俺がブリテンに来てから暫くの時間が経った。ケイは料理が上手くならずアルトリアは大天使で。俺は時折現れる蛮族を人知れず殲滅したり、家事の手伝いをして毎日を過ごしている。そしてこれはそんな一日の中のエピソードである
「剣術を学べ?」
「そうだ。お前もここにいるのならばその程度は出来ないと話にならない。アルですら拙いながらも剣を触れるのだ、お前もその程度は出来なければ駄目だろ」
3人で食事を取っていると突然ケイがそんな事を言い始める。結局俺の話を信じていないケイは俺が記憶の混乱した子ども扱いしている節がある。大天使アルトリアは俺の話を楽しそうに聞いてくれるから色々と話しをしたがケイにはそんな話を全くしていない。
「俺が剣を握る……か。機神装甲があるし別に」
「あんなガラクタで何が出来るって言うんだ」
ガラクタじゃないですぅ。アレがあれば俺は仙界王とも戦える程のパワーが手に入るんですぅ。と言った所で意味がない事は分かっているからスルーして食事を摂る。ケイが自信作だと言っていたがやはり味は控え目に言っても不味い、最近料理の不味さは時代のせいだと思っていだが正直ケイ自身にメシマズの才能があると思われる。だってコイツ俺が隣で一緒に作っても何故かクソマズ料理を作れるんだぜ?何故そうなるのか俺にはさっぱり理解が出来ない、世の中には不思議な事が沢山あると言うがこれもそんな不思議な事の一つだろう。
怪奇!謎のメシマズ男!
「……今、とても不愉快な事を考えられた気がするのだが」
「気のせいだと思う」
「……そうか」
そんな事を話しながら食事を口に運ぶ。先ず最初に炭化しているのような真っ黒な物体が俺の眼前に現れ、何故か生臭いような臭いが俺の鼻をツンっと刺激する。そしてそれを口に含むと無味でありながらジャリジャリしてモニュモニュとした感触が口の中で同時に襲い掛かる。控え目に言って糞不味い。しかしこれがこの家でのデフォルト料理だったと言うのだから恐ろしいにも程がある。
隣に座っているアルトリアが顔面蒼白で食事を摂っている姿を見ると何だか途轍もない罪悪感に襲われる。そんなアルトリアが縋るような目で俺を見てくるので正直今すぐ料理を作り直してあげたいと思ってしまうが
「アル……残すなよ」
「はい……」
残念ながらそれは許されない。俺の雑な男料理ですらこれと比べたら一流のシェフが作った料理に感じるだろう。そんな料理を体験してしまったせいでアルトリアは今までの料理の不味さというものを完全に理解してしまった。すまんアルトリア
「まぁ……話を戻すが、お前にも剣術を学んで貰おうと思う。幸いお前には類希な力があるんだ。それを生かせればかなり強くなれる筈だ」
そりゃ俺人間じゃなくてヒューマノイドだし。モンスターだし、人間と比べたら力の差が出るのは当たり前だろうと思ってしまうがそれは表に出さずに話を続ける。どうせ話したって意味無いしな!
「ゲットはそんなに力があるんですか?」
「あぁ。前にコイツに薪割りを頼んだら薪じゃなくて斧を割りやがったからな」
ケイの言葉を聞いてアルトリアが驚いたような顔をする。すまんアルトリア、お前が見詰めている存在はモンスター(誤字にあらず)なんだ。許してくれ
「──まぁ、ゲットも剣術を学んだ方が良い。別に学びたくないならそれでも良い。そうなったら自衛手段がなくて何時か野垂れ死ぬだけだ」
「兄さん!」
俺が野垂れ死ぬ姿を少し想像してみる。仙界王を倒した今、機神装甲を纏った正直自分の実力はかなり高い方だという自負がある。だが、生身での戦いは殆ど所か全く経験していない。それを考えると剣術を学ぶのも中々良さそうだ。
「……教えて貰っても良いのか?」
「なら、決まりだな。さっさと飯を食って修行に移るとするか」
これを食い切るのか……これを?
「残すなよ」
この後めちゃくちゃ頑張って完食した。
そしてケイに料理をさせる際には完全に付きっきりでコーチをするべきだと学んだ。
ケイがメシマズから卒業するその時まで……ッ!
$$月☆日
ケイと一緒に料理をしたり大天使アルトリアちゃんと一緒に木刀を振ったりして楽しい毎日を過ごしていると奴は現れた。そいつは自分の事を魔術師と名乗りアルトリアを王宮へと連れて行くと言い始めた。何やらケイとアルトリア、次いでに俺を騎士として育てるとか何とか言っていたが正直俺はその魔術師とやらを信用出来なかった。
何故ならばそいつの目が水文明の奴等と酷似していた。相手を見ているようで見ていない目、見ているのは相手ではなくそれにより起きる事象。人を人と思わない外道の瞳そのものだった。
正直俺は反対だったがケイが多少渋ったがそれを認めた。やはり王宮ともなれば生活水準もあがり今までのような苦しい自給自足自足の生活をしなくて済むのという点が大きいのだろう。元々転がり込んだ身の上、家主の意見ならば俺はそれに従うだけだ。
純粋で優しいアルトリアは自分が騎士になれば皆の為に戦えると言って嬉しそうに笑っていたが、その姿を見ると何故だか堪らなく不安な気持ちになった。
アルトリアがあの戦いで死んだジャスミンに重なって見えて身震いをした。そして確信した。
──アルトリアの最後は誰かの為に尽くして死ぬという事を
この少女は我儘を覚えるべきだ。このままだとアルトリアはそんな最後を遂げてしまう。そう思いケイに無理を言って魔術師には今日の所は帰って貰いまた後日来て欲しいとお願いをする。すると魔術師はそれを快く引き受けて家を出ていく。
──また後日。会いに来るよ
その言葉が死神の言葉にしか聞こえず思わず悪態をつきそうになった。
取り敢えず今日はアルトリアとケイにしっかりと話をして貰おう。このままでは駄目だ、ロクな事にならない。周りに流されて辿り着いた最後なんてクソみたいな事にしかならない
「……実を言うと俺はアイツを信用出来ない」
魔術師が帰った後、ケイの発した言葉に二人が沈黙する。一人は納得するように頷き、一人は驚いたような声をあげる。
「何でそう思ったんですか?」
「何故かだと?こんな小さな村に住む村人の所に王宮住みの魔術師が来るなんて余っ程の理由がない限り有り得ない。その理由が俺達を騎士として育てたいからだと?そんな理由で来る筈がない。確実に何かある」
「だが、奴の言葉通り王宮に行けばもっとマトモな生活を出来る。それを考えてしまうと……」
「……もしかしたら本当にそれだけの理由で来ているのかも知れません」
「……ゲットはどう感じた?」
ケイの言葉を聞いて沈黙を貫いていたゲットが口を開く。
「正直に言おう、俺は反対だ。奴は確実に何かを企んでいる。あんな目をしている奴等を俺は知っている。ソイツらは何奴も此奴もロクな奴じゃなかった。だからこそ分かる。アレの中身は碌でもない、確実に屑だ」
断言、その言葉を聞いて再びケイが悩み出しアルトリアが落ち込んだ表情を見せる。そんな姿を見てゲットは再び口を開く。
「だが、本人であるアルトリアとケイが行くと決めたのなら俺は何も言わないし何も言えない、だからこそしっかりと考えた方が良い。建前じゃない心の底から思う事をした方が良いと俺は思う」
「……分かってはいる。分かってはいるんだ。だが、今の生活を考えてしまうと」
年長としての、アルトリアを育てている義務感がケイを葛藤に導いてしまう。自分は反対だが現状を考えると賛成せざるを得ない、そんな混沌とした中でケイは悩み続ける。一体何が最善なのかを
「……私は行きたいです」
そんな中、ポツリとアルトリアは呟くように言葉を発する。嫌な予感がする。
「あの人の話を聞いて私は嬉しかったんです。私が皆の為に戦える。それを考えると胸が高鳴るんです」
「私は皆を守れる騎士になりたいです」
アルトリアの言葉を聞き苦虫を潰したような顔をしながらケイは頷く。本人であるアルトリアの言葉を無体には出来ない、つまりはこれで決定したのだ。
「……決まりだな」
「……本人であるアルトリアが言うのなら仕方ない」
「……ごめんなさい。二人共が私を心配している事は分かっているんです。それでも私は」
ボソボソと呟くように話し始めるアルトリアの声を掻き消すように俺が声をあげる。何であれ彼等の人生の中で大きな決断だった筈、ならばそれを喜ばずしてどうするのか
「よっし!2人の門出を祝って今日は秘蔵の猪肉を出すか!」
「……そうだな!どうせ今日でこの生活とお別れだ。それなら何時もより豪勢に行くのも悪くない!」
ゲットとケイが笑い宴の準備をする。その姿にアルトリアは追い付けず呆然とするがケイはアルトリアに笑い掛ける
「まぁ……何であれ、アルトリアが決めたのなら俺は……いや。俺達はそれを尊重するだけだ」
「肉ッ!食わずにはいられない!取り敢えず今日は俺が全部作るぞ!メシマズケイは椅子に座って待ってな!」
「待て!俺だって料理の腕を磨いてきたんだ!今日は俺が全て作るぞ!」
「ハハハこやつめ」
和気藹々と行動する二人を見てアルトリアも笑い動き始める。そうしてその日は夜遅くまで笑い声が堪えなかった。
そして、魔術師が再び来た。
「答えは出たかい?」
「あぁ。俺達はアンタの世話になる」
ケイの言葉に満足したように頷き言葉を続ける。どうせここまでコイツの予想通りなのだろうと考えると少し腹が立ち、どうせなら少し驚かせてやろうと思いケイに耳打ちをする。するとケイはとても良い笑顔でgoサインを出した。
「そうだ。少し話をしたいんだが」
「うん。なんだい?」
ケイが魔術師に話し掛け注意がそちらに向く、その瞬間俺は魔術師の後ろに回る。その姿を見ていたアルトリアが不思議そうにして、俺はニヤリと笑う。やる事は勿論一つ
「これは俺とゲットからの感謝の印だ。どうか受け取ってくれ」
「うん……?一体何をだい?」
肛門に向かって全力で指をカンチョーの構えを取り全力で突き刺す!痔で苦しむと良いわ魔術師ィ!
「それはちょっと遠慮したいかな」
だが、俺の全力のカンチョーは虚空を切りカンチョーの際に放った一撃によって風圧が辺り一面に吹き荒れ風が巻き起こる。ちっ!命拾いしたな
「さぁ。行こうか」
現状に付いてこれていないアルトリアが呆然とする。そんなアルトリアを現実に戻し俺達は魔術師の案内で連れて行かれる事になった。
次は機神装甲を纏ってやってやると心の中で誓いながら