憐憫の獣、再び   作:逆真

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顕現の時来たれり、其は世界を滅ぼすもの。


人類悪顕現

 俺――兵藤一誠の意識は自分の心の中にあった。えっと、あっち側の言い方をすれば心象風景ってやつなのかな? 普段歴代の赤龍帝が沈黙しているだけのこの空間は、赤黒い泥に満ちていた。先輩方は抵抗する様子もなく泥に沈んでいる。

 

 俺の身体に指輪――一個ではなく九個――が入れ込まれると同時に、強い感情が伝わってきた。一人や二人どころじゃない。数えるのも馬鹿らしいほどの、三千年の全人類の感情。それらが津波みたいに押し寄せてくる。

 

 最初に伝わってきたのは、世界を焼却せんとばかりの王の怒り。期待という名の進化の強制。

 

『俺の国を犯した悪魔を許さん。俺の民を殺した堕天使を許さん。俺の財を穢した天使を許さん。俺に頼ってばかりの人間を許さん。俺の理想を否定する神を許さん。人間はもっとやれるはずなのに、どうして誰もそれを分からない! 自分から動かぬというのなら、俺が動かざるを得ないようにしてやる……! おまえたちは、おまえたち自身のために、もっと先に行かなければならないのだから! 未来に生きなければならないのだから!』

 

 見たくもなかった悲痛だった。

 

『もう戦いたくなんてない』『主よ、この身を委ねます』『殺す殺す、殺す!』『おまえのような男は生きてはいけないんだ!』『私はローマを許さない!』『ダメです、逝ってはいけない』『おかあさん、どこ?』『また、失敗か……』『やーい、おまえの父ちゃん人殺しー』『嘘つき』『こんな、こんなはずではなかった!』『この我の子を孕めるのだ、有り難く思え』『よくも、私を忘れたな!』『ひゅー! こいつらはいい奴隷になりそうだ!』『生贄は、あのみなしごにしよう』『こわい、こわい、こわい』『復讐してやる』『食い扶持を減らさないと今年は厳しいな』『お願い、貴方だけでも生きて!』

 

 聞きたくもなかった悲鳴だった。

 

『おとうさ――』『誰か、誰か助けて』『ふざけるな、俺が一体何をしたってんだ』『騙される方が悪いんだよ』『かわいそう』『来るな、バケモノ!』『安心しろよ、おまえの奥さんは俺が可愛がってやる』『私の発明品が、どうして戦争に使われる?』『いやです! この子は、あのヒトと私の子です! 絶対に渡しません!』『あいつがいなければ俺が出世できたのに』『やっぱりストレス発散は狩りに限るな』『判決、被告は魔女である』『おまえもかブルータスぅ!』『愛していました』『やめてくれ』『一緒に死のう』『もっと早く来いよ、役立たず』『おまえ、生きているだけで他人の迷惑だよな』『金を寄越せ!』『神様がなんとかしてくれると思った』

 

 知りたくもなかった悲劇だった。

 

『死ぬがいい、うつけめ』『ほざいたな……!』『壊れちゃった』『私は、私はまだ戦え――』『おなか、へったよぅ』『彼女は、貴様の言葉を信じて戦ったというのに!』『シータ、どこにいる?』『さあ、これでブリテンは滅んだぞ! どうするアーサー!』『私は決して、このような勝ち方がしたかったわけではない!』『許さんぞ、ディルムッド!』『さあ、神の為に死ぬのです!』『ちっ、これもう使えないな。おい捨てとけ』『会社のために死んでくれ』『醜い』『必要な犠牲なんだ』『アンタなんて産むんじゃなかった』『どうか私を恨まないでください』『違う、違う! わ、私はそんなことしていない!』『私は、王になるべきではなかった!』

 

 これはどこかの獣が見ていた世界。我が半身が三千年教え込まれた人類史の罪にして、これから俺に刻み込まれる人類史の業。

 

『たすけ、て』『おまえは今日から私の眷属だ!』『今回の実験は失敗に終わったか。次の被験体を用意しろ』『恨むなら神器を作った聖書の神を恨むのだな』『人間風情が!』『飽きちゃった。トレードしよっと』『神は……死んでいた?』『レアな神器だ。抜き出してアザゼル様に献上しなくては!』『下僕は主人の言うことを聞くものだろう?』『アーメン!』『レアものは転生させたら面白いぞ』『どうして彼女が異端となるのですか!?』『ああ、全部僕が仕組んだことなんだよ』『私は――死にたくない』『悪魔が、神の使徒を愛してはいけませんか?』『僕たちから奪った幸せの数だけ、死を刻め、異形ども……!』『父よ、何故私を見捨てたのです』『人間よ、俺の屍を超えろ。その先が、真の人類史である!』

 

 これは全部じゃないはずだ。これは一部だけのはずだ。そうでなかったら、とっくの昔に世界なんてなくなっている。こうでしかなかったら、人類なんて滅んでいる。だから、綺麗なものだってある。美しいものだってある。正しいものだってある。そういうものがあったからこそ、人間はここまでやって来れたんだ。

 

 

“赤龍帝よ、取り繕うな”

 

 

 これが全部じゃないと同時に、これもまた間違いなく真実なんだ。これもまた誤魔化したり目を逸らしたりしちゃいけない現実なんだ。だからこその覇龍だった。だからこその歴代赤龍帝だった。

 

 俺が見ようとしなかっただけで、俺が聞こうとしなかっただけで、俺が知ろうとしなかっただけで、俺が運良く受けなかっただけで、こんな悲劇はこの星には吐いて腐るほどあったんだ。

 

 俺だって、そうだろう? 自覚したくなかっただけで、本当は理解していた。俺は見殺しにされた。俺は利用された。俺は再利用された。俺は、死んだんだ。好き好んで手に入れたわけでもない、持っていたことを自覚できなかった龍の力のせいで、殺された。騙されて殺された。殺すだけなら殺すだけでいいじゃないか。何で堕天使が人間の恋人ごっこを楽しむんだよ。内心で笑っていたんだっけ? ああ、その堕天使も俺と関係のない場所で死んだらしいけど。そして、俺を見殺しにした女は、殺せない。一度愛してしまったから、殺せない。間違っていると分かっているけど、俺にはそんなことできないんだ。少なくとも、愛した女を自分じゃ殺せない。

 

 こんな世界の中で、この醜さを否定できるほど輝かしいものなんて、俺は見てきただろうか。温かいものを、優しいものを俺は知っているだろうか。

 

 

“リアス・グレモリーの『兵士』よ、君が見て来た人間を思い出せ”

 

 

 考えるまでもないじゃないか。俺はそういうものの中で育ってきたんだから。

 

 ――イッセー、おはよう

 ――早く起きなさい、イッセー

 

 父さん、母さん。

 

 ――おい悪友、おっぱいについて語り合おうぜ

 ――この前貸したエロDVD返せよ

 ――まったく、童貞臭いわねー

 

 松田、元浜、桐生。

 

 ――ボウヤ、いいおっぱいには出会えたかい?

 

 紙芝居屋のおっちゃん。

 

 ――悪魔くんは楽しい奴だね

 ――ミルキーを一緒に見るにょ

 ――悪魔って意外といいヒトなんですね

 

 森沢さん、ミルたん、スーザン。

 

 ――イッセーさん、また必ずお会いしましょう!

 

 あんなものを、ゼパルから『IF』の可能性なんて見せられたからだろうか。一度しか会っていないのに、アーシア。こんなにも君に会いたい。

 

 あの当たり前の日々があまりにも美しく、遠く感じる。ああ、そうだ。悪魔に転生する前の俺が普通に送っていた日常。あれこそがこの憎悪を否定できるほど美しいものだったんだ。駒王会談のテロの時、ヴァーリにだって言ったじゃないか。俺の両親を馬鹿にするなって。あいつにとってはつまらないのだとしても、俺にとってはかけがえのない家族なんだ。

 

 あそこに戻りたい。戻らないといけないんだ。そう考え直そうとした俺だったが、足が前に進まない。泥から這い上がってきたゾンビみたいな奴の手が、俺の足首を掴んでいた。

 

『……ふざけるな』

 

 泥だらけのゾンビはどんどん増えていく。足だけじゃなくて腰や肩まで掴んで、俺のことも泥に引きずり入れようとしてくる。筋違いの怨嗟を吐きながら。

 

『私たちは奪われたのに!』

『僕たちは最初から持っていなかったのに!』

『どうして、おまえは失っていないんだ!』

『悪魔のくせに!』

『悪魔が人間みたいに生きられるなんておかしい!』

『――死ね』

 

 泥に飲まれかけた俺を襲うのは無限の怨嗟。

 

『死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね!』

『死んでしまえ、無責任な赤龍帝め!』

『おまえくらい強いなら、何かできるはずだろう!』 

『なんて悪い奴なんだ!』

『殺せ!』

『殺すんだ』

『私を不幸にした者を、全員殺せ!』

『それがおまえの義務だ!』

『自分の役割から逃げるな!』

『私の子供が死んだのはおまえのせいだ!』

『おまえがやらないなら我がやる! その身体を寄越せ!』

 

 なんて醜い。どうして俺が責められるんだよ。俺は関係ないじゃないか。こんなのが人間の本性だっていうのかよ。ふざけんなよ。そうじゃないはずだろう。これが全部じゃないって思い出したばかりなんだ。そりゃダメな部分もあるのかもしれない。だけど、だけど――

 

 

“兵藤一誠よ、人間の本質を受け入れろ”

 

 

 そうだ、これこそが人間の本質だ。抵抗は無理だった。対処は無為だ。このまま、この泥に溺れてしまおう。泥に染まって、あの悪魔を殺そう。俺が死ぬのを見過ごした女を殺そう。俺を殺した元凶を全部壊してしまおう。

 

『諦めるな、兵藤一誠』

 

 ……ゼパルか。

 

『おまえは、我らとともに理想を歩くに相応しい。悪魔に堕ちながら、人の思想を取り戻したおまえこそが。だが、これは駄目だ。こんなものは、人類悪ですらない。復讐に生きるのはいい。恩讐に死ぬのもいい。誰かの無念を晴らそうというのも、私たちには称賛できる』

 

 だったら何で止める?

 

『この悪意に従って復讐などしても、おまえの裡から出でた感情など皆無だろう! おまえには、おまえが感じ取った復讐心への哀れみさえない。義務感など覚えていないのに応えようとするな。望まれるままに都合の良い装置に成り下がろうとでもいうのか。そんな愚行がどうして是となる!』

『その通りです、乳龍帝よ。貴方はこんな終わり方をしてはいけない』

 

 突如俺の心象風景に出現した謎の声と光。その光に当たった泥が蒸発するように消え去っていく。

 

 泥がなくなったことによる解放感で、思考が冴える。確かゼパルに教えてもらった世界線で俺が何かの拍子で干渉してしまった異世界の神様。魔神柱たちが暫定的に『E』と名付けた世界の精霊。

 

『……異世界の神か』

『ええ、そうですよ、異なる世界の魔神よ。私は乳神様に仕える精霊です』

『並行世界の閲覧により我々は其方を既知ではあったが……本当におまえのようなふざけた異形が実在していたとは。おまえの存在を知った時、情報室、観測所、覗覚星総員二十七柱がパニックを起こしたんだぞ』

『それは貴方たちの都合でしょう』

 

 ま、まあ、ゼパルの気持ちも分かるけど、その実在自体を抗議するのも当然だよな。そこにあるってだけで罪になったら……なったら、どうなるんだ? 指輪に流れていく悪意は、存在するだけで罪なのか? 彼らは被害者なのに。彼らは誰にも救われなかったし、救えないのか?

 

 あと、並行世界のテレビ番組はこっちでは着想すらされてないんだからその呼び方はやめて欲しいです!

 

『乳龍帝よ。乳神様の加護を、貴方に。貴方の乳への愛で、諸悪の根源たる真理の獣を打倒するのです。人間も人外も、貴方になら救えます』

『どうしてだよ』

 

 消えかけの泥から放たれる疑問の皮を被った殺意。

 

『どうしてこいつには力を貸すのに、僕のことは救ってくれなかったんだよ!』

『そうだ』

『儂たちだって力を求めていた!』

『どうして、今だけなんだ!』

『あ、ちょっと黙っていろ、乳の精霊! この空気、私には経験が――』

 

 だが、ゼパルの制止は間に合わず、乳神の使いは言葉を紡ぐ。最後の栓を引き抜く言霊を吐き出す。

 

『どうして、貴方たちを救わなければならないのですか?』 

 

 きっと他意はないんだろう。純粋に『異世界の無関係な人間を助ける意味』が分からなかっただけだ。だけど、善性など欠片もない悪意だけの泥に対して、それは最悪の回答だった。その瞬間、地面から泥が一気に溢れ出した。さっき綺麗になったはずの空気がまた淀んで、泥が俺を飲み込んでいく。

 

『――見捨てた』

『こいつらは俺たちを見捨てた』

『僕は見捨てられた。見捨てられた。見捨てられた』

『可哀そうな私は可哀そう可哀そうな私って可哀そう可哀そうな私可哀そう可哀そう』

『この世界だけじゃない』

『世界なんてどれもクソだ』

『こいつは殺すべきだ』

『全員全部死ぬべきだ』

『俺がこんなに可哀そうなのに、幸せな奴なんていちゃいけないんだ!』

『みんな、不幸になっちゃえ!』

『だから死ね!』 

『殺してしまえ!』

『赤龍帝、おまえがやれ、やるんだ、やらないといけないんだ!』

 

 俺の中に、泥が混ざっていく。俺を中心にして渦巻みたいに、色んなものが集まっていく。

 

『や、やめるのです乳龍帝よ! わた、私をと、取り込まないで、い、いやああああ! わ、私が、私たちが、溶けていく……! いや、いややいや殺されたくない……!』

 

 じゃあな、ゼパル。おまえともさようならだ。

 

『やめろ……頼む、やめてくれ! この状況は私たちの不手際が招いたものだ! 待て、待つんだ兵藤一誠! この場面なら、私は道連れにすべきだろう! 切り離すな!』

 

 悪い。その『期待』には応えられない。俺が今の今まで覇龍を使わずに済んだのは、おまえのおかげだからな。人間的な感性とは違うんだろうけど、おまえが俺を心配してくれているのは分かっていた。だから、これが俺の最後の良心ってことで頼むよ。

 

『その善性は不要である! このような形で生まれた存在は、最早人類悪ですらない! こんな憎悪の塊がどんな理想を抱き、どんな愛を証明できるというのだ! 無価値で無意味だ! おい、話はまだ終わって……』

 

 いいや、終わりだよ。ありがとう、異世界の魔神。次会う時は、ドライグみたいに多分敵だ。俺以外の全部は、一人残らず敵だ。

 

 泥に沈んでいく視界の中、会ったこともない王様みたいな男が拍手を送ってくれた。

 

「ありがとう、兵藤一誠。世界を救うために、その身を捧げた生贄(ゆうしゃ)よ。これで俺の理想が成就する。あまりにも長い旅路だった。あまりにも長い三千年だった。やっとだ、やっと俺は償える。これで、俺は主を超えられる。おめでとう! これで人類は進化できる!」

 

 まったく心が込められていない感謝と祝福だ。なんて空々しい。なんて白々しい。

 

 ああ、そうか。分かった。

 

 この王様、この泥に触れた相手が誰でも良かったんだ。この男が本当にしたかったのは救済じゃない。証明なんだ。

 

 俺の意識は泥に沈んだ。

 

 

 

 

 

 

 以上の決意を以って、彼のクラスは決定された。

 

「我、目覚めるは」

〈始まるね〉〈いや、終わるのだ〉

 

 歴代最弱の赤龍帝など偽りの称号。

 

「己が罪を神より教えられし赤龍帝なり」

〈結局そうなのですね〉〈そうじゃな、最後までこうなのじゃな〉

 

 其は人間が求め続け、人類史の業を背負わされた大災害。

 

「無限の道を棄て、夢幻の果てに沈む」

〈我々から奪われるのは――〉〈世界から与えられるのは――〉

 

 その名をビーストD/L。この星の人類悪の一つ、『期待』の理を持つ獣。

 

「我、赤き覇道の獣に堕ちて」

〈いつだって愛でした〉〈いつだって痛みだった〉

 

 悲劇と奇跡を担い、救済と勝利を強制された偶像。

 

《おまえたちは、最後まで滅びを選択するのだな!》

 

「汝らのすべてを忘れ去ろう」

 

 それこそが、兵藤一誠の獣性である。

 

『Juggernaut Drive And Advent Beast !!』




 真名 兵藤一誠
 クラス ビースト
 ステータス 筋力:D 耐久:C 敏捷:D 魔力:E 幸運:EX 宝具:A+
 スキル 獣の権能:A 単独顕現:C 精神汚染:EX 悪魔の駒:A 二天龍:EX 神々の祝福(獣):A ネガ・エヴォリューション:A
 宝具 赤黒き汚泥 世界よ、我を讃えろ 無限覇王・夢幻理想

 備考 ほんの半年ほど前までは一般人だった少年。この星で最も虚しい破壊者。
 生まれながらに持っていた『赤龍帝の籠手』、一度死んだ際に与えられた『悪魔の駒』、奪い取った白龍皇の力と魔神柱の細胞、ソロモンの指輪が融合して誕生してしまった、この星で最もおぞましく哀しいキメラ。
 兵藤一誠個人ではなく、全人類の負の感情の化身。自分のものか他者のものか区別できない憎悪を『発散』するための装置。
 この獣の人類愛は、彼の裡から出ている感情ではなく、彼に集積されただけの三千年に及ぶ全生命体の自己愛である。期待を向けられるという体裁の、負の感情が廃棄される生贄。
 それこそが、この獣の正体である。
 スキル「ネガ・エヴォリューション」により、兵藤一誠は「自らが勝てるように進化する」と同時に、「敵の進化を妨害する」。空間や肉体ではなく因果律に干渉するため、抵抗は不可能である。つまり、兵藤一誠は相手が自分よりどれだけ強くても最終的には勝てる。――その戦いの最中にどれだけの犠牲が出たとしても、その戦いの結末にどのような報酬がなくとも、必ず勝利を迎える。
 なお、指輪と完全に融合したため、この獣が死ぬようなことがあれば『真理』は崩壊する。当然ではあるが、指輪は『真理』と連動しているままのため、彼の中には依然として「廃棄物」が流れ込む。
 また、この獣の早期打倒が『真理』の獣顕現阻止の最低条件である。

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