大暴れは次回だったぜ!
平和!大事!圧政!大切!
スパルタクス
しかし、どうした事だろう。
スパルタクスは考える。もしや、圧政者がなにかしたのかと。
しかし、しかしだスパルタクスよ。気が付け、お前の隣に居るのは誰だ。恥ずかしそうに居心地悪そうにしているのは誰だ!
そう、風見幽香だ。
そりゃあ、みんな息を殺す。何せ
「む?」
そして、そんな現場に居合わせた、可哀想な男が1人。
(噂は本当だったのか!!ま、まさかスパルタクス・・・・・コテンパンにのされて人里に案内をさせられているのか!?)
霧雨である。
可哀想な霧雨。目を覚ましたら魔理沙の泣き声が聞こえ、何があったのかを尋ねれば、「スパルタクス様が居ない」と泣いているでは無いか。霧雨の心は深く傷付いた。
もうなんて言うか、1晩を共にした男に、娘が「様」とか付けちゃう辺が物凄い傷付いた。
それと同時にスパルタクスに怒りを抱き、探し歩いていたのだ。
そして、風見幽香がスパルタクスと共に人里に向かっていると聞いておっかなビックリやって来た。
そして今、スパルタクスに見つかったのである。
「おぉ!商人よ。何かあったのか、人々が見当たらないのだが」
スパルタクスが笑顔で聞いてくる。
(お隣のせいだよッッ!!お前が連れてきたからだろ!?)
霧雨は心の中で絶叫した。しかし、スパルタクスは他人のこころの中など読めない。
「ね、ねぇ。やっぱり帰った方がいいと思うのよ」
(はい是非帰ってください!!もう来ないでください!!今にも怖すぎてチビりそうですわぁ!!)
霧雨は天啓を得た気分だった。幽香は里を滅ぼしに来た訳では無いようだったからだ。
「ふむ。商人よ、怖いか」
「は、はい。怖いですはい(やめろバカ!変な事言ったら殺されるかもしれないだろ!?)」
「ふーむ・・・・・であれば出直そう」
スパルタクスは引き下がった。当然だ、弱者に恐怖を与えて何になると言うのか。
そして、スパルタクスは考えた。風見幽香は叛逆者である。その風見幽香を受け入れないと言うことは、圧政者に逆らうと殺される・・・・・などの現状が邪魔をしているのだと。
ならば、それを取り除く為に動かなければ叛逆は成らない。
「あやややや!天下の風見幽香様が、こんな人里に何の御用で?」
スパルタクスが笑顔でそう考えていると、上からそんな声が降り注ぐ。
3人が上を向くと、太陽による逆光まで計算に入れパンツが見えないように飛んでいる天狗の姿が。
手にはメモ帳と羽根ペン。ニマニマとした表情が、からかっている事を雄弁に物語る。
黒いショートヘアーをふよふよと風に揺らし、3人を見下ろしている。
幽香はそっと視線を逸らし、スパルタクスは目をカッと見開き圧政者かどうか見定める。
しかし、可哀想な霧雨は顔を真っ青にして慌てだした。
「て、天狗だ、天狗が出たぞぉおおおお!!」
霧雨の一言をきっかけに、里の至る所から「天狗が来た!」と叫び声が連鎖する。
これは天狗から子供を守る術である。
「子供を攫われるぞ!早く家の中に入るんだ!!」
幽香が来た時点で子供は外に出ていないが、そこは置いておこう。
「はぁ、人間もつまらないですねぇ。私がそんなことするわけ──────」
「死ね────圧政者よ!!」
「あやや!?」
はい。圧政者認定です。
飛んでいるし、攻撃する素振りも見せない。故に、この間話した例外に属す。
不意打ちまがいの攻撃だが、圧政者は強者、叛逆者は弱者。如何なる手を使ってでも互いに殺しあわねばならない。
突如の攻撃。しかも、人間とは思えないほどの速度で振るわれた一撃は、天狗の翼を切り落とす。
スパルタクスは博識だ、鳥は翼を落とされると飛べないのだ。
「うぐ・・・・・、な、何をしやがりますか人間様ぁ。わ、私がそんな、人攫いなんてするわけ無いでしょう?」
「私の名はスパルタクス。圧政者よ、今、コロス」
「うっわぁ、人の話しを聞かない顔をしています」
「か、カッコイイ・・・・・」
「えぇ・・・・・!?」
怒れる男、スパルタクス。
痛がる女、烏天狗。
惚気る女、風見幽香。
置いていかれる霧雨商人。
場は、混沌としていた。
「で、では、私はここでドロンしますね〜」
烏天狗は頭の後ろを掻きながら、あはは〜と場を後にしようとするが、スパルタクスはカバディ並の動きで回り込む。
しかし、この烏天狗は強者だった。
「は、ははぁ〜!!」
土下座である。
スパルタクスは固まった。土下座とは、この地域における最大の謝罪。それを圧政者がするという事は、地位を捨てるか、又は悔い改めるという事だと、スパルタクスは考えている。
「今です!!!」
しかし、懐から紅葉の葉っぱの様な扇を取り出した天狗は物凄い風圧と共に、空に飛んだ。
スパルタクスは博識だ、モモンガは風に乗って飛ぶ。つまりアレは鳥とモモンガのハイブリットだったのだ。
「─────させないわ」
しかし、烏天狗の不幸は続く。何せ、スパルタクスはあるものを手に入れていた。
それは───────遠距離攻撃手段だ。
風の力で空を飛ぶ天狗に、幽香は手を向ける。するとどうだろう。地面の至る所から花々が咲き誇り・・・・・ビームを放った。空を覆う程の無数のビームだ。
「あやっ!?」
残念ながら、翼が片方ない状態では満足な飛行は出来ない。風による加速は出来てもコントロール出来ないのであれば、乗用車にロケットブースターをくっつけるのと変わらない。つまるところ、避ける事は出来なかった。
「ぁぁぁぁあああ!!たたた、お助けおー!!」
手足をバタバタさせながら落ちていく天狗。そこに、幽香は傘を向けた。ジ・エンド。さようなら天狗さん、決して悪い人ではなかったよ。そんな気持ちが霧雨の中に芽生えてしまうほど、その次の光景は悲惨だった。
─────────────!!!
極太のビームが落下する天狗を飲み込んだ。
「おぉ!素晴らしいぞ幽香!!」
「え、あ、ふふ?そそうかしら?」
天狗の不運は続く。
あの一撃は手加減をされていた。死なない程度に、けれど動けない位の威力に調整されていたのだ。
風見幽香にそんな技術が・・・・・?と疑問に思った同志諸君。よく考えても見たまえ、一人暮らし、彼氏なし、コミュ障。・・・・・ここまで揃った時、不器用なんて追加されれば、もはや目を当てることは出来ない。
風見幽香は器用な子だ。人付き合いを除いて、と先に付いてしまうが。畑しかり、裁縫しかり、料理しかり。とても繊細に熟す、まさに妻にしたら幸せになれるランキング堂々の何位かには入れるだろう。
「ぅ、うぅ・・・・・やら、れた・・・・・!!」
がくり、とわざとらしく倒れる天狗。彼女は今この瞬間でも生き残る術を探し、必死にあがいている。
「ふむ・・・・・圧政者はどこにいる?」
スパルタクスが烏天狗の頭をつかみ、持ち上げて問い質す。凄まじい光景だ。妖怪が人間に頭掴まれて脅迫されてるのだから。
おい、嬢ちゃん、情報持ってんだろ?とスパルタクスは烏天狗を振り回す。
「あやややややや!?分かりました分かりました!?言いますからァ!!!」
振り回されながら、烏天狗は考えた。
圧政者なんか知るか。むしろ適当に強いヤツの名前を言って、倒してもらおうこの人間。と。
実に素晴らしい判断だが、選んだ相手が悪かった。
「博麗!博麗の巫女ですぅ!」
「否!」
「あがっ!?」
地面にドーン。
後頭部から地面に叩きつけられた烏天狗は、目をグラグラと泳がせ、気絶する寸前だ。
「・・・・・ねぇ、天狗さん。あなたのボスは妖怪の山にいるのよね?」
幽香がスパルタクスの怪力にメロメロになりながら、言葉の足りないスパルタクスの援護に回る。
ちなみに幽香は、スパルタクスが言う圧政者とは、幻想郷における大勢力の頭だと認識しており、それらを潰すのは幻想郷を花畑で染め上げるため・・・・・2人の愛の巣を完成させるためだと思っている。
「・・・・・・・・・・ぁ、・・・・・は、い・・・・・」
最早ふざける事などできなかった。顔を抑え付ける岩のような手、その指の隙間から見えるスパルタクスの顔は・・・・・笑顔であった。
その笑顔のなんと恐ろしいことか。全身が恐怖に支配され、失禁をしてしまう。
幽香が、そっと目を逸らしつつ、能力で花を作り出して隠してあげる。幽香は乙女。目のまえで女の子が粗相をしたらフォローしてあげるのだ。
さらに言えば、花達は養分を貰えるので一石二鳥・・・・・なのか?
「ふむ・・・・・妖怪の山か。それは何処にある」
スパルタクスは笑顔で天狗に問う。天狗は震える手で、妖怪の山を指さす。ここで、スパルタクス1人だったなら他の山を指さしただろう。だが、山の位置を知っている幽香がいる以上、嘘は無駄だと思われた。
「あ、そっちだったの?私行ったことないからわからなかったわ。・・・・・嘘じゃないわよね?」
知らなかったんかい!天狗が内心叫び、山の皆に謝罪する。
「よし、では行くとしよう。圧政者よ、貴様は逝け」
「あなた、その天狗は道案内にした方がいいんじゃないかしら?」
「む、そうであるな。では、行くぞ」
スパルタクスが剣を振り上げると同時に、幽香の何気ないフォロー。決して目の前で妖怪が死ぬのが嫌だった、なんて理由ではなく、言葉にした通りの理由しか無い。
「ぁ、やぁ・・・・・これ、は、しかられ、そうです・・・・・ね」
スパルタクス担がれた天狗が、ボロボロになりながらそう言った。
さて、叱ってくれる上司は残るのだろうか。
あややがボロボロですが、生きているので問題はありません。
あやや・・・・・一体何命丸なんだ・・・・・!