かっこよく書けてたらいいなぁ。
道中。男は終始笑顔であった。
その隣を歩く商人は名を霧雨と言う。
しかし、なんというか・・・・・凸凹である。
その男は221cmもの巨体だ。霧雨は150cmほど。
「えっと、ここが俺の家、と言うか店だ。アンタ、名前は?」
霧雨は自分の家であり、店でもある霧雨店にやって来ると、男に名前を聞く事にした。そう問いながらも医薬品を探しておく。
「私の名か?私はスパルタクス、叛逆者である」
「叛逆者?」
おいおい、何言ってんだか。そんな態度で霧雨はスパルタクスの青白い皮膚を布で拭う。
「・・・・・は?」
しかし、どうした事か。傷口を綺麗にしたあと薬を塗りこもうと思っていたと言うのに。
スパルタクスの体には古傷しか無い。
「はははは、私の体はあの程度の攻撃では傷つかんよ」
「いや傷付いてたからな!?なんでだ?!やっぱり妖怪なのか!」
「妖怪?それは圧政者の事か?であれば違うな、私は人間、叛逆者である」
意思の疎通は出来ているようだ。ならやっぱり妖怪じゃないのかも。霧雨はそうおもう。それに、ここまでの道のりで襲われなかったのもその証明だろうと。
「はぁ・・・・・良くわからんが・・・・・とりあえず慧音先生のところに向かうぞ」
慧音先生とは、この人里で人々に物事を教える教師の役割を持つ半妖である。
「む?はははははは!そうか、そっちか!今行くぞ圧政者よ!!」
「うぇ!?ちょ、スパルタクス待っ・・・・・行っちまった」
しかしどうした事か、スパルタクスは急に立ち上がり、きちんと扉を使って外に飛び出して行った。
「・・・・・身長・・・・・考えてくれよスパルタクス・・・・・」
きちんと扉は使ったが・・・・・ドアの上枠周辺が吹き飛んでいた。
身長までは考慮していなかったようだ。
大妖怪、八雲紫は怯えていた。
スキマを開けばまた
「・・・・・紫様、早く行ってください」
そんなヘナチョコゆかりんに、冷たい声音で催促を促すのは八雲藍。ヘナチョコなご主人様に使えるエリートフォックスである。
「藍、貴女は知らないから良いけどね、見てみなさいよあの笑顔!ニコッじゃないのよ!ニタ〜って感じ!幽香よりも怖いんだから!」
「知りません。今日は博麗の巫女との会議でしょう?」
「それはそうだけど・・・・・怖いもの」
「はぁ・・・・・では、私が先にスキマを使って確認しますから、後から来てくださいね?」
「う、うん!出来るだけ大物オーラを出しつつ出ていくわっ!」
「(小物だなぁという目)」
よし、頑張るわっ!と両手を胸の前で組む紫。
そんな紫にため息をこぼしつつ、藍はスキマを開く。
しかし、どうした事か、前が見えない。
スキマは正常に人気の無い場所に開けたはずなのだが・・・・・?
「あの、紫様、スキマが少しおかしいみたいで・・・・・紫様?はぁ・・・・・あの人は・・・・・」
こんな時は能力の大元、紫を頼ろうと振り向けば、そこには紫はいない。
騙されたか・・・・・と再びため息を付くと・・・・・体がグイッと引っ張られる。
「うわっ!?」
ぐわんと動く視界が、青空を捉えた。
どうやらスキマの外らしいが・・・・・?
「圧政者かね?」
「は?」
藍を出迎えたのはとってもいい笑顔をした御仁。そう、スパルタクスである。どうやったのか不明だが、スキマが開くのを予見して予めスタンバっていた様だ。
「・・・・・(じっと微笑みながら見つめている。)」
「ぇ、ぃゃ、その、そんなに、見つめられると困ると言うか・・・・・恥ずかしいと言うか」
「(更に笑顔で凝視している。)」
「や、止めてくれ!恥ずかしいだろ!」
笑顔で凝視するスパルタクスと、見つめられて赤面していく藍。ちなみにスパルタクスは殺意を出していない。なぜなら・・・・・
「なるほど、奴隷であったか」
「ぇ?」
「君からは
どうやらスパルタクスは八雲紫の式神である藍を、縛られている者、奴隷として認識したらしい。
先ほど攻撃しなかったことも関係しているのだろうが、これは珍しいケースと言える。
「わ、私は紫様の式神で・・・・・」
「八雲紫、圧政者の名か!それに式神、やはり同士であったか」
この男、スパルタクスは基本的に話を聞かない。いや、聞いているのだが、伝わっていない。
「いや、少し話を聞k」
「私の名はスパルタクス。君を救おう。」
青白い顔で、しかしその微笑みには慈愛が込められている。トゥンク、と藍の心が高なった。
「ははは、共に圧政者を討ち滅ぼそうではないかっ!」
もちろん、恋愛的な意味ではない。この状況が如何に危険か、今更に理解したのだ。
なにせ、ここは幻想郷。紫を殺せばこの結界は無くなり、結果として幻想郷の妖怪は皆滅ぶ。
「私には無理だな、スパルタクス殿」
「む、何故だね」
排除しなくてはならなかった。この優しげな微笑みを浮かべる男性を。藍は妖力を漲らせる。紫からの命令が無い以上、式として全力は出せないが、それでも藍は大妖怪だ。
人間など即座に殺せるだろう。
「それは、私も圧政者だからさ」
過去、自らがやって来たことを思い浮かべる。国を傾ける傾国の美女。それが八雲藍。
展開する九尾、藍の種族は妖狐。姿を変えることなど容易だった。
一瞬、なぜ人間相手にこれだけの警戒をしているのか、不思議に思った藍だったが・・・・・次の瞬間、それは正しいことだと理解する。
「ほぅ、猛獣であったか。はははは、コロシアムでは仕方の無い!騙し討ちも許そう!さぁ来るがいい!その全てを受け止めてやろう!」
「ふっ、男らしいじゃないか。・・・・・行くぞ!!」
膨れ上がる殺意。明らかに、人の放つソレでは無い。
一方的な激闘が・・・・・始まる。
「あわわわわわ・・・・・!」
大妖怪。八雲紫は慌てていた。誰が見ても慌てていた。
八雲家の中を行ったりきたり、炬燵に入ったと思えば出てきたりと、忙しない。
「ら、らららら、藍が殺されたらどうしよう・・・・・!私、最近サボってばかりだったから各勢力の手紙のやり取りなんてわからないわよ!」
この体たらくである。
「い、いや、平気よ、平気。藍だもの、私のいっちばん信用している式神ですもの、負ける訳ないわ!」
フラグを立てるのである。
閃光、後の爆風と爆音。畳み掛けるように隙間なく放たれた継続的な絨毯爆撃。
「ははははははははははははははははははははははははははははははは!!!!!!」
爆笑。肺の空気が無くなるまで笑う。
大妖怪、九尾の放つ全力の妖力弾をその身一つで受け止める。
既に全身は血だらけで、足は無くなっていた。
だが、それでもなお───
「はははははは!何という加虐!何という圧政!!何たる強さの猛獣か!!後に待つ凱歌は高々と叫ぶとしよう!!」
───笑っている。
幻想郷のほぼ全ての妖怪が青ざめ、冷や汗をかくだろう圧倒的なまでの攻撃を受けて。
回避などしない。防御などしない。
全てを受け止める。
超えられない圧政を受け続け、耐え続け、超えていく。
「くっ・・・・・!なぜ倒れない!?本当に人間かコイツは!」
藍は冷や汗が止まらなかった。これだけの攻撃、過去に数度と無い攻撃だ。
これを耐える人間などいるはずが無い。
攻めているのに、押されている。
既にスパルタクスの四肢は抉れ、もがれ、転げ落ちているというのに、その腹には風穴が開いているというのに。なぜ、こうも冷や汗が止まらないのか。
「ここで、押し切る!!死ねぇ!!」
式として制限されている以上、全力は出せない。つまり、妖力の限界が近かった。
両手を掲げ、巨大な妖力弾を作り出す。
中級妖怪なら一撃で即死、大妖怪ですら容易に負傷する威力だ。紛れもない今の藍の最大火力。
「おぉ・・・・・!何という────────」
小さな言葉を残して、スパルタクスが光に飲み込まれた。
着弾。
そして───
・・・・・爆発の余波に髪を揺らしながら、藍は爆心地を眺める。
自身の妖力をほとんど使ってやった。
「ふぅ・・・・・」
汗を拭い、背を向ける。紫に報告するのだ。
そうしたらきっと、あのぐうたらご主人は泣き喚きながら私に抱きついてくるだろう。と微笑ましい想像に浸る。
あぁ、だがしかし。
残念なことにそれは出来ない。
「────叛逆の時、来たれり。」
瞬間、悪寒が九つの尻尾を逆撫でにする。
振り向けばそこには────血に濡れた
「馬鹿なッ!?」
信じられない。あれだけやってなぜ・・・・・!
──首元を
信じられない。四肢は全て欠損したはず。
──驚いた目で見れば、短剣が振りかぶられている。
不味い。と、大妖怪が恐怖した。この短剣は・・・・・自分を殺せると。
「うぅああああ!!」
意地も、面目も投げ捨てる。今この瞬間は、この瞬間だけは。自分の主人に会うまでは、何が何でも生きねばならなかった。
爪を立ててスパルタクスの目に突き立てた。ぶにゅり、と眼球は容易く潰れ───そのグラディウスは叩きつけられる。
「──────うぐぁっ!」
右肩から、左の腰まで。
見事に一刀両断。
単純な筋力だけで叩き切る。
「はははははは!!無駄だ、死ぬがよい」
振りかぶった止めの一撃。躊躇など、1ミリたりとも存在しない。あるのはただ一つ。
──圧政者殺すべし、慈悲はない──
「あああああああ!」
藍が悲鳴を上げる。振り下ろされるグラディウス。
今ここに、1人の圧政者が滅ぶと確信したスパルタクス。
しかし
「藍っ!!」
空間が歪むようなそんな現象とともに、完璧なタイミングで開かれるスキマ。
スパルタクスの攻撃は空を斬り、藍は素早くスキマに回収されてしまう。
しかし、それで諦めるスパルタクスではない。閉じるまでの一瞬、最も圧政者に届き得るだろう行動に出た。それは────
投擲である。
「ぬんっ!!」
短剣グラディウスと言っても、その実重厚な刃の頑丈さ、さらには重みを武器とする。そしてソレを、この男、スパルタクスの筋力で放り投げたなら・・・・・凄まじい威力と化すだろう。
「ぇ?」
閉じるギリギリで、グラディウスはスキマを通り抜ける。驚愕をその顔に貼り付けた
「・・・・・」
しばらく、静けさがその場に戻った。あまりの音と妖力に、妖怪も人もこの場にはしばらく近付かないだろう。
スパルタクスは今も尚、笑っている。
おのれの得物を失い、宿敵を取り逃しても、笑っている。
───否。
得物とは己の心であり、取り逃がしたのではなく、乗り越えたのだ。
一本とったのだ。
見たか、あの取り乱した姿を。
見たか、あの圧政者として有るまじき姿を。
見たか、あの驚いた顔を。
「人とは、平等で無くてはならない。それがわからぬ圧政者達に、今1度我が愛をもって教えねばなるまい」
見たか、あの「人の子としての姿を」。
心をもつならば、皆同じであるはずなのだ。
喜怒哀楽を持ち、笑い、泣き、怒り、喜ぶ。それが当然であり、当たり前であるはずなのだ。
「故に。弱者を虐げ弱者から奪う者達を、私は許さない」
圧政者とは、同じ人であるはずの者達から喜、楽を奪い取る。笑いと喜びを奪い去る。圧政を敷き、人々を苦しめる。
故に、故にだ。
その全てに叛逆しよう。
圧政を笑おう。どれだけ虐げられても、どれだけ奪われても、どれだけ縛られても・・・・・笑おう。
それが────
「はははははは!!はーはははははははははははは!!」
スパルタクスは、笑い続ける。