ポケモン×ボイスロイド ボイスポケット   作:SOD

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この話は、本来ならタマムシ学園入学編を書く前に説明回として入れておいた方がいいかと思っていた、後日談です。

でもタマムシ学園入学編を書きたかったのでお蔵入りしてました…が、この度やっぱ載せとこうかなと思い、書きました。

タマムシ学園襲撃事件の後、入院してた東北ずん子と、結月ゆかりの僅かな会話内容が書かれています。





エクストラ
EXTRA.1  東北ずん子はただー結月ゆかりと語りたい。


許容(ゆる)される事が出来るだろうか?

 

 

私の欲望(きもち)を。この薄汚れた尊敬(しっと)裏返(まなざ)しを向けることを。

 

 

ずん子「・・・・・・・・・ん・・・・・・」

 

月明かりが夜の闇を照らし、街の電光すら沈む時間。

病院に入院していた東北ずん子は、意識を覚ました。

 

ずん子「・・・・・・・・・?」

 

病室の窓から見上げた空には月の光が輝く。そして、月明かりに影を落とす人影。

視覚は色彩を黒と語り、それでもずん子の心が、その月影を紫だと告げる。

 

会いたい。彼女に会いたい。

『私』は学園でゆかりに謝りたかったんだ。何故かここは病院で、今は真っ暗闇な深夜だけど、そんなことは気にならない。

 

 

東北ずん子はただーー結月ゆかりに謝りたい。

 

 

 

ベットから起き上がろうとカラダを起こす。そこでずん子はようやく自分のカラダに管が付いていたことに気付く。

呼吸補助の管に、点滴を打つ注射の針。

 

そして、何故か凄く弱っている東北ずん子の身体が、ずん子の行方を遮っている。

 

 

ずん子(身体が動かない・・・動けないよ・・・・・・イヤだ。もうイヤだ。

もう私には時間が無いの!お願い、邪魔しないで。お願い、私はゆかりと話がしたいの!!)

 

 

それでも身体が動かない。動けない。ずん子はゆかりに会いに行けない。

不甲斐なさにボロボロと零れる大粒の涙。

 

 

ずん子「・・・・・・う・・・ぁり・・・・・・」

 

 

掠れてうまく発声出来ない喉。

高所から落下したダメージだろうか?

点滴は、外したくても、指先の感覚が無くて針を引っ張ることすら出来ない。

 

ずん子「うぁ・・・ぃ・・・・・・うありぃ・・・・・・!!」

 

会いたい。会いたい。ゆかりに会いたい。

 

ゆかりーー・・・・・・・・・・・・・・・!!!!

 

 

 

「呼びましたか?」

 

 

 

ふわり。病室のカーテンが突如舞い上がる。開かれた窓から吹き抜ける風に煽られて。

 

ずん子「あ・・・・・・」

 

 

窓の縁に絶妙なバランス感覚で手も付かずに立つ紫の少女が一人。ずん子を見下ろす。吹き抜ける白いカーテンはまるで・・・天使の翼のようだった。

 

 

ずん子「うぁい(ゆかり)・・・・・・・・・!!」

 

ゆかり「一週間ぶりですが、言葉を忘れたんですか?」

 

ずん子「うぁんれうわぁあはいっちゅもいっちゅもいちわりゅいうお(なんで貴女はいっつもいっつも意地悪言うの)!!!?」

 

ゆかり「何言ってんのか全然分かんねーんですが」

 

 

ずん子「うわかあああああ(バカあああああ)ーーー!!!!」

 

前のめりに叫んだずん子は、盛大にベッドから落ちたのだった。

 

 

 

ゆかり「で・・・・・・・・・・・・なんの用だったんです?」

 

ベッドから落ちたずん子を戻してやると、ゆかりはその隣に椅子を置いて座る。

 

ずん子「・・・・・・うぇ?」

 

ゆかりにお姫様だっこでベッドに戻されたずん子は、紅潮した顔と涙ぐんだ目で俯いている。

 

ゆかり「その呂律の回らない口で、私の名前を呼んだでしょう」

 

ずん子「・・・・・・ぅあ・・・・・・そぇは・・・・・・」

 

ゆかり「…………。」

 

ずん子「………なんでお、あいよ…」

 

ゆかり「…………そうですか」

 

 

そう言うと、ゆかりは椅子から立ち上がろうとする。

話が無いなら、用は無い。

用は無いなら、ゆかりは去る。ここにいる理由も、特にないのだから。

 

ずん子「ぁ……」

 

このまま行けば、何も変わらない。

 

このまま終われば、何も始まらない。

 

 

このままでは

 

 

ずん子(何もかも、同じまま……)

 

ゆかりを引き留めるために、ずん子はゆかりに手を伸ばした。

 

 

ずん子「ゆぅ、かり…」

 

 

ゆかり「はい?」

 

感覚の無い指で、満足に動かない身体でゆかりの袖を心許なく握り……

 

 

 

ずん子「…………いかないで。」

 

 

 

東北ずん子は、ようやくゆかりに本音を語る。

 

まずはずっと言いたかった謝罪の言葉…これを無くして、先には進めまい。だから、ずん子の口から先ず出る言葉はーー

 

 

ずん子「さみしいよ……おいていかないで」

 

 

ーー建前(しゃざい)よりも、本気(だいじ)な言葉だ。

 

 

ずん子「はなれたくないよ…ゆかり。

 

あなたはいつも、どこかにいっちゃう。

 

おはなししたいよ…ゆかり。」

 

 

ゆかり「…………。」

 

 

ずん子「聲を聞きたいよ……あなたの声は、綺麗だから。

 

バトルがしたいの。それが、一番あなたが一緒にいてくれる手段だから。

 

喧嘩なんてしたくないよ。もっと私に優しくして欲しいよ。

 

向き合って話すより、隣に座って話したいよ。

 

負けちゃうのは悔しいよ…でも、負けても良いよ。本当は傍にいて欲しいだけだから。

 

必死に必死に追いかけたよ。あなたは気付いたら、一人で高いところへ登っていっちゃう。

 

難しい顔なんてさせたくないよ。あなたの顔は、綺麗だから。」

 

 

ゆかり「……………。」

 

 

 

ずん子「どんな形でも良いよ。

 

 

ゆかり、私はあなたの傍に居た()()()よ…………」

 

 

ゆかり「…………。」

 

 

ずん子「………………でも、ただの人じゃ、『月』には手が届かないんだもん」

 

 

ゆかり「…………。」

 

ずん子「…………。」

 

 

秘めた想いを語ったずん子は、立ったままのゆかりを見上げて見つめた。

 

言いたいことを、言い切って。

 

その後の判決を待つように。

 

長い間、互いが沈黙を貫いたのち、遂にゆかりの方が口を開いた。

 

 

 

ゆかり「だから、アンタはロケット団に利用されたと?」

 

 

ずん子「………うん。私の中にある『悪の素質』って呼んでた何かを、欲しがってたから、ソレと引き替えに。

マキさんのフリーザーを操るだけの【ポケスキル】の増強をしたの」

 

 

ゆかり「友達の大切な仲間を奪ってまで、そんな手段もゴールも分からないものを追いかけたと?」

 

 

ずん子「うん。

フリーザーにも、マキさんにも、悪いことをしたと思ってる。

 

でも、私は自分の意思でソレを選んだよ…」

 

 

ゆかり「そんなことしても、普通は軽蔑されるだけですよ。

仮にあの時、勝っても何も得るものなんて無い。

 

友達も、(きりたん)も、失うだけで」

 

ずん子「うん。

今ならそれが分かるよ。ゆかりが話してくれる、今だから。」

 

ゆかり「何でそれがやる前に分からなかったんですか」

 

 

 

ずん子「………………必死だったから。」

 

 

 

ゆかり「…………。」

 

ずん子「必死だったから仕方ないなんて、言わないよ。

 

でも、ゆかりがきちんと話してくれる今は、なんだかとっても冷静に考えられるの。

 

いつもあんなに、感情が暴走してたのに」

 

 

ゆかり「サイホーンだって、もう少し頭使いますよ」

 

 

ずん子「それって、昔ゆかりに金山掘りたいからって、一度だけトレードを申し込まれた、あのサイホーンのこと?」

 

 

ゆかり「ええ。今ではサイドンですが、小さい脳みその割には頭使うやつです」

 

 

ずん子「懐かしいなぁ…あのね、ゆかり。あの時私はすっごく嬉しかったの。初めてゆかりに頼み事をされて、すごく……すっごく嬉しかったの。

 

あの子、元気にしてる?」

 

 

ゆかり「先週、泣きわめくガキを泣き止ますために、くれてやりましたよ。アンタの妹に。」

 

 

ずん子「きりたんに?そっかぁ。

 

私が捕まえたサイホーンが、ゆかりの手に渡って、サイドンになって、今はきりたんの手持ちかぁ…。

 

なんだか、嬉しいなぁ。そういうの」

 

 

ゆかり「………………そうですか。」

 

 

 

 

 

 

 

 

ゆかりと話したこの時間が、何を進めて、何を変えたのか。

ずん子の行動にどんなバタフライエフェクトが生まれたのか?

今は、誰にもその答えは掴めない。

それでも、夜空に輝く月をゆかりと共に眺めるずん子の心は、充実し、満ちあふれたのだろう。

 

ずん子が何のために作中の暴挙に出たのか、それは他人が納得のいくものなどでは到底無く、このあとめちゃくちゃマキに謝罪することになる。

 

 

それでも、今は…今だけはーーーー今この時に限っては……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ずん子「ねえ、ゆかり。」

 

 

ゆかり「ん?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ずん子「ーー月が綺麗ですね」

 

 

 

 

東北ずん子はただーー結月ゆかりと語りたい。

 

 




いかがだったでしょうか?

作者が初めて書いた物語は恋愛物だったので、そういった要素を仄めかす程度に抑えてでも書きたかっただけなのですが、楽しんで頂けたら幸いです。



※誤字を修整しました。
テニスコートて(困惑)テニスコートて!!!(絶望)

月が綺麗ですね

  • 隣で輝く星も綺麗ですよ
  • ゆかきりよこせええええ
  • \(ず・ω・だ)/

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