惑星サダラのサイヤ人 作:惑星サダラ
「ちっ、なんだったんだあの光は」
「無事か、タスレ」
楽勝のはずだった。新兵器スカウターで敵の戦力を分析し、べジータ軍が必ず勝てるように計算されているはずだった。
「ゴ、ゴフッ」
しかし、今回派遣されたコンサイ村討伐隊8名。その中でも最も戦闘力の高いタスレは、口から血を流し、力なく地面へ落ちていく。
「な、何が起こった……?」
突然の腹部への激痛。しかし痛すぎて安全装置が働き、一瞬でその痛みが消えていた。
だからタスレにはわけが分からなかった。突然、腹から下へ力が入らなくなったという感じだった。
首を傾け、己の下半身へ目を向ける。そこには、あるべきはずのものがなかった。
「タ、タスレッ! お前!」
「タスレの兄貴ぃいいいいいいいい!」
今まで連れ添った仲間たちが、下半身を失ったタスレを見て驚愕する。
タスレはそこで再び激痛に襲われる。そして苦悶の表情で目を瞑り、程なくイッた。
「兄貴ぃいいいいいいいいい!」
「誰だ!? 誰がやりやがった!?」
「あの光っている隙に攻撃されたのか!? 卑怯者め!」
残った男達は光る気弾が飛んできた方向に目を向ける。しかし誰もいない。
その周辺にも誰もいない。
「まさかこいつらが?」
平均年齢3歳のチビ共。ほとんどが死んでいるか、死の恐怖で足が止まっている。動いている者も一人を除けば子どもの実力であり、とてもではないが7人の大人のサイヤ人にダメージを与えられない。その一人はとある残った7人のうちの一人と今も交戦中。
タスレと戦っていたエリートサイヤ人の娘は、山のふもとにいる。よろよろと歩いており、ダメージは深い。あの状態から一撃でタスレを殺せるとは思えない。
「ま、まさか!? 奴隷共!?」
「あっ」
「そうだ! 違いない! あの妙な光る玉、そしてタスレを切った攻撃! サイヤ人の技にしては妙だ!」
「くっそおおおおおお! 図に乗りやがって! 雑魚の癖にいいいいいいい!」
男達は、コンサイ村の奴隷の科学者あたりが、兵器でタスレを殺したのだと考えた。
ならば、神聖な戦闘を奴隷に汚されたばかりか、不意打ちのような形で殺されたことになる。
「生かしておけん! 一人残らず!」
「死ねええええええ! ゴミクズがあああああああ!」
戦闘中の一人を除いて、残りのサイヤ人が周囲の村へ攻撃を始める。
近年はべジータ軍も食糧不足であるため、できるだけ村への被害を避けつつ戦闘していたのだが、一度攻勢に回ればあっという間だ。畑も建物もエネルギーボール1つで吹っ飛ぶ。吹っ飛んだところへさらに別のエネルギーボールが飛んできて、地面を抉り取る。何度も何度も抉り取る。巨大なきのこ雲がいくつも上がる。もはや村にはクレーター以外に何も残っていないだろう。爆発の余波で平均年齢3歳のサイヤ人の子も大勢死んだ。
「き、貴様らああああああああああ!」
ダイコが怒りの声を上げ、6人の敵に突っ込んでいく。
「ふん! たった一人で何ができる!」
「袋叩きにしてやる! もはや女と言えども容赦はせん!」
そしてダイコと6人の戦いが始まった。
ダイコは手近な男を狙い、打撃を繰り出す。
しかし男はまともに戦おうとせず、回避と防御に全てを回す。
その間、別の男達はダイコの横や後ろに回り込み、エネルギー弾を放つ。
「ぐああああっ」
エネルギー弾が後ろからダイコに命中。ダイコは弾かれ、飛ばされていくが、その間にも別のエネルギー弾が命中する。
さらにはそこに回り込んで別の男が蹴飛ばす。また回り込んで別の男が両腕で叩き落す。
「ぐはっ」
地面に埋まるダイコ。ダメージで上手く動けない。
「終わりだ!」
「死ねえ!」
そこへ、6人から一斉に必殺のエネルギー弾が放たれる。
「ぐっ」
避ける暇はない。ダイコは最後の力を振り絞り、全身に気を纏う。
エネルギー弾は次々とダイコや付近の地面に命中し、大爆発を起こした。
「ぐがっ」
「ごふっ」
勝利を確信していた6人。しかし突然、そのうち2人が血を吐いた。
「くそっ、がっ」
「円盤、あっちから……」
2人はタスレと同じように下半身を失っていた。ダイコへ全力でエネルギー弾を放っている時に、横から飛んできた円盤にまっ二つされてしまったからだ。
死に行く二人。しかし最後の力を振り絞り、円盤が飛んできた方向へエネルギー弾を放つ。
「し、死にやがれええええええ!」
「ちっくしょおおおおおお!」
エネルギー弾は円盤が飛んできた方向へ着弾し、再び大爆発を起こした。
もっとも、円盤、もとい気円斬の投擲者は、投げてすぐに移動していたため、爆発から逃れたが。
と言っても、ゴギョウは無傷ではなかった。村の奴隷を殺すために何度も放たれたエネルギー弾。あの余波はゴギョウが隠れる地下道にも届いていた。
ゴギョウは片足を骨折し、背中に大きな火傷を負っていた。その状態で、何とか両腕に気円斬を作り、敵が攻撃に集中しているタイミングを見計らい、見事二人を仕留めたのだ。
ゴギョウには、地下に潜って時間を稼ぎ、隙を見て夜にでも逃げるという選択肢もあった。しかし足と背中に大きなダメージを負ってしまった。早く治療しなければ死んでしまうかもしれない。この村にある医療ポッドを使いたい。なんて思惑が、ゴギョウに戦闘を選択させた。
と言っても、正面から戦うつもりはない。まだそのやり方では勝てない。
ゴギョウは戦場の気を探る。
ダイコの上空の4人は、エネルギー弾を撃ちまくったために気が2割ほど落ちている。しかし戦闘は十分に可能だ。ダイコは生きてはいるが、著しく気が落ちている。もはや戦えそうにない。
コリーが相対する男は死にかけだ。こちらももう戦えないだろう。コリー自身にほとんどダメージはない。彼女は戦える。
コリー以外の子どもは、3人、気が十分に残っている子がいる。しかし3人とも、絶望的な力の差に怯えてしまい、戦う様子がない。
となれば、4対2。それも、表立って戦うのはコリーのみで、ゴギョウは隠れて攻撃する。
4人の敵は、慎重にあたりを警戒していた。8人いた彼等のうち、3人が奇怪な技により即座に命を奪われてしまったのだ。警戒するなと言うほうが無茶だろう。迂闊に行動できない。
静寂があたりを包む。あたかも戦闘が終わったかのような静けさ。4人はいずれも気を張り詰めており、顔は真剣そのもの。
「あ、あの」
コリーが小声で言う。4人の男達はまったく反応しない。
「も、もうやめようよ! こんなこと!」
コリーは勇気を振り絞り、大きめの声で叫んだ。しかし4人の男たちの反応は同じ。
コリーの声にも警戒はしているが、はっきりと首を傾けたりはしない。それが隙となって例の円盤に狙われるかもしれないからだ。
「わ、私降参するから! それならいいでしょ! もうやめようよ!」
コリーは涙ながらに訴える。負けてもいないのに降参。それはサイヤ人としては絶対にやってはならないこと。それが分かっており、受け入れられない確率が高いとも分かっており、死んだ仲間が戻らないことも分かっており、いろいろな意味で涙があふれたのだ。
「ちっ」
そんな彼女へ、男の一人が舌打ちしながらエネルギー弾を放つ。
ガキの戯言に耳を傾ける気はない、という感じだ。
「ううっ」
コリーは涙を拭いながら、片手でエネルギー弾を弾いた。
男のエネルギー弾がさして力を入れなかったのもあるが、もともとコリーはエリートサイヤ人の子ども。男の全力のエネルギー弾も、コリーが全力で迎え撃てば片手で弾けるだけの力の差があった。
「どうする? この娘」
「1人で戦うのは辛そうだ。連携でし止めるぞ。ベッキャ、オニオ、援護してくれ。パセリは円盤の警戒を」
「ああ」
「分かったぜ」
「任せろ」
1人が提案し、残りの3人が短くうなずく。そして3人は動き出した。
「いやああああああああ!」
戦闘が再開してしまったことに、コリーは泣き叫ぶ。
「チッ、情けないやつ!」
「戦場で泣いてんじゃねえよ! サイヤ人の面汚しめ!」
3人は逆に怒り、コリーに攻撃をしていく。
「オラオラオラ!」
まずは様子見の気弾。コリーは片手で軽く弾いていく。
「くらえっ!」
両腕を交差させ、勢いをつけてタックルを仕掛ける。コリーはサッと横に飛んでかわす。
「はっ!」
「つあっ!」
そこを狙った2人同時のエネルギー弾。コリーはやはりそれぞれを片手で弾いていなす。
「チッ、強えじゃねえか」
「いらいらするぜ。こんなやつがエリートとはな」
「だが、戦う気がなければ宝の持ち腐れだ!」
3人は不満を言ってから、目配せする。そしてコリーを囲むように展開し、3方向から同時に突っ込む。
コリーはギリギリまで突っ立っていたが、敵の拳が当たる寸前でジャンプする。
「あっ!」
しかも、ジャンプしながら男の腕を軽く払い、別の方向から迫ってきた男の顔へと向けた。
「ぐえっ」
「す、すまん」
男の腕は勢いよく別の男へと命中。カウンター気味に決まり、別の男に大きなダメージを与える。
「チッ」
もう1人の放った蹴りはジャンプによってかわされてしまった。
それから何度もこんな攻防が繰り返された。コリーから攻撃を仕掛けることはなかったが、3人はそれぞれの攻撃をいなされ、同士討ちのような形でダメージを受けた。また、自らのエネルギー弾を原因に徐々に体力を失っていった。
「はあ、はあ。なんだこいつ? やる気あんのか?」
「全然、当たらん。ぜえ、ぜえ」
「調子狂っちまうぜ。逃げるばかりだからよお。はあ、はあ」
逃げてばかりのコリーは、ほぼダメージなし。体力もまだまだ余っていた。
「もうやめようよ! こんなこと! 私は戦いたくない!」
そして、再び停戦を提案。コリーは真剣そのものなのだが、それが逆に男たちの激情を誘う。
「お、お前が言うなああああああ!」
「エリートのくせに! お前に俺たちの気持ちが分かるのかあああああ!」
「こっちはお前を殺したくてたまんねえんだよおおおおお!」
再び、会戦。
防御を無視して全力で攻める男達。攻撃を無視してひたすら防御に徹するコリー。
少しずつ、コリーにかすり傷がついていく。しかし致命傷には至らない。むしろ男達の体力がハイペースで失われていく。
「こ、こいつ」
「認めるしかねえ。こいつは戦闘の天才だ。はあ、はあ、はあ」
「どうする? はあ、はあ、はあ」
男達三人は目配せをする。そして一旦コリーから距離を取り、3人集まって話し合う。
話が纏まったところで、3人揃ってにやりと笑った。
「おいお前、喜べ! 戦うのを止めてやる!」
「えっ」
「その代わりべジータ軍に入れ! お前ほどの実力ならべジータ王も無碍にはしないだろう!」
突然の提案。戸惑うコリー。
しかし、コリーは構えを解いた。
「分かりました。べジータ軍に入ります。それで無益な戦いを避けられるのなら」
「なっ」
僅かな生き残りの子ども達は驚愕した。憎きべジータ軍に入るなどありえない。死んだ方がマシだと教えられてきた。
「くくくくっ」
「ぐひひひひっ」
作戦成功。3人の男達は嫌らしい笑みを浮かべる。
「おいパセリ! 俺はこいつ連れて本部に戻るからよ! お前は円盤野朗を殺してから戻ってこい!」
「なっ! お前達も探せよ!」
「悔しいが、このガキは強いからな! 3人で連行しないと安心できん!」
「……チッ。まあいいだろう」
そんなやり取りの後、3人はコリーを連れて去っていく。
残ったのはパセリという名のサイヤ人、数人の子ども、死に掛けのダイコ、そしてゴギョウ。
パセリは村をグルリと見回す。荒れ果てた大地。破壊された家の瓦礫。サイヤ人の子どもや奴隷の死体。が目に映る。
「円盤野朗を探せつってもなあ。この広い村をいちいち調べてられん。かと言ってやみくもにエネルギー弾を撃っても疲れるだけだし」
パセリはげんなりした。腕を組み、うんうんと考え込んだ。
今だ!
ゴギョウはさっと地下から飛び出し、ダイコを回収。再び地下へと入っていった。
「もういいや。闇雲にエネルギー弾を撃っておこう」
そして程なく、パセリによる空爆が始まった。
パセリは長々と、村の隅々まで細かくエネルギー弾を撃っていった。爆発で舞い上がった灰が落ちてくると、空から村をざっと見回し、特に何かを見つけることもなく、本部へと帰っていった。