抑止力、集合無意識によって作られた、世界の安全装置であり、人類の持つ破滅回避の祈りである「アラヤ」星が思う生命延長の祈りである「ガイア」の優先順位の違う二種類の抑止力がある。
その日、抑止力は悲鳴を上げた。恐らくこの地球上で最も強大な存在が自分に楯突くと宣言した。それはこの世界の理とは別の存在、超常の獣が住まう修羅の世界。
名を超獣世界。そしてそこで一騎当千の覇者であった存在、つまりは小さな勇者ゲット、彼の事だ。
形を持たぬ抑止力は気付いた。この存在はこの世界を滅ぼしうる化物であると、このままでは世界は正しき時の流れを進まず滅びの道へと至ると。故にこの危機を回避する方法を考えた。
抑止力の後押しを誰かに与えるべきか?否それでは鏖殺されるだけだ。この世界の理で生きている存在と超常の世界の頂点では勝負にならぬ。圧倒的な格の前に滅ぼされるのが目に見えている。
掃除屋を出すべきか?否、それでは足らぬ。掃除屋ですら奴の前には無意味、ならばどうするべきか
ならば大陸ごと海に沈めるか?駄目だそれでも足らぬ足りぬ足りない。
ならばどうするべきか?簡単な話だ。化物にはそれよりも強い化物をぶつけるのが一番速く確実だ。
抑止力は世界を滅ぼす要因が発生した瞬間に出現、その要因を抹消する。カウンターの名の通り、決して自分からは行動できず、起きた現象に対してのみ発動する。その分、抹消すべき対象に合わせて規模を変えて出現し、絶対に勝利できる数値で現れる。
そして抑止力は絶対に勝利できる存在を見付けた。遠い未来、この世界とかの世界が1発の弾丸で通じる瞬間がある。その瞬間に超獣世界の力の渦、つまりは仙界と交信し、かの世界から彼よりも力のある存在を呼び寄せこの時代に送れば良いと。
この世界に送られてきた存在、抑止力がゲットに対して絶対の勝利を得られると確信した存在が顕現する。
「…あぁ?どうなってやがる。俺はあの時…メサイアに殺された筈じゃねぇのか?」
それは嘗ての火文明の象徴。力の体現者、悪魔神と聖霊王を前にして最強という名を思いのままにして暴れた悪童
「…はーん。成程つまりは俺の後輩にちっとばかし挨拶をしてやれって事だな?」
「任せときな、これでも火文明最強の看板背負ってたんだ。俺が負ける訳がねぇだろうが」
グラディアンレッドドラゴン。嘗ての最強の怪物がレッドの前に立ち塞がる。
抑止力君の迷采配。つまりはやらかしで現在の火文明最強と過去の火文明最強がこの地球でカチ合う事がここに決定した。恐らくこの事をゲットが知ればこういうだろう。
「抑止力君って馬鹿なの?自分から地球滅ぼしたいの?よりにもよってその御方呼ぶとか大丈夫?地球滅ぶ?」と
次代の王を決める戦いが始まった。この国の未来を背負う騎士の頂点を決める戦い。人々は騎士の姿を見る為に決闘場へと足を運び、我こそはと名を挙げた騎士達はその誇りと生命を賭けて戦いへと身を投じる。
人々はその戦いの熱さに身を焦がされ魂すらも夢中になって戦いを見、騎士達は己の姿を人々に見せんと力を奮い立たせ剣を振る。
そんな場所に場違いな少年が一人いた
「だーかーら!俺も戦わせてくれって!これでも王宮でマーリンの野郎に剣を習ってた(大嘘)んだぞ!」
騎士達のいる控え室に入ろうとしている子ども
その子曰く「自分も王の座を手に入れる戦いに入りたい!」と傲慢にもそれが出来て当然だと言わんばかりの態度で入ろうとした。
それをよく思わなかった騎士達。自分達の誇りと名誉を賭けた戦いの中にこんな礼儀知らずの子どもを入れる訳にはいかないと入らせないように身体を扉の前に寄せる。
「お前のような子どもがマーリン様に教えを乞う事など出来るはずがある訳がない!大人しく帰った帰った!」
「おんどりゃぁ…人を舐めくさしおってからに…こちとら本気出したら全部強行突破出来るんだからな?」
「ハーハッハッハッ!出来るのならば何時でも歓迎しようとも!まぁ、出来ればだがな!」
「ほぉ?(マジで実力行使してやろうか?)」
その少年の名は皆が知っている小さな勇者ゲット。ゲットはアルトリア達と別れた後、この時代の王を決める戦いを行っている闘技場に足を運んでいた。
そして選手として入らせて貰おうとしてこのザマである。恐らく長いモンスター生活の中で人間としての一般常識が幾つか抜け落ちてしまったのだろう
普通に考えて見た目小さな子どもが国の未来が掛かっている大会に飛び入り参加が出来るわけないのだ。
ここは完全実力主義の火文明ではないのだから残念でもないし当然の結果である。
もう力づくで入ってやろうかとゲットが考えた時、目の前にいる騎士が眉を細め頭を撫でる
「…だが少年よその熱意は良い。お前のような志高き者がこの国の未来を担う騎士の一人となるのだ」
「はぁ」
「…このような若者には経験させても良いのではないのだろうか?
…ふむ。私から一声入れれば何とかなるだろう。これも経験だな!良し!」
「(何、こいつ怖いんだけど)」
滅びに近づいている国の未来を憂い自ら立ち上がり王となろうとするその心意気に騎士が盛大な賛辞を送っている中でゲットは胡乱な目をして騎士を見る。まるで「コイツ悪いもんでも食ったんか?」と言いたげな顔だ。
だが、一人自分の世界に入っている騎士にゲットの声は届かない。そのまま考え込むようにブツブツと独り言を呟いた後
「…どうだろうか?騎士としては参加は許されないが、特等席で試合を見る事は融通出来るぞ?」
「…特等席?」
「ああ!私達の戦いを一番近くで見れる最高の場所だ!どうする?来るかい?」
これ以上目を輝かせて言う騎士の相手をしても恐らく無駄と判断し満面の笑みを浮かべ大きくうなづいた。
「うん!」
考えるのが面倒くさくなったゲットはそのまま騎士の後につき扉の奥へと向かう
「さぁーってと。俺の後輩はどれだけ強いのか、ちっと揉んでみますかねぇ」
これより数刻も経たずして山よりも遥かに大きい巨大なドラゴンがこの国に牙を向くなど誰1人として知る訳が無い
「良いか少年。これが騎士の戦いだ!」
「うわー!かっこいい!」
「そうだろうそうだろう!君も将来はあのような素晴らしい騎士になるのだぞ!」
騎士の機嫌を損ねないように青少年の真似をしている火文明馬鹿筆頭も今は気付かない。
よく分かる今回
ゲット「騎士王におれはなる!」
抑止力「やべぇよやべぇよ。コイツ止めなきゃ世界がやべぇよ。でも止められる気がしねぇよ」
抑止力「そうだ!同じ世界からアイツよりも強いのを取り寄せればいいじゃん!」
悪童「来ちゃった♥」
ゲット「試合殴り込みに行ったけど参加出来ないどうしよう(思考停止)」