みやぶる先生が言ってた。
電撃で焼けた土の臭い。炭になったかつて木だったものの臭い。そして、そこに住んでいたポケモンたちの臭い。多種多様の臭いがそこに在る。
だが、今一番強いのはトレーナーの闘志。嗅覚とは異なる感覚がニオイを感じ取る。
そして、今闘志を燃やしているのは--
琴葉茜「アオイ。ウチいっしょうけんめい応援するからね!がんばってな~!!ふぁいとー!」
葵の双子の姉。琴葉茜だった。
わざわざチアリーダーの服に着替えてボンボンを振る姿は、愛らしいながらも本気を感じさせる。
葵「うん。頑張るよお姉ちゃん」
茜「うん。きりたんちゃんの時は静かにしとってって言われとったから、その分お姉ちゃん葵を応援すろからね。
フレーフレー!ア・オ・イ!がんばれがんばれ、がんばって!!ふぁい!」
一方、対戦相手となる弦巻マキの方は……。
マキ「本当に、ほんっとうに手加減してよね!
相手は子供なんだからね!?忘れてたらダメだからね!!」
ライディーンとのジャンケンに負けてしまい、バトルさせることになってしまったことに負い目を感じながら、半泣きでライディーンに自制を呼びかけ続ける。
ライディーン「そう声高に叫ぶな主よ。何故そこまで念を押すやら。ハッハッハッハッハ--」
自信満々に笑うライディーンに対してマキは……
マキ「……忘れてないわよね?昔シルフカンパニーのビルを倒壊させたの」
ライディーン「ハッ、ハ…………あ」
そこで自信満々のライディーンの表情が笑ったまま固まった。
マキ「--あの時のビルの建て直しの請求。まだ残ってるよ?」
ライディーン「あー……うん。」
マキ「私、借金返すためにひたすらポケモンバトルしてて、最近『賞金稼ぎのマキ』とか呼ばれてるの知って少しショックだったんだよ?」
ライディーン「…………知ってる。数年くらいまえに聞いたぞ。」
マキ「そのくらいむかしから戦って賞金稼いでも、まだ残ってるの。分かるかな?」
ライディーン「……はい。」
マキ「葵ちゃんに怪我…させないでね?」
ライディーン「はい…」
マキ「……………博士の研究所。壊さないでね。
分かったかな。ライディーン?」
ライディーン「はい。分かりました。」
マキ「…………うん。信じるからね。ライディーン。」
ライディーンの表情が真面目になったのを確認すると、ようやく納得してライディーンをバトルに送り出した。
ライディーン(いやはや…まさかあそこまで怒っていたとは。)
ばつが悪そうに頭を掻きながらフィールドに立つ。
マキ「あ、そうだ、ライディーン。」
ライディーン「--お、おう!」
(まさか、まだ何か怒られるのか!?)
マキ「言い忘れたけど、ただいま。久しぶりのバトル、楽しもう。
今度はゆかりちゃんやずん子ちゃんともバトル出来ると思うから。ごめんね、ライディーン。」
ライディーン「…………」
先ほどまでの怒りが嘘のように、マキはライディーンに笑いかけ、ライディーンが全力で戦えないことを謝った。
その様子を見て一瞬面食らうも、ライディーンもまた笑う。
ライディーン「……お前のいないカントーの地は、少し物足りなかったぞ。おかえり。マキ」
こうして、双方戦う準備が整ったのだった。
マキ「じゃあ行くよ、葵ちゃん!」
葵「はい、弦巻先輩!!」
ライディーン「少女よ、俺様に挑む2匹を呼ぶが良い!!」
小さな両手に大きなボールを二つ構える葵。
葵「--行きます!
『ミネルヴィ』『トリトディア』!」
その姿は美の象徴。流れる水のように涼やかに煌めく鱗を持つ世界で一番美しいポケモン。『ミネルヴィ』のミロカロス。
住む場所により姿を変える高い生命力を持つ殻付きの軟体生物。『トリトディア』のトリトドン
ライディーン「知らん顔ばかりだな……カントーではいない種か?」
葵「ええ。どっちもみずタイプ。因みにトリトディアはみず・じめんタイプですから、貴方のでんき攻撃は効きませんよ」
ライディーン「ほう、そうか。
だが、直接電気攻撃はしないと言ったのだ。
じめんタイプだろうが“ちくでん“持ちだろうが同じことだ。」
ライディーンは人型の姿のまま腕を組み、初めて見るポケモンを観察する。
ライディーン「先手は譲ろう。来るが良い」
葵「だったら、トリトディア。“どろあそび“」
どろあそび。それはでんきタイプの攻撃の威力を下げるワザだ。
トリトディア「ぽわ~!」
ライディーン「ほう…その年で慎重な闘いをするのだな。」
先手確実の状況でまずでんき対策。
子供としてはかなり上手い手だ。
葵「そして、ミネルヴィは“みずのはどう“」
ミロカロスのミネルヴィの全身のウロコから発する水分が波動となってライディーンへ向かう。
ライディーン「ぐうっ……」
(む…何だ?目が回る)
葵「やった。“こんらん“してる!トリトディア、“どろばくだん“!」
トリトディア「ぽわぁ~お!!」
ライディーン「ぐっ…!」
ライディーン(ドロが目に入った……)
マキ「…………凄い葵ちゃん。的確にライディーンが力を出せないようにワザを出してる」
葵「大丈夫。行ける!ミネルヴィ“どくどく“!」
みずのはどうと同じく、綺麗なウロコから精製される桃色の光の矢がライディーンに放たれる。
葵「これが当たれば勝てる。伝説のポケモンに!」
猛毒で敵を蝕むどくどくは、伝説のポケモンでも容赦なく体力を奪う。でんきショックだけど縛っていてはどろあそびの影響とミロカロスの元々の耐久値と回復力を考えればダメージは期待できない。
そうで無くても耐久系じめんタイプポケモンのトリトドン。
積みも良いところだ。
ライディーン「ぬぅ…」
(さすがに縛りが強すぎたな。勝てぬ。)
“しんぴのまもり“や“ひかりのかべ“などが使えない。
オマケにニンゲンの姿では空も飛べない。
でんきショックだけ縛りはさすがに無理だった。
…………ライディーン
マキ「ライディーン。手を地面に!」
ライディーン「っっ--!!」
トレーナーの指示に対して、反射よりもう一段階速い反応で手を突き出す。
こんらんとドロの影響で目が見えない中、ライディーンが信じられるのはトレーナーの判断と指示のみ。
マキ「でんきショック。」
ライディーン「ハアッ!!」
でんきショック発射の衝撃が地面と自身の身体に伝わりライディーンは宙に吹き飛び、どくどくの射程範囲の外に逃げだせた。
ライディーン「ぐおっ…!」
しかし目が見えず普段飛んでいるライディーンではまともな着地は出来ず地に転がってしまう。
葵「あんな方法で“どくどく“を躱しちゃった……」
葵のポケモン達の怒濤の攻めにこれまで全く指示する気配が無かったマキが動いた。
マキ「凄いね葵ちゃん。まだ初等部なのに、みずタイプででんきタイプと戦う方法を勉強してるのがよく分かるよ。大人だってこうはいかないもの。」
葵「ほ、本当ですか弦巻先輩!ありがとうございます!」
マキ「ライディーンは分かってたのかな。葵ちゃんが強いって」
ライディーン「……弱い者イジメの趣味は無いな」
マキ「うん。そうだね……。
ゴメンね、葵ちゃん。私は葵ちゃんのことちゃんと知らないのに、手加減なんて図々しかったよ。
ライディーンも。パートナー失格だね。貴方の考えをちゃんと聞くべきだったよ。」
(きっと…ゆかりちゃんも分かってたんだ……だからきりたんちゃんに…)
葵「え…?弦巻先輩?」
そこでマキの表情が変わった。
それまで優しいお姉さんの体でいたのとは打って変わり、一人のトレーナーとしての顔があった。
マキ「葵ちゃん。改めまして、タマムシ学園、実戦科2年生。
兼--カントー地方リーグ殿堂入り。弦巻マキです。
ここからは私とライディーンが戦います。」
葵「殿……堂、入り…?」
マキ「ゆかりちゃんときりたんちゃんのバトルを見て、やり過ぎてしまったら傷つけちゃうかと思ってたの。
でも、葵ちゃんはちゃんと戦える。それが分かったから……」
スッと右手にハイパーボールを構える。
マキのバトル時のクセ。臨戦態勢。
マキ「行くよライディーン!久しぶりのゼンリョク全開!!」
ライディーン「ああ。怪我させない程度にゼンリョクだ!!」
サブタイトルと前書きでこんだけピカチュウ出そうな雰囲気出しといて本編。
だが私は誤らない