東方叛逆郷─スパルタクス幻想入り─   作:シフシフ

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テスト期間で執筆を止めていました。
テストは圧政。








人里へ

 全滅。瞬殺。大逆転。

 

「ぁ、・・・・・あぁ・・・・・」

「魔理沙!魔理沙怪我はないか!?」

 

 目の前の光景が信じられなかった。

 

 幼心でも分かるほどの絶望的な状況だった。

 

 だが、それが今はどうか。目の前には無傷の男が空を仰いで戦闘の余韻に浸っているだけである。

 

「これが・・・・・・・・・・・・・・・魔法・・・・・・・・・・」

 

 少女、霧雨魔理沙は憧れた。

 

 どんな傷も瞬く間に直してしまう魔法。

 どんな不利な状況でも覆してしまう魔法。

 どんな相手でも一撃で消し飛ばしてしまう魔法。

 

 凄い。凄い!凄い!!

 

 そんな年相応な幼稚な感想しか出てこないが、それだけその想いは強い。

 父親が自分を抱きしめている、だが、それよりも目の前の男が気になった。

 

 その背中が気になった。

 

 

 

 ───飛び散る火花。魔法の余波に服が不安定に揺れるなか、その背中は一切、揺れ動かない。

 両手を広げ、自分の壁となってくれる。

 

 でも、既にその時は絶望に暮れていた。あの状況をひっくり返すなど不可能だと思われたから。

 

 だが、だからこそ。その反動は凄まじい。

 

 死を直面した絶望からの大逆転。

 

 まるで何事も無かったかのように、敵は消え、無傷のスパルタクスが残った。

 当然、魔理沙も無傷だ。

 

 心が跳ねた。その背に憧れた。

 

 スパルタクスが振り返る。その顔には笑顔が浮かんでいた。

 思い返す、あの言葉を。

 

 ───はははは!少女よ!笑いたまえ!!この加虐に!この劣勢に!負けていながら笑え!ははははーははは!!──

 

 あの時魔理沙は理解出来なかった。けど、今は理解できる。

 例え負けていても負けてはいけない。

 心だけは、意志だけは決して負けないのだと。

 

「大丈夫かね?」

「は、ははははいぃ!」

 

 なんて優しい笑顔だろう。なんて、頼もしい笑顔なんだろう。

 顔が熱くなる。胸がいっぱいになる。魔理沙はこの感情を理解出来なかった。だが、稚拙なその言葉にするとしたら「好き」なのだろう。

 恋愛感情なのか、違うのかは分からない。

 

「そうか、ならば良かった。」

 

 スパルタクスが優しく魔理沙の頭を撫でる。

 心臓がバクバクと音を立てる。そして視界が・・・・・暗転した。

 

「おおおおい!?スパルタクスやめてくれ!魔理沙が怖がってるだろぉ!」

 

 霧雨が慌てて魔理沙を介抱する。

 霧雨は涙目で、震える手で魔理沙の頬や頭を撫でている。子供が奇跡的に助かったのだ。心の底から歓喜に震えていた。

 

 遠くからスパルタクスが見えた時、その後で魔理沙が縮こまっていた時。どれだけ驚いただろう。

 二人の前に一瞬では数えられないほどの妖怪が居た時は心臓が止まりかけた程だ。

 

「あぁ、いや・・・・・ありがとうございます!」

 

 霧雨が魔理沙を大事そうに抱えながら、頭を下げる。

 それに対しスパルタクスはゆっくりと頷いた。

 

「って・・・・・!スパルタクス!!アンタ、剣は?」

「剣は無い、私の一撃と共に消えた。だが安心するといい、我が愛はどれほどの名剣よりも鋭い!!」

「あ、あれ1番高いやつなのに・・・・・!・・・・・まぁ、魔理沙が助かったし・・・・・良いか!」

 

 どうやら金銭的な損害は大きい様で。

 しかしこうして魔理沙は助かり、誰も死ぬことは無かった。

 結果だけを見るならば、人を襲った妖怪が打ち破られ、商人が損をしただけである。

 スパルタクスからすれば理想に近しい結果であったと言える。

 

「スパルタクス殿」

 

 特徴的な髪を持つ女、慧音がスパルタクスに話しかけた。実は道中でスパルタクスの詳細を聞き、ある程度は知っている。・・・・・とは言え、先の一撃だ。正直な所警戒心MAXである。

 

「おぉ、獣の匂いがする。ふむ・・・・・場はコロッセオ、観客もいる・・・・・死闘であるか」

「!!」

 

 スパルタクスは瞬時に慧音が半獣である事を見抜いた。これは慧音が隠そうとしていない事もあるが、スパルタクス曰く匂いがするらしい。

 慧音が目を見開いて隙を晒すが、スパルタクスは攻撃しない。

 

 そうこの男は第一に、自分からの攻撃はしない。もちろん例外はあるが。

 

 今現在の慧音は、この例外に入っている。

 

 敵意があり、攻撃する意思のある者が敵の場合、スパルタクスは相手の攻撃を受け止める。そして相手の全力を受けきった上で攻勢にでるのだ。

 しかし、敵でありながら、攻撃する意思の無い者の場合は相手が交戦の意思を見せるかどうか少し様子を見て、それでも動かなければ自分から攻撃を仕掛ける。

 

 残念な事に敵を見逃すとかそういった甘い考えは無い。

 

「ちょちょちょ!待て待てまってくれスパルタクス!!慧音さんは人間を守るために戦ってくれる人なんだよ!」

「なんと、同士であったか!!飼い慣らされた獣とあれば、戦う意味もなし。共に弱者を守るとしよう」

 

 スパルタクスは笑顔でそう言う。

 スパルタクスには敵を見逃すという選択肢は無い。けれども敵じゃないなら当然、見逃すのだ。

 

「あ、ありがとう霧雨殿。・・・・・スパルタクス殿は・・・・・その、何処か可笑しいのでは?(小声)」

「多分頭です。俺が出会った時もこうでしたし(小声)」

「私は正気である(ニッコリ)」

 

 その暖かな笑顔で、二人の背筋は凍った。

 ─────あぁ、聞こえてたんやなって。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 幻想郷のどこかにある屋敷。

 そこでは──────

 なんか凄いことになっていた。

 

「どどど、どうすればいいのかしら!」

 

 肩からグラディウスを生やした紫は、9本の尻尾と身体の6割・・・・・合計したら8割位を失った藍を看病していた。

 

 いや・・・・・看病・・・・・なのだろうか?

 

 包帯でぐるぐる巻になった藍がボテっと床に落ちている。どうしたらいいとか、そういう問題ではなくとりあえずは清潔な布団に寝かせるなどの処置が必要だろう。

 

「・・・・・考えるのよ紫・・・・・!」

 

 紫は頭が良い。

 

 そう、頭が良いのだ。

 

 だが、パニックになるとヘナチョコゆかりんに脳みそまで変貌してしまうため、今は何とも言えない。

 

 ───紫様・・・・・紫様────

 

「はっ!!この声は、藍!」

 

 ───ちょっと天の声風に話しかけてます・・・・・──

 

 おおっと?どういう事だろう。真面目に書こうとすればするほど、彼女らは奇天烈になっていく。

 

 ──傷口に直接包帯は痛いです───

 

「あっ・・・・・!ご、ごめんなさいね藍。いま取るわ」

 

 既に血は乾き始めている箇所が多く、取ろうとすればビリッと行くだろう。あれはとても痛い。

 

「あ」

 

 ──あっ、て何です!?───

 

「いや・・・・・ちょっと・・・・・何か取れた」

 

 ──これ以上取れたんですか!?何処が!?──

 

「私の腕・・・・・」

 

 紫は確信した。治療が出来ぬぇ。

 藍は確信した。此奴使えぬぇ。

 

 なんという事か、なんて言うことだろうか。これこそが叛逆。真面目に書こうとする作者への叛逆なのだろう。おのれスパルタクス。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 人里。

 慧音が守る里だ。人口は5000人にも届かないが、これでも幻想郷と言う環境では相当に大きい。

 夕暮れ時、そんな場所に1人の男がのっしのっしと歩いてきた。その後ろに列なるようにして慧音や自警団が並んでいる。

 

 里の者達は皆、「なんだなんだ?」と不安やら好奇心やらを覗かせながらそれを見ていた。

 

 もちろん。分かるとは思うが、先頭の男はスパルタクスである。

 人々からの好奇の視線に微笑みで返す。人々はそんなスパルタクスの肩の上に、魔理沙がちょこんと乗っているのを確認し、ほっと安堵のため息を付いた。

 

 魔理沙と言う少女は人里では割りと有名人なのだ。問題を起こしたわけでは無い。単に霧雨家は家柄も良く、家も大きく、そして商品は安く品質は良い。里の会議でも重鎮として顔を並べる程だ。

 つまるところ、「いい所のお嬢様」なのである。

 

 そんな彼女が攫われたとあって、人々は驚き、家や戸に鍵をかけていた。

 いやはやしかし、どうやらあの筋骨隆々の戦士が助けたのだとひと目でわかる。

 

 凄いマッスルだった。

 血管は浮き上がり、腹筋はバキバキ。いや、全身はムキムキ。そう、マッスルだった。

 

 あれだけのマッスルならば魔理沙を助ける事が出来たと信じられる。

 人は先入観で物事を決める。スパルタクスはマッスルでとても強そうだと人々は考え、更にはそのスマイルがスパルタクスを心優しいお人だと認識させた。

 

「ははははは」

「あ、あは、はは・・・・・お、下ろしてぇ」

 

 スパルタクスは御満悦である。魔理沙はそんなスパルタクスの上で恥ずかしさに身を悶えさせていた。

 後で絶対に弟子入りしてやります・・・・・!赤面し、心に決めながら。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 紅魔館にて、男、スカーレットは頭を抱えていた。

 なにせ・・・・・誰も帰ってこないのだ。

 送り出した吸血鬼100人が全員。

 

 信じて送り出した吸血鬼たちが・・・・・。

 

 と言った状況である。

 

「あの、お、お父様?」

「黙れっ!!」

「うぐっ!」

 

 そう、とてもストレスが溜まっていた。

 最愛の娘・・・・・なのかは置いておくとして、娘を殴り飛ばす程には。

 娘は水色の髪を持つ吸血鬼だった。まだまだ外見的には幼く、弱々しく見える。

 

「貴様の、能力は、どうしたッ!!」

「ごめ、なさ・・・・・!や、めて・・・・・!」

 

 吹き飛んだ娘に股がり、何度も何度も殴りつける。

 己の鬱憤を晴らすためだけに。

 

 

 娘は強い力を持っていた。名を『運命を操る程度の能力』。

 その能力を使い、最も八雲紫にとって致命傷となる時期を狙っての行動だった。

 しかし、スカーレットの思惑は外れた。運命を操る程度の能力は万能ではない。

 

 イレギュラー・・・・・スパルタクスの介入までを見てとることは出来なかったのだ。スカーレットはそう判断し、娘を殴る。

 

 やがて動かなくなった娘は赤毛のメイドに回収させて、再び物事を考える時間となった。

 しかし、スカーレットは何も情報を得ていない。

 吸血鬼はみなスパルタクスの一撃で消滅し、情報を生きて伝えるものは居なかった。

 

「・・・・・仕方あるまい」

 

 彼は自分で動くことにした。

 本来ならば配下の吸血鬼が妖怪を捕まえるのだが、今回はそれら配下は居ない。故に自分で捕まえるのだ。

 雑用を自分でやる・・・・・屈辱だが、しかしやらねばならない。

 

「出る。共をしろ美鈴」

「はっ」

 

 二つの人影が紅魔館を出発した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 霧雨家に戻ってきたスパルタクス。その肩には未だに魔理沙が乗っていて、その父、霧雨も乗っている。

 

 なぜスパルタクスがここに来たのかと言うと、家が無いなら泊まって行ってくれ!と霧雨が言ったからだ。魔理沙も顔を輝かせながら、うんうん!と頷いていた。

 

 スパルタクスは雨風を防げなくても喜べる男だが、そう言われて嫌な気持ちになる事はない。むしろ嬉しいとすら思う。

 

「ちょちょ!待ってくれスパルタクス!!ぶつかるから!!降ろしてくれ!」

「ん?おお!そうであったな。すまない」

 

 スパルタクスは謝れる男だ。

 なので昼間の様な失敗はしない。スパルタクスは失敗から学び前に進む男なのだ。

 2人を降ろし、2人が家の中に入ったのを確認してから、スパルタクスは家に入・・・・・ろうとして頭をぶつけ、少し屈んでから入った。

 

「・・・・・スパルタクス」

「なんだね、商人よ」

「ありがとう。魔理沙を助けてくれて。ほら、魔理沙も礼をしなさい」

「ありがとうございます!」

 

 霧雨はスパルタクスに頭を下げた。魔理沙も一緒だ。

 スパルタクスは知識としてそれを知っている。

 日本人は礼儀を示す時に頭を下げる。スパルタクスは微笑む。助けた者達から感謝を送られて嫌な訳が無いからだ。

 

「・・・・・部屋は、そこの空き部屋を使ってくれ。わからない事があれば言ってくれ。魔理沙、スパルタクスを手伝ってあげて欲しい」

「お、お布団ひきます!」

 

 魔理沙が部屋へと消えていった。

 

 そして何事もなく、スパルタクスの1日は終わった。

 そう、1日目だ。

 朝、八雲紫に出会い、妖怪と遭遇。紫は逃がしたが妖怪は倒した。その後、霧雨と出会い人里へ。

 昼間、人里から飛び出して森へ。八雲藍と出会い戦闘。激闘の末、スパルタクスが勝利した。博麗の巫女と出会い、話をした。

 夕方、子供を救うために吸血鬼の群れと戦い、勝利した。

 

 濃い、1日であった。

 

 なお、スパルタクスは眠る時も微笑みを絶やさず、魔理沙がこっそりと布団に入り込んでも起きなかった。

 早朝に、それを発見した霧雨が青い顔をして倒れるのは語らなくても良いだろう。









なんだか、書ききれていない感が出てしまった。
頑張らなくては。

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