fate+DM+オリ主=大惨事   作:ヤマアラシ齋藤

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もう直ぐケッチャコォ


転生者ゲット君の日記 ブリテンぐらし! 恐怖vs悪童 3

 

アルトリアは神憑りの直感を持っている。戦闘の中では相手の一手すら予知し

あらゆる物事の全てにおいて最善の行動を取ることの出来る才能。

彼女はその直感を持って一つの事を感じ取った。この国、世界が危ないという感覚。そしてそれは彼女にとって大切な存在から発せられるものだと

 

「(ゲット…何故、何故貴方から嫌な予感を感じるのですか?)」

 

「…どうした。アルトリア?」

 

「…いえ、何でもないです。兄さん」

 

だが、それを表に出す事はない。彼女の直感がそれが最善の手だと本能で察していたからだ。

これはゲットがグラディアンレッドドラゴンと戦う数刻前の話である。

そしてこれは超常の力を持たずとも人々の為に動かんとする騎士達の物語である。

 

先ず最初に動き始めたのは人々だった。圧倒的な存在、自分達を殺しうる怪物が上空にいる事実に決闘場から逃げ出す。

他の物を押し退けて我先にと。

 

「逃げろ!」

 

「助けて!死にたくない!」

 

「邪魔するな!とっとと退け!」

 

混乱する人々、そして今まで戦っていた騎士達も混乱していた。自分達が戦っていた場所に突如現れた怪物、そしてその怪物は全身から炎を発しその圧倒的な威圧感を持って人々を震え上がらせた。

 

「黙れ塵芥!俺達火文明を…ゲットを侮辱するならばこの星ごと消し去ってやろう!」

 

そんな人々を落ち着かせる為に動く騎士達。だが、騎士の声は人々の喧騒の中に消えていく。落ち着いてくれ、冷静になれ等という言葉はこの場には何の意味も成さない。

 

「落ち着いてくれ!誘導するから冷静に

…」

 

「そんな事してる場合かよ!騎士様が戦わなくて誰が戦うんだよ!このままじゃ死んじまうよ!」

 

「嫌だ!まだ何もしていない!花屋のあの子にも告白していないしHもしていない!童貞のまま死にたくねぇよぉ!」

 

「金なら払う!だから儂だけでも助けてくれ!」

 

混乱している人々にそのような言葉は意味を成さない、混乱が混乱を呼び、王都ブリテンは大混乱の渦に放り込まれた。

 

「早くこの国から逃げるんだ!」

 

「早く!早く!早く!」

 

我先にと馬車に乗り込む。そこに子どもと大人の違いはない。己の命が最も大切なのだから逃げるのが遅い子どもは混乱する現状で親とはぐれただ泣くばかり

 

「お母さん…お母さんは?」

 

「退け!ガキが道路の真ん中で立つな!邪魔なんだよ!」

 

そして不幸が重なり1人の少年は親とはぐれ逃げ遅れた。困り果てた少年は呆然と立ち泣くしかできない。

そしてそんな子どもを助けられるほど彼等の精神にゆとりはない。

自分だけでも助かりたい。家族だけでもたすけなければならない。

 

少年の目の前に馬車が近付いてくる。泣くことしか出来ない少年はそれに気付かない。

 

「退けっ!退けって言ってんだろ!」

 

「お母さぁん…お父さぁん…何処にいるの?」

 

「──ッ!忠告はしたからな!もう知らねぇぞ!」

 

馬車を運転する御者の怒号すら聞こえておらず、このままでは少年は馬車に撥ねられてしまうだろう。そしてこのままでは少年は御者も少年を撥ねてしまう事を覚悟した。

彼の後ろには家族がいる。彼がもしここで止まってしまえばあの怪物に殺されてしまうかもしれない。

だから彼は止まれない。家族と自分の命と目の前の少年の命を天秤で図り自分達の生命を優先したのだ。

 

「─糞がッ!ウオオオオオッ!退けッ!小僧!」

 

「お母さ…へっ?」

 

馬車が少年の眼前に迫る。気付いた時には時既に遅し、もう少年の身体能力では逃げられない範疇まで馬車は近付いていた。少年の脳裏に移ったのは家族との幸せな記憶、走馬灯が少年の脳裏を駆け巡る。この速度ならば少年が撥ねられれば即死だろう。それだけが唯一の救いだった。走馬灯の中で死ねるのが唯一の救いだったのかもしれない

 

そして馬車は少年を

 

「危ないっ!」

 

轢かなかった。1人の騎士がその命を救ったのだ。転がり込むように少年を抱き抱え馬車の車線から離れる。

 

「…無事ですか!?」

 

「えっ…あっ…うん…」

 

白百合のように美しい騎士だった。金色の髪を後ろで束ねまるで白銀の騎士のような美しい鎧を身に纏った

 

「良かった…お父さんとお母さんは?」

 

「分かんない。あの時に皆とはぐれて…」

 

そう言いまた瞳に涙を溜める少年の頭を撫でながら騎士は優しい声で話し掛ける。

 

「そうですか…では私と共に行きましょう」

 

「…うん!ありがとう騎士様!」

 

「…私はまだ騎士でありません。ただの騎士見習いです」

 

そう言いながらはにかむ騎士を見て少年は彼に憧憬を覚えた。どんなに危険な時であろうとも人を助け、導く騎士の姿を胸に焼き付けたのだ。

そしてこの騎士を目指し少年が騎士の道へと行くのはまた別の話である

 

「あぁ良かった。こんな所にいたのね!」

 

「ありがとうございます騎士様!私達の子どもを助けて頂きありがとうございます!」

 

「いえ、騎士として当然の事をしただけです。私は別の場所に向かうので、ではまた!」

 

そして少年の記憶に金色の髪が揺らしながら走り去る騎士の姿が刻みつけられた

 

───

 

屈辱だった。いや、屈辱すら感じる暇を与えてくれなかった。次代の王を決める戦い、そして残った最後の二人として人々に誉ある戦いを見せようと思った。だが、そんな中でアイツは現れた。

それは自らをグラディアンレッドドラゴンと名乗った。嘗て火文明最強の看板を背負っていた者だと

その言葉の意味が何一つ理解出来なかった。だが、分かるのはたった一つ。

コイツに自分達の戦いは邪魔された。人々にみせる為の戦いは邪魔されたのだと、耐えられぬ怒りを剣先に向け宣言するも返ってくるのは無言、まるでこちらが眼中に入っていないと言わんばかりの態度

 

そんな中であの少年が現れた。謎の装甲を身に纏いあのドラゴンが唯一話をした存在。その瞬間分かってしまった。彼がそうなのだと、彼が後輩と呼ばれる存在なのだと

だが、その見た目は十を超えたかも分からない姿であり、この化け物と戦えば死は必死だという事は見て分かった

だからこそ私達は彼に逃げろと言った

 

それがあのドラゴンの怒りを買うとも知らずに

 

「おい騎士様!聞こえているか!?アンタらはさっさとこの場を離れて皆を纏めてやってくれ!」

 

「聞いてんのかおい!俺もそろそろあの馬鹿を殴りに行かなきゃならないんだからさっさとしてくれ!」

 

 

「─── ッ!」

 

思い出すだけで腸が煮えくり返る。私達のせいで彼が戦っているのと同じなのだ。俺達が不用意な言葉を発しなければ平和に終わった可能性もあった。

なんという不様か。助ける筈の少年に生命を救われ、この国の命も救われ俺達はこの場から逃げ出しているのだから

 

「糞ッ!糞ッ!糞ッ!何が騎士だ!何が誉ある戦いだ!子どもに戦いを任せて何が騎士だというのだ!」

 

激情に任せて叫ぶ。隣にいた騎士も同じ気持ちだったのか唇から血を出すほど強く噛み拳からも血が出る程強く握りしめる。

 

「…確かに俺達は無力だった。あの戦いの中に入っていけない。それは確かだ」

 

「…だが。そんな俺達でも出来る事がある筈だ。あの少年の言葉を忘れたか?」

 

当然覚えている。皆を纏めてやって欲しい、彼はそう言った。だが、この状況でどうやって人々を落ち着けると言うのだ。

 

「俺達はあの場所では無力だった。なのにどうやって」

 

「…俺達は騎士だ。誉ある戦いを最後まで勝ち残った。それだけでも人々に声を届けられるとは思わないか?」

 

「…確かにそうかもしれない。だが」

 

「だがではない!私達は彼に頼まれたのだぞ!あの場所で命懸けで戦っている彼の言葉を無下にするつもりか!?」

 

頭を打ち抜かれたような衝撃だった。俺達はあの場所では無力な存在かもしれない。そんな俺達でも出来る事は確かにある。

 

「ははっ…戦いの事ばかり考えて騎士として当然の事を忘れていた。これでは騎士失格だな。誰かを助け守る。これこそが騎士の本分だった」

 

迷いや怒りは消え去った。俺達に出来る事はただ一つ、彼の言葉を守る。人々を纏めあげ安全な場所まで逃げる事だ

 

「(済まないが後は任せたぞ少年)」

 

──

 

騎士達の尽力により残った人々は集まり行動を始めていた。ただの騎士の言葉ならば届かなかったかもしれない。だが、あの戦いを勝ち残った2人の騎士の言葉と、王都を走り回り人々を助けに回った白百合の騎士。彼等の存在が残った人々の心を動かしたのだ。

 

「名も知らぬ騎士よ。卿の行いによって人々は集まれた。ありがとう、本当にありがとう」

 

「いえ、私はまだ騎士見習いの身でして、皆をまもらなきゃと思って行動しただけです!お礼なんて」

 

「いや、君がいなければこの場に人は集まらなかった。本当にありがとう、これでかの少年との約束を守れる」

 

「彼とは…?」

 

白百合の騎士の言葉に彼の名を思い出す。

 

「あぁ…確かゲットと名乗っていたな。無力な私達の代わりに彼が今戦って」

 

「ゲットが戦っているんですか!?何処で!?ゲットは何処にいるんですか!」

 

「待て!落ち着け!彼を知っているのか!?」

 

「知ってるも何も彼は私達の家族です!」

 

その言葉に思わず足が止まる。なんという事だ。私達は彼女の兄をあの戦いの中に置いてきたというのか

 

「彼は今決闘場跡地にいる。だがあの場にいってはならない。今行けば彼の戦いの邪魔になる。彼以外にあの化け物と対等に戦える存在はいないのだ」

 

そう言いながら決闘場跡地を見る。巨大な樹木が決闘場を破壊し、その上空では炎を撒き散らかしながら咆哮する怪物と

そのドラゴンの周りを縦横無尽に飛び回る赤い閃光がいた。

 

「ケイ兄さん!どうしよう!ゲットが!ゲットがあそこに!」

 

「…ッ!」

 

「ケイ兄さん!」

 

ケイ兄さんと呼ばれた騎士は白百合の騎士と空で戦う者達を見て噛み締めるように言葉を発した

 

「…アルトリア。逃げるぞ」

 

「嫌っ!そんな事をしたらゲットが死んじゃう!」

 

白百合の悲鳴に人々の足は止まり決闘場を見る。分かってしまったのだ。自分達を助けてくれた騎士の大切な家族があの怪物と今戦っているのだと

 

「…頑張れゲット!」

 

その声は幼い少年の声だった。そしてその少年の声を皮切りに人々の応援の声が木霊する。頑張ってくれ、負けないでくれ、勝ってくれ、生き残ってくれと

 

「…俺達じゃああの場所に行って戦う事は出来ない。俺達は信じるしかないんだ。

俺達の家族を」

 

「…分かってるんです。分かっているんです…でも」

 

ケイはもうそれ以上何も語りかけなかった。だが、決闘場跡地の方を向き大きな声で叫ぶ

 

「やれーっ!ゲットーッ!そんなデカブツお前なら倒せるだろー!お前は最強なんだろ!?なら勝てる!」

 

「勝たねないとアルトリアが泣くぞ!いいのか!?大声で泣くからな!俺も泣くぞ!いい年こいて俺も泣くからな!」

 

「だから…勝てーッ!」

 

兄のこんな姿を見るのは始めてだろう。いつもシニカルで冷静な兄が感情のままに叫んでいる姿を

そしてそんな兄につられるようにアルトリアも声を上げる、負けないで、勝ってと

 

「ゲットーッ!絶対に…絶対に勝ってくださいーッ!」

 

辺り一面に響き渡る声援、誰もがゲットの勝利を信じていた。

 

赤い閃光がグラディアンレッドドラゴンの一撃により地に落ちるまでは

 

「ハーハッハッハッハッ!まだだ!この程度では無い筈だ!さっさと立ち上がって来い!」

 

凄まじい爆音と共に落ちていくゲット。その姿を見ていた誰もが絶望に包まれる。

希望が負けた。あのドラゴンに負けてしまった

直感では感じなかった。ゲットが死んだと、だが…見てしまった。ゲットが地面に叩き落とされた瞬間を、あの速度で叩きつけられて生きている人間はいない

分かってしまった。彼は今死んだと

 

「ゲット!嘘!嫌ァァァッ!」

 

白百合の悲鳴が響いた。

 

 

 

───

 

「いってぇ…アイツ俺じゃなかったら死んでたぞ…って、これは確か……」

 




流石火文明最強のモンスターだ!なんともないぜ!

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