憐憫の獣、再び   作:逆真

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先に謝っておきます。

 あ れ は 嘘 だ !

やめて石を投げないで! せめて本編を読んで察してから投げて!


嵐が来るぞ

 冥界行きの列車の中、リアス・グレモリーとその眷属は、堕天使の総督アザゼルから京都で得た情報について聞いていた。

 

「アザゼル。つまり、貴方が京都で出会ったキングゥという者は、ゴーレムの亜種だと考えればいいのかしら?」

 

 眷属の主人でありグレモリー家の次期当主であり魔王の妹であり若手の期待の星とされているリアス・グレモリーからの問いに、アザゼルは首肯した。

 

「ああ。本人の言い分を信じるならだけどな。もっとも、ありゃこっちを騙そうなんて気はねえだろう。人生をやり終えたかのように、無気力な奴だった。京都から出てくることはねえだろうな。情報を全部話したわけじゃねえだろうしな。あいつが時折口にした『母さん』の正体もいまいち分からん。上手くはぐらかされるし、相当なやり手だな。強いだけの相手じゃねえってのは面倒だ」

 

 アザゼルの考察に対して、『女王』、『雷の巫女』こと姫島朱乃は不快そうに眉をひそめる。普段は温和な彼女には珍しい態度だ。その出生と来歴ゆえに、朱乃は堕天使が嫌いなのだ。

 

「分かったことはそれだけですか? わざわざ京都まで行ったのに」

「いや、実に有意義だったよ。それに、地雷を踏まずに済んだみたいだからな」

「地雷?」

「先に言っておくか。二年生は修学旅行で京都に行くしな。おい、おまえら、京都でキングゥに出会っても絶対に戦うな。習性かってくらい煽ってくるが、絶対に喧嘩を買うな。あれは、正真正銘のバケモノだ」

 

 重々しい忠告に対して、その場にいた全員が唾を飲み込む。『騎士』木場祐斗が代表して口を開く。

 

「京都で特別な立場だから、ではないんですね? それほどまでに強いんですか? だったら尚のこと正体を明らかにするべきだと思いますけど」

「あいつがどこから来たのかって調査は続ける。だが、不用意な接触はやめておいた方がいい。下手したらありゃ魔王の眷属やら竜王やらのレベルだ。妖怪連中があそこまで丁重に囲っているのも分かる。抗争になったら、割に合わん被害が出る。戦い方も分からんからな。初見じゃ俺でも勝てんだろう」

「なっ!」

 

 それを聞いて、リアスが不快そうに声を上げる。

 

「お兄様の眷属が、そんなぽっと出のゴーレムに負けるとでもいうの!?」

「ぽっと出の意味不明な肉柱に、初代大王ゼクラム・バアルは倒されたんだぞ。結局、キングゥからもあいつらの情報は集められなかったけどな。分かったのは、不干渉を約束できる間柄ってことだ。好意的じゃなかったから、仲間ってわけでもねえんだろうけどよ」

 

 リアスが反論できないでいると、『戦車』塔城小猫が訊ねる。

 

「……でも、ある程度の推測は立てているんじゃないですか?」

「まあな。これでも堕天使の総督だぜ? 俺は研究者でもあるしな。で、魔神柱とキングゥの正体だが、あいつらは禍の団か、それに類似する組織の作り出した兵器だろう。名前を過去の神話から拝借している点から見ても、その可能性が高い」

 

 ここでアザゼルは『僧侶』ギャスパー・ヴラディが上の空であることに気づく。こちらの会話に意識が向けられていないようだ。

 

「おい、ギャスパー」

「は、はいぃいい! き、聞いてませんでした! ごめんなさい!」

「いや、いい。ルーマニアの件か?」

「は、はいぃ」

 

 吸血鬼は他の種族と比較しても閉鎖的な社会だ。男尊主義のツェペシュ派と女尊主義のカーミラ派があり、ルーマニアに彼らの国はある。

 

 少し前に、そんな吸血鬼の国に魔神柱の襲撃があったという。襲撃を受けた時期は駒王協定が締結した頃と同時期だが、判明したのは本当に最近だ。吸血鬼が閉鎖的であるがゆえに発見と伝達が遅れてしまったのだ。ツェペシュ派の被害が特に甚大のようだが詳細はまとまっていない。

 

 ギャスパーはハーフヴァンパイアであり、元々はツェペシュ派の名家の出だ。家族から迫害され、最終的に逃げ出す形で追放された身とはいえ、無関心ではいられない。特に、恩人であるヴァレリー・ツェペシュの身を案じてしまう。

 

「今は待て。調査結果ももうじき上がってくるはずだ」

「は、はい……」

 

 そう言葉を返すしかないギャスパーを見て、嘆息するアザゼル。だが、今できることはない。世界的に見て、あるいは聖書の勢力的に見て、吸血鬼の優先順位は低い。アザゼル自身、聖杯についてはまだ知らないため、『魔神柱は吸血鬼も攻撃対象にしている』程度の認識しかない。

 

「それで、イッセー。おまえの夢に出てきた魔神柱ゼパルのことだけどな」

 

 アザゼルが切り出した話題に、全員の顔が強張る。

 

 魔神柱ゼパルを自称する怪物が、夢を通してイッセー、もといドライグに復活を提案してきたという。当然、ドライグは断った。肉体が復活できるという言葉も、魔神柱という存在そのものも信頼性が低かったからだ。

 

「この件は黙っておけ。この場にいる全員、誰にも他言無用だ。サーゼクスには俺から話を通してある。この話はこの場にいるメンバーを除けば、四大魔王とその眷属までにしか伝わらないようになっている」

「え? ど、どうしてですか?」

 

 意外そうな一誠に、アザゼルは不愉快そうに応じる。

 

「簡単なことだ。同じようなアプローチを受けている奴が、冥界にいないとも限らないんだよ」

 

 それを聞いて、数名がその真意を理解する。

 

「……裏切り者が悪魔にいるんですか?」

「その可能性があるだけだ。だが、可能性しかない段階だからこそ話を荒立てたくないってのが俺やサーゼクスの本音だ。イッセー、というかドライグにだけ夢で干渉したってのも奇妙な話だろう。アルビオンやヴァーリにもこの話が行っていると見て間違いない。ま、俺としてはこの情報が早く手に入れられて良かったけどな。……それに、ドライグの肉体を復活させられるってのが本当なら、奴らは神滅具の一つ、聖杯を確保しているのかもしれねえ。それに釣られる馬鹿がいないとも限らないんでな」

「そう……。上級悪魔が偽物の七十二柱につくことだって考えられるのね。なんだか悲しいわ」

 

 落ち込むリアスに、イッセーは励ましの言葉をかける。

 

「俺は部長を裏切ったりなんてしません! 一生ついていきます! あんな巨大な触手みたいな怪物の側に行く奴がいたら、そいつが悪いんですよ! な、ドライグ!」

『ああ、そうだな。俺が魔神柱につくことなど有り得んよ。あのゼパルとかいう奴も、上から目線で気に入らなかったからな。俺があのような態度を許容するとしたら、そうだな。俺自身に他ならないだろうな』

 

 そう言って、龍は嗤った。

 

 

 

 

 

 

「ちっ」

 

 心底不愉快そうに舌打ちをするキングゥ。実際ひどく不愉快だった。

 

 現在、彼は跳躍で京都上空を飛翔していた。今日も今日とて九重に京都案内を受ける予定のキングゥだったが、京都に奇妙な気配が侵入したことを察知した。だが、その気配に気づいたのはキングゥだけだった。逆説的に、正式に京都に入った者ではないため、気配の持ち主が侵入者であることを証明していた。すでに一宿一飯どころではなく京都の世話になっているキングゥとしては、迅速にその侵入者を排除しようと動くしかなかった。

 

 やがて目的の気配の持ち主を発見した彼は、人里離れた山地の一角を狙って着地する。

 

 着地した地点には、二人の男性。片方は銀髪が特徴的で、片方は中華風の鎧を纏っていた。どちらもキングゥの登場に驚いているが、突然の落下物に驚いたのではない。落下物がキングゥであることに驚いたのだ。つまり、この二人はキングゥのことを知っていた。

 

「おいおい、この距離で気づくか普通! 仙術で気配消してたんだぞ。ショックだぜい」

「その割には嬉しそうだな、美猴」

「まあな。これで盛り上がらないと嘘ってもんだぜい!」

 

 キングゥは二人の珍しい気配に若干訝しむ。銀髪の方は人と龍と悪魔が混ざっている。中華風の鎧の方からは、やけに特徴的な妖怪の気配を感じるが、この京都のものではない。おそらく大陸の方の出身だろう。だが、好奇心の類はキングゥには沸かない。むしろ自分をネタに盛り上がる初対面の相手に、苛立ちが募るだけだ。

 

「それで、キミ達は誰だ?」

 

 苛立ちを隠そうともしないキングゥに対して、二人は涼しげな、あるいは楽しそうな顔だ。

 

「俺の名はヴァーリ。ヴァーリ・ルシファーだ」

「俺っちは美猴! よろしくな!」

 

 二人の名乗りを受けて、キングゥはぴくりと反応する。どちらもつい最近聞いた名前だったからだ。堕天使の総督アザゼル。情報は上手く隠しながら伝えたつもりだが、だからこそまたやってくるだろう。八坂や九重にも面倒をかけるため、これ以上の来訪はお断りしたい相手である。

 

「金星の残滓に、猿の末裔か」

 

 双方とも『禍の団』なるテロ組織に属しているらしい。ヴァーリは今代の白龍皇にして、真の魔王ルシファーのひ孫。美猴は斉天大聖――孫悟空の子孫である。どちらも伝説になるに相応しい素質を持っている、この時代の寵児とも言うべき猛者だ。

 

「手間が省けたと言うべきだろうな。キングゥ。俺は君と戦いに来たんだ。其方から来てくれたと言うことは、戦意があると見ていいのか」

「いいや、全然。ボクが向けるのはこの言葉だ。死にたくなかったらさっさと失せろ」

「……釣れないな。この間の魔神柱といい、どうしてこうなるのか」

 

 相手が魔王の末裔であり堕天使の総督の事実上の養子であるがゆえに、キングゥは事を荒立てるつもりはなかった。まして、闘戦勝仏の身内も一緒となればややこしくなることは確実だ。少し脅して追い払おうかと逡巡していると、ヴァーリは意味深な笑みを浮かべて、こう宣った。

 

「君と本気で戦ってもらうには、狐の姫を殺すしかなさそうだな」

 

 ヴァーリからしてみれば、軽い挑発のつもりだった。少し前、運命の宿敵こと今代の赤龍帝兵藤一誠に言ったらひどく激高し戦意を爆発させてくれたことも大きかった。二匹目のドジョウを狙ったのだ。そこにいるのがドジョウならぬ大蛇かもしれぬというのに。

 

 キングゥにとって、九重の安否はこれ以上なく効果的な爆弾だった。例えるならば、蛇髪の怪物(メドゥーサ)の目の前で無力な二人の姉(ステンノとエウリュアレ)を殺すと言ったようなものだ。仮初めであっても、彼は間違いなく彼女の息子なのかもしれない。

 

 キングゥはヴァーリに視線を送る。

 

「――――テロリストならばどう処理したところで、問題はないか」

「ん? 戦ってくれる気に……」

 

 キングゥの目を見て、ヴァーリが覚えた感情は高揚ではない。恐怖だ。おそらくヴァーリは生まれて初めて、相手の『強さ』に対して怯んだ。

 

 あまりにも濃厚な殺意と憤怒。見る者に目の色が赤く変化しているような錯覚さえ与える。おそらくキングゥにとっても九重には見せたくない顔だ。

 

 その怯えを見ても、キングゥの感情に変化はない。この反応はあまりにも当然のもの。力はずっと抑えていた。振るう必要もなかった。暴れようとも思わなかった。京都の妖怪たちに見せた力はほんの一部分でしかない。しかし、この世界に来て初めて、キングゥは全力を出すことを決めた。

 

「ボクの本気が見られて満足だろう? なら――その代償に、おまえたちはここで死ね」

 

 もしも美猴がもっと注意深くキングゥの気を探っていたならば、もしもキングゥがヴァーリの現状を知らなければ、もしもヴァーリがキングゥの立場を知らなかったのならば、もしもキングゥが単騎ではなく京都妖怪が周囲にいたならば、容易く防げたはずの悲劇だった。

 

 

 

 

 

 

「ゼパルより報告。赤龍帝ドライグとの交渉は決裂した」

「レラジェより提案。ならば代案として白い龍と交渉を手配しよう」

「アムドゥシアスより報告。手遅れだ。白龍皇の宿主がキングゥと接触した。彼との不可侵条約がある以上、あの龍と接触はできない。繰り返すが、手遅れだ」

「イポスより要請。次の白龍皇を待つ余裕はない。代替の手段を用意すべきだ」

「マレファルより了承。候補は複数体存在する。最適な怪物を検討しよう」

「グレモリーより報告。ベディヴィエールに接触。彼の召喚形式が判明。やはり我らとは異なる手段による召喚だった。奴だ。花の魔術師の仕業だ」

「クロケルより疑問。どちらの奴だ。あちらが送り込んだのか? こちらが呼び出したのか?」

「グレモリーより解答。不明だ」

「グシオンより追及。どちらの奴かなど問題ではない。我々が注目すべきなのは、我々が警戒すべきなのは、奴の目的だ。聖剣の回収か。騎士王の復活か。第六特異点の再現か。いずれにせよ、我々の計画の邪魔になる」

「ボディスより訂正。すでに発生している問題がある。聖槍の女神の出現が確認された」

「マルバスより推測。おそらくベディヴィエールの存在が連鎖召喚させたと思われる。元より、下地はあった。消滅したはずの我らの復活。我らの世界では折れたはずの聖剣と、返還されたはずの聖剣。ア・ドライグ・ゴッホの残滓。そして、ベディヴィエール。エルキドゥの死体(キングゥ)の影響も示唆される」

「フォルネウスより警告。これでは、あの聖剣が復元されてしまう。今更抑止力の介入など不認である」

「ハーゲンティより要請。計画に支障が出る前に対処すべきだ」

「ラウムより却下。我らは表舞台に出られない。ここで動けば各勢力の認識が変化する可能性がある。そうなれば計画が狂う。今更すべての神群を相手にしている余裕はない」

「シャックスより反論。だが、あの女神を放置することはできない。どのような事態に発展しても、計画に支障が出る」

「ガミジンより同意。キングゥの介入どころの次元ではない。オーフィスの暴走どころの問題ではない。あの女神は、本人が意図せずとも、存在するだけで我々の計画を妨害する」

「バルバトスより提案。我らが戦えぬのならば、神滅具を利用し、あの女神を討伐すればいい」

「フラウロスより否定。彼らでは獅子王は倒せない」

「グラシャ=ラボラスより肯定。彼らは無力だ。人の力では神には勝てぬ」

「ガープより反論。そのために人理補正式(われわれ)がいる」

「ゲーティアより全魔神柱に通達。全力で英雄派を支援し、女神ロンゴミニアドを打倒せよ」

「かつてのおまえ達ならばするはずのない選択だな。おまえ達の力添えがあっても彼らが彼女に勝てないことは俺でも分かる。一度死んで数値が見えなくなったか」




さあ、風呂敷を広がるのはここまでだ。これから一気に畳んでいきます。今後の1.5部の内容次第ではまた広げることになるんですが。

恒例となった魔神柱会議(意訳)
ゼパル「ドライグとの交渉失敗」
レラジェ「じゃあ次はアルビオンな」
アムドゥシアス「遅いわ。あの野郎、キングゥに喧嘩ふっかけやがった」
イポス「じゃあ代わり探さないと」
マレファル「結構候補はあるからな。選んでおくよ」
グレモリー「ベディヴィエールなんだけど、マーリンが呼んだっぽいぞ」
クロケル「俺たちの世界のマーリン? この世界のマーリン?」
グレモリー「そこは分からん」
グシオン「どっちは問題じゃない。あいつが何やるつもりでもきっと計画の邪魔になる」
ボティス「もう問題起きてんぞ。あの女神が出てきた」
マルバス「俺たちも復活できたし、カリバーンとかエクスカリバーとかがあるからだろうな。ドライグやキングゥの影響も考えられるか?」
フォルネウス「下手したら抑止力出張ってくるぞ」
ハーゲンティ「急いでどうにかしないと」
ラウム「でも今俺たちが大きく動いたら世界の流れ変わっちゃうし」
シャックス「放っておいても計画に支障出るぞ」
ガミジン「キングゥとかオーフィスどころじゃないな」
バルバトス「いっそのこと曹操たちに戦わせたらいい」
フラウロス「無理だ」
グラシャ=ラボラス「ああ、彼らじゃ勝てんわ」
ガープ「そのための俺たちじゃん」
ゲーティア「よし、曹操たちに獅子王を倒させるぞ」
???「かつてのおまえ達ならばこのような選択をするはずがない。おまえ達の力添えがあっても彼らが彼女に勝てないことは俺でも分かる。一度死んで数値が見えなくなったか。(おまえ達が、確率よりも人間を信じるようになるとはな)」

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