???「何を憶する」
逆真「あ、あなたは!」
ガープ「文章を綴れ。連載を開始せよ。例え低評価を受けるとしても、‟ゲーティアを主人公にしたSSを書いた”という結末をこのハーメルンに刻むべきだ!」
逆真「ガープ△!」
こんなテンションで書きました。
見るに耐えない殺戮が見える。聞くに堪えない雑音が聞こえる。過去と未来を見渡す千里眼がなくとも、あらゆる真実が流れ込んでくる。全能を取り戻した代償が、
この世界に
――醜い。
醜い。醜い。醜い。醜い。醜い。醜い。醜い。醜い。醜い。醜い。醜い。醜い。醜い。醜い。醜い。醜い。醜い。醜い。
不快極まる事実を見せつけられる。醜悪極まる生態を記憶付けられる。
この醜悪な環境を、状況を、解決しようと考えるのは当然の帰結だ。だが、どうやって? 汚れを完全に取ってしまえば、人間は終わってしまう。前提が間違っている。信仰される対象が間違っている以上、この間違いは正されない。
書き換えるのだ。書き換えるしかない。一から全てを、優しい世界として書き換える。書物上だけではない。教義だけではない。信仰だけではない。未来だけではない。――世界からだ。
死者が召される神殿を築き上げよ。生者が崇める光帯を重ね上げよ。古き聖書を滅ぼすには全ての資源が必要だ。旧き神話を忘れるためには全ての時間が必要だ。
――唯一神を打倒する手段を探れ。そこに、
■
オッス! 俺、兵藤一誠! 皆からはイッセーって呼ばれているぜ!
ハーレムを作りたい一心で女子率の高い駒王学園を受験して、見事入学したんだけど、一切モテず。女子が多ければ彼女には困らないと思っていたんだけど、実際はイケメンに集まるだけだった! ハーレムどころか彼女さえできない始末だ! それどころか、『変態三人組』の一人として女子には蛇蝎の如く嫌われている。こんなの俺の計画になかった! おっぱい触りまくりな、エロエロ高校生活を目指していたというのに!
ようやく天野夕麻って彼女ができたかと思えば、初デートの終わりに殺された。なんと彼女は堕天使で、俺の身体に眠っていた
俺は一度殺されたけど、部長――リアス・グレモリーの力によって悪魔として復活した。悪魔ってのは文字通りの意味だ。魔力があって、コウモリみたいな羽が生えて、光に弱い。物語で悪者として登場する存在。
悪魔や堕天使って本当にいるんだって驚いた。ちなみに、
現在の悪魔には『悪魔の駒』って制度がある。他の種族を悪魔に転生させて、下僕にするアイテムだ。俺はこの力で悪魔になった。いきなり下僕にされたり人間じゃなくなったりしたけど、そのままだと俺死んでいたから文句の言い様がない。ちなみに、駒は人間のチェスに倣っていて、俺は一番下っ端の『兵士』だ。
でも、頑張って爵位をもらえれば、俺も自分の眷属が持てるようになるらしい! しかも、自分の眷属には何をやってもいいんだって! つまり、夢の俺だけのハーレムが作れるってことだ! び、美少女ばかりのハーレムを作って、お、おっぱいを! ハーレム王に、俺はなる!
……まあ、現実はそんなに甘くないんだけどね。悪魔としての仕事――契約した人間の願望を叶えて対価として何かもらう――を頑張っているんだけど、中々成果が出ない。契約相手からの評判はいいんだけど、ちゃんと契約を成立させたケースは少ない。しかも、俺と契約してくれる人は変態や変人ばっかりだ。
……同じ眷属にいるイケメン王子の木場は、綺麗なお姉さん率が高いというのに。ちくしょう、イケメンめえええええええ!
「はわう!」
殺意を抱きながら学校からの家路を歩いていると、後ろから突然の声。
振り向くと、そこにはシスターがいた。地面に突っ伏して、なんとも間抜けな転び方だ。
「だ、大丈夫っすか?」
俺はシスターのそばに寄ると、立ち上がれるように手を伸ばした。
「あぅぅ。なんで転んでしまったんでしょうか……。ああ、すみません。ありがとうございます」
手を引いて起き上がらせると同時に、シスターのヴェールが風で飛んでいった。
そして、現れたのは、とんでもない金髪美少女の笑顔だった。俺はしばらく放心状態で彼女の顔に見入っていた。
「ど、どうかしましたか?」
「あ、ご、ごめん」
見惚れていたなんてもんじゃない。これってフラグなんじゃないか、会話を続けないとって思ったところで、
「フォウ!」
突然、何か意味不明な声が聞こえた。声っていうか、鳴き声? てか何か聞いたこともないような変な鳴き声だと……。声のした方が上の方だったので見上げてみると……
「フォウ!」
「いってえっ!」
顔面に何かが落ちてきた。刃物が刺さったような鋭い激痛を感じる。俺、悪魔になってから身体が頑丈になったからここまで痛く感じることなんてないはずなのに。頭を抑えると、何かが手とすれ違う気配がした。
そして、脛に連続的な痛みが走る。
「いだだだ!」
「フォウ! フォウフォウ!」
「あ、ダメですよ、フォウくん!」
見れば、真っ白な毛玉が俺の足を攻撃していた。兎のような犬のような猫のようなよくわからない生物だ。
「フォウくん?」
「はい、お友達です。日本についてから、いつの間にか一緒になったんですけど……。フォウくんがいなかったらここまで来れなかったかもしれません」
「へえ、そうなのか――」
「フォウ!」
「――いってえ!」
フォウだかフォントだかって毛玉は俺の足を攻撃してくる。まるで俺と彼女との会話を邪魔してくるみたいだ。小さくて可愛らしいと一瞬思ったけど、小憎たらしいぞ、この小動物!
「ああ、ごめんなさい! うちのフォウくんが」
「い、いや、いいってことさ。あははは」
「フォウフォー」
まるで悪びれる様子のない小動物にむかついたけど、シスターさんとのフラグのためにぐっと堪えた。シスターさんのヴェールを拾って会話を繋げようとしたところで――
「おや? もしやアーシア・アルジェントさんかな?」
突然声をかけられた。また頭に何か落ちてくるんじゃないかと警戒しながら振り返ると、そこには男性がいた。いつか俺を殺そうとした堕天使じゃない。あの時みたいな全身に走る寒気はない。ってことはたぶん人間だ。
そこにいたのは、にこやかに微笑んでいる、物腰が柔らかそうな紳士だった。モスグリーンのタキシードにシルクハット。髪はぼさぼさの長髪だ。
「は、はい。そうです」
返答をするシスターさん。いや、アーシアだったが、顔には怪訝の色がある。どうやら面識がある相手ではなさそうだと判断した俺は彼女を庇うように前に出た。
「あ、アンタ誰だよ」
「私はレフ・ライノールと言う者だ。その制服から察するに、君は駒王学園の生徒だね? そこのシスターさんは私の探し人なんだよ」
「もしかして私が派遣される教会の方ですか?」
「関係者という意味ではそうだね」
それを聞くと、アーシアの顔に安堵が宿る。
「よ、良かったぁ。私、日本語が喋れなくて道も聞けずに困っていたんです」
アーシア、日本語喋ってなかったのか。悪魔に転生した特典の一つに、どんな言語でも理解できるようになるってものがある。会話が翻訳されるだけで、文章はだめだ。この特典のおかげで、英語の発音がめちゃくちゃ上手になったんだ。
「それは大変だったね」
見れば、アーシアは旅行鞄を持っていた。会話から察するに、この町に新しく派遣されたシスターさんってところだったのかな? 教会なら知っているけど、あそこって何年も使われていないはずだよな。新しく使われるようになるってことなのかな。ってことは、このレフって人は神父なのか? この恰好で?
レフって名乗った紳士が手を差し出すと、意思を察したアーシアは鞄を差し出す。成程、紳士の対応ってことか。鞄を持ったレフさんはアーシアの足元に寄り添う小動物に気づいた。一瞬、微笑が崩れるほどに驚愕していた。なんだ、俺も見たことなかったけど、そんなに珍しい生き物なのかな。
「ん……? その獣は……」
「あ、途中で一緒になっちゃったんですけど……。連れてはいけませんか?」
「構わないとも。君が面倒を見てくれるならね。では、行こうか」
「はい! あ、そうです。ちょっとすみません」
レフさんに断りを入れたアーシアは俺を見る。
「あの、お名前を聞いてもいいですか?」
「俺は兵藤一誠。周りからはイッセーって呼ばれているから、イッセーでいいよ」
「私はアーシア・アルジェントと言います! アーシアと呼んでください!」
「じゃあ、シスター・アーシア。また会えたらいいね」
「はい! イッセーさん、また必ずお会いしましょう!」
「フォウ!」
ぺこりと頭を下げたアーシアはレフさんの後を追いかける。小動物もアーシアに続く。俺も手を振って別れを告げた。
この出会いが、俺と『奴ら』との因縁の始まりだった。
――後日、アーシアが派遣されたはずの教会でガス爆発が起きたことを知る。ガスなんて何年も前から通っていないのに変だって、母さんがお隣さんから聞いたらしい。目撃者の話だと、人の出入りもなかったそうだ。この数日で新しいシスターが来たなんてことも当然なかった。アーシアはあの教会に派遣なんてされていなかった。
■
冥界・堕天使領、『神の子を見張る者』本部、総督室。
総督アザゼルと、副総督シェムハザが話し合っていた。
「で、そのレイナーレ、だっけ? サーゼクスの妹の縄張りを担当していた中級天使ってのは」
「ええ。彼女とその配下が住処にしていた古い教会ですが、何者かに、襲撃されました」
この短期間で、人間界に根城を持っている堕天使が立て続けに襲撃を受けている。情報操作が完璧であり、戦闘跡と堕天使の羽以外は一切の証拠を残さない。酷似した件が無視できないレベルで続いている。
「一応確認しておくけど、サーゼクスの妹、『紅髪の滅殺姫』じゃないんだな?」
「ええ。どうも違うようですね」
おそらくリアス・グレモリーは堕天使が襲撃されたことに気づいていない。何者かが自分の縄張りに侵入し、堕天使の巣食う教会を襲撃したことには気づかなかった。すべてが終わった今ではすでに知っているだろうが。
「例の『禍の団』の一派と考えるべきか」
「そうですね、私もそう思いますよ。では、アザゼル。その派閥でしょうか」
「旧魔王派にはメリットがないな。サーゼクスの妹の縄張りで暴れることで、あいつの顔に泥を塗る……ってのも遠回りだな」
もしも旧魔王派の仕業ならば、リアス・グレモリーやその眷属にも危害を加えているはずだ。だが、それらしい痕跡はない。
「そうなると、英雄派が人材スカウトで行ったと見るべきですか」
「だろうな。ちっ。資料によると、随分と高性能だったみたいじゃねえか。惜しいな」
アーシア・アルジェントの
「やはり、『禍の団』の情報は悪魔サイドや神サイドに流すべきなのでしょうか」
「どうだろうな。三大勢力の足並みが揃ってねえからな。それに、俺たちはお互いを信用してねえ。俺たちから和平を持ち掛けても、サーゼクスもミカエルも首を縦には振れないだろうな。あいつらが設けた場で、俺が提案するって形ならともかく、俺が呼びかけてもあいつらは来ないだろうよ」
「でしょうね」
だが、このままにしておくわけにもいくまい。堕天使は楽にはその数を増やせないのだ。せめて相手が何者なのか正体を掴まなくてはならない。
「もしも俺たちが手を結ぶとしたら、神の不在を開示しねえといけねえからな」
しかし、彼らは気づくはずもなかった。自分達の考えがどれだけ浅はかだったのか。
■
「オリアスより報告。神造兵器エクスカリバーの存在を確認」
「アンドラスより補足。エクスカリバーは過去の大戦時に破損、現在は七分割にされている。二本ずつプロテスタント、カトリック、正教会が保管。一本は不明」
「キマリスより補足。エクスカリバーの能力は多様化している。破壊重視、透明化、変形、幻影、速度強化、祝福、生物等の支配である」
「ザガンより推測。エクスカリバーの統合は理論上可能。ただし、仮に統合されても聖剣の性能は大きく劣化されていると思われる。抑止力としての性能も欠落している可能性が高い」
「アスタロスより結論。現在のエクスカリバーは使用者も含めて悉く脆弱である。騎士王には遠く及ばず」
「ゲーティアより決定。この世界におけるエクスカリバーは我らの世界とは似て非なる物である。危険度はCとする」
「フラウロスより要請。回復能力を持つ
「グシオンより返答。アロケルが保護した人間に負傷者多数。生命院への配属を推奨する」
「ハーゲンティより了承。速やかな人事異動を要請する」
「フラウロスより了承。彼女を生命院に案内する」
「ブネより報告――」
ゲーティアさんは完璧主義。
だから下準備も長いよ。
そもそも彼らも三千年待ったからね。