一月六日
拝啓。カルデア様。
藤丸立香、現地時間一月五日三時二十三分、無事日本に到着しました。
それから実家に帰着し、親からはこの一年何やっていたのかと叱られ、妹からはどこをうろつきまわっていたのかと殴られ、友人とちょっと遅めの初詣に出かけ、その後一年ぶりの銭湯に入り、溜め込んでいた宿題を泣きながら消化し、今こうして手紙を書いている次第です。
本当はメールがよかったのですが、カルデアが電波も届かない雪山の天辺にあるせいで仕方なく手紙を書いているわけなのだけど、しかし直筆で手紙を書くというのはこの情報化社会では中々に珍しいことだ。
貴重な体験ができたと思えばまあいいか、と思わなくもない。最も貴重な体験というのなら人理修復に敵うものは無いだろうけど。
さて、先程書いた近況を見れば分かるとおり、俺は今実家にて絶賛羽伸ばし中です。
もともとカルデアに行く前の俺は、休日は家の中でぐだぐだ、ごろごろと、家内や友人から「ぐだお」という渾名を付けられるくらいに時間を浪費して過ごしていたので、いざそうして羽を伸ばしていると日常を取り戻したという感慨がこみ上げてきて柄にも無く涙をぽろぽろとこぼしてしまいました。
その様子を妹に見られ、「キモい」の一言を頂戴してしまったのだけれど、それはそれ。とにかく、元気でやっています。
そちらは元気でやれていますか。やれているなら大変よろしいのですが、元気がよすぎて問題を起こさないようにして下さい。
特に清姫。カルデアから脱走して遠路はるばる日本まで追いかける、なんて計画を練らないように。
これは君が嫌いだから言っているのでは無く、君が嘘を憎んでいるから言っている。
カルデアの外の世界は嘘が溢れている。もし君が外に出て、なおかつ嘘を感知し、ぶちギレて辺りを火の海にしてしまおうものなら、俺は令呪を以て自害を命じなければならなくなる。
そんなことはしたくないので、決して脱走しないように。ストーキングスキル発動ダメ、ゼッタイ。
それからマシュ。俺がいない間のカルデアは任せてくださいと豪語していたけれど、実際マシュなら何も心配ないどころか俺よりも上手くやれてると思う。
ただ、カルデアから脱走するサーヴァントがいないよう注意しておいてくれ。具体的にはストーキングスキル持ちや恋の追跡者スキル持ち、それからバーサーカーの動向にも目を光らせておけばいい。神秘の漏洩もそうだけど、単純に現代社会にその人達が放たれると何をしでかすか分からないからね。
それではこの辺で。出来れば、暫くは取り戻した日常に浸っていたいです。
お返事お待ちしております。
草々
藤丸立香
人理保障機関フィニス・カルデアの皆様