二月十二日
拝啓。
迅速なお返事ありがとう。前回は頭に血がのぼっていたまま書いていたので、言葉遣いが暴力的になってしまいました。
これでは淑女失格です。今度の手紙からは礼儀正しく、私の素晴らしい人間性が溢れ出るようなものにしようと思います。
でもお兄ちゃん。あなたのせいでそんな口調になったというに、「そんな暴力的な言葉遣いの女なんぞ俺は知らない」というのは最低だと思うのです。
心配している私の身にもなってください。これだから、兄は人の気持ちが分からない。
そんな野郎に温情を与える余地などありません。帰ってきたら目にもの見せてやります。
だからなるべく早く帰ってきてください。家族一同待っています。
ところで、人理保証機関フィニス・カルデアとはどういう組織なのでしょうか。
法人名を何回見返しても、何をする団体か皆目見当もつかないのですが。
人理とは何なのでしょう。保証するもののようだし、フィナンシャルグループか何かでしょうか。でもそれだとケータイの電波も届かないような山奥にあるというのはおかしい。
本当に、何をする組織なのでしょうか。
出来れば教えていただけると助かります。
かしこ
藤丸立花
~○~
二月十三日
拝啓。
昨日手紙を投函しに行って、帰ってきてみたら家のポストに手紙が。
見てみると、送り主は人理保証機関フィニス・カルデアとのこと。
なんという神速の御返事だとビックリしながら中を覗いてみると、何て言うことはない。先日の手紙の、長い長い追伸でした。
しかし我が兄よ、開口一番「さっき出した手紙に近況報告出すの忘れたから追伸します」というのはあんまりだと思う。
本来手紙というものは他人に気持ちを伝えるためにあるもの。
事実、私は先日の手紙にてお兄ちゃんに体に気を付けて、無事で帰ってきて下さいという気持ちをぶつけました。
なのに近況報告を書かないとは。それではお兄ちゃんがどんな生活を送っているか分からないではないですか。
妹の気持ち兄知らず。兄は妹の気持ちがわからない。帰ってきた際にぶん殴られる数が増えました。喜べ。
まあそれは置いておくとして。
近況報告を読んだところ、なんかすっごくむしゃくしゃしてきました。
帰ってくるなり、「立香が帰ってきたー!」と大騒ぎになった、これはまだいい。いや、たかが一バイトであるところのお兄ちゃんが休暇から帰ってきた程度でそこまで歓迎されるのか疑問に思ったけれど、それはまだいい。
その次の文章はなんですか。帰ってきた日から、ずっとバレンタインデー用のチョコレートを作り続ける日々を送っているとは。
なんですか。
一体なんなんですか。
私のお兄ちゃんは、海外出勤と失われた一年を経て、同性愛者になってしまったんですか。
それともあれか。これは友チョコだからセーフとでも言う気か。
アホか。確かにお兄ちゃんは「日頃の感謝の気持ちに~」とか言って知り合い全員にチョコ配りそうな善人ではあるけれど、冷静に考えてください。
男の友チョコとか気持ち悪すぎる。そういうのもアリ、なんならごちそうさままである人もいるかもしれないけど、少なくとも私はヘドが出ます。
そも、お兄ちゃんはチョコレートを作るためにカルデアに行ったのですか?
違うでしょう。まさかそんなことのために招集をかけるなんて、普通の会社とは思えない。
ちゃんと仕事をしてください。でないと、帰ってきたときに殴る数が倍に増えますよ。
かしこ
藤丸立花