二月二十日
拝啓。
友チョコを送ったそうですねお兄ちゃん。私が!! あれほど!!! やめろって言った!!!! 男同士の友チョコを!!!!!
誤魔化しても無駄です。信頼できる情報源からタレコミがあったのです。本当は誰にチョコを渡すのか調査を依頼しただけなんですけどね。
でも今の私は刑事ドラマを見終えた直後なのですっごく精神が高揚しています。
この興奮冷めやらぬ感情をどうやって押さえればいいのか。あっそうだ、手紙書こう。
……という感じで手紙を書いているので、テンションが通天閣もかくやというくらいに高くなっているかもしれませんが暖かい目で見守ってください。
さて、友チョコの話ですが。
男同士の友チョコなんて気持ち悪いだけだというのは前の手紙にも書いたではないですか。
それに友チョコの範疇ならまだいいですけど、日頃お世話になっているからといって男色家だったり男だか女だかよく分からないような見た目の人にもチョコ渡したりしてないですよね?
してないですよね?
杞憂だったらいいのですが、私の妹としての勘が兄は今何やらヤバい方向に猪のごとく突き進んでいるぞと警告を発していますので……。
いずれ、兄が女装してそっちの道に入らないか心配しております。
そういえば、ついでとか言って女性スタッフさん達にもチョコを配っていたそうですね。
この阿呆め。
何故自分に好意を寄せている人がすぐ側にいると知りながら他の女にチョコなんぞ配っていやがるのですか。
先述した私の依頼を請け負ってくれてた子など、貴方に対してぶーたれてましたよ。あくまで手紙上で、ですけれど。
それに、これもその子から聞いたのですが、貴方は何やら面倒な女に惚れられているご様子ですね。
そんなたらし活動を行っていると、その子達に後ろから刺されるかもしれませんよ。
これからは背後に気を付けて生活してください。頑張れ。強く生きて。
かしこ
藤丸立花
天然たらし様
~○~
二月二十日
拝啓。
マシュさん、情報ありがとう。
そして、ごちそうさま。
まさか貴女がそんなに兄のことが好きだったとは思わなかった。
確かに馴れ初めを聞いたのは私だけど、原稿用紙100枚ぐらいの分量で語られるとは誰が予想しただろう。
少なくとも私は一切考えなかった。そして、この世のどこを探しても想像できた人など貴女以外にはいないだろう。
しかし、そこまで語れるほどうちの兄に魅力はあるのか。
何せ「明日は休日だし時間いっぱい使いたいから早く寝るわー」とか言っておいて翌日昼まで寝てるような人間だ。
マシュさんはそんな野郎のどこに魅力を感じたというのか。
そう思って原稿用紙を読んでみると、そこには砂糖のプールに水を一滴垂らしたような、濃密で甘くてとろける舌触りの出来事がつらつらと書かれている。
私はむせました。
言動は実に兄が言いそうなことだし、いつどこで何があろうと熟睡できる特技も確かに絶技である。
笑うと焼きたてのたい焼きをほっぺに付けてほころんでいるときのような不思議な感覚に襲われるし、魂も素晴らしいイケ魂だし、無意識とはいえ乙女なら誰しも一度は憧れるような甘い言葉を囁いてくれる。
これだけでもピュアな乙女のハートをイチコロ出来そうな要素満載であるが、しかしそれだけではなくーー
私としては信じられないことだけど、マシュさんのことを庇って殴り合いの喧嘩をしたこともあるそうじゃないか。
なんて素敵な王子様なんだこの藤丸立香という男は。
しかし私としてはひとつ言わせて欲しいことがある。
誰だこいつ。
うちの兄はこんなすごくかっこよかっただろうか。家族だから見る目に靄がかかってよく見ることが出来なかったのだろうか。
そんなはずはないと思うのだけど……。
いやでも、兄の寝顔を見ている時が一番至福とのたまう人が書くことだ。
失礼な話ではあるけれど、ここは一つ、恋による盲目のせいで平々凡々であるところの兄が絶世のイケメンに見えてしまう説を押そうと思う。
断じて私の目が節穴であるわけではないだろう。……ないよね?
それにしても不思議だ。私はどうして会ったこともないような人にここまで失礼なことを書けるのだろう。
美しく調和のある淑女とは何だったのだろうか。
かしこ
藤丸立花
マシュ・キリエライト様
追伸
とはいえ、言動に関していえば確かにかっこいいとは私も思いますよ?
癒し系の容姿も相まって、中々モテる部類の男性であることは確かです。