惑星サダラのサイヤ人 作:惑星サダラ
2歳までの俺の日課。母との地獄の訓練。食事。就寝。
まさに訓練と食事のみの日々。何度死ぬかと思ったことか。おかげで気功波が撃てるようになりました。ジャンプすれば10mくらいの高さまで飛べます。
強すぎる、サイヤ人。
2歳のある日、母が俺に言った。
「奴隷のしつけ方を教えてやる。ついてきな」
いえ、教えていただかなくて結構です。
と言えるはずもなく、黙ってついていった。
母はまず村長の家に入り、何か紙を持ってきた。
地図と住民の名前が書いてある紙だ。
「ほら、地図に番号があるだろう。例えば1番は村長の土地さ。その中にいる異星人は村長の奴隷ってことになる。保育施設や病院も村長の土地だ。うちの土地は、7番だ。探してみろ」
「ここが家。でもこことか、こことかも7番だね」
家の周りは7番の土地。しかし飛び地が細かくあった。
「そうさ。今は戦争があるだろう? 戦死した連中の土地がうちらに回ってきてるのさ。だから飛び飛びになる。と言ってもうちの旦那は村で7番目だからね。土地の分け前も7番相当になるのさ」
なるほど。そういうシステムか。
「うちの奴隷を管理するのは私らの役目だ。気に食わないなら殺しても食っても自由。しかし他所の奴隷は他所の所有物だ。勝手に殺したりしちゃあいけないよ。交換するのはいいけどね。土地も小さくて細かいやつが増えると面倒だから交換することもあるのさ」
「なるほど」
母は別の紙を取り出した。
「ここに奴隷の名前が書いてある。名前の横に数字があるだろう。1の奴隷は従順、2は不真面目、3は反抗的、4は行方不明だ。数字は私が考えたアイディアだ。賢いだろう?」
「はい。そうですね」
同意しておく。機嫌取りだ。
「面倒だから1の従順なやつらに奴隷の管理は任せているんだ。食糧はできるだけ均等に調達しているが、農耕地の大きさや質も考慮に入れている。まあ話はこの辺でいいだろう。あとは体で覚えろ」
「はい!」
いや、あまり気は進まないけどね。
奴隷一軒目。1評価の家。タコみたいなお爺さんが出てきた。
「ほら、食糧よこしな」
「は、はい。今すぐ持ってきますじゃ」
爺さんはブタを丸一匹持ってきた。なるほど従順だ。
奴隷二軒目。2評価の家。人間の顔の若い夫婦と俺と同じくらいの年齢の娘が出てきた。
「ほら、食糧よこしな」
「は、はい。今すぐに」
夫婦は急いで米俵を持ってきた。しかし中身がスカスカだ。3キロくらいしか重さがない。
「おい。これだけか?」
「ひ、ひいっ。すみません。今年こそは、今年こそは頑張りますから!」
「口だけならなんとでも言えるなあ」
母は嗜虐的な笑みを浮かべながら若い旦那に近づいていく。
そして、腹パン一発。
「うぐえっ」
男は腹をかかえ、うずくまる。
妻と娘は悲しそうに目を逸らした。ん? 娘の戦闘力が上がったか? 戦闘タイプの異星人か?
「飯を用意できねえ奴隷には生かす価値もねえ。畑の小魚でもカエルでもなんでもいいから今日中に袋いっぱい用意しな。できなければ殺す」
「は、はいいっ」
若い夫婦は大慌てで畑に走っていった。
これが2評価か。奴隷の悲しい運命だね。
次に3評価の家。魚と人間を合わせたような顔のおっさんがやってきた。
「ほら、食糧よこしな」
「ええっ、今日ですか? いきなりですね」
「黙って持って来い!」
「す、すみません」
なるほど。なんとなく反抗的だな。
おっさんは豆をたらふく持ってきた。生活には余裕があるようだ。
「こんなもんでどうでしょう」
「ふん。上出来だ」
「それでですねえ。最近寒くなって収穫が落ちてきているので、山の落ち葉を集めたいのですが」
「何に使うんだ?」
「もちろん肥料です。落ち葉が肥料になるくらいもちろん知ってるでしょう?」
「チッ、好きにしろ」
「長老に許可をとってくださいね。いきなり殺されたくないですから」
「どうだかな」
「ええっ、そんなー」
なるほど。うざいが有能そうだな。
こいつに任せれば奴隷全体の収穫が増えるんじゃないか? こいつの小言も増えそうだけど。
このような形で、この日はいくつもの奴隷の家を回った。
1トン分くらいの食糧を手に入れた。いくらサイヤ人でも一度にこんなにたくさんは食べきれない。母には何か目的があるのだろうか。
昼食中、母が不意にもらした。
「実は、村の女子ども(おんなこども)にも国から徴兵がかかった。私も戦争に行く」
えっ、マジか。父はかなり前から戦争に行ってたけど。こんな小さな子を持つ母親まで戦争に参加させられるのか。というかまさか俺も参加か?
「サイヤ人にとって戦いは喜び。私も喜んで戦いに行く。しかしゴギョウ、お前は弱すぎる。お前は村に置いていく。これからは一人で生きていくんだ。修行を怠るなよ。負けることもあるだろうが、必ず勝つまで挑み続けろよ。サイヤ人の誇りを忘れずに。それと、まあ、体に気をつけろ。毒を使う敵もいるからな」
あっ、よかった。俺は行かなくていいのか。
でも、二歳で親離れ。厳しすぎる。まあカカロットはもっと厳しい条件だったけど。
「来い、ゴギョウ」
母は俺を呼ぶ。俺は食事をやめ、母に近づく。母も食事をやめ、そっと俺を抱きしめた。
母の手、母の胸は暖かい。しかし何か寂しい雰囲気だ。母は死を覚悟しているのだろうか。戦況は悪いだろうからなあ。放っておけばべジータ軍が勝つはずだから。
翌日、村長や母を含めたほとんどのサイヤ人が戦場へ向かった。
村に残ったサイヤ人は村長の娘ダイコを除いて極端に幼い子どものみとなった。このダイコが500人近い幼い子どもの面倒を見るらしい。無茶だよなあ。異星人がいるとは言っても、暴れるサイヤ人を抑えられるのは彼女だけだろうし。まあ頑張れ。
さて、俺は母から解放されて自由となったわけだが、なんだかなあ。俺も少し寂しい。口煩くて尊大な母だったけど、付きっきりで修行してくれたからなあ。顔は怖いけど割と美人だったし。
とりあえず、逃げる準備だけでもしましょうか。宇宙船がどこにあるかについては、俺の試験をやった科学者に聞いてみようかな? 例の保育施設にいればいいが。
俺は3キロほど離れた保育施設に到着する。上は10歳くらいから下は0歳までの子ども達が庭で修行をしていた。村長の娘の姿もある。
「うわあああああん! マットのやつにまた負けたああああ!」
「泣くな! 誇り高きサイヤ人ならば!」
5歳くらいのサイヤ人の少年が戦いに負けて泣いている。それをあやす村長の娘。14歳の美少女。
「この野朗! 死にさらせ!」
「いいぞコリー! やってしまえー!」
「負けるなキャツ! 女なんかに!」
そこら中でケンカのような戦いが起きている。学校なら学級崩壊だな。まあサイヤ人だしこうなるよなあ。
おっと、例の科学者発見。俺の試験を採点した地球人のような顔の男だ。
子ども達に何やら教えているぞ。
「だからですねえ、人間の体というのは栄養でできていましてねえ。これを効率よくとることで効率よく強くなることができるのです。さらには新鮮な水、空気、太陽の光、また精神状態も関係しましてねえ」
「はあ、疲れる。お前の話は長いよ」
「本当に強くなれんのか? そんなことで」
「なれるなれる! なれますとも」
「じゃあ強くなれなかったら死刑な」
「ええっ!? ぼ、僕は村長の友人なのよ!?」
「知るかよ。雑魚異星人」
「腑抜け」
口の悪いガキに栄養や人体の構造を教えているようだ。でもサイヤ人は勉強は嫌いだからなあ。
「先生、ぼく、興味あります! 教えてください!」
「おおう!? き、君は!? 伝説の!」
伝説? それは言い過ぎでは?
しかし科学者は俺のことを覚えていたようだ。歴代最高得点らしいからな。しかもたぶん断トツ一位のはずだ。
「てめえ、ゴギョウだな?」
「いけすかねえやつ。いつもいい子ちゃんぶりやがって」
と、科学者の周りの8歳くらいのガキ2人が俺に因縁をつけてきた。恨まれるようなことやったっけ?
優秀すぎるあまり嫉妬されたのだろうか。
「や、やめないかい君たち! 君たちの敵はべジータ軍だろう? 仲間割れはよくない!」
「チッ、そうだけどさあ」
「お前さあ、調子に乗るのやめろよな! 許して欲しかったらさ!」
科学者が俺を庇うと、ガキたちは若干落ち着いた。しかし危ないなあ。俺がいくら鍛えていると言っても2歳。8歳のガキに勝てるかは分からない。それが2人もいたらまず勝てない。こいつらも怒らせないように気をつけた方がいいな。
科学者は俺を見るととても喜んで、再び同じような講義を始めた。
「修行、休息、栄養、新鮮な水や空気。悔しさや怒りと言った猛烈な感情。僕の実験データによると、サイヤ人の成長に必要な要素はこの6つだ」
瀕死の体験、を要素に入れるべきだと思うが。
「君たちの修行プログラムは僕が作る。だから僕を信じてやってみて欲しい。必ず強くなれる。コリーよりも」
「ほ、本当か!?」
「嘘だったら許さんぞ!」
「う、嘘じゃないよ! 本当だよ、本当。だからやってね。僕のプログラム通りに」
「ふん、まあいいだろう」
「遊びにつきあってやる」
このガキ共、おっさんみたいな語り口だな。
科学者は実験に興味を持った子ども達を集め、自分の研究室に案内した。ダンベル、バーベル、握力計、パンチングマシンなどが置いてあった。
「まずは君たちのデータが欲しい。それから一人一人に合わせた修行プログラムを僕が作る。食事も含めてね」
俺達は科学者の言葉に従い、身長体重、腕力、脚力、気の量、などなどを計測していく。心理テストも受けた。
結果、俺は試験を受けた子どもの中で唯一のA判定を受けた。年齢を考えるとエリートサイヤ人でもトップクラスの戦闘能力だという。ただしこの上にS判定があり、その場合は王族並みの能力を示すという。俺以外のほとんどの子どもは下級戦士のD判定だった。試験を受けた子どもは実力に伸び悩んでいる子が多く、実力のある子は村長の娘と修行をしていたから、本当の平均はもうちょい上だと思う。
俺は試験の結果を誰にも知られないように意識して行動した。目立たないように隅に移動して、一切は発言をしない。嫉妬は怖いからな。
「明日またおいで。修行プログラムを作っておくから。今日は栄養満点の料理を作る方法を教えよう。まずは素材集めからだ」
その後、俺達は村長の土地を回り、食材を集めていった。森から山菜を採ったり、鳥を仕留めたり、奴隷から調達したり。
最後はキャンプのような形でみんなで料理。俺一人でやればすぐに終わることも、バカなガキが「俺にやらせろ」と言ってぶんどり、しかも失敗するから大変だった。
そしていつの間にか暗くなっており、就寝を迎える。
俺は密かに科学者の研究室へ歩く。科学者は誰かと話をしていた。この声は、村長の娘かな?
「助かりました。ドレッシさんがいてくれて」
「いやいや、僕なんて全然。一番粋のいい子達はダイコちゃんが相手してたからね」
村長の、娘? 奴隷相手に敬語なのか? 何故?
それからしばらく話を聞いた。二人は村長の話で盛り上がっていた。どうやらドレッシが村長の奴隷ではなく友人ならしい。ただ、奴隷ということにしておいた方が、奴隷からの嫉妬がないので安全ならしい。やはり嫉妬は怖い。
もう1つ。もしかしてこの2人できてるんじゃないか? 喋る時の声の調子が2人ともうれしそう。でもこの場でセックスはやめてくれよ。おっさんとセックスする14歳の喘ぎ声なんて聞きたくないぞ。
俺はタイミングを見計らい、ノックをする。
「誰だ!?」
村長の娘が突然人が変わったように低い声で言う。怖い。
「ぼ、僕です」
俺はそろりと入る。
「えーっと、確か」
「ゴギョウくんじゃないか! 伝説の全教科満点!」
「ええっ!? あのゴギョウくん!?」
村長の娘も驚いていた。科学者から俺の話を聞かされていたらしい。
「ゴギョウくん、何のようだい? それとも僕じゃなくてダイコさんに用かい?」
「科学者さんの方に用があります。実は、以前に推薦されていた、科学者の試験を受けようと思いまして」
「えっ、本当かい!? うーん、でも枠があるかなあ? 戦争が厳しくなって学生も戦争に借り出されているからなあ」
「あっ、そうなんですか」
それは残念。でもまだ希望はあるはずだ。
「ドレッシさんは、宇宙船持ってますか?」
「えっ、僕の宇宙船かい? 残念ながら場所は言えないよ。悪戯で壊されたら困るからね」
やはり持っていたか! 奴隷じゃない異星人がいるということは自分の船で来たということ。予想は当たったようだ。