砂塵吹き荒れる場所に2人の騎士が現れる。白銀の鎧を纏った騎士達は互いに向かい合わせになると腰に捧げた剣を天高く掲げ宣言する。その姿を見て人々は歓声をあげる。この戦いはこれからの自分達の王を決めるべく戦い続けた猛者、力と高潔な精神。つまりは騎士道に溢れた者達の中で戦い続け最後に残った勇者達、この戦いの勝者はこの国の王という栄誉を未来永劫語り継がれる。栄光を求む騎士達にとってこれは最後まで残った彼等こそ自分達の憧れそのもの、彼等の勇姿を最後まで見届けんとしていた。観客達も先程の歓声がまるでなかったかのように静かになりその場所には静寂が包まれる。
「我が名は─── なり!」
「我が名は─── なり!」
騎士達が互いに剣を抜く。互いに名乗りをあげ戦いが始まる
「どうだ少年!これが騎士!我々の中で最も強く気高い王として相応しい者達だ!」
「凄いっ!どっちの騎士様が王になるんだろうな!」
「あぁ。どちらも素晴らしい騎士、どちらが王となろうともきっと素晴らしい統治を成してくれるだろう」
ゲットは焦っていた。何時試合に割り込むのか、このままでは次代の王が決まってしまう。こんな所で騎士の話し相手をしている暇はない、どうするべきか。
「(そろそろ攻め入るべきか…?冷静に考えると参入して蹂躙しても唯のクーデターにしかならねぇよなぁ)」
ゲットが見詰める先にいる2人の騎士は確かに強いのだろう。この戦いを勝ち抜いた存在、それが弱い訳がない。
だが、この程度の力でこの国を守る事が出来ると思えなかった。
一番強い奴が文明の頂点、王となる。
闇文明ならば覇王ブラックモナーク。悪魔神バロム
光文明ならば聖霊王アルカディアス
その全ては莫大な力を持ち、あらゆる者達の憧憬、生命を背負い戦った猛者達。
ゲットが見てきた王と呼ばれる存在はどれもが一級品。それと見比べるとどうしても眼前の騎士は見劣りしてしまう。
これで次代の王が決まったとしても間違いなくあの魔術師が邪魔をする。間違いなくあの子が、アルトリアが王になってしまう。それは不味い、それだけは止めなくてはならない。
彼女には恩がある。生命を救ってもらった彼女に滅びゆく国の舵取りをさせる訳にはならない。あの可愛らしい笑顔を守る為に絶対に自分が王にならなければならないのだ。
「(俺が王になれば全部守れる。仙界王…英霊王と戦って勝った俺ならば出来るはずだ)」
目の前の戦いは佳境に入る。もう直ぐ決着が付くだろう。誰もが息を飲んで見守っている中、唯一真剣に試合を見ていなかったゲットは違和感に気付いた。昔感じた事のあるあの圧倒的な存在感、火文明ならば誰でも知っているあの超常の怪物達が出していた威圧感を
「おい騎士様!速くここから皆を逃がすんだ!」
「うぉっ!?いきなり大声をあげるな!それにいきなり何を」
「あー…来てるんだよアレが!とにかくヤバい!あれはヤバイ!ヤバすぎる!速く逃がさないと!」
「…分かった。後でな」
「…クソッ!」
「…っておい!何処に行くつもりだ!待て!止まれ!」
威圧感がここに辿り着く前に皆を逃がさなければならないと思い大声をあげるも子どもの戯言と言わんばかりに相手にしてくれない。ここにいては駄目だ。
そう思った時、身体は既に動き出していた。後ろから聞こえる騎士の声を無視してその威圧感の元へ駆け出す。
「何でアンタがここにいるんだよ!ここは地球じゃないのかよ!?」
ゲットを除きその違和感に気付いたのは2人の騎士だった。どちらが先だったか分からない。若しくは両方だったかもしれない。
騎士が突然空を見上げ剣を降ろした。そこに今まで戦っていた雰囲気など残っておらず、あるのは圧倒的な焦燥感から生み出される焦り。
人々は騎士達が突然剣を降ろした事にどよめく。一体何があったのかと口々に言い合い決闘場はどよめきで溢れていく
「…分かるか?」
「…あぁ、分かる。何かが来る。俺達では及びつかない何かが」
その瞬間、世界が闇に包まれた。いきなりの事態に慌てふためく人々、そしてそれを収める為に声を張り上げる騎士達。
「…来たな」
「一時休戦だ。やるぞ」
「分かっている」
2人の騎士が剣を抜き空に向かって切っ先をかがげる。そこにいる存在に宣戦布告するように
すると空が笑った。心底愉快そうに腹を抱えて笑うように。
「ガーハッハッハッ!お前らでは俺に勝てん!そんな小さな非力な存在が何か出来るとでも思っているのか!」
その声にどよめく人々、いきなりの暗闇にこの声、何かが可笑しいと思いつつもその何かが分からない
───空を見上げてもまるで何かが太陽を遮っているような暗闇があるだけで
「◼◼◼◼◼◼◼◼─── ッ!」
その瞬間、空から魂すら縮み上がる咆哮が響き渡った。その瞬間ようやく人々は気付いた。この暗闇はこの声の持ち主が作り出しているものだと
「ここに!俺の後輩がいるらしい!火文明の看板を背負っているならばさっさと出て来い!」
「俺の名はグラディアンレッドドラゴン!嘗て火文明最強の看板を背負っていた者だ!」
これより幾度なく訪れる超獣世界の怪物達、この日人々はクリーチャーという存在を初めて出会う。
「…うっわー。マジ?確かにフェニックスでも何でも来いとは言ったけどさぁ?」
…そしてその怪物に呼ばれている男は自分が前に言った言葉を後悔していた。
次回
騎士&ゲットVS悪童でお送りします!(ヤケクソ)