「さすがは姉様、お茶を入れる姿がとても絵になります」
お菓子をテーブルに並べながらそんなことを言うレム。
午後の仕事も残るは夕飯だけ、いつもよりたまたま早く仕事が済んでしまった日のこと。
ラムが新しいお茶を試してみたいとのこと、そしてレムは新しいお菓子のレシピが思いついたとの事でお茶会が開かれることになったのである。
「あれ、このお茶。この前飲んだやつより飲みやすいな」
「ふっ、バルスも多少は物の違いと言うやつがわかってきたみたいね」
「スバル君、お菓子の方も是非食べてみてください」
「どれどれ……美味しいな。リンガ使ってるのか?」
「はい、使ってますよ」
スバルの感想に満足げなレム。手元の紅茶を見てふとラムに聞いてみたいことがあったのを思い出す。
「そう言えばラム、緑茶って知ってるか?」
「えぇ、聞いたことはあるわ。カララギの方で飲まれているわよ」
なるほど、やはりあるのか。
まぁ、発酵の具合の違いと言う話だからあるはずだと思ってはいた。
「この屋敷に緑茶ってあるのか?」
「えぇ、あるわ。飲みたいの?」
「まぁ、故郷でよく飲んでいたからな」
「そう、なら用意してあげるわ」
と言いつつラムはキッチンに向かう。
「レム」
「はい、何でしょうスバル君」
「米ってあるのか?」
「えぇ、ありますよ。カララギの方ではよく食べられているそうです。食べたいですか?」
「じゃあ夕飯にでもどうだ?」
「良いですよ。たまにはそういうのもありですね」
と、今晩の献立が決まり一段落。
「持ってきたわよバルス」
ラムが急須からお茶を注ぎスバルに渡す。
「おう、サンキュウ」
一口飲んでみると記憶通りの味がしてふと懐かしさを覚える。しかしそれでも帰りたいと思わないのは今が充実しているからであろう。
「カララギか……」
もしかしたら元の世界の日本に近い場所なのかもしれない。商業が盛んというのは聞いたことがあるが。
機会があったら行ってみようと心に留める。
「そう言えばスバル君が前言ってたこーらって飲み物ってどういったものなのですか?」
「そうだな、甘くてシュワってする黒い飲み物だ」
「全く想像がつかないわね」
「作り方が想像できません」
「俺も作れるものなら作りてぇよ」
あれを日常的に飲んでた日々が今や遠い昔のことのようである。
マヨネーズみたく材料が簡単と言うわけでもないだろう。作り方もただ混ぜれば良いと言うわけでもあるまい。
「スバル君、お米の他に何かリクエストってありますか?」
「味噌汁と焼き魚と漬物」
the和食なメニューを並べてみると。
「了解です」
その日の夕食。
「たぁまにはこういうのもありかな。」
とロズワールは意外にも器用に箸を操っている。
エミリアはこそこそとラムにフォークを持ってきてもらっている。
ベアトリスはこれまた意外にも箸で魚の骨をチマチマと取っていた。
「スバル、器用だね」
「逆にフォークで魚の骨をとる方が難しいと思うぞ」
「うーん、まぁ確かにそうかもだけど」
まぁ、異世界にも箸の文化があることの方が驚いたが。
「て言うかエミリアたん箸使えないんだ」
「だ、だって今まで使ったことなかったし」
「使えなかったらこれから色々と食事会とかに呼ばれたとき困るくない?」
「うぅ、確かにそうかも」
「はい、箸を持って俺の真似して。上側の箸だけ動かして食べる」
見よう見まねに箸を持ちご飯を挟む。真剣な面持ちでそれを持ち上げ口に運ぶ。
「そうそう、そんな感じ」
「やっぱりちょっと難しいかも」
「練習練習、そう言えばラムとレムは箸使えるの?」
「もちろん使えるわよ。昔はよく使っていたもの」
やはり鬼族の里と言うのはやはり日本と似たような感じなのだろう。
「そう言えばレム、この漬物って」
「浅漬けですよ」
「へぇ」
まぁ、さすがに日常的には作ってないか。急いで作ったのだろう。そんなに漬かってはいない。
箸を置き手を合わせるとレムがお茶を置いてくれる。
「姉様からリョクチャの入れ方を習いました。今日のスバル君、いつもより嬉しそうに食べてくれてレムは嬉しいです」
「久々に故郷の味が食べられて嬉しかったよ。ありがとう」
と言いながらいつもより丁寧に頭を撫でる。
「お嫁さんにしたいなんて気が早いですよ」
「そこまで言ってないよ!」
次の日、レムがなにやら壺を運んでいた。
「何やってるんだ、レム」
「あっ、スバル君。漬物を作ろうと思いまして」
「そりゃあ楽しみだな」
「はい、レムも初めての挑戦なので。でも期待していてください」
それからしばらく、ロズワール邸では和食が続いた。
カララギが日本に近いとは書いてあったけど味噌汁とか漬物とか緑茶ってあるのかな。