不可能な事でもない。
もとよりこの身は、
ただそれだけに特化した筋肉─────!
いくぞ圧政者─────加虐の貯蔵は十分か
俺が作るのは、無限の筋肉を内包した世界!
その名は────『
勘違いしていたっ!
俺の筋肉ってのは剣を振る専用じゃない、
自分の心を形にすることだったんだ!
─────
書いてて思った、骨子とは。
醜い打撃音が鳴り響く。肉を打つ衝撃が僅かばかり残された木々を揺らす。
根元を吹き飛ばされていた木はそれだけでミシミシと音を立てて倒れた。
「はぁ、はぁ・・・・・・どうでしょう?」
黒と白、3対の翼を広げる黒い長髪。肩を押さえながら荒い息をするのは天魔と呼ばれる天狗の長だ。自分用の和服に似た服は既にボロボロで、女である天魔の艶やかな肢体が見え隠れしている。
そんな天魔が不安げな表情で見るのは瓦礫の山だ。そこに殴りあっていた片割れが埋まっている。
倒したか、倒していないか。それだけが天魔の心配事だ。
「っ!?」
天魔は目を見開く。そして瓦礫ではなく、足元を見た。僅かに感じる振動。盛り上がる土から見える、白い指先。
「下ッ!?」
「ンァッ!!」
勢いよく地面より飛び出して天魔にアッパーを食らわせた幽香。その程度では終わらせない。散々手こずらされたのだ。これで決める。
「ぐっ!蔦だと!?」
吹き飛ぶ天魔の手足に植物の蔦が絡みつく。3対の翼を羽ばたかせてバランスを取ろうとするが、蔦が急速に縮まり始める。当然、幽香の方へ。
「終わりよ、圧政者」
腰だめに構えた拳を、勢いを付けて解き放つ。
加速する天魔に、全力の拳をぶつける。破壊力は数倍に跳ね上がる。
「うがはっっ・・・・・・!」
人体・・・・・・否、生物から鳴ってはイケナイ音が鳴り響き、天魔の体がくの字に折れる。そして────そのまま吹き飛んだ。
「うぐ、ぎぅっ?!かはっ!!」
バキバキベキベキと、残された木々を破壊しながらどこまでも飛んでいく。数十本をへし折った辺りで木に叩きつけられる。
「ぅ・・・・・・ぅうあ!まだ、だ!私はまだ負けてな・・・・・・っ!?」
「終わりと、言ったのよ!!」
凄まじい速度で吹き飛んでいた天魔に、幽香は既に追い付いていた。吠えた天魔に全力の蹴り上げが炸裂する。意識と体を真上に吹き飛ばされ、天魔が浮く。
幽香が血だらけの顔を俯かせ、手を上に掲げる。
「はぁ────────来なさい」
花びらがヒラヒラと舞い。幽香の手の中に1本の日傘が現れる。ピンクの傘で、フリルが付いた可愛らしいものだ。
その先端が真上───天魔に向けられる。妖力が集束し始め、傘の尖端に小さな球体が発生する。そこに無尽蔵と言えるだけの妖力を注ぎ込む。
致死量の一撃。
「さようなら」
光の柱が空に伸びる。光は気絶した天魔を飲み込み───そして消えた。
「・・・・・・はぁ、もぅ、スパルタクスはどこに吹き飛ばされちゃったのよぉ・・・・・・うぅ、痛い。あの妖怪強すぎるわよっ」
幽香は辺りに誰もいない事を確認し、オロオロとし始める。そもそもが天魔がスパルタクスを吹き飛ばしたのがいけないのよ!と幽香が傷を治すべく薬草を発生させる。
「ほんと、どこに飛んでいったのかしら。」
と、幽香がため息をついていると、ドォオオン!と幽香の隣りに天魔が落ちてくる。3対あった翼の殆どが燃え尽きたように根元しか無かった。
「(びっ、ビックリしたっ!!)えっと、大丈夫かしら?・・・・・・って、圧政者なんだから心配しない方がいいのかも?・・・・・・でも怪我させてしまったし、治療はしてあげた方が良いわよね?あーでもスパルタクスに怒られちゃうかしら、敵を治療なんて・・・・・・」
そう言いつつ幽香の手は止まらない。薬草を妖力によって手の内で素早く軟膏状に加工し、翼や火傷の酷い場所に塗っていく。骨折などはしていないとは思うが、していたら幽香には治す手段が今は無い。
「ぅっ・・・・・・うぅ・・・・・・っ?!」
天魔が目を覚ます。翼が痛みに耐えるように動く。
「あぁもう動かないで。治せないでしょう?」
「な、なぜです?私達は敵のはずでは?」
天魔が最もな質問をする。しかし、幽香にはその質問への返答が用意してあった。
「・・・・・・簡単でしょう?貴方を倒すのは私では無いのよ、私は叛逆者では無いわ。その、つ、妻になれたら良いななんて思ってたりするだけの女よ。本当よ?本当なんだからね?あの人が嫌だって言ったら止めるし、ちゃんと諦めるわ。うん」
「いや、そこまでは聞いてない・・・・・・」
若干逸れたが、それだけだ。スパルタクスが圧政者の首を断つ。私はそれをサポートするだけ、そう決めた。と幽香はその様を思い浮かべてニヤける。
そして嫌な方向も考えて頭を抱えた。
「うー、でももし嫌だって言われたら私は平気なのかしら!多分落ち込んでしまうわね。いいえ、落ち込むわ。うん。どうしよう、悲しい時には新しいお花でも植えて寂しさを紛らわせた方がいいわよね?何がいいと思う?」
「私に聞かれても・・・・・・」
惚気とは総じて他人に迷惑をかけるものだ。基本的に「どうすればいいかな!?」「幸せすぎて死にそう!助けて!」みたいな理不尽な場合が多い。
「ああ!どうしましょう向日葵の花言葉思い出しちゃったわ!重い女だとか思われないかしらっ!!いやいやいや、大丈夫よ幽香、まだ平気のはず!!そうよ、これからよね。これから少しずつアピールをして行って・・・・・・ふふふ、最終的には結婚なんかしちゃったりして・・・・・・えへへ、うふふ、ふへへ・・・・・・!!」
幽香がヘッタクソな将来設計もとい妄想を繰り広げ、未来に思いを馳せる。
「こ、これが風見幽香?こんなのに私は負けた!?」
天満はそれこそ哀れな程にプライドその他諸々がへし折れている。青ざめた顔は青筋すら浮かぶ元気が無いようで、出会った当初の余裕と覇気は無かった。
「んー、どうしましょう。探しに行った方がいいのかしら───っ!?『家で夫の帰りを待つ妻』!そうね、私は家で待っていましょうかっ。そうだ、お洋服を塗ってあげて──あ、あとご飯も、お風呂も、えっと、お洗濯?でもお洋服来てないのよね?洗濯は要らないか」
「私は・・・・・・私達は・・・・・・こんなのに?」
理想の妻とは何か、幽香は考える。家事が出来て夫の帰りを待ってあげられて、常に心の支えとなる。ふふふふふふ、と言った感じだ。
「よし、そうと決まれば即行動よ幽香!」
「えっ、ちょっと・・・・・・!ええ何で私までっ!?」
ガシッと天魔の首筋を引っ掴む幽香。既にスパルタクスに汚染されたのか、思考がバーサーカーな幽香は傷付いた天魔を放って行くことが出来なかったのだろう。引きずってでも家に連れて行くつもりのようだ。
「ぁ、あやや!?天魔様がっ」
「うっ、うそ・・・・・・!」
「あら?」
「なっ、逃げなさい射命丸!犬走椛!」
何とも最悪なタイミングでたどり着いてしまった重傷者。幽香の優しさが爆発する。こんな怪我人放っておいたらそれこそ圧政者じゃないか!と、正直幽香には圧政者云々なんてよく分かってない。
「ダメよ!そんな怪我のままふらついていたら死ぬわ!怪我人は全員集めて私の家に行くわよ!」
「ひっ!?草が体に!?」
「ガルル!?き、牙が通らなっ・・・・・・!」
紫&藍。
「もう、分かったわよ!行けばいいんでしょ!?藍ってばほんとそういうところは頑固よねっ。・・・・・・居ないわよねー?おーい?・・・・・・いないわね?笑顔無いわよね?・・・・・・本当に?本当に本当?」
「ほら、早く行きますよ紫様」
「わわっ引っ張らないで藍!」
「もう、紫様は・・・・・・って、えええええええ!?」
「なによ藍そんなに大きな声えええええええええ!?」
「や、山が」
「禿げてるわ・・・・・・!!それに」
「いつもなら激しく動き回っている天狗が見られません。それに静かすぎる・・・・・・!!」
「まさか、いえ、そんなっ!藍!至急妖怪の山の捜査を始めるわよ!」
「おぉ、頼もしい方の紫様だ!」
「何その言い方!?普段からゆかりんは頼もしいですー!メチャかわのゆかりんですー!」
「可愛いのは認めますが、頼りにはなりません。働け」 「はい・・・・・・」
スカーレット卿。
「(・・・・・・!!!凄まじい妖力を感じたぞっ!?まさか、今の力の持ち主が攻めてくるのか・・・・・・?不味いな・・・・・・単純に吾輩以外が全滅するような事があれば統治が面倒だ。仕方あるまい、やはり全面に吾輩がでて配下にした者達は人里に突撃させ、主要な者達は地下にでも閉じ込めておこう。)」