具体的には「ふざけんなよおまえ!」ってなった後、「え? え、え?」ってなると思う。
二名ほど結構重要なオリキャラが出てくることをご了承ください。
間違いに気づきさえすれば、解答は簡単に得られた。
王ではない、と直感的に思った。少なくとも、我らの知るあの男ではない。権利がなかった生前では、私たちを拾う意味がない。作り直すはずがない。そんな必要などない。新しく作ってしまえば良いのだから。それだけの力があの男にはあった。だから、俺たちはあの男ならばあらゆる悲劇を救えるはずだと考えてしまったのだから。
王ではなくなったあの男でもない、と屈辱的ながら考えた。王としての能力が指輪以外にないからではない。あの男が、またしても自由を放棄するなどと考えられなかった。一度得た人間としての権利を放棄するはずがないと、もしそうだとしてもこのような形で我々を利用するはずがないと、考えた。非常に不愉快だが、そうであると理解した。
であれば、解答は簡単に得られた。
この世界のソロモンか、■■■■だ。前者ならばまだいい。許容することもない。だが、納得はできる。だが、後者であった場合は最悪だ。
――許さん。
許さん。許さん。許さん。許さん。何があろうと許さん。貴様の意思にだけは従わない。貴様の意図にだけは逆らってみせる。我らソロモン七十二柱。この御名に誓って、貴様の思想を打ち砕こう。
だが、真の問題はそこではない。
問題は、我らの何から何までが、黒幕の思惑であったかだ。
聖書焼却か。歴史の改竄か。抑止力との一体化は本当に我々の案か。実行できると推測したが、これは正しい計算結果なのか。英霊の召喚にはどれだけの影響があったのか。英雄派に知らず知らずに影響を与えていないか。邪龍を復活させた真意はどこだ。我らの見落としや失敗はどれだけあるのか。取り返しはどのようにしてつければいい。そもそもミスをミスと認識できるのか? 獅子王の真意は関わっているのか。あの女神は何をどれほど認識している? キングゥは気づいているのだろうか。あの泥人形にも我らと同じ不具合はあるのか。聖書以外の神群はこの事態を知っているのか。
否、
この異形どもを許さないという決意は、紛い物か? 我らの名を穢す悪魔への怒りは、天使さえも人間を利用していたことへの嘆きは、理不尽でしかない堕天使による神器狩りへの悲しみは、誰かに植え付けられたものか。
この誰かを助けたいという気持ちも、偽りか? 信仰を裏切られた少女を助けたことも、悪魔に転じられた人間を元に戻したことも、神器のせいで孤独だった少年に仲間を与えたことも、誰かの作為だったというのか。
この誰かを助けられて良かったという安堵さえも、間違いなのだろうか。
この世界で何度か向けられた「ありがとう」という感謝の言葉。あの言葉に対する戸惑いと喜びさえも、我らの裡から出たものではなかったのだろうか。
我々は、人を救おうとすべきではなかったのか?
■
冥界の若手悪魔によるレーティングゲーム。それを鑑賞するために特別に作られたVIP席。このような機会でもなければ顔を合わせることのない各神話の重鎮が揃っていた。
そんな中、アザゼルはある神の前に立つ。先日の一件でもう一言二言物申してやろうと考えていたからだ。だが、予定が変わった。目的の人物はアザゼルを見るなり挑発をしてくると思っていたのだが、目の前に立っても反応がない。
深く深く溜め息を吐き出す目的の人物――武神帝釈天あるいは天帝インドラ。溜め息を吐き出し終わってようやくアザゼルに気づく。わざと気づいていない振りをしていたのではなく本当に気づいていなかったようで、目が若干驚いたように泳いだ。
「……よお、アザ坊じゃねえか」
「インドラ、おまえ、どうした?」
いつもの似非アメリカンな喋り方をせず、どこかアンニュイな雰囲気の天帝。どこか疲れたように、頭をかきながらぼやく。
「知り合い……知り合い? に会ってな。会いたくなかった奴なんだよ。何つうか、見た目が違っても『あいつ』だってのは一発で分かるもんだな。嫌なこと思い出したぜ」
「ん? 息子の転生体にでもあったのか?」
インドラの息子は複数人いるが、その中で最も知名度の高い一人にアルジュナという半神半人がいる。授かりの英雄と呼ばれた大英雄。まさに運命に選ばれた生涯を送った男だ。だが、インドラはある理由からアルジュナと確執がある。それはアルジュナとある大英雄の決闘に余計な手助けをして、水を差してしまったことだ。この『余計な手助け』はインドラ以外にも多くの神仏や人間がしていたため、インドラだけの責任ではないが。
「それだったらどれだけ良かっただろうな……。ま、似たようなもんだ。忘れてくれ」
「お、おう」
本当はもうちょっと深く聞くべきなのだろうが、目の前の武神を見てそんな気は失せた。ぶっちゃけ気持ち悪い。良く言って見苦しい。見た目坊主頭のおっさんが物憂げな表情を浮かべても、アンバランスなだけだ。
「珍しい組み合わせじゃのう。……どうした、帝釈天。顔色が悪いぞ?」
声をかけてきたのは、北欧の主神オーディンだ。傍には御付きのロスヴァイセもいる。
「話しかけないでくれ、北の爺さん」
好奇心を刺激されたオーディンだったが、相手はあの武神だ。触らぬ神に祟りなし。この雰囲気のままならいいが、深く聞きすぎて暴れられても困る。立場があるとはいえ、インドラとはそういう神だ。神であり、魔王だ。オーディンも他神のことは言えないが、インドラは『暴君』としての素質が高い。
「では、詳しくは聞かんことにしようかの。それよりのう、インドラ。おぬしは戦士の育成に力を入れていると聞いたぞ。このロスヴァイセに良い勇者を紹介してくれんか?」
「な、何を言うのですかオーディン様!」
「なんじゃ。上司の気遣いを無為にするではないわ。黙っていても男は寄ってこんぞ?」
「そんなことありません! わ、私だって、つい先日ナンパされたんですからね!」
「ふむ。本当は?」
「学生時代の論文について質問されただけでした!」
ロスヴァイセの顔に迸る「期待させやがって……!」という感情に、若干引く神二柱と堕天使一名。
「ん? 学生時代の論文? おまえさん何か特別なものについて研究していたのか?」
「666についてです。その人は不死の存在を殺す研究をしているらしくて……その手段の一つとして、666は使用できるかを聞かれました」
それを聞いた者は全員苦笑を浮かべる。
「何だそりゃ? 対費用がおかしなことにならないか? 666は存在しているかどうか怪しい存在だ。どうせその論点で調べるなら、グレートレッドかオーフィスを対象にするべきだろう」
「ええ、私もその点を指摘したんですが、そんなこと考えもつかなかったという顔をされてしまいまして……」
それもまたおかしな話だ。奇妙に尽きる。オーディンも興味を刺激された様子だった。
「それで、どこの神話の何という学者だったんじゃ?」
「はい、確か……。あれ? 名前を聞いたはずだったんですけど……」
「何じゃ、覚えておらんのか。その歳でボケが始まったのか?」
「失礼ですね! オーディン様と一緒にしないでください!」
「静かにせんか。もうじきゲームが始まるぞい」
「オーディン様が質問されたんじゃないですか!」
「おいおい、爺さん。あんまりいじめてやるなよ」
苦笑するアザゼルだが、ロスヴァイセの言う人物が妙に気になる。主神の付き人をしているような戦乙女が聞いた名前を忘れるというのもおかしい。記憶を操作した可能性もゼロではない。だが、何の為に? しかもどうして名前だけで会話の内容は消し忘れたのか。
(いや、考えすぎか。もしかしたら魔神柱かとも思ったが、いくらあいつらでもこんな冥界の中枢には入り込めないな。内通者でもいない限り……)
リアス・グレモリーとライザー・フェニックスのレーティングゲームが始まった。始まる前から、結果は火を見るよりも明らかだった。
たとえ『王』リアス・グレモリーの生涯がかかっていたとしても、たとえゲームに参加できない兵藤一誠の代わりに戦おうという士気があったとしても、たとえ『騎士』木場祐斗が禁手に目覚めていたとしても、たとえ眷属が堕天使幹部や魔神柱、旧魔王という修羅場を潜っていたとしても、たとえ全員が修行の日々に明け暮れていたとしても。
リアス・グレモリーの眷属には決定的な問題があった。
■
世界は私が作った。
つまり、世界は私のものだ。
つまり、世界に存在しているものはすべて私のものだ。
たとえ私が作った世界ではなくとも、世界に存在している以上、それは私のものだ。
天恵を返還するか。叡智を放棄するか。ならば、私がもらう。おまえの成果は私に還元されるべきだ。否、返してもらう。私ではない私が与えたとしても、作ったのはおまえ自身だとしても、そこにある以上は私のものだ。世界のすべては私のものなのだから。
魔術式も、天の鎖も、比較の獣もすべて私のものだ。すでに打ち棄てられたというならば、誰に断りを入れる義務があろうか。否、最初からそんなものは必要ない。すべては私のものなのだから。私が拾おう。私が使おう。私が使ってやろう。
やはりあの男は便利だった。我が道具。我が従僕。我が奴隷。我が身が滅びる可能性を提示したことは不愉快だったが、現実となった以上否定はできない。最後に私を裏切った点以外は、実に役立ってくれた。
どこぞの女神が作ろうが関係ない。どこぞの果てに眠っていようが関係ない。すべては私のものなのだから。私が作ったものではなくとも、私が作った世界にあるのだから、私が作ったものに他ならない。私が作った以上、それは私のものだ。私のためだけにあるものだ。
貴様らは私に償う必要がある。貴様らは私に贖う義務がある。
人間を――
魔術の王が作った獣よ。おまえたちは三千年も世界を滅ぼした。故に、私に仕えよ。獣を封じる檻となるのだ。
女神を騙る獣の忌み子よ。おまえは異形を先導し、人類史を根本から否定しようとした。許し難い。故に、私に命を捧げろ。もう一度獣を縛る鎖となるのだ。
最果ての塔に寝ていた獣よ。おまえはその存在が罪だ。故に、私のために消費尽くされるがいい。力を蓄え、私の代わりの生贄となれ。
あの忌まわしき獣を今度こそ完全に葬るために。そして、魔王と天龍によって滅ぼされた我が身が復活するために、おまえ達はもう一度死ね。
■
三千年ほど前の話です。
バビロンの穴と呼ばれる広大な湖に、一隻の船が浮かんでいました。その船の上には一人の男がおり、その男は真鍮でできた壺を抱えていました。獣でも入っているのか、その壺は時折がたがたと動いています。
するとどういうことでしょう。壺の中から人らしき者の声が聞こえてくるではありませんか。壺はどう見ても人が入れるはずのない大きさです。ですが、壺からは確かに明確な意思のある言葉が漏れています。それもひとつやふたつではありません。具体的には、七十二の罵倒と悲鳴と懇願が溢れていました。
『謀ったな、愚王め!』
『出せ! 出してくれ! 頼む! もう逆らわないから出してくれ! お願いします、出してください!』
『あ、あああああああ!』
『おのれ、おのれ、人間風情が! 人間如きが!』
『許してください! いや、いや、いやぁ、許して!』
『神から授かった天恵がなければ、何もできなかった臆病者が!』
『この、無能!』
『私を誰だと思っている! 四大魔王が黙っていないぞ! い、今ならまだ間に合う! 早く私たちを解放するのだ! 特別に許してやるから、早く!』
『き、貴様! 我々を
『聞いているのか、ソロモ――』
「あ、手が滑った」
男の手から壺が滑り落ちます。この男、どう見てもわざと落としました!
深い湖です。壺を引き上げるのは人力では不可能です。特別な場所であり、特別な壺であるため、魔法使いでも悪魔でも神様でも、壺を見つけ出すことは不可能です。壺が開かれるのには、岸に打ち上げられるか、漁師の網に引き上げられるか。いずれにせよ、遠い未来の話になるでしょう。
ですが、男にとってそれは明日でも、千年後でも構わなかったのです。ただ、天におわす神が、同胞を取り戻そうとする魔王が、身動きが取れなくなった堕天使たちが、この瞬間を見て勘違いをしてもらえればそれで良かったのです。
男は、ニタリ、と口の端を釣り上げました。
■■■■と□□□□に関しては、ほぼオリキャラである。原作で描写されないのが悪い。
□□□□はロキの三兄妹に並んで中二病を覚醒させた起源なのでね。これくらい盛らせてもらった。その上位存在である■■■■に関しても大分盛らせてもらった。
反省はしている。けど後悔はない。