惑星サダラのサイヤ人 作:惑星サダラ
なんだこれは? 知識が、光景が、音が、直接頭に入ってくる。
言語があっという間に記憶される。もう喋れる? いや、口の筋肉は上手く動かせないかもしれない。いや、動かせるかもしれない。俺はサイヤ人だから。
うん? 俺はサイヤ人なのか? ドラゴンボールのサイヤ人。
頭の中に直接入ってくる知識が、俺の知っているドラゴンボールの知識とある程度一致する。
俺はサイヤ人に生まれ変わったのか。そして現在、よく分からない教育装置で直接言語や常識を覚えさせられている。
「目覚めたか、ゴギョウ。俺は父親のセリだ」
「あんた、こういうのは母親が先に名乗るもんでしょ?」
「そ、そうなのか?」
「まったく。私はあんたの母親のナノハナさ。よろしくな、ゴギョウ」
声が聞こえた。意識すると目が開き、視界が現れる。
片目片腕のいかついおっさんと、筋肉質できつい顔の若い女がいた。二人が両親らしい。見た目はすごく怖い。いや、実際にとんでもなく恐ろしいだろう。前世のヤクザなんて裸足で逃げ出すレベルで。それがサイヤ人だから。
周囲には俺が入っているのと同じポッドがいくつも並んでいる。その中には赤ちゃんが一人ずつ入っている。
俺は、両親に返事をしてやってもよかったが、一応赤子を演じることにした。俺は2人を軽く見てから、目をつぶってあくびをした。
「おいおい、無視かよ」
「いや、この子私の眼をしっかり見たよ。相当賢いね」
「まあ賢さはどうでもいい。問題は強いかどうかだ」
そうしてサイヤ人としての人生が始まった。
まずは原作のどの時期か知る必要があった。カカロットが生まれていたりしたら残された時間がもうほとんどない。しかしその心配は杞憂だった。現在俺が住んでいるのは惑星べジータではなく惑星サダラだったからだ。
惑星サダラは確かサイヤ人がもともと住んでいた星だ。しかしサイヤ人の種族間の争いで誰も住めなくなり、サイヤ人は惑星べジータに移住せざるをえなくなった。サイヤ人は乱暴だからな。ありえる話だ。
ここが第6宇宙だったなら、話は別だがな。原作で第6宇宙のサイヤ人は穏やかだった。内戦などせずそのまま惑星サダラに住んでいた。
俺のいる星は、第7宇宙の惑星サダラだと思う。なぜなら、この星は現在サダラ王国とべジータ王国に二分されており、その両国で戦争中だからだ。
原作通りならべジータ王国が勝つのだろう。その時の戦争がきっかけで惑星が汚染され、移住を余儀なくされてしまうのかもしれない。移住は別の戦争の影響かもしれないが。いずれにせよ、俺はかなりやばい状況だ。俺がいるのはサダラ王国だから。このままではべジータ王国に負けて死ぬ。きっとべジータ王は捕虜など取らず、子どもでも構わずに殺す。そういうやつだよ彼は。
フリーザとの戦いには時間があるが、べジータ王との戦いは近い。俺は全力で鍛えぬく必要があるだろう。力がなければいろいろとうまく進まない。自分を鍛える中で、宇宙船の確保も必要だ。
この星には賢い宇宙人が何人かいる。そいつらと仲良くなって宇宙船を譲ってもらう。もしくは強奪する必要がある。
よし、予定はそんな感じでいいだろう。早速修行を始めよう。
と言っても赤子の身でこんなポッドの中じゃあ体を鍛えるのは無理だからな。気のコントールの練習から始める。
気を爆発させる方法は教育装置の映像で教えられている。体の内側のエネルギーを感じ、それを盛り上げ、身体にみなぎらせるという感じだ。
早速やってみる。
「ふっ、ぐっ」
内側に力を入れると、自然と声が出る。まあ原作でも声を出していたし問題ないだろう。
そんなことを長く長くも続けていた。ミルクの時間、就寝の時間、ハイハイの時間、教育プログラムの時間、以外は常に気を高める練習を続けていた。
そして2ヶ月が過ぎた。俺は「はっ」という掛け声と共に、そよ風を起こすことに成功した。
「こ、これが気か。いやっほおおおおおおおおおおおっう!」
俺は喜びのあまり大声で叫んでしまった。周りの赤子が一斉に泣き始めてしまった。
ブ、ブロリーみたいなのは、いないよね?
それからさらに一ヶ月。俺はビーデルが出したような小さな気弾を手のひらから出すことに成功していた。そんな中、科学者が俺の元にやってきた。サイヤ人ではないが、人間のような顔の科学者だ。
「教育プラグラムは今日で終わりだ。君はなかなか数字がいい。エネルギーボールも作れているようだしね。今日は試験を受けてもらう。本気でやるように。いいね」
ほう、試験か。確かこの試験の成績が良ければエリートへの道が開けるはず。
エリートと言っても王の護衛じゃなくて科学班だけどね。それも科学を発明するわけじゃなくて、異星人が言っている科学を理解し、騙しがないかチェックするだけ。それがものすごくしんどいわけだけどね。
まあ、俺の目的のためには科学班になった方がいい。本気で受けちゃいましょう。
試験の後、母親がやってきて俺を引き取った。
科学者は母親と話しかけた。
「すばらしい成績です。この試験が始まって以来の天才と言っていいでしょう。ぜひ科学班に」
「今は戦争中さ。私たちに必要なのは科学よりも力だ」
「い、いえ。科学こそが戦争に役立つのです!」
「なんだ? 私に口答えする気か?」
「い、いえ。そうではなく」
「ふん。臆病もんが。あんたらみたいなのにうちの子が任せられるかよ」
男勝りな母親は科学者を一蹴し、俺を抱きかかえ、家へ向かう。
初めて施設から出た。周囲はぽつぽつと草木が生えている荒野だった。家やビニールハウスみたいなやつもちらほら見える。
昼だが、空は濁っている。空気も埃っぽい。戦争の影響で環境が汚染されているのだろうか。
母は俺を地面に置いた。俺は二本足で立つ。
「あんた随分優秀らしいからね。走れるだろう?」
「ええ、はい」
「なんだいその返事は。サイヤ人ならシャキッとしな」
母は俺の頭を軽く小突いた。動作は軽かったがとても痛い。これは気の影響か。
「ほら、言い直しだ。シャキッとして。こう、走れます! ってな」
母はキリッと気をつけをして言った。軍人っぽいな。
「ほら、言ってみな」
「走れます!」
「そうだ。その調子だ。もう一回言ってみな」
「走れます!」
「ようし、そうだ。じゃあ付いてこい」
「は、はい!」
母はぴょーん、ぴょーん、と跳ねて走っていく。
速すぎませんかね? おそらく前世の俺の全力並みに速いと思う。
俺は小さな体をかなり前傾させ、足をくるくる回して駆ける。サイヤ人の筋肉はすさまじく、前世の赤子ではありえない速さで足が回るが、さすがに前世の大人のスピードには追いつけない。ブロリーなら追いつけるかもしれないが俺はそこまで化け物ではない。
俺は気も利用して全力で走るが、母に引き離されていく。これ以上は本当に無理。それに呼吸もしんどくなってきたぞ。
「はあ、はあ、はあ」
と、前を行く母の姿が消えた。
「さすがにこのスピードは無理か」
「うひっ」
母は一瞬で俺の横まで来ていた。驚いて変な声が出てしまった。しかし、感動もした。これがサイヤ人のスピードとやらか。
その後、母は俺の少し前を走り続けた。俺がちょっと力を抜くと「コラ!」と言って怒り、頭を小突いた。赤子なのに。鬼か。
俺はほとんど全力に近い速さで3キロくらい走らされたと思う。家に着いたとたんに大の字になってぶっ倒れた。何度も死ぬかと思った。前世の感覚で言えば、1キロくらいの時点で呼吸は既に限界だったが、さすがはサイヤ人。そこから驚異的な粘りが可能だった。足も肺も、動けと念じれば動いた。
「はひゅーっ、はひゅーっ、はひゅーっ」
「ふふふふっ。優秀じゃないか。こんな子を科学者にするなんてやっぱりありえないぜ。お前はサイヤ人最強の戦士になるんだ。なあゴギョウ」
母は満面の笑みで言った。
やはりサイヤ人。子どもは最強であって欲しいらしい。
しかし、どうだろうなあ。強くなって原作の敵を倒すとかはやってみたいけど、こんなに苦しい思いはするのはなあ。