、だよな?」
「はい、スバル君だけにさせてもらいました」
「なら、よし」
と頭を撫でた。
レムがトラウマを押してまで作ってくれたマヨネーズ料理の数々の味は言うまでもない。
デスカレー食ったら内蔵が痛い。