先ず動いたのはゲットだった。機神装甲に取り付けられている重火器に照準を付け上空の悪童目掛けてぶちかます。
地響きのような音が決闘場に鳴り響き、その場にいた騎士2人は思わず両手で耳を塞ぎ、ゲットの行動を呆気に取られたように見ていた。
「出し惜しみなんてする余裕はない!はなっから全力で行くぞ!」
全砲門から放たれる銃弾の雨霰、それらは全て上空の悪童に命中する。
当たった瞬間轟音をあげて爆発したり、何千何万もの銃弾が襲いかかる。
この時代の地球に重火器など存在しない。言うなれば彼等は種子島で初めて火縄銃を見た武士のような衝撃を受けたのだ。いや、それよりも彼等にとっては衝撃的だっただろう。
ゲットの使う武器は自分の持つ剣と比べてあまりにも強力であり
例えるならば月とスッポン。この力があればあらゆる全てに打ち勝てる。そんな気さえしていたのだ。
「凄い…凄すぎる」
「邪魔だ騎士様!巻き添え喰らっても知らねぇぞ!」
だが、それにも終わりがある。残弾が、撃ち続けた砲身が赤く染められて使い物にならなくなっている。そらは爆煙に包まれているがあの圧倒的な威圧感は未だ健在、火文明最強という看板は伊達や酔興では手に入れられない。
「おいおい。そんなにぶつけんなや、痒いじゃねぇか」
爆煙が消え去った後、そこにあるのは傷一つない肉体。超巨大な肉体に重火器では傷一つ付けられないのだ。
身じろぎ一つなく、あの爆撃を受け止めた怪物の姿を見て騎士は絶望する。あの力を持ってしても勝てない、なんだこれは?なんなのだこの怪物は?
「ちっ!パージオフだ!」
その言葉と共に機神装甲に取り付けられているいる武装は変化する。使い物にならなくなった武装は切り捨てられ新たな武装が現れたのだ。
それは一言で言うならば鉄塊だった。
それは一言で言うならば回転する刃だった。
それは一言で言うならば槍だった。
棘のついた鉄球、チェーンソー、パイルドライバー。今までの武装を遠距離戦専用とするならばこれは超近距離専用武装。
「あれで傷が付くとは思ってねぇ!先輩の強さは俺達火文明が一番知ってるからな!」
「はっ!分かってんじゃねえか!ならどうするつもりだ!まさか、それで殴りかかって来るつもりか?」
「面白い!やってみやがれ!」
その言葉共にグラディアンレッドドラゴンの身体からマナが溢れ出す。
星をも滅ぼしかねない力が溢れ出したのだ。
地響きが鳴り響く、まるで大災害の前触れと言わんばかりに。地面が揺れる。空が揺れる。世界が揺れる。人々は幻視した。今、自分達が立っている地面が割れる姿を。そこから溢れ出す炎を
「◼◼◼◼◼───ッ!」
咆哮が国中に響き渡る。まるで地獄の底から現れた怪物が自分達を殺しに来たと感じ、身体が震え上がる。人は災害から逃れられない、最早この存在は災害と同義なのだ。絶対に殺すという殺意、逃走を許さぬという存在感。
戦わねば勝てぬ。だがこの怪物には勝てない。どうあがいても絶望。
人々はもう逃げ惑うことすらしなかった。ただ震えて目を閉じるばかり
この災害の気が変わって何処に行って欲しい、願いが叶うならば心臓すら止めてこの圧倒的な威圧感から逃げ出したいと願うばかりだった。
「──本気でこの星を滅ぼすつもりか!グラディアンレッドドラゴン!」
だが、唯一この場で立ち向かう存在がいた。この災害と同じ世界に生まれ、次代の火文明最強と言っても可笑しくない存在、小さな勇者ゲットがいる。
「俺が力を出せばこの星は滅ぶ!さぁどうやって滅びを止めてみせる!?」
「…こんの戦闘狂がァァァァッ!」
「ハーハッハッハッハッ!褒め言葉だな!」
ゲットは星すら滅ぼしかねない莫大な火文明のマナに自然のマナをぶつけ相殺を図る。赤色のマナの光と緑色のマナの光がぶつかり合う。
すると、ゲットがいる場所から緑が溢れ出した。植物、そして考えるのも馬鹿らしくなる巨大な樹木が地面に根を張る。
火のマナが破壊を司るならば自然のマナが司るのは豊穣、かつて闘匠と悪童が戦った時炎と自然がぶつかり合い混沌とした世界を作り出した。
悪童が前のように火のマナを垂れ流しているのならばゲットは自然のマナに方向性を乗せて流している。
ただ無闇に木々を出すのではない。大地の奥深くプレートに届く程の巨大な樹木を作り出しこの地鳴りを止めんと。
嘗てゲットが見たフィオナの森の大樹を真似て作り出したのだ。
まるで神話に語られた世界樹。ユグドラシルの再来、それが根を張り地鳴りを止めたのだ。
「何なのだこれは?…これは一体何なのだ?」
只只震えていた騎士達は急に現れた巨大な樹木に呆気に取られる。
「おい騎士様!聞こえているか!?アンタらはさっさとこの場を離れて皆を纏めてやってくれ!」
「……」
「聞いてんのかおい!俺もそろそろあの馬鹿を殴りに行かなきゃならないんだからさっさとしてくれ!」
「…あっあぁ!」
呆然としていた騎士達はゲットの鋭い声に正気を取り戻し動き始める。その姿を見てゲットは空を見上げ身体中に火のマナを活性化させる。身体に存在する火のマナと自然のマナを掛け合わせ肉体を活性化させる。
「…取り敢えず一発殴る!」
その瞬間ゲットがいた筈の地面は砕け散る。グラディアンレッドドラゴンの肉体は山よりも巨大である。莫大なマナを持ちその巨体を持って敵を粉砕してきた彼は体験したことのない事だった
自分より遥かに小さい癖に同格の力を持った存在と戦う事を。
アリと象が同じ力を持っているならば必ずしも象が蹂躙できるのではないのだと
空を悠然と飛ぶグラディアンレッドドラゴンは超常の力を持って上へと飛び上がったゲットの動きに対処が出来なかった。
「全武装一斉攻撃だ!」
その巨体故に、ゲットの攻撃を避ける事が出来ず、機神装甲に取り付けられている武装の全てがグラディアンレッドドラゴンの肉体に襲い掛かった。
棘の付いた鉄球が幾重にも腹を強打する。
チェーンソーが砲撃では傷一つ付けられなかった肉体に傷を一つ、また一つと入れていく。
パイルドライバーの衝撃でグラディアンレッドドラゴンの肉体はくの字に曲がり上へと飛び上がる。
「ガッ…!?やるじゃねえか後輩!」
「これで終わりだと思うな!」
「抜かせぇ!」
飛び上がるグラディアンレッドドラゴンに追撃を仕掛けんと襲い掛かる。だが、グラディアンレッドドラゴンは力のあるだけの木偶の坊ではない。数えるのも馬鹿らしく成る程の長い時を生き、その殆どを戦いに費やした怪物。
直ぐに体制を建て直しゲットが繰り出す機神装甲の武装をその剛腕で受け止める
「ゲッ!?」
「確かにお前は強い…だが、お前の力に武装が追い付いている訳ではないぞ!」
鉄球を跳ね除け、チェーンソーの斬撃を
耐えパイルドライバーの衝撃をいなす
「その武装は仙界王との戦いで大分ガタが来ているようだな!」
仙界王との戦いは血で血を洗う死闘だった。超獣世界にいたのならば修復が出来ていただろう。だが、ゲットが今いるのは重火器なんて存在しない、更に言うならば火縄銃すらない時代の地球。そんな所で機神装甲を修復できる訳もなく。平和の中で使う事もなく殆ど放置されていたくらいだ。
メシッ…メシッと不吉な音がゲットの耳に響く
「やっべ…」
「吹き飛べ!」
グラディアンレッドドラゴンの剛腕がゲットに向かって放たれる。巨大な剛腕から放たれる一撃、当たってたまるかと機神装甲に力を込める
その瞬間、不吉な音は現実となって現れた。
バキ、バキ。と壊れる機神装甲。今まで一緒に戦ってきた相棒の崩壊に気を取られてしまう。
そしてそれを見逃すグラディアンレッドドラゴンではない。その剛腕はゲットを殴り抜きそのまま大地へと叩き落とす。
凄まじい爆音と共にゲットは地面へと叩き落とされた。
「ハーハッハッハッハッ!まだだ!この程度では無い筈だ!さっさと立ち上がって来い!」
最強の悪童グラディアンレッドドラゴン未だ健在。
悪童「良し滅びろ」マナどばー
地球「地殻動いちゃうゥゥッ!」グラグラ
ゲット「止めて?」マナどばー
地球「何かくっそでかい木が生えて動けなくなったわ」
ちきう君へのダメージが余りにも深刻