ロズワール邸の日常   作:カンナ

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そもそも精霊もお化けみたいなものか。


胆試しの夜

「きもだめし?」

「そう、肝試しだよ。エミリアたんは王様になるのでしょ?ならある程度の勇気が必要だと思うのだよ」

「それは一理あるねぇ。そのきもだめしとやらが何かはわからないけど。エミリア様の素質を疑うわけでは無いけど確かにやってみなきゃ試せないものもあるしねぇ」

ロズワールは面白いもの見たさであるように思えるが乗り気なのはありがたい。

「このくじを引きペアとなった人と二人一組で夜の屋敷を巡る。パックとロズワールとベア子には驚かせる役をやってもらいたい」

「なぁるほどねぇ。きもだめしの趣旨は理解したよ。ならたっぷりと驚いてもらうよう張り切っちゃうよぉ。途中棄権は罰ゲーム受けてもらうからぁ」

罰ゲームと言う言葉に心なしか緊張感が高まる。

「リア、覚悟してもらうよ。ベティ、早速準備しよう」

パックとベアトリスは退出。

さて、クジの結果。

スバル、レム。

エミリア、ラム。

「スバル君、どんな仕掛けが待っていてもレムがいるので怖くはありません。ご安心ください」

「お、おう。立場が逆な気がするがよろしく」

「エミリア様、よろしくお願いします」

「うん、よろしくねラム。きもだめしがまだよくわからないけど」

エミリアとのペアになるチャンスを逃し、スバルのテンションが下がったのは言うまでもない。

 

夕食を終え、胆試しのために屋敷の明かりは落とされ。ペアがそれぞれ一つずつ持つランタンの明かりのみとなる。

「それじゃあ二人とも、行ってくるね」

「バルス、暗闇に乗じてレムに何かしたら覚悟しなさい」

玄関から屋敷に入り、ロズワールの執務室がゴールとなっている。前のペアが入って十分後にスタートとなっているが。

「「キャー!!」」

五分もしないうちに涙目になったエミリアとラムが飛び出してきた。

「無理よこれ、スバル、先に行って」

「バルス、態勢を立て直すからレムをつれて先に行きなさい」

「あの二人と一匹は何を仕掛けたんだよ。レム、行くか?」

「えぇ、行きましょう」

そう言ってレムはスバルの手を握り屋敷に入っていった。

 

 

 

「寒っ!」

屋敷に入っての最初の感想はそれだった。

「大精霊様の仕業でしょう。進みますよ」

レムが男らしい。

しかしそんなレムの足も止まることになる。

「どうしたレム?」

レムがゆっくりと振り向く。

「うわー!!レム、顔は?顔はどうした?!のっぺらぼうぅ!!」

「す、スバル君!どうしてそんなに血まみれなんですか!?」

スバルはレムから逃げようとするがそんなスバルをレムが逃がすはずなく捕まえる。

「あれ?濡れてないですね、ってあれ?スバル君、起きてください!幻覚を見せる魔法ですよ!心配はありません」

「はっ!あれ、レムか?」

「はい、スバル君のレムです」

「ビックリしたぜ、進むか?」

「はい、進みましょう」

階段に差し掛かる。そこには看板が立てられイ文字で「この階にある禁書庫を探せ」と書かれていた。

「禁書庫か、ならすぐに見つかるな。行くぞレム」

とスバルが言った瞬間、すぐそこにあった扉が開きスバルは引きずり込まれる。

「スバル君!」

ちらりと見えた扉の向こう、それは禁書庫。しかしレムが急いで開くもすでに扉渡りされていた。

それからのレムの行動は早かった。凄まじい勢いで片っ端から扉を開く。それぞれの部屋に仕掛けられていた罠は全て無視された。

 

禁書庫の中、スバルは拘束されていた。

「あんたがいると扉渡りもすぐ破られて仕掛けが無駄になるかしら。しばらくそこで大人しくしているのよ」

「やり方が乱暴すぎるだろ」

しかし、そんな会話が終わるか終わらないかといううちに禁書庫の扉が開き、鬼化したレムが入ってきた。

「スバル君!無事ですか!」

「ふ、ふん!さっさっ連れていくのよ、あの階段には禁書庫に一回訪れないと昇ってもたどり着かない階段になるようにされているのよ」

「おう、じゃあな、ベア子」

禁書庫を出て階段を一気に昇りロズワールの執務室がある階にたどり着く。と思われたがなぜか一階に戻っていた。

「あれ、どういうことだ」

「どうやら、二階、三階もちゃんと巡らなきゃいけないみたいですね」

廊下の奥の方からラムとエミリアの悲鳴が聞こえ、二人もちゃんとリベンジしていることを確認する。

 

 

ところ変わって二階、は指示書も罠も見当たらない。

二階の奥、レムは今度こそスバルを渡さないと言わんばかりに手を握り続ける。

ヒントがないか探していると、後ろからカチャ、カチャ、という音が聞こえる。

後ろを振り替えると木剣を持った西洋甲冑が歩いている。

「あれから逃げろということですか。スバル君!捕まっていてください」

「えっ、ちょっ、レムさん!」

突然レムはスバルを抱えると全速力で走り始めた。

しかし甲冑も足が早い。凄まじい速度で追いかけてくる。

階段のところまで戻りレムは一足飛びで三階まで昇った。

「追って来ませんね、三階にも無事にたどり着けました。誉めてくれても良いですよ」

「あぁ、レムよくやってくれた」

そう言って頭を撫でると嬉しそうな顔がランタンの明かりに浮かぶ。

「さて、次に進みましょう」

レムのたくましさにスバルはここまでほとんど驚く機会を与えられていないことに気づく。

いや、最初の罠で無様に気絶しているけど。

そんなことを考えていると突然回りが暗闇に包まれる。気がついたら手を繋いでいたはずのレムもいない。

「この感覚は、シャマクか」

壁を探し、壁伝いに奥を目指す。二階のことを考えれば奥に進めば何かしらの仕掛けが起動するはずだ。

「ふぎゃあ!」

ヒヤリとしたものが首筋を撫でた。

「ひぇ!」

今度は首筋に水滴。

「うがっ!」

なにかにぶつかった感覚。

正面に壁でもあるのかとペタペタさわっていると、突然人に触れた時の温かい感覚。

「スバル君、無事で良かったです」

そこにはレムが手を握り立っていた。いつのまにかシャマクの効果も切れている。

「姉様達がこの階に到達したらまたシャマクが発動すると思いますので早く戻りましょう」

どうやら奥に二人が到達するとシャマクの効果が解かれる仕組みだったらしい。

奥に到達すれば解かれると言うのもロズワールにはしては単純だなと思いつつも階段のところまで戻る。

その後何事もなくロズワールの執務室にたどり着く。

「やぁ、よぉくたどり着いたね。さぁ、そこに座ってくれたまえ」

「何だよロズワール、この階にはなにも仕掛けてないのか」

「仕掛けてはいたのだけどねぇ、そこのレムが全部避けてしまったのだよぉ」

「そうなのか?」

「はい、スバル君を無事にたどり着かせたかったので。誉めてください」

レムの頭を撫でながら、今回の自分のくじ運はある意味良かったと朝の自分を褒め称える。

「ローズーワールー」

バン!と扉が開き、怨みのこもった声を響かせながらボロボロになったエミリアとラムが入ってくる。

「全員たどり着いたようだねぇ、しかしながらぁ、罰ゲームがないのもつまらなぁいから。そうだねぇ。遅くついたペアと言おうと思ったけぇど。スバル君、君が罰ゲームの対象だぁ」

「はぁ!何故!why?」

「君はレムに頼りきりだったじゃぁないか、それに後に着いた二人は避けられた罠も全て起動させてくれたようだしぃ、と言うわけでこのタバスカ入りのミルクを一気飲みしてもらおう」

「バルス、飲みなさい」

「スバル、早く飲んで」

「スバル君、健闘を祈ります」

「神は死んだー」

そう叫びながらタバスカミルクを一気に飲む。

そして悶絶する。

「喉が!胃が!ぐぇぇぇ」

「さて、今日はお開きとしましょぉか」

ロズワールの言葉と共に今日の胆試しは終わりを告げた。

 

次の日のこと。

「スバル君、スバル君、ちょっと」

朝食前、レムが耳元に顔を寄せ囁いたのは。

「昨日の夜中、レムの部屋の前通りましか?」

「いや、昨日はずっと寝てたけど」

「おかしいですね」

その時、後ろからカチャ、カチャ、と歩く音がする。

ゆっくり振り替えるとそれは昨日追いかけてきた木剣を持った西洋甲冑だ。

こちらを確認すると突然走り出す。が、レムのモーニングスターに吹っ飛ばされそのまま動きを止めた。

「大丈夫なのか、これ」

「はい、修復は可能です。後で片付けることにして今は朝食の準備に入りましょう」

 

 

 

 

そして朝食の席でのこと。

「甲冑?動かした覚えは無いよぉ。ベアトリスかな?」

「そんなもの動かした覚えは無いかしら、にーちゃ?」

「僕も知らないよ」

「て言うかそんな仕掛けがあったの?スバル」

「あぁ、レムと一緒に逃げ回ったぞ」

「レムも見たというならバルスの思い違いでは無さそうね」

「もしかして、その甲冑?木剣を持っていなかったかなぁ」

ロズワールの言葉にレムが頷く。

「なぁるほどねぇ」

「いや、何納得してるんだよ」

「あれは多分、私が昔買った魔道具だぁよ。壊れたと思っていたのだけどねぇ。仕方ないかぁら本当に壊しますか」

と良いながらロズワールは廊下を指差す。

スバルとレムは顔を見合わせて、廊下を見る。

そこには木剣を持った甲冑が立っていた。

 

 

 

 




このペア決め、ちゃんとくじ引きしたのだよ。

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