東方叛逆郷─スパルタクス幻想入り─   作:シフシフ

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アッセイ!!

遅れたが許せ(圧政者感)。






白狼天狗と青白筋肉

 一人の少女が白い髪を揺らしながら、緑が燃ゆる山を駆ける。

 少女は白狼天狗、名前を犬走椛。通称もみもみである。

 

 椛に与えられた仕事は巡回。彼女ら天狗の総本山、八百万の神が住まう神聖なる山。

 

 人呼んで(・・・・)『妖怪の山』。

 

「はぁ・・・・・暇」

 

 椛はいつもの調子でそう呟く。能力である千里眼をフルに活用し、川やら花やら、好きなものを見る事が出来るのだが・・・・・椛はバカが付くほどの真面目だ。それらは休憩時間にしか見ない。

 

 暇だ、と言っているのは烏天狗の上司、射命丸文に聞かれているかも知れないからだ。射命丸は会うたび会うたび

 

「暇じゃないんですか?ねぇねぇ、暇じゃないんですか?」

 

 と聞いてくる。

 だから、暇です、と時折呟いておけば射命丸は

 

「へぇ〜そうですかぁ。あやや、私は忙しいので帰りますね!」

 

 と帰っていく。とてつもなくウザイが、仕方ない。上司からのセクハラやパワハラに堪えているようでは白狼天狗は務まらない。

 

「・・・・・異常なし。観測地点を変える」

 

 視界の中の動くものの殆どは鳥やら動物ばかり、誰も妖怪の山に入ろうという者はいないらしい。

 椛は珍しい事もあったものだ、と少し首を傾げる。最近になって加速的に増えた『凶暴な中級妖怪』は妖怪の山の山に頻繁にやってきたと言うのに。

 

「もーみーじー!」

「・・・・・?」

 

 椛を呼ぶ声が後ろからする。椛が振り向けば、そこには射命丸とは別の烏天狗が瓢箪を片手にやってきた。ツインテールが特徴の可愛らしい天狗だ。

 

「喉乾いたでしょ?どうせ椛の事だし、川に行っても水を飲まないで監視してるんだろうなーって思ってさっ」

「・・・・・ありがとうございます。」

「いいよいいよー。ところで、人の様子はどう?」

 

 この烏天狗はよく椛に人里の様子を聞きに来る。人は下等生物、と言うのが妖怪の山共通の認識だが、何処にも変わり者はいるのだ。

 

「人里ですか・・・・・ふむ。・・・・・どうやら何かあった後の様ですね」

 

 椛が千里眼を使い人里を見れば、何やら人々が集まっている。その中心にはいくつかの黒い羽が落ちており、椛はそれが射命丸のものだと断定した。

 

「へぇー、例えばどんな事かわかる?」

「えっと、恐らくは文さまが悪戯をしたのかと」

「文が?どうしてそう思うの?」

 

 ツインテ烏天狗の質問に、椛はアッサリと答える。そんな椛に烏天狗は驚いたように聞き返す。

 

「文さまの羽が幾つか落ちていますから」

 

 これまた間を置かずアッサリと確信を持って答える椛。

 

「ほほー、凄い・・・・・ぇ?その距離から見分けつくの?と言うか、もしかして烏天狗の羽・・・・・見分けつく感じ?」

「はい」

「・・・・・・・・・・凄いわね」

 

 もはやドン引きである。

 目の前のバカ真面目に烏天狗は何とも言えない顔をした。

 

「ありがとうございます。はたて様、そろそろ私は巡回に戻りますので」

「え、あ、ごめんなさい!じゃ、あんまり無理しちゃダメだよー!」

 

 お礼を言って切り上げようとする椛に、はたては一瞬止めようとするが、椛の尻尾が垂れ下がっているのを見て別れることにした。

 最後に手を振りながら飛び去ったはたてに、椛は溜息を付く。

 

「(嫌いではない。・・・・・少し騒がしいですし、無礼講となれば大天狗様を引っぱたいたりと・・・・・もう少し弁えを持った方がいいと思うのですがね)」

 

 うん、真面目である。

 

 さて、物語を進めよう。どうやって?このままでは椛の私生活を盗み見る変態?

 大丈夫、我々よりも更なる変態が向かってきている。

 

 名を─────────

 

 

 ─────────スパルタクス(筋肉ムキムキマッチョマンの変態)

 

 

 

 

 

 

 

 視界に僅かに映る、青白い影。

 

「っ」

 

 ハッとしてそちらを見れば、何者かが妖怪の山に侵入を試みている。

 

「何者・・・・・っ!?」

 

 何者だ、そう言おうとして言葉が詰まる。見覚えのある黒いスカート、黒い羽、下駄。

 

「文さま・・・・・!」

 

 青白い肌の巨漢が、射命丸を担いでいた。その顔にはいやらしい笑みが浮かんでいる。

 

「(何をするつもりだ・・・・・。っ!ま、まさか)」

 

 もう何かされた後なのでは?と頭を過ぎる。

 が、そこまで考え、別にそこはどうでもイイと切り捨てる。問題なのは、射命丸をどうこうできるほどの実力を持った何某かが妖怪の山に攻め入っている現状である。

 

「っ!?」

 

 そして椛はズーム倍率を下げ、視野を少し広くしたことによって青ざめた。

 男など、些細な問題であった。

 

 その隣、そこに・・・・・バケモノは居た。

 

 風見幽香。四季のフラワーマスターが何故ここに!椛は焦る。しかし、目が離せない。

 目を離しては死ぬ、そんな気がした。

 

「・・・・・ひっ!」

 

 幽香の目が確かに椛を捉えた。

 

「(ば、化け物め・・・・・!千里眼でやっと補足できる距離なのに・・・・・!!)」

 

 恐怖に青ざめ、2、3歩と後ろに退る椛。駄菓子菓子、彼女はバカ真面目。

 自身が殺される覚悟で─────吠えた。

 

「アオォォォォオオオオオン───!!!」

 

 遠吠えの意味は『警告』。強敵が現れたと山全体に伝えるための命懸けの叫び。

 

「あら?折菓子を持ってきたのに」

 

 真後ろから声をかけられる。それは妖怪の山では決して聞かない声だ。

 椛は青ざめた顔を更に青くする。まさか、真後ろから声がするはずがない。

 

「さっき見られている気がしたから、お花に聞いたらここに居るって言われたのよ。で、どうかしら?ほら、人里で買ってきたのだけれど・・・・・ねぇ、聞いているかしら?」

 

 幽香は人付き合いが苦手だ。現在、物凄い緊張しているが、頑張って声の震えを抑え、高圧的にならないように丁寧に言葉を選んで話している。

 しかし、緊張する余り、その莫大な妖力が溢れ出ていた。

 

 まるで全身が鷲掴みにされたような感覚に襲われ、椛は咄嗟に剣を抜く。

 

「?」

 

 これに動揺したのは幽香だ。あれ?私何か間違えたかしら・・・・・と顔に書いてある。

 しかし、首を傾げたその動作を椛は「そんな棒切れでどうするつもりなの?」と言う強者の余裕(・・・・・)と受け取った。

 

「ぅ、ぅあああ!!」

 

 恐怖を叫びでかき消して、椛は斬りかかった。しかし、幽香は動かない。首を傾げた姿勢は、まさに「首を狙って下さい」と言わんばかりだ。

 もちろん幽香は思考がショックによりショートしているだけで、首を差出している訳では無い。

 

「え?」

 

 漸く現実に戻った幽香だが、刃は目の前。流石の風見幽香も、この姿勢から防ぐことは出来ない。焦りが体を支配する前に──────彼は来る。

 

「ふぅん!!」

「ぎゃぅん!?」

 

 幽香に迫る刃は、下から掬い上げる様に放たれた一撃に弾かれる。弾かれた衝撃は凄まじく、椛は空中で四、五回回転しながら地面に突っ込んだ。

 

 幽香は自身を守ってくれた剣士様に目をハートにしながら胸の前で手を合わせる。

 

「弱者の盾となることこそ、私の使命である。大丈夫か幽香よ」

「はいっ!スパルタクス様ぁ!」

 

 なんだこいつら。と紫がみたら言うだろう。最も、紫が近くに隙間を開いた時点でマスパルタクスが飛んでくるが。

 

「ぐっ・・・・・ここは、通さない!!」

「ほう、闘士かっ。盾に剣!そして戦う意思を持つのならそれは闘士。いいぞ、いいぞぉはははは!!」

 

 スパルタクスのテンションが上がった。

 

 目の前には圧政者が雇った闘士が居る。圧政に与した戦士を打ち倒し、圧政者を打ち倒す。まさに叛逆。

 相手が用意した戦力全てを打ち倒して、初めて武力による叛逆は達成される。

 

「こい、獣の闘士よ。君の剣は、私に傷一つ付けられまい」

「なめるなァ!!」

 

 スパルタクスは自分の感想を伝えただけだが、それは椛を怒らせるのに十分なものだった。椛が立ち上がる。

 白狼天狗の犬走椛には、数少ないプライドがあった。

 

 それは剣の腕だ。

 

 武器を持つ、それは妖怪にとって弱者の証(・・・・)。己が怪力、己が異能、己が知能こそが妖怪たる現れ。人間を凌駕する怪物たる所以。超常の具現。

 

 故に、人が脅威から身を守るために使用する哀れな棒切れを使うなど、妖怪の恥晒しだ。

 

 だが、白狼天狗は武器を持つ。盾を持つ。

 

 なぜなら彼らは弱いから。個の力が劣るから。

 白狼天狗は人よりも強い。しかし他の妖怪と比べれば────。

 

 だからこそ、恥知らずだからこそ磨いた。

 

 研ぎ澄ました。

 

 恥の上塗り?それでいい。厚顔無恥で構わない。蔑まれようとすまし顔で居てやろう。

 

 彼らは戦士だ。

 

 白狼天狗は弱い。しかし、侮るなかれ。

 人類がそうであるように彼等もまた不屈であり、強かである。

 

「はあぁあ!!」

 

 妖力を練りこみ、弾幕を放ちながら接近する。

 椛の考えはこうだ。弾幕を放てば相手は避ける。もしくは防ぐ。その瞬間に後ろに回り込み、首を断つ。

 

「(時間など掛けない。生かしてやる道理もない!)」

 

 弾幕は寸分違わず狙った場所へ飛来する。しかし、椛の予想は尽く外れた。

 

 避け無い(・・・・)防がない(・・・・)

 

 スパルタクスがやった事はそれだけだ。いや、何もしなかった。しかし、それだけだと言うのに椛は後方に飛んだ。

 

 獣の本能が危険だと信号を送ったのだ。

 

「(危ない・・・・・!あのまま行けば抱きつかれていた)」

 

 スパルタクスの体を見て、抱きつかれた後の自分はどうなるか、など考えなくてもわかる。

 

 椛は孤を描く様に走り、スパルタクスに接近する。

 

「(足を断ち、機動力を削いであの長身を屈ませ、首を狙えば・・・・・!)」

 

 足を掬い上げるような一撃、躱されても続く二撃めが首を断つ。流れるような動作から繰り出される一連の攻撃は・・・・・・

 

「っ!」

 

 防がれる。否、作戦が意味をなさなかった。

 

 動かない。

 

 たったそれだけの行動が、椛の行動を止めさせる。カウンターを警戒して下がってしまうのだ。

 

「終わりかね?」

「なっ」

 

 もう終わりなのか、それが全てなのか、全力なのか。

 スパルタクスは問いかける。微笑み(スマイル)を決して絶やさず。

 

「き、貴様・・・・・・!」

 

 そして椛もようやく気がついた。この男は、スパルタクスはカウンターを狙っていたわけではなく、全てを受け止めるつもりだったのだと。

 

「ならば、叛逆の時だ。」

 

 笑みが───────変わる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「かはっ・・・こほっ・・・うぁ・・・」

 

 椛は死にかけていた。左肩から右太股までザックリと深い傷跡が残っている。

 生命の比重を精神に傾けた妖怪でなければとうに死んでいる傷だ。

 

 そう、妖怪だから生き延びた。

 

 スパルタクスは妖怪と言うものを理解出来ていない。

『この一撃なら相手は死んだ』そう思いこの場をあとにしたのだが、その想定は人間や使い魔(サーヴァント)を相手にしたものだ。

 

「なさけ、ない」

 

 椛は立ち上がる、無骨で分厚い大刀を杖に。

 

「誰か、いません、か!!」

 

 山の頂上は悲惨な有様だった。天狗たちの住まう住居は破壊され、辺り一面が抜け落ちた羽で埋め尽くされている。

 

「そんな、馬鹿な・・・!」

 

 引きずるようにして登ってきたのに、これではあんまりだ。

 大天狗はどうした、天魔はどうした。あの威張り散らした上司たちは何をしている。

 疑問が浮かび、そして解消されていく。

 

 ───目の前に、見るも無惨な死体があった。

 

 頭が弾け、体は縦に裂けている。

 

 大天狗だった。

 

「化け、ものめ・・・!!化物め!!!」

 

 椛は吠える。吠えて、吠えて、吼える。

 

「どこだ、どこですか、どこにいるんですか!!」

 

 怒りと不安と悲しみと、全てを綯い交ぜにしたような気持ちの悪い心境で、嫌味な烏天狗を探す。

 

 生存は絶望的だった。

 

「文さま、文さま!文さま!?」

 

 瓦礫を退かし、地面を掘り返し、全てを探した。

 余りにも高濃度な魔力が立ち込め、鼻が利かない。

 

「(そんな・・・もう、会えないの・・・?)」

 

 悲痛な叫びは声にならず、膝から崩れ落ちる。

 出血しすぎた。血が足りないのだ。いくら生命が精神に寄っていたとして、生命活動には肉体は必要不可欠。

 

 もう、椛の体は限界だった。

 

「あや、や。どう、やら、負け犬を見つけた様ですね」

 

 ふと声がした。だがきっと空耳だ。朦朧とする意識の中、最後の気力で振り返る。

 

「さぁ、天魔様の所に、逃げますよ───椛」

「文・・・・・・さま・・・・・・?」

 

 文に肩を抱かれ、椛は歩き出す。意識が途絶えようとするが鞭を打つ。

 上司に、無茶をさせられない。

 大好きな人に、迷惑は掛けたくない。

 

 真面目な少女は────目を閉じた。

 

 いつか、いつの日か、かの剣士を打ち倒すことを夢見て。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 










さり気なく逃げる烏天狗の鏡。射命丸さんは流石やでぇ。

次回!スカーレット卿の苦悩。(まだ書いてないので変わるかも)

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